101話『まだ頑張れる』セリ編

俺はセレンの神殿から少し離れた町で馬を借りた

ここまで来ればもう涙も渇く

目を真っ赤にして、しかも泣きすぎて顔パンパンで…もう最悪だ

町のみなさんはセレンの所が魔族に滅ぼされたと知っていたから俺の酷い顔について誰も触れなかった

察してくれるみんな凄く優しい

馬を借りる時もタダでいいってめっちゃ気を遣わせてしまった、ありがとう

誰も魔王とあんなコトがあってこんな顔になったなんて思いもしてないだろうけど

俺はすぐにレイのいる病の村に向かった

和彦が夜までには帰れとか言ってたけど、レイのコトが心配でたまらないんだ

セリカが先に村へ向かってくれてるからそろそろ着くだろう

和彦やセレン達には心配かけるけど、ユリセリはレイの事情を知ってるから上手く話してくれると思う

最後のキスが血の味なんて…嫌だな…

最後じゃなかったらいいのに…

思い出すとまたホロリと涙が…首を横に振り頭を切り替える

早くレイの所に行かなきゃ

レイまで失ったら…俺…俺…もう……ダメになるから


祈りながら馬を走らせていると、途中で安心する気持ちが伝わってきた

セリカがレイを助けてくれたんだってわかる

凄く嬉しかった…よかった

でもすぐに会いたかったから急ぐスピードは変えない

病の村があった場所に辿り着くと村は炎に包まれ、なくなる寸前だった

この事情もよくわかってる

炎の中を通り、炎のない宿に着きレイの部屋へ入るとレイと目が合う

元気になって本当によかった…また泣きそうだ

早く…レイの傍にいきたかったけど、セリカが部屋から出て行くから追った

香月の所へ帰るって言うんだ…

俺はそんなセリカを止めたし責めた…

本当は違う、セリカじゃなくて俺自身を止めて責めたんだ

だけど、止まらなかった

香月のコト好きだから…俺は自分にウソなんて付けなかった

だから行かせてしまったんだ

これは俺が望んだコト、どんなに言い訳して偽った所で…どこかホッとしてる俺がいる

香月の傍にいたいから…愛されてなくても、次俺が会った時は殺し合いでも

それでも傍に置いてほしかった

香月が傍にいるだけで…よかった

もっとワガママを言えば、抱き締めてほしいしキスしてほしい

でも、無理だから…俺はセリカだからと言っても、香月の傍にいるのは俺じゃないから無理なんだ

「セリ…セリカは帰ったんだな」

暫くしてレイが廊下へと出て来た

セリカがいないコトがわかると俺を部屋へと迎え入れた

「心配かけてすまなかった…」

部屋に入るなりレイに抱き寄せられる

あれだけ冷たかったレイの肌があったかいコトに気付いて俺はまた涙が溢れてきた

「そうだよ…レイ…本当に、死んじゃうのかと思った!

レイまでいなくなったら…って…死ぬほど怖くなって…うぅ…っ」

もう泣きすぎて暫く泣けないと思ってたのに、レイに強く抱き締められる度に涙が溢れて止まらなくなる

本当によかった…レイ…助かってくれて…本当に、本当に……

「うん…大丈夫、オレは死ななかったから

セリを置いて死ぬなんて出来ない

オレはセリをひとりにしないから、ずっと一緒だ」

少し離れるとレイは俺の涙を拭ってくれる

いつものレイだ…安心する

安心しすぎて気が緩むから、なんかいっぱい思い出して…

「あの…ね、レイがいない時に色々あって…それで……」

我慢できなかった

わっと泣いて喋るコトもできなくなるほどだった

こんなに泣くなんて凄く恥ずかしいのに止まらなくなる

それでもレイは俺が落ち着くまで頭を撫でてくれて待ってくれた

少しすると気が済んだのか涙が止まる

あー泣きすぎて俺めっちゃウザい奴じゃん、女々しすぎだろ

そして、香月のコトを話した

セレンの国が滅んだコト、ロックとローズのコト、レイの薬はユリセリに助けてもらったコト、和彦がセレンと光の聖霊を助けてくれたコト

「それで今はみんなをユリセリの所に」

「そんな…事が……辛かったな、すまなかった」

レイは悪くないのに、大変な時に傍にいれなくて悪かったと謝る

ふと俺はレイが傍にって言葉にあるコトが頭に過る

その考えが恐ろしくて俺はまた身体が震える

違うな…ある意味レイは助かったんだ

「いや、一緒にいなくて…よかったよ…

一緒にいたら、レイも…殺されていたかもしれない」

もし一緒にいたらレイも殺されてる

香月は俺の大親友だろうが恋人だろうが関係ない、俺の大切な人も関係なく等しく殺す

レイと一緒に出掛けなかったら、レイがここで病気にならなかったら…

…ロックとローズのようになっていたかもしれない

たまたまなんだ、偶然でレイは助かった…運がよかった

自然と拳に力が入る

「それだけ…香月さんは本気で来たんだな」

「うん…そろそろユリセリの所へ行こう

ここももう炎が回る」

自分の炎がこの宿を包み込むのを感じて、ゆっくりしていられないコトを思い出す

レイもここを出る準備をしてくれる

着替えているとレイはふふっと笑う

「セリ、これ直してくれたんだな」

言われて見せられたのは俺がボタンを直した服だ

そうだ、それレイに褒めてもらわないと

「褒めて」

「ありがとう、助かったよ」

撫で撫でしてもらった、満足

よかった…ボタンを直したコトが無駄にならなくて、レイがまたその服を着てくれて

準備が出来た俺達は宿を出て村を出る

振り返って村の全てが燃えていくのを暫く目が離せなかった

「これでよかったんだよ、セリ

これ以上、不治の病で苦しむ人を増やさない為にも」

「わかってるけど…」

できるコトならみんなを助けたかった

セリカに甘すぎって怒られそうだけど

レイが病にかかって俺が悲しんだように、たくさんの人が辛かったと思うとな

全てなんて救えない

魔族のコトだってほったらかしにして、たくさんの人が苦しんだり死んだりしているのに

救おうとしないくせに何言ってるんだろ俺は

偽善もいいところだ…

「さぁ行こう」

レイは俺が連れて来た馬へと俺を乗せると自分もその後ろに乗って手綱を掴む

レイと一緒に馬を乗るのは久しぶりかもしれない

俺達は急ぎじゃない限りはあまり馬を使わないから


馬を歩かせてユリセリの所へ向かう

でも途中で休憩しようとレイに言われて見知った町に寄る

ずっと気を張り詰めてて忘れてたけど、心も身体も凄く疲れていた

最近、スゲー疲れたが口癖だったけど今日はその言葉も出ないくらいしんどい

静かな町、綺麗な景色と落ち着いた雰囲気

広場のベンチに座ってボーッとする

平和だな…羨ましいくらいに

セレンの国も…こんな景色、あったよな

懐かしいな…そんなに時間経ってないのにもう懐かしいよ

「セリ、ハンバーガーセット買ってきたぞ」

レイはまったく食欲のない俺にハンバーガーを持たせる

頭ではわかってる、食欲がなくても食べなきゃ何かあった時に戦えないって

だから食べないと…

無理矢理口に入れようとするが一口がいつもより小さくなる

美味しいのか不味いのかもわからない、絶対美味しいと思うのにその味もわからなくなるくらい気が滅入ってしまっているな

「味見していいかい?」

レイは明るく振る舞ってくれた

爽やかな笑顔で俺の食べているハンバーガーをいつものように反対側から食べる

こういうコトも…レイが死んじゃったらできなかったコトだ

いつものレイの爽やかな笑顔を近くで見て釣られて笑うコトができた

涙と一緒に、もう泣けないくらい泣いたハズなのに

こんななんでもないいつものコトがいつも以上に嬉しくて安心して…

「美味しい?」

「セリと一緒なら何でも美味しいよ」

いつものレイだ、いつものレイなのに隣にいてくれるコトが凄く嬉しい

少しだけ元気が出て、食欲も出てきた

しっかりハンバーガー食べなきゃ!

ありがとうレイ、いつも傍にいてくれて

俺また頑張れるよ、頑張ってやる!!


休憩を終えてまた歩き適当な所で泊まりまた歩いてを繰り返しユリセリの洋館まで辿り着いた

もう一夜どこかで泊まるかどうか迷ったけど、そのまま来て夜遅くなったけど着けてよかった

ユリセリの所には一緒に逃げてくれた和彦とセレンと光の聖霊がいる

それからツインメイドの片割れだ

「暫くは私の家を使うがよい」

帰る場所のない俺やセレン達にユリセリは優しくしてくれた

「セリ以外は気に入らないが、セリが困るから仕方なくだ」

ユリセリは優しいけど、でもやっぱり他種族のコトは好きじゃないようだ

それって迷惑かけるってコトだよな…すまんユリセリ

「ユリセリ…ありがとう、迷惑かける

3回目のなんでもするから暫くは頼らせてもらいます」

他に行く所はない…

とくにセレンは外に連れ出すには目立つ

女神族だし、見た目も3mと大きい

ユリセリの洋館の天井もギリギリだからちょっと住みにくいかもしれないが我慢してもらうしかないな

「よい気にするな、私はなんでもできる

今更セリになんでもしてもらう事などない」

確かに、俺なんかが何が出来るんだって思う

ユリセリの方がずっと強く、なんでもできる…プラチナは自己回復が出来るから俺の回復魔法も必要としない

「ユリセリはどうして俺にそこまで親切にしてくれるんだ

いくらセリカが友達だからって…そもそもセリカとどうやって知り合ったんだ?

この前ふと思ったコトを聞いてみた

俺はきっとセリカからその話を聞いたハズなのに思い出せなくて

「ふむ…セリカとは……いつ知り合ったのか忘れたぞ

私は長生きしている、記憶力は良い方だが全てを覚えているわけではないからな

セリカとの出会いは忘れたようだ」

忘れるコトは当たり前だとユリセリはいまさら忘れるコトに深く考えないと言う

そうか…まぁそういうコトもあるか

俺はレイとはじめて会った時のコトはよく覚えてる

でも香月とはじめて会ったのは…たぶんあの時だったような気がするが、記憶があやふやだってコトに気付く

好きな人との出会いを覚えてないって俺こそ本当に愛してんのか!?

いやまぁはじめて会った時なんて好きでもないんだから覚えてねぇわ、いちいち(言い訳)

和彦は中学の時に同じクラスだったから入学式とかだろ、忘れたけど

10年くらい前のコトだしな

そんなもんか…そうだよな

「今日はもう休め、いつもより疲れているだろう

深くは聞かないでおく、何かあった時はいつでも私を頼るがよいぞ」

ユリセリがこんなに俺を大切にしてくれていたなんて知らなかった

俺はあまり会いにも来ていなかったのに…本当に、感謝してもしきれないくらい恩ができた

ユリセリも俺の大切な仲間の1人…嬉しいけど、不安もある

だって…俺の大切な仲間ってコトは色んな奴から狙われてしまうから

ユリセリの好意はありがたいが、心配も大きくある

俺は頭を下げてからユリセリの部屋を出た

廊下に出るとセレンが待っていて、俺が出て来ると一礼される

「セリ様、この度はご迷惑をおかけして」

「待て、それは俺の台詞だ

俺のせいでセレン達を巻き込んで国が滅びるコトになったんだよ」

「いいえ、遅かれ早かれ…そしてセリ様が魔王とどのような関係であろうといつか起きた事なのですわ」

セレンは俺が香月の恐ろしさを知らないと言う

それは…そうかもしれない、いや

香月のするコト、魔族のするコトを俺はセリカの目を通して知っているハズなのに

目をそらし知らないフリをしていた

世界中で大暴れして壊して殺し、世界を恐怖と絶望に変えていく

それなのに、戦争も破壊も略奪も悪いコトは魔族以外だってやる

同じ人間同士ですら惨いコトをするじゃないかって、言い訳して…

魔王を倒したからって世界は平和にはならない

魔王の脅威がなくなるだけで世界は何も変わりはしないって…

今でもそう思っている…

今でも…倒したくない

倒さなきゃ俺の大切な人達は守れないのに、どうして迷うのか

謝っても許されるコトじゃない

魔王を倒せるのは勇者の俺しかいないのに

「セリ様…」

「セレン…」

真剣な話の中、沈黙が続く

暫くしてセレンが口を開いた

「私はレイ様とセリ様のカップリングしか認めていませんが…認めていませんでしたが…!

この一件で和彦様とセリ様のカップリングも悪くないと思うんですの!!」

ずっこけた

この沈黙の間、真剣にそんなコト考えてたのか!?

セレンはめちゃくちゃいきいきしていた

「知るかそんなん!!」

いやでも逆に安心する

セレンらしくて安心する、元気でよかったって言えるのかどうか…まぁいいか

「ホモさえあれば生きてゆけるのです!

私はお2人の交際もお認め致しますわ!」

もってなんだよ、もって!?

ホモだけあればいいとかネクストとツインメイドの片割れとセレンの国民全員に土下座しろ

「別にオマエの許可なんていらんわ!」

「セリ様が総受け!レイ様と和彦様と魔王(認めてませんけれど)ありですわ!大歓迎ですわ!!」

「俺、そういう用語?全然わからんから、もう部屋帰っていい?」

男が恋人だってのは認める(レイ以外)が、セレンの話には全然ついていけない

セレンの妄想って俺はいつも言ってるけど、もう妄想じゃなくなってる気も…

自分のコトなのに、他人に言われるとなんか変な感じする

レイは大親友だから恋人じゃないけどな!!

セレンの腐った話が長くなってきた

しかも基本18禁で結構エグい

女子のエロってもっと綺麗なもんだと勝手に想像してたけど、スゲーエグいんだな…ちょっとドン引きしてる自分がいる

綺麗なエロってなんだよってなるけど

男がパンツとかおっぱいとか喜んでる方がよっぽど可愛い気がする(小学生か)

俺は女子とそういう話しないし、セリカも友達とそういう話はしないから、女の子のエロさを知らないんだよ

まぁセレンの妄想に負けず劣らず、下手すりゃ超えて和彦と香月はエグいけど、黙っておこう

………ってか、なげぇ!!疲れてるんですけど!?余計疲れたわ!

話に夢中のセレンを放置して俺はユリセリから貰った自分の部屋へと帰る

レイとは同じ部屋にしてもらった

そっちの方が落ち着くから

部屋の前まで来ると今度は和彦が待っていた

「和彦、帰ってなかったのか?」

「セリくんが心配だから」

心配なんて…本当、和彦ってまるくなったなぁ

心配してくれて…普通に嬉しいし

「そうだ、セレン達を助けてくれてありがとう

助かったよ」

「それなんだが、少し話いいか」

珍しく和彦は真面目だった

近くの空き部屋に和彦と一緒に入る

話があると言うから俺は飲み物を用意する

客じゃないからわざわざ紅茶をいれたりはしない、ただの水だ

俺の1番好きな飲み物、水

「和彦は騒ぎに気付いて来てくれたんだよな、和彦の所も被害あった?」

テーブルを挟んでお互い向き合ってソファに座る

「いや、オレの所までは来なかったが

騒ぎに気付いてセレンより先にロックとローズの所へ駆け付けたよ」

前に話していた、誰と仲が良いか

だから和彦は俺の代わりに助けに行ってくれたんだ

本当に…嬉しいけど、無茶はしてほしくない

あの和彦があれだけの大怪我をしたんだ

下手したら死んでいたかもしれない

そう思うと心が震える

「でも、間に合わなかった

オレが神殿に着いた時はまだそこまで魔族は侵入していないのに」

えっ…それはどういうコトなんだ?

急に喉が渇いて無意識に水を飲む

「香月も魔族もロックとローズは殺していないって事、それに殺され方も変だった」

和彦に言われて、ロックとローズのコトを思い出す

そうだ…確かにおかしい

ローズの首にあった痕は人の手によって絞められた

ロックは背中から心臓に向かってナイフが突き刺さっていた

この殺し方は魔族にも可能だけど、魔族はそんな殺し方はしない

もっと派手に殺す、ぐちゃぐちゃにしたり切り刻んだり引きちぎったり、とにかくどんな時でも派手に殺す

派手好きな魔族や魔物が首を絞める、ナイフで刺すなんて人間がやりそうなコトだってバカにしてそんな殺し方をダサいとまで思っている

「そんな…それじゃ一体誰が」

心当たりはありまくる

魔族が仕掛けてきたタイミングが重なっただけで、魔族以外の誰かが2人を殺した

もしかして、タキヤの関係者か…?わからない

でも可能性としては高い…

「香月はロックとローズを殺していない」

もう一度和彦は言う

俺がそれで落ち込んでいるって気付いてるから否定してくれる

嬉しかったよ…香月じゃないって思えるなら

でも

「それが真実でも、それがなかったら香月はたぶん殺したと思う

和彦とセレンと光の聖霊を殺そうと…追い掛けようとしたから」

香月が殺してないかもってホッとする自分と、容赦なく俺の仲間を殺そうとする香月に俺はどんな気持ちを持ったらいいのかわからなくなる

「オレは殺されていない、セレンもあのキラキラ女も」

「うん…でも、もしかしたら殺されていたかもしれな」い

「オレが香月に殺されるわけない」

急に和彦は不機嫌になる

自分より香月の方が強いって俺に言われたのが気に入らないらしい

ヤキモチじゃなくて、自分より強い奴なんていないって自信があるから

はは…和彦らしい

その強さ、信じてるよ

和彦は絶対死んだりしないって安心できるから

「ごめんごめん、機嫌直してくれよ和彦」

「じゃあこっちに来い」

うわ嫌な予感しかしない…

だけど、俺は和彦の座っているソファへと移動する

隣に座るとそこじゃないって膝を指すから、俺は和彦の膝の上に向き合って座った

「ちゃんと帰って来たな」

えらいえらいと和彦は俺の頭を撫でる

「バカにしてんのか」

つい照れ隠しをして和彦の手を払いのける

「レイには喜んでしてもらうのに」

レイは…いいんだよ…恥ずかしくないから

和彦は……たまにしか頭を撫でてくれないから…恥ずかしいんだよ

嬉しいのに、嫌がるなんて…素直になりたい

こうして和彦の膝の上に座って向き合うコトだって、よくするのに未だに恥ずかしい気持ちもある

付き合いは長いハズなのに、いつまで経っても…慣れない

「…もっと、落ち込んでるかと思った」

「落ち込んだよ、いっぱい泣いたよ

今でも辛いよ…でも、俺が頑張らなきゃいけないから

いつまでも泣いていられない」

涙は枯れてしまったと言ってもいい

立ち直れたワケじゃないのにな

それでも俺にはまだ仲間がいる

大切な人がみんないなくなったワケじゃない

だから、立ち止まれないし強くならないとダメなんだ

「香月と…別れてないよ、別れられなかった」

「うん」

「俺のコト本当は愛していなかった、次会ったら殺し合いで

セレンの国も奪われて、みんなも殺されて…

それなのに、俺はまだ好きなんだよ香月のコト」

和彦は黙って俺の話を聞いてくれた

俺の腰を抱く和彦の手に力が入ったような気がする

「俺って最低でさ、そこまでされて言われて…最後にキスしてってお願いして…してもらって……

自分が嫌になる、こんなに自分が勝手でワガママで最低なのに

それでもまだ好きだってコトが…意味わかんないよね……」

「わからないな」

「だよ…ね…はは、そうだよね」

「わからない、セリくんが自分を最低に思う事が、嫌に思う事が

好きが簡単に割り切れたりするものか

混乱したり落ち込んだり、好きだから辛くて当たり前

急に割り切れたならそっちの方が怖いだろ」

一瞬で冷めるコトだってある

けど、和彦は俺の気持ちを汲んでくれた

納得いかせるような言葉を選んで…

「和彦がまともなコト言ってる…気がする」

昔はこんな奴じゃなかった

もっとドライでクールで、恋とか愛とかなかった奴だった

それが気楽でよかったんだけど、今の方が俺はもっと好きだ

浮気はいつなくなるの?

「オレは自分が思ってる以上にセリくんが好きみたいだ」

俺の背中に回した手に和彦は力を入れる

抱き締めて貰って、キスを受け入れる

それは素直に嬉しい

和彦がそんなに俺を好きでいてくれて…

「香月とこうなったら、セリくんが寝取られないのが残念

誰か他に恋人作らない?」

本当に俺のコト好きか!?さっきのときめき返せ!

「寝取られフェチやめろ!作らねぇよ

全然オマエのコト理解できん」

理解はできないけど、それも和彦だから受け入れるしかないし

そういう和彦だから俺は香月とも恋人でいられてありがたいのかも

でも、2人がどっちか1人を決めてくれって言うなら俺は決めるよ

恋愛は誠実さが大切だと思うから

どっちも決められなかったら、決めるまでどっちとも付き合わない

「レイとか新しい彼氏にぴったりだと思うが」

「巻き込むな、それにレイは普通の人だから俺に誰か選べって言うぞ」

「それは駄目だな、それならフェイはどうだ?」

「死んでもねぇよ!なんで自分を襲った男なんか恋人にするか」

「つまらないな」

ムカつくなコイツ

「和彦が浮気やめるなら俺も考える」

「んー…オレ、女好きだから無理」

「ウザすぎ、大嫌い」

「セリカが相手してくれるなら浮気やめてもいいけど?あまり胸ないけど」

「絶対ダメだ」

和彦は浮気ぐらいいいじゃんって軽く考えてるけど、やっぱり俺は嫌だよ

今だって思い出すと悲しくなる

最初から浮気性ってわかってるし、女好きってコトも知ってるけど

やっぱり嫌なものは嫌だよ…

ホント、俺は恋人2人いるくせにワガママだな

「もういい、寝る」

辛くなって和彦から離れようとしたら腕を掴まれる

「今日は引き止めるつもりはない」

「じゃあなんだよその手は、離せ」

そのまま強く引っ張っられソファの上に転がされる

俺が逃げないようにして和彦は覗き込む

「本当…セリくんは可愛いね、オレが浮気すると悲しいんだ?」 

嬉しそうだから無視した

そうやって人の心を弄ぶのも大嫌いだ

寝取られ趣味の奴なんて少数だ

普通は浮気なんかされたら嫌なんだよ

わかってるくせに、わざとする

俺がヤキモチ妬くのを見たくて仕方ないんだろ

「わかった、暫くは浮気しない」

「暫くじゃなくて二度とって言え」

和彦の胸を突き放して上半身を起こす

「ここ最近も浮気は控えていたのに」

「当たり前のコトを、凄いコトみたいに言うな」

「はは今度、浮気禁止させた事を後悔させてやる」

今日はオヤスミって和彦はもう一度キスしてくれる

後悔…どうしよう、浮気禁止を守ってくれるのは嬉しいコトなのに

とてつもなく恐ろしいコトになりそうで次会いたくないなって思ってしまう

「俺が後悔しなかったらずーっと永遠に浮気禁止だぞ」

何ハードル上げてんだよ!俺!悪い癖だよ!?

「楽しみにしててくれよ、おやすみセリくん」

やばい…バカやったかも

自信がない、無理かもしれん

でも…浮気は絶対嫌だし…頑張れ俺、大丈夫

和彦と香月の3人の時よりはマシなハズ、だから…大丈夫…たぶん…たぶんね

和彦の笑顔が怖すぎて俺は顔を引きつらせながら部屋を出た

心身ともにどっと疲れが出ながら隣の部屋に帰る

レイに癒やされよう、そう思って自分の部屋を開けるとゾッとする強い恐怖に襲われる

「やぁセリ、おかえり」

この感じは…魔王の恐怖だ

レイは笑顔で俺の方へ歩み寄る、その手には魔王の力を持っていた

「れ、レイ…それはやめろって前にも言っただろ…」

普通の人には感じないのかもしれないが、俺はそれが死ぬほど恐かった

香月も恐いって思う雰囲気を持ってるけど、本物の魔王の力は桁が違う

「あぁすまない、この力があればあの病もかき消せたかもしれないとふと思ってな」

レイが魔王の力を閉まってくれてその恐怖から解放された

ほっと胸をなで下ろして部屋へと入る

「それはわからないけど…

やっぱりそれは恐いな、香月は早く人間から魔族に戻りたいみたいだけど

香月が本来の魔王に戻ったら……あっ…れ?」

魔王の力を久しぶりに感じて俺はある可能性が頭を過った

そうか、それだ、魔王だよ

人間の身体から本物の、魔王に魔族に戻る

香月は前からそう思って戻る方法を考えていた

香月のコトだ、ありとあらゆるコトを試しただろう

だけど全てダメだった

そして、ある可能性を思い付いた

それで戻れるかどうかわからないが試してみるのもありと思った

俺の考え過ぎかもしれないが、香月は一度死にたいんだ

魔王は何度だって生まれ変われる

だから一度人間の身体で死に、そして魔族の魔王として生まれ変ろうとしてる

人間とは言え、魔王であるからか勇者の力がなければ死ねないみたいだし

香月は頭が良い、何をしたら俺が怒るとかわかってる

どんな手を使ってでも俺に殺されて、魔王に戻ったらその俺の記憶を消す為に俺を殺しに来る

どんな手にレイや和彦を巻き込む可能性はずっと高い

それを使われたらもう俺は香月を愛せなくなるから、香月は都合の良い俺にする為に殺すしかない

そうだとすれば…俺は今まんまと香月の思惑通りに動いている殺すコトになる

次会った時は殺し合い、もし殺してしまったら香月の思うままだ

魔王にしてしまうのも厄介だしな

今は俺の方がまだ強くても魔王になられると勝てるかどうか…自信がない

殺されるなんて…絶対に嫌だ

死んだら、もう和彦やレイには会えないんだぞ

みんな生まれ変わっても…和彦とレイに会えるかなんてわかんないし…

だから俺は香月を殺さない

香月は俺に殺される為にどんなコトをしてきても…

くそ…タキヤも俺を追い詰めて自殺させようと色々仕掛けて来る時に、香月まで加わったら…かなりキツイ状況になるぞ

「セリ?」

急に黙り込んだ俺にレイは心配して顔を覗き込む

俺は…みんなを守れるか?いや、やらなきゃダメだろ

アイツらがどんな手も使って来るなら、こっちもどんな手でも使ってやるつもりでいないといけないぞ

「香月は…たぶん魔王に戻る方法がわかってる」

「香月さんがついに…本当の魔王に」

「でも、それは俺じゃなきゃできないコトだと思う」

さっき頭で考え付いた話をレイにする

レイは半分は疑ったが、半分は可能性はなくはないとした

「だから、レイのコトは俺が守るよ」

「セリに守ってもらわなくても自分の身くらい守れる、それでセリの事も守るから」

騎士の意志もプライドも高いレイが簡単に頷くとは思っていない

「いつもならそれでいいが、魔族が相手ならレイより俺の方がずっと強い

わかるだろ?」

絶対に納得させる、レイにムチャしてほしくないから

「しかし…」

不満そうにするレイにちょっとイラッとする

聞き分けがないとかガキかよ

レイはずっと大人っぽいと思ってたが案外ガキなんだな、それもそうか

実際レイは高校生くらいの年なら自分が1番最強って勘違いする時期だろ

誰もが通る道だ、中二病ってやつ、俺もそうだった

「あのな、こう見えても俺のほうが5歳も年上なんだぞ

レイよりずっと大人だ、子供の出る幕じゃないってわかれよ」

ついムカついて言ってしまった…

いつも年下のレイに甘えに甘えまくって頼りにしてワガママ三昧して来たコトを棚に上げてよく言えたなって自分でも思う

「今さら大人ぶるな」

そう来るってわかってた!

でも、俺は大人ぶったワケじゃない

レイが聞き分けないからそのまま言っただけだ

無理してほしくないって…わかれよ

死んだら終わりなんだぞ、俺はレイを殺されたくないのに

わかってくれ

「オレはセリが年上だからと甘えたいわけでも頼りたいわけでも守られたいわけでもない

他の事は努力で超えられても、絶対に超えられない事もある

どうしたってオレはセリの年上にはなれないんだ…

そのどうしようもない事を言われても納得いかないな」

ホント…子供だな、まだまだ

気にしたって仕方ないコトにしがみついてどうする

嫌ってだけで感情に任せるのは子供のするコト

でも…レイの気持ちはわからないワケじゃないんだ

早く大人になりたいってレイはいつだって努力してきていた

俺の為に、守る為に…なんだって一生懸命でいてくれてるのはよくわかってるよ

年の差を気にしているのはレイの方だ

俺とセリカが自分のコトを冗談っぽく、もうジジイだからババアだからと言えば、レイはいつだって悲しそうに笑う

子供扱いされないようにって気を配って勉強して強くなって…

……逆にガキなのは俺の方かもしれない

レイが聞き分けないのは確かだが、それを受け入れないでガキだからって突き放すだけ

レイがそういうから俺はしっかりとサポートするのが大人としての対応なのかもしれん

何より俺はレイと喧嘩したくないの!

「すまん、レイの言うコトはよくわかったよ

それじゃ今まで通り守ってくれると…嬉しい」

「セリ…!当然じゃないか、命を懸けて守ってみせるさ」

さっきまで世界の終わりみたいな顔してたのに、パッと顔が明るくなっていつもの爽やかさを取り戻す

どんだけ俺のコト好きなの?無理心中するくらいだったな

「それは嫌、俺の為に死んだら怒る

何があっても絶対に生きろ、約束して」

指切り、と小指を出すとレイの小指がからんで約束してくれる

「オレが死んだらセリを守れなくなって危ない目に合わせてしまうから、死んだりしないさ

約束するよ」

でも、やっぱり嬉しい

レイがそう言ってくれて…そうしてくれて

最初から年下とか年上なんて年齢は関係ないのに

「あと、もっと大人になれ」

「もう大人だぞ?結婚も出来る年齢だ」

「そういう意味じゃねぇよ」

やっぱりまだまだレイの残る子供っぽさに苦笑する

話が終わると急に溜まった疲れを感じて眠くなる

明日からまた頑張らないと…

生き残ったみんなのコトは俺が守らなきゃいけないんだから

もう甘えてはいられない所まで来たんだな



-続く-

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