137話『大切な想い』セリカ編

遊馬から貰ったお守りの鏡が効いてるのか、影の力が少し弱まったような気がする

それまでの辛さへの耐えが軽減したような

さすが本物の力を持っていると言えるわ

遊馬自身は専門外と言ってたけれど、私は十分悪気から守ってもらっている

感謝するわ

でも…日が経つとお守りの鏡が曇っていくのにも気付いた

拭いてもその曇りは消えない

影はいつかお守りを打ち破ってしまうでしょう

それまでになんとかしなきゃ…ね

影の力が弱まったとは言え最近、私の様子がおかしいコトを気遣ってくれたイングヴェィが気分転換にと外へと連れ出してくれる

私はイングヴェィに取り憑かれている影のコトは話していない

心配かけたくなかったから…だけど、イングヴェィはそんなものはお見通しだと言わんばかりに私のコトはなんでもわかっていると見透かす

心配かけたくないのに、でも気付いてくれて…嬉しい、ありがとうって笑顔が零れるの

私はイングヴェィといると心地が良いんだってコトに気付く

つまり、デートの約束をしているのだ

私は待ち合わせのエントランスに続く廊下を歩いていると郵便屋さんに会った

「すみません」

私に手紙かしら?と思ったけれど

「こちらの手紙をセレン様にお渡し願えますか?

近寄りがたくて…」

そう言われ手紙を一通受け取り、申し訳ないと頭を下げる郵便屋さん

まぁあれでも女神様だもんね、普通の人からしたら近寄りがたいってのはあると思うわ

私はあの性格を知ってるから逆に女神ってコトを忘れちゃうけどね

「生死の神様からです、よろしくお願いします」

「わかりました」

ご苦労様ですと私は郵便屋さんを見送ってからセレンの部屋に寄るコトにした

イングヴェィと約束してるけど、手紙を届けるくらいの時間はある

セレンの部屋へ近付くとそのドアからはBLCDの音声が漏れていた

………なるほど、近寄りがたいってこっちの意味か

音が漏れるくらい大音量で聞くなよな!?怖いわ!!誰だって、そっとしとこってなるっての

「セレン、もうちょっと音量下げ…」

ドアを開けるとセレンの姿はなかった

ただただBLCDの内容が流れているだけで…

セレンは近くにいると考えた私は隣の部屋を覗いた

そこにはセレンが自分の部屋側に耳を押し当ててその壁から聞こえる音を楽しんでいる姿を発見する

何この空間……

いや、人の趣味にケチ付けるワケじゃないのよ?

私は趣味じゃないからよくわからないだけでね?

いいと思うわ、セレンは趣味を押し付けて来るタイプじゃないし

熱く語られるコトもあるし、セリくんが被害に遭うコトもよくあるけど…

私に気付いたセレンは、反則級の女神様スマイルで何事もなかったかのように私の前までやってきた

「あら、セリカ様じゃありません事」

「手紙よ、生死の神様からだって」

セレンは手紙を受け取り中を確認すると大きな溜め息をつく

「またですの」

「どうしたの?」

「デートのお誘いですわ」

「えっ!?生死の神様ってイケメン!?いいじゃない!デート!たまには外に出たら?」

セレンは意外にもモテている印象がある

ユリセリの力で別の世界から召喚されるリュストって人もセレンのコトかなり惚れ込んでたもの

みんなこの顔に騙されてるんだわ…見た目だけは本当に女神様だもん

「もうセリカ様ったら!セレンはリジェウェィ様一筋ですわ、知っておられるでしょうに」

そういやそうだったね

普段のセレンの趣味が濃すぎて、女神とは言えこの人も1人の女性で異性に恋をするんだね

「それにセレンはBL趣味に時間を使いたいですから」

「ふーん

ところで、生死の神様がいるならセレンは何の女神様なの?」

「…………。」

セレンは女神スマイルのまま固まった

「女神結夢さんは守護と純潔の女神ですわ」

「結夢ちゃんはイメージ通りの女神ね

で、セレンは?」

「……………。」

セレンは女神スマイルのまま固まった

「生死の神は、セリカ様の好みかどうかはわかりませんがイケメンだとは思いますわ」

「話を逸らすんじゃねぇ!!!!

つまり!あれか!?オマエ、無職なんだろ!?ニートの女神か!?」

そう言うとセレンは泣き崩れた

「現実に向き合いたくないんですの!!働きたくないですわ!!」

本当に無職の女神みたいだ…

神様の世界ではどうかわからないけど、女神ってだけでセレンは一国で崇められてたってワケね…(今は国を失ってはいるけど)

「人間にチヤホヤされて贅沢していた前に戻りたいですわ」

「動機が不純!?コイツ本当に女神か!?」

「あら、それでもセレンは人間達を愛しておりましたわ

守れるものなら守りたいって気持ちもありましてよ

だから、勇者様のセリ様を保護したんですもの

魔物から人間を守ってくれる勇者様をね

現実はセレンが思っていたものとは違っておりましたが」

なんとかの神、なんとかの女神

って決まったものがなくてもセレンは人を愛しているから女神であるコトには変わりないんだ

いつもふざけてるからいつも軽蔑の目で見てたけど、セレンだってセレンなりに考えていたんだな…

「それは…ごめん、セリくんは…」

魔王の香月を倒せないから…人間を守れないコトになる……のか?

それからは目を逸らしている

好きな人のためなら世界を敵に回してでも…

香月と一緒になるコトは人間を見捨てると言うコトなのか…

どっちも…答えなんて今は出ない

「セリ様には感謝致しておりますわ!セレンの生き甲斐(BL)はセリ様がきっかけですもの!!」

「あっもういいです、さようなら」

真面目な話からすぐにおふざけに変えるセレンに私は逃げるように部屋を出た

悩むコト、考えるコト、たくさんあるけど…

香月を好きになるって…いけないコトなのかなって考えたりもする

でもね…香月だけだったのよ…

セリくんを助けてくれたのは…救ってくれたのは、愛してくれたのは

幸せだって思えたのも感じたのも、香月だけだ

それに比べたら人間なんて……

でも…私は人間だし、今は和彦もいる(いつもアイツが人間ってコト忘れるけど)

グルグルと巡る現実にいつか答えが見つかるかな

それにはまだ生きないと

そんな重い考えの中、エントランスで待ち合わせしていたイングヴェィに会うと

なんだろう、上手く言えないけど

イングヴェィの笑顔を見るとなんでも上手く行きそうな気がして肩の力が抜けるようで

私の表情も和らぐ、不思議な人…



そんなこんなで、イングヴェィとお出掛け中は穏やかだったハズなのに

今は心が穏やかじゃなかったりする……

「こ、ここは……?」

目の前に立つのは街全体が巨大なお化け屋敷になったかのような場所

「あー…ここ…あの有名なホラータウンか、こんな所にあったんだね」

次の場所で休もうってなったけど、まさかのお化け屋敷をまるごと街にしたハズレ引くなんて思いもしなかったわよ!?

「怖い?」

イングヴェィは私の顔を覗き込む

「こ、怖くなんか…ないわ!!」

何故見栄を張ったのか、素直に怖いって女の子らしく可愛げがあればいいものを

「大丈夫、俺がついてるからね」

イングヴェィが自然に私の手を取る

まだ慣れない、イングヴェィに触れられるコト

でも、それは嫌悪感じゃなくて

まだよくわからない気持ちになる

ドキドキする、緊張する、頭の中がいっぱいになる

だから……

「怖く…ないわ…」

怖いと思う暇もなく気持ちが忙しくなる

心がいっぱいになる

「本当はセリカちゃんが怖がる場所は避けてあげたいんだけど、ごめんね

俺がここら辺に詳しくなくて」

怖くないって言ってるのに!?

私も何か話さなきゃって焦るのも…この気持ちのせいかしら

「ううん…その、イングヴェィは…怖くないの?ホラーとか」

「俺はどちらかと言うとこういった世界の住人だからね」

伝説上の存在も神聖な方じゃなくて、ホラータイプなのかイングヴェィは…

ヴァンパイアとかの部類なのかも?

血もほしがらないし太陽にも弱くないけど

でも私のイメージは、神聖と暗黒の狭間みたいなのイングヴェィって

不思議なんだよね、神秘的で幻想的な存在

夢のような妄想の中で生きてるような

「そっか…うん、イングヴェィといると…怖くないわ…」

「よかった」

ほらイングヴェィは凄く明るい笑顔を見せてくれるから、こんなに薄暗くて不気味な世界でも

ここだけ太陽が射して照らしてくれるような安心感に包まれる

照れるな…

「心配なのは、ホラーに隠れて横行してる犯罪

巻き込まれないようにしないとね」

そっちの方がホラーより恐ろしくない!?

結局、お化けより人間が1番怖いってやつか!?

「イングヴェィがいるから…大丈夫よ

もし巻き込まれても、イングヴェィなら助けてくれるもの」

ねっ?と私が微笑むとイングヴェィはいつもの調子が崩れたかのように

顔を真っ赤にして、私が繋がった手を強く握り返すと目も逸らしてしまった

「う、ん…もちろん…だよ、セリカちゃん……

あの嬉しいけど…恥ずかしいから、あまり見つめないで」

ふとした時、イングヴェィは照れて余裕すらなくなってしまうみたいに

そんなイングヴェィを見たら私まで釣られて照れてしまうし、なんとも言えない沈黙が訪れる

その沈黙すら居心地が良くて、ずっとこうありたいなんて思うくらい

ドキドキが止まらない…これが…1からまたはじめようって約束した恋なのだろうか

照れて時間が止まってしまうような感覚になっても、精一杯伝えたい想いがイングヴェィが強く手を握ってくれるコトだとわかった

「そうそう、この街にはオススメのホテルがあるんだよ」

なんでもホラー好きにはたまらない雰囲気のホテルとか

脅かし要素はなく、ダークな雰囲気だけを楽しむのがコンセプトらしい

脅かし要素って何…ホテルで寝泊まりするプライベートの空間にもホラーぶち込んで来るの?

怖いんですけど

イングヴェィに言われてそのホテルに泊まるコトになった

ダークな雰囲気ってゴシック風か、ユリセリっぽいな

好きよ

「それじゃあまた明日、おやすみセリカちゃん」

部屋は別々、1人になると少し落ち着くけど

離れていてもイングヴェィのコトを考えてしまう

目の前に影が姿を現しても気にならないくらいに

影は私の様子に困惑している感じだった

「これが何か、オマエにわかる?

私はね…奪われたイングヴェィへの想いを取り戻すコトが出来たならハッキリすると思ってるの」

タキヤの刺客であろう影にとって、私の心の闇を引きずり出して自殺に追い込むのが目的なのに

私はイングヴェィで胸がいっぱいでそれどころじゃなかった



次の日、イングヴェィと私は朝食兼昼食を外で食べるコトにした

あっちの方向は昼になっても薄暗いけど、ここは昼の光が射している

この街は太陽の下でもホラーが存在するならそれを楽しむみたいね

イングヴェィは私にテラス席で待つように言ってお店の中へと注文しに行ってくれた

1人待っている私の隣の席に大柄な男が座る

この気配…

大柄な男は私目掛けて攻撃を仕掛けてくる

さっと避けた私の座っていた椅子は粉々だ

「オマエ、城にいた奴ね

何度か見かけたコトがあるわ」

香月の城で顔見知りの魔族、話したコトもないから名前は知らない

「私に攻撃するなんて、命知らずな」

勇者の剣がなくても殺せるのよ

だって、勇者の剣が魔族を殺せるんじゃなくて

勇者の力が魔族を殺せるんだから

イングヴェィから護身用にと良い短剣を貰ったの

何度かなら勇者の力に耐えられる凄い武器なの

オマエを殺すくらいなら十分

「死ね…っ?」

短剣を抜き名前の知らない魔族に向かおうとした時、イングヴェィにその手を掴まれ引っ張られる

そのままイングヴェィは私を連れて逃げ出した

「えっ?どうして逃げるの?

相手は魔族よ、香月が不完全な今なら私は簡単に勝てる相手」

名前の知らない魔族は足が速くないのか、すぐに引き離されて私達を見失った

見えなくなったところでイングヴェィは私に向き直る

「一目見てわかったよ…あの魔族は…」

言いづらそうにしてるイングヴェィが珍しい

でも、イングヴェィは…ちゃんと教えてくれる

「あの魔族はね…セリカちゃんの愛を盾にしてる……」

ん?私の?

「前に言ってたよね、大切な想いを引き換えにフェイくんを助けたって」

「うん…?」

「つまり、あの魔族を倒すってコトはセリカちゃんの想い…その盾を破壊しなきゃいけなくて

破壊したら……二度とセリカちゃんにその大切な想いは戻らない……」

イングヴェィの言ったコトが…すぐに理解出来なかった

私から大切な想いがごっそり抜けてるなら、ないものを感じるコトが出来ないから

どれだけのコトなのか……

だけど、その想いがあれば私は自分の今の気持ちも何なのかわかると言うコトだけは頭でわかっていた

「セリカの想いが…?」

セリくんの声が聞こえて私は振り返る

気付かなかった、この街にいたんだ…

ってまた珍しい顔触れね、セリくんの後ろには香月とレイが一緒だった

「セリくん!こんな所で会うなんて」

怖さのあまりお互いの存在を感じ合う余裕すらなかった

めっちゃ泣いたなこの人、貴方が泣いたら私も涙が出るの

「そういうコトか、だから勇者の剣が折れたのか」

私の想いを守るために自ら折れたコトに納得したセリくんが見せてくれた勇者の剣は私の手の中で震えるかのように優しさが詰まっていた

その姿に私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる

私のために…自ら破壊を選ぶなんて

セリくんからはアイツの目的、香月を殺すためにセリくんか私の命を狙っているコトも聞いた

「私は…構わないわ…」

アイツを倒す、そう言ったけど誰もが口をつぐむ

「どうしたのみんな?アイツを倒さなきゃ、大人しく殺されるの?」

私の想いなんて…どうでもいい

勇者の剣をこんな姿にしてまで私は守られなくていい

だけど、勇者の剣も

「わかってはいるが、セリカを盾にされてしまってはオレは何も出来ない」

レイも

「私も今回ばかりは」

香月も

「セリカちゃんの大切な想いを…壊せるわけないよ」

イングヴェィも

反対する…私を守ってくれる

「みんなセリカのコトが大切で大好きなんだよ

誰も大切なセリカの大切な想いを壊すコトなんて出来ないし反対する

セリカが自分で破壊するコトだって、みんな止めるだろ」

「大丈夫よ、私は…私が壊すわ」

「セリカ、みんなはセリカじゃない

だから察して心配してるんだ

セリカの想いを1番大切にしてるのはセリカ自身だ

セリカにも壊せないよ」

私が…私の想いに執着してる…?

そうだよ、当たり前じゃない

私…この先ちゃんとイングヴェィを愛せる自信がない

だから、いつか取り戻したいと思ってるよ

私を大切に愛してくれる人に…私もちゃんと愛したいから

貰った恋も愛も想いも、たくさんお返しがしたいの

「でも…殺されたらおしまいなんだよ

わかるでしょ、私の気持ちか死か…

どっちを選ぶのか…みんなわかってるでしょ」

「わかっているからこそ、どちらも選べばいい」

香月は私の傍に来て、俯く私の顔をすくう

「あのナナシが盾にしてるセリカの想いを破壊せずに倒す方法を考えればいいじゃないか」

レイは私の涙を拭ってくれる

「そうだよ、セリカちゃん

大丈夫、何も心配ないから

見てよ、これだけの面子が揃って不可能なコトなんてある?」

イングヴェィは私の頭を撫でて、その笑顔は俯く私の顔も上がるほどに涙さえ引っ込む

「めっちゃモテるなセリカ」

セリくんは少し離れた場所で茶化す

「はいはい、寄るな寄るな

セリカは俺のものなんだから

誰にもやらぬ~~!!誰にも渡さぬぞ!!」

3人を押しのけてセリくんは私をぎゅっと抱き締める

相変わらず自分大好きね

「ところで、セリカの大切な想いとは一体なんだい?」

レイに聞かれて私はうっすら覚えてるコトを素直に口にする

「確か…イングヴェィのコトだった…ような?」

「そうか、今すぐ破壊しに行こう」

急に殺る気を出すレイをセリくんが必死に引き止める

「落ち着けレイ!」

大変そうだな…あの関係は…

「そうは言っても、どうすべきかは何も思い付かないね」

「あれを守っている何かがわかって余計に身動きが取れなくなりましたから」

あ~…香月…いつ見ても、カッコ良い…私のめっちゃタイプ

見惚れちゃうから

私の好みが香月だからセリくんは好きになったとか言うけど、セリくんが好きになったから私の好みが香月なのかもしれないし

鶏が先か卵が先かなんて話よね

「でも香月と付き合えないんだろ?」

「理想の好きなタイプと必ずしも現実で付き合いたいかってのは別の話よ

女の子は夢見がちだけど意外にも現実主義ってコト」

「乙女心っての?男にはわかんねぇよ…」

「うふふ、それでいいのよ

セリくんは男の子なんだもの」

理想の好きなタイプが現れたとしても、私は必ず心から恋をする貴方を選ぶわ

セリくんにしたらそれも十分現実的か?って突っ込まれそうだけど

私にとったらそうなんだからね

「ナナシが私達を見つける前に考えなくては、今は身を隠して時間を稼ぎましょう

なるべく早めに決着は付けます」

「はーい!」

香月の言うコトには従いまーす!

「ん?それって暫くこの街に滞在するってコト…?」

「そうなるのか」

「何処にいても追い掛けて来るからね、俺達もここで早々に仕留めたい所だよ」

みんなが仕方ないと言ってる中、セリくんは1人不安を隠し切れず恐怖に怯えてしまった

やめてよ…忘れてたのに、私まで釣られて怖くなっちゃう

「セリカと一緒に寝たいけど、セリカと一緒だったら他の男は入れられないから

そうなると自分1人っきりって状態で」

それめっちゃ混乱する

とにかく怖くてたまらないってコトだけはわかった

「大丈夫だよセリくん、俺達が泊まってるホテルなら雰囲気はホラーだけど脅かし要素はないから怖くないと思うよ」

「なんでそれをもっと早く昨日に言わない!?バスルームで脅かされて失神したんだぞ俺!?」

私も謎の失神をしたと思ったらそれか

しかも昨日イングヴェィいないのに突っかかってる

イングヴェィは泣いて怒ってる姿に可愛い可愛いとセリくんを撫でながら宥めてる

「じゃあ、怖くないならセリカと一緒の部屋に泊まる」

セリくんは私と0距離のまま離れない

そうして私達は各々どう対処すればいいかを考えながら1日を過ごし夜になったらそれぞれの部屋へと分かれた


「はぁ~…結局、何も思い付かなかったな」

セリくんと一緒にお風呂に入りながら今日のコトを呟く

ホテルの湯船はそんなに広くないから2人で入るには少し狭いハズなのに

自分1人と言う感覚があるから変に狭さを感じない

「ってか聞いて?昨日俺が泊まった部屋で風呂に入ってたら」

昨日の夜の怖い話をセリくんから聞かされる

それでまた怖くなるのに、セルフ恐怖を味わってどうするの

私は怖さを紛らわす為に話題を変えた

「レイと仲直りしたのね」

「仲直りと言うか…受け入れるコトにした

レイが求めるコト、俺が譲れないコト

折り合わせながら…これからは2人だけの関係を築こうって決めたんだ」

「ふーん…」

「いつも…セリカを振り回してるな」

香月と和彦のコトも含め、とセリくんは本当に申し訳なさそうに私に頭を下げる

セリくんの受けたコトは痛みも快楽も感覚は私にも伝わるから…

それを気にしてはくれてるみたいだ

本当かなぁ…?いつもみんなに流されて、って多いでしょ

ハッキリしてるけど、好意を持ってる相手には押しに弱いもんね

「うふふ、いいのよ

セリくんが幸せなら私も幸せだもの」

愛がわからない今の私にはよくわかってないけど、とにかくセリくんが幸せとか満たされてるってのはわかる

自分だからね

みんな私には優しいけど、セリくんになると少し乱暴な扱いが目立つのよね

みんなセリくんのコトをちゃんと見てくれてるから、私にも伝わってるってコト忘れちゃうんだろうけど

でも、それで良いのよ

私じゃなくてセリくんを見てくれるコト

それが私達が別々に存在する意味なんだもの

「俺だってセリカが幸せになったら俺の幸せだ

そう考えると、楽しみだな!セリカから伝わる幸せってどんなだろうって

きっとイングヴェィだからスゲー優しく抱いてくれそう」

「嫌だわ、これだから男はすぐにエッチなコト言う

女の子はね、肉体の繋がりより心の繋がりの方が大事なのよ」

「わかるよ!?俺だって気持ち大事にしてるから!

愛されてないのに愛してないのにエッチなんてしたくないしできなッ」

「もう!!やっぱりわかってない!!」

お湯をセリくんの顔面にかけて話を切る

セリくんは普通の男の人よりそういうのあんまりだけど、やっぱりセリくんもそれなりに男なんだわ

「えぇ!?なんで怒るんだよ!?」

ふん!と先に湯船から上がる私がなんで怒ってるかわからず焦りながらセリくんは私の機嫌を取ろうとワタワタしている

暫く無視しておこう

「あっ、セリカ胸が少し成長して」

シャワーのヘッドで殴った

自分にもダメージ来るけど思わず

全然わかってないし反省してない!!セリくんなんて嫌いよ!!

それから私はセリくんに話し掛けられても無視を貫き通した

明日の朝までは反省してほしいわ

私が無視を続けているとセリくんは困り果てて部屋を出て行ってしまった

イングヴェィに相談しに行くコトくらいわかってる

イングヴェィなら私以上に私のコトをわかってるもんね

でも、ダメよ今日は口聞かないんだから

そうして私はベッドのぬくもりでいつの間にか眠ってしまい



朝を迎えた

「セリカ、起きてください」

「うっ…う~ん…」

眠い目をこすって半身を起こす

「……えっ!?香月!?」

香月が目の前にいるコトを認識すると眠気が吹っ飛ぶ

ちょっ、ちょっと待って!?

そんな急に香月が現れるのは、心の準備が……

「セリとイングヴェィの姿が見当たりません、居場所はわかりますか?」

香月に言われて私はまた飛び起きる

傍にある勇者の剣を取り、意識を集中するとセリくんがどの辺にいるかなんとなく感じるから

まさか、2人がいなくなるなんて…

喧嘩(?)したまま別れるなんて…最悪なタイミング

自分だとしてもあのまま離れるなんて嫌よ

「わかるわ…」

2人のコトが心配

セリくんの身に何か起きてるワケじゃない

怪我もないし、何かあったら私に表れるから

黙っていなくなるなんてありえない

何者かにイングヴェィとセリくんが拉致られたってとこかしら

私はすぐに準備をして香月と合流する



-続く-

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