100話『救える命と助ける命』セリカ編

セリくんからレイの病を治せる呪術が入った小瓶を預かった

これを届ける為に私はペガサスに乗せて貰って、その村へと向かう

レイはセリくんの大切な大親友だ

死なせるワケにはいかない

私が絶対助けてあげるから、待ってて

ここ最近、セリくんはとても悲しくて辛い思いをしている

その苦しい心は私にも強く共有いるから…一歩一歩限界へと近付く

香月とも辛いコトになるでしょう、それは大きな限界の一歩になってしまうけれど

私でも香月は止められなかった…

セリくんにも…止められないと思う

でも…耐えて、レイのコトは私に任せて…頑張ってセリくん

レイのいる村へはペガサスで半日くらいだったね

私はペガサスの首をそっと優しく撫でる

この子を見てすぐにイングヴェィのペガサスかもしれないと思ってしまった

ただの…妄想、だから私はそんな勘違いはすぐに消した

この子も私(セリくん)には懐いてるみたいだけど、私のコトははじめて会ったという感じだった

たびたび私の妄想を思い出されると現実が揺らいじゃうよ

現実を見なきゃいけないのに…

「お嬢さん」

頭上で不気味な声が聞こえて見上げる

「良い夢を見せてあげよう」

コイツは…悪魔!?こんな時に遭遇するなんて、まずい…こんな所で時間を奪われるワケには

「ゆっくりおやすみ」

考える時間も与えられず悪魔は突然現れ一方的に視界を奪い真っ暗にした

意識はハッキリしてる、だけど何も見えない何も聞こえない何も感じない


暫くすると少しずつ私の視界が開けてきた

身体の感覚も取り戻してきて、音も聞こえるようになる

誰かが…私を…呼んでる?

「セ~リ~カ~ちゃんっ」

「えっ……はっ!?イングヴェィ!?」

しっかりと取り戻した視界に私の顔を覗き込むのは私の妄想の王子様?

えっ…なんで、これは夢?自分の手の甲を力いっぱい抓るとめっちゃ痛い

夢じゃないの!?

「居眠りしてたの?ちょっと長旅で疲れちゃった?」

長旅…待って、私どこに行こうとしてたんだろう

急に視界が真っ暗になって、イングヴェィがいて…緊張して混乱している

何故か記憶が飛んで、私はさっきまで…どうしていたか

もう少しで思い出せそうなのに

「いや…あの…イングヴェィ」

「俺に会いたかったの?」

イングヴェィの…久しぶりに見る太陽のような笑顔は……私の心に染み渡った

たくさん辛いコトがあって、悲しくて苦しくて…それが全て溢れ出てくる

セリくんが必死に我慢して…我慢して…自分を奮い立たせていたのに

私はイングヴェィを見ただけで…折れてしまった

我慢できなくなって、その優しくて綺麗な声も優しくて良い匂いも…なにもかも

良い…良いな、やっぱりイングヴェィは……イングヴェィだね…

「会いたかった…です……」

「うん、俺も会いたかったよ」

隣に座るイングヴェィが私をぎゅっと抱き寄せる

な、なんか…凄く恥ずかしい……

イングヴェィは普段から私へのスキンシップが激しくて、抱き締めるや頬や額にキスするは彼にとっての私に対してだけの挨拶のようなもの

今まで挨拶みたいにされてたからいちいち気にしなくなって無で過ごしてきたけど

なんだか…今は凄くドキドキする…

久しぶりに抱き締められたから?

私はこんなにも恥ずかしくてドキドキするのにイングヴェィの中ではやっぱり挨拶で…なんとも思ってないのかなぁ

私ひとりだけドキドキしてるみたいで恥ずかしいな

私の身体はカチコチに固まって緊張していた

「セリカちゃん可愛い、どうして赤くなってるの?いつもと違うよ」

うるさい黙れ!やめろ!言うな!恥ずかしいんじゃ!わ・か・れ・よ!

イングヴェィはいつもみたいに挨拶をする

私の顔に手を添えて頬へキスする

いっそう増す、私の熱が…上がって、顔も真っ赤に、身体も熱い気がする

死にたい……死のう、恥ずかしくて無理だよ

なにこの少女漫画みたいなん

私は恋愛系と感動系がめちゃくちゃ苦手なんだぞ

「ねぇ、今日はここにキスしてもいい?」

イングヴェィの親指が私の唇に触れる

へぇ~あ?何言ってんのこの人?私を殺す気?うわー!私に恋愛なんて無理だったんだ!

セリくんみたいに経験値全然ないもん!人生で言ったら赤ちゃんだよ!

恋愛1年生とかじゃなくて、恋愛赤ちゃんだよ!ピヨピヨくらぶからはじめて!

これ以上ドキドキしたら死んじゃうよ…

「セリカちゃんのコト大好き、愛してる」

恥ずかしくないの?

イングヴェィはいつも素直に自分の気持ちを言葉にして表現する

そういう所も…私は凄いなって思って…良いと思います

「セリカちゃんは?俺のコト好き?」

きたこれ…

「私は…イングヴェィも…みんなも大好きだよ」

ふー精一杯の返事、これが私の限界

めっちゃ声震えてて…バレるのに…

「香月なんて…私のめっちゃタイプだし…」

うわ私死ね、それはないだろ

自分が恥ずかしいのを隠したいからって、他の男の名前を出してタイプとかないよ

ウソは言ってないけど、香月は私の好みのタイプ

恋愛に慣れてないから?どうやって接したらいいかわからない…

今までどんな風にイングヴェィと一緒だったかがわからなくなる

素直ってなに?どうやったらできるの?

私…全然わからない……

こんな自分に自己嫌悪だ…

「でも、セリカちゃんの運命の人は俺だもんね」

忘れてたけど、イングヴェィは超ポジティブだった

私が何を言っても良い風に解釈する

それは無理があるだろ!?って思うコトでも強引に自分の良い風に捉えてねじ曲げる

できなかったら、殺すとか消すとかでなかったコトにする

冷静に見ると超危険なストーカーです

でも…そんなイングヴェィの超ポジティブに私はたくさん助けられているような気がする

自分の気持ちが上手く表現できないから…

こんなコト言うつもりじゃ、言いたくなかったのに、ってコトをイングヴェィはなんでも…私の心を見透かすようだった

イングヴェィは私のコトならなんでもわかるからよかったと思う

…私の…運命の人

「運命の人…」

「うん、セリカちゃん…俺とずっと一緒にいよう?

一緒に…いてほしいな」

イングヴェィに両手を掴まれ、顔が近くまで迫る

キスされるんじゃないかってくらいの距離に私はドキドキが止まない

さっきからずっと……イングヴェィのコト……

いつも守ってくれて、助けてくれて、救ってくれる

優しくて大切にしてくれて一途で健気で…

それはレイと一緒なのに、レイとは違う

レイとは…あっ!レイ!そうだ思い出した!

私はレイを助けに行く途中だったんだ

「そうだ!イングヴェィ、私ね」

こんな所で時間をかけてる暇はない

すぐにレイの所へ行かなきゃ

私はイングヴェィにこれまでの話をする

だからまた後でって伝える

後でって……なに!?この心がしんどくなるようなのをまた後でするのか…

心臓大丈夫かな?本当に死ぬかもしれないよ

「そんな大変なコトが…」

「そうなの!セリくん、凄く辛い思いをしてて…レイまでいなくなったら……もう」

言葉では表せないくらいの苦しみと悲しみしかない

だから私がすぐに行かないと!レイは絶対私が助ける!

すぐに思い出せてよかった

少し記憶が消えたのはあの悪魔のせいだろうか?嫌な奴だ!

「だけど、セリカちゃんには関係ないよね?」

えっ…

笑顔で言うイングヴェィの言葉に私の時が止まる

「それってセリくんの問題でしょ

もしレイくんが死んでセリくんが酷く悲しんでもセリカちゃんには関係ないよ」

イングヴェィなのに…私はその言葉を使うイングヴェィの笑顔が姿が声が全てウソに見えた

あぁそうか…これは私の妄想でも夢でも、なんでもない

ただの悪夢

「オマエは…イングヴェィじゃないわ、消えろ」

炎魔法で目の前にいるイングヴェィの姿をした何かを焼き払う

よく燃えた…枯れた木が燃えるように簡単に…

あっという間にその姿は灰となって消える

イングヴェィはセリくんにそんなコト言わない

私がセリくんだって知ってるから、セリくんの悲しみは私のコトだってわかってる!

関係ないなんて絶対に言わない!!

私はバカだ…

あの悪魔にまんまと騙され踊らされていた

偽者のイングヴェィと偽物の愛

こんなんで私を騙していたなんて、中途半端にイングヴェィっぽくしてさ

せこい!すぐバレるようなやり方するな

…バレなかったら例え悪夢でも永遠に見ていてもよかった……

最低だよね、私…現実で大切な大親友がピンチだって言うのに

しっかりしろ私

「早く…行かないと…」

私はこの悪夢から目を覚ます

だけどね…私の心だけはウソじゃなかったね

私…イングヴェィのコト……私は、私は……

運命なんかで決められた気持ちじゃない

だって、イングヴェィはどこにもいないのに私のこの気持ちは確かにあるんだよ

それって本物だって…コトだよね?


「はっ!?…危なかった…」

悪夢から目を覚ますと私はペガサスの背にもたれかかっていた

やば、ペガサスのタテガミによだれがついちゃった…ふきふき、許して

ペガサスは私がよだれをつけたコトにも怒らず私が目を覚めたコトに大丈夫だった?と心配そうに目を向けてくれた

「大丈夫よ、このセリカ様がそう簡単にやられるワケないでしょ!

心配かけたわね、ごめんなさい…あとよだれも」

いやホント、ムカつく!あの悪魔今度会ったら許さないから!!

乙女の心を弄んだ罪は重いぞ、殺す

でも…悪くはなかった…かも

久しぶりにイングヴェィに会えて嬉しかった

偽者だけど、でもあの時は私はイングヴェィを本物だと思ってこの気持ちにも偽りはない

ペガサスは私が悪夢を見ている間も走ってくれていて、気付けばもう村は目の前まで来ていた

ギリギリの所で目が覚めれてよかった

レイの命は一刻も争う


ペガサスは村の入口付近で地上に下りてくれる

「ここまでありがとうね」

ペガサスから下りた私は首を撫でたあと、額にお礼のキスをする

するとペガサスは真っ白な顔をほんのり赤らめる

ふっオスってチョロいわ、女でよかった!!

ううん…本当に感謝してるわ、これでレイを助けられる…ありがとうペガサスさん

私はもう一度額にキスをして手を振ったあと、村の入口へと向かった

村の中に入るとすぐにザワザワとした空気が流れる

「あの女…宿にいる男と一緒に村へ入ってきてた…」

「この村に一度でも足を踏み入れると絶対ウイルスに感染するのに」

「どうしてあの女は」

「平気なんだ」

全ての人が私へと注目する

「外で治療法を見つけてきたのか?」

だんだんと不穏な空気が流れ始まる

「きっとそうに違いない!」

「彼氏に治療法を持って帰って来たんだ!」

「捕まえて吐かせろ!!」

病のせいで弱りフラフラで足元もおぼつかなかった村の住人達は私が治療法を持ってるとなったら最後の力を絞ってでも奪いに来る

「ごめんなさい、これひとつしかなくて」

私に近付いた住人の1人を炎魔法で焼き殺す

あっという間に焦げた身体が地面に転がる

それを見た他の住人達が私から後ずさる

「私はセリくんと違って優しくないからね、奪うと言うなら殺します」

みんな助かりたい…それはわかるわ

私も死にたくないもの、私も同じ状況なら…助かりたいもの

だからここへは私が来て正解だった

セリくんがここにいたら、レイだけを助けるって決めたくせに…それでも迷っただろう

殺せないとか、みんな助けたい、とか甘っちょろいコト考えてしんどい思いをする

どうしようもないのにどうしようか考える

そして…手遅れにでもなったら泣くんでしょ?後悔するんだろ?

私はそんなコトしない…

全ては救えないのよ

だって無力だもの、勇者だからってなんでも出来るって奇跡は起こらない

どうにもならない…ならないの

「あ…きらめ…られるかああああ!!!

おれには小さなこどもがいるんだ!

息子を助ける為ならおれは!!」

遠くで叫ぶ誰かのお父さんが私目掛けて弩を引く

その矢は私の肩へと突き刺さる

このくらいの矢なら私でも引き抜けるわね、ちょっと力がいるけど

小動物にでも使うような細い矢を放ってくる

矢はこの村を表しているようだ

細く短い命…もう長くはない村

「お辛いですね、でも私も辛いんです

あなたに大切な人がいるように、私にも大切な人がいる

あなたが大切な人を助けたいなら、私も大切な人を助けたいの」

遠く離れた誰かのお父さんに向けて炎魔法を飛ばす

焼けて…灰になっていく

「大丈夫、私なら苦しむコトなく殺すコトができるから、ちゃんと息子くんを送ってあげますね」

最後に誰かのお父さんが放った矢が私のポケットを掠めると呪術の小瓶が落ちる

危ない危ない大事な小瓶だ

拾い上げて大事に胸の中へとしまう

ストーンと小瓶は足元の地面まで落ちた

ぅっ…うわーーーん!!

胸の谷間がなかったために生んだ悲劇

よくある胸にしまうやつを無謀にもやりたかったのです

しかもワンピースだから小瓶が腰で止まるとかなかった

ワンピースじゃなかったら!スカートにゴムが入ってたら!ベルトをしてたら!こんな悲劇にはならなかった

胸がないせいじゃない、服のせいだ

私はまた拾い上げ小瓶を谷間(がない)じゃなくてブラの中に押し込んだ

これでもう落ちない!

肩に矢が刺さってできた傷を回復する

病気は回復で治せないけど、炎に弱いウイルス系ならもう私の脅威じゃないわね

2人も炎で焼き死んでも、住人達は私に向かってきた

みんな、もう生きる時間がないからだ

一か八かで飛びかかってくる

それら全てを炎で焼き払った

まだ住人はいるけど、もう誰も私に襲いかかってこない?

それじゃあ、レイのいる宿に行こうか

息子くんは後でちゃんと殺してあげる

約束したもんね(一方的に)

レイのいる宿の前まで来ると後ろに数人の気配を感じる

「聖女様!」

振り向くと数人のシスターがひざまずいていた

「あぁ聖女様ですね…」

凄い拝んでくる…ど、どうしてだ?人を焼き払って子供まで殺そうとしてる私を聖女と呼ぶの?

それはおかしいぞ……

「その綺麗な炎は聖女様で間違いございませんね

私達はここの病人の看病に参ったシスターでございます」

看病に来たはいいが実は不治の病で自分達もウイルスに感染したと…

弱々しい姿、息も荒く顔色が悪かった

一目見て、この人達は助からないとわかるほど

「そう…」

「私達は信じておりました

この不治の病から救ってくれる存在を…待っておりました」

えっ?…えっ?

シスター達は私の手を掴み泣きながら額に当てる

「苦しみのない炎、助からない命を天国へと運んでくださる

なんて慈愛に満ち溢れた御方でしょうか」

いやいやいや、どう見ても聞いても私は悪役でしょ!?

自分さえよければいい、邪魔する奴はガキでも殺すって見てたよね!?

「この村はもう駄目でございます

全ての感染者が亡くなったとしても空気中のウイルスはなくなりはしません

この村は無人となっても永遠にウイルスは生き続けております」

つまりそれは…私が炎でウイルスを殲滅しないと、この病はまたどこかで流行ると言うのか…

私の自分勝手な行いが…この人達の為になる?

都合の良い解釈だ

私はただ1人、レイさえ助けられればいい

他の人達なんて見捨てて、見向きもしない

邪魔する奴は殺す……そうでしょ?

なのに、なんで

「病に苦しみを与えられて死ぬくらいなら聖女様のあたたかくて苦しみのない炎で眠れるなら…私達は幸福でございます」

私を聖女だと崇める?私が正義だと言うの?

そんなコトは決してないハズなのに

それじゃ…殺さない方が酷い奴ってコトになるのか…

「お願いします

この村ごと炎で焼き払ってください

聖女様の炎で天国へとお導きくださいませ」

助からない…ここにいる住人達は誰ひとりと…苦しんで苦しみ抜いて…死ぬのを待つしかなかった

そんな中でやっと救ってくれる人が現れた

死をもって救う、痛みも苦しみからも解放されて安らかな眠りを

この炎でこの村を救ってくれると、みんな…信じてるんだわ…

「…わかりました」

迷うコトなんて何もない、みんなが望んだコト

「もう…痛みも苦しみもない

安らかな眠りを…おやすみなさい

来世では幸せな人生を、願って」

目の前のシスター達は私の炎の中で安らかな笑みのまま包まれて灰になっていく

それを遠くで見ていた他の住人達も私の前へとすがる

「聖女様!私にも!」

「お願いします、もう苦しいのは嫌なんです」

「僕をパパの所へ連れて行って!」

人も家も何もかもが私の炎に包まれていく

約束通り、あの父親の子供も

誰ひとり苦しまず、辛い日々はやっと終わりを迎える

いくら救いだと言っても、私は命を奪っているコトには変わりない

不治の病を治せなかった…生きるコトは選べないだけの話…

それでも彼女達が望むなら私は安らかな眠りの手助けをする…苦しみからの解放、死をもって…

もうここにはレイがいる宿しかない

生きているのもレイだけ…

最初から邪魔する奴は殺すつもりで来たのに…この結末は複雑な思いを私に残した


やっと…レイの所までやって来た

私の炎でわかる、レイはまだ生きている

でもギリギリの状態…長くはないわ

だから早くこの薬を飲んでもらわなきゃ

「レイ、起きて…助けに来たよ」

ずっと頑張ってくれていた

レイはこんなに苦しい病をずっと耐えて私を待っていてくれた

生きていた住人達よりレイの症状は重く強いウイルスにやられたんだと思う

なのに、セリくんをひとりにしないように…頑張ってくれたね

レイのそういう所、好きだよ

命を懸けても…守ってくれるもんね

こんな所で死ねないよね

「ねぇ?レイってば」

何度名前を呼んでも身体を揺すってもレイは目を覚まさなかった

息はある…とても小さいけれど

でも意識が……

「レイ…せっかくここまで私は来たって言うのに…」

このままじゃレイが死んじゃう

もう悲しいのは嫌だ

私は人肌に温まった小瓶を取り出し眺める

諦めない…諦めるもんか!

レイが自分で飲めないって言うなら、私が…飲ませるしかない

つまり…それって口移ししかないってコト?

で、でも…レイとキスなんて…私は…

頭を壁に強くぶつける

大きなたんこぶができて、痛すぎて床を転げ回った

あ、あかん…これはやっちゃいかん

いつも痛みを回復魔法で感じさせないようにしてるから手加減を忘れて

わざと痛みを感じさせて冷静さを取り戻そうとしたけど、痛すぎて後悔するだけ

でも、決心はついた

これは人命救助、キスとかじゃないから、ノーカンだから!!

小瓶の蓋を開けてその中身を口に含む

あまーいのと良い香りが口の中にふんわりと広がる

これ本当に呪いなの!?

レイの顔を覗き込む

決心したけど、レイの顔を見るとなんか…揺れる

こういうのってセリくんの役目じゃん!なんで私なの!?

セリくんならこんなに迷わないだろうし、レイの為ならすぐ口移しだってなんだってやるのに…

私はセリくんなのにどうして躊躇うんだろう

でも…これでレイが元気になってくれるなら、私はやるしかない!!

冷たいレイの肌、病への苦痛で汗と一緒に顔を歪ませている

すぐ助けてあげるからね…レイ

私はレイの冷たくなった顔に触れる

口を開けて、零さないようにレイの口へと自分の口を合わせる

呪術のジュースが私からレイへと流れていく

もう大丈夫…大丈夫だよね?これでレイは助かるよね?

イングヴェィ…これ…違うからね…誤解しないでね

レイから顔を離すとすぐに目があった

「セリ…カ……?」

な、早くないか!?さっきまで意識なかったのに!?

顔色も一瞬で元に戻るし、汗も引いてるし、体温もしっかりある!病気?なにそれ気のせいみたいな顔してる

ユリセリのすぐ元気になるって言うの、すぐすぎるわ!!

口移ししたコトは一生黙ってようって思ってたのにバレバレだよ!?

「レイ……」

なんて言えばいいのか…私は顔を赤くしてレイから目を反らす

「オレが死ぬと思ってお別れのキスかい?」

めっちゃ嬉しそうにしてる!?

レイはいつもと変わらない爽やかな笑顔を向ける

イケメンスマイルは眩しいわ

「違うわよ!バカ!病気で死にかけてるから薬飲ませてあげたの、レイが自分で飲めないから」

「それはありがとう、心配かけたな」

「別に私は心配してないわよ、セリくんが死ぬほど心配してるだけで」

さっきまで死にかけてた病人なのにレイはベッドから出て私を壁際へと追いやる

来ますねこれ、来ますよ

「セリカが風邪引いた時はさっきみたいにして薬を飲ますよ」

はい壁ドン!来たね!?来ると思ってた

「調子に乗らないで!凄く…凄く心配したのよ

レイまでいなくなったらって……ん?」

レイに壁ドンされて身動き取れなくなって目を合わせるのが恥ずかしいから視線を落とすと…下まで元気になっていた

すぐに元気になるって!?下も!?

「ぃ…いやーーーっ!!こわい!!変態!!嫌い!!」

思わずレイをビンタして突き飛ばす

ビックリしたレイは一瞬何故ビンタされたのかわからなかったみたいだがすぐに気付く

「せ、セリカ…これは…違うんだ」

顔面真っ赤になってレイは私に謝る

すぐ私に嫌われるんじゃないかって顔を真っ青にして、一定の距離を取って私に近付かないようにしてくれた

わ、わかってる…レイのせいじゃないって

呪術のすぐ元気になるってやつのせい

でもこわい…それこわい…うぅ…やっぱり男はこわい

暫く部屋の中は静かに時間が過ぎていく

私はレイに背を向けていた

「セリカ…すまなかった」

「ううん…私もビックリして取り乱して」

レイは悪くないってわかってるのに、レイを傷付けちゃったかも…

「いや、それもあるが…

セリ…たくさん泣いていたから…

泣かせたくないのに、早く元気になってこの腕に抱き締めてやりたかった」

私は何の話を聞かされてるの?レイの彼女の話?いや、あんた達がバカップルってわかってるけど

レイって私のコトが好きなんだよね!?違うかったっけ!?

「それなのに、全然良くならなくて…

絶対に死ぬわけにはいかないって思っていたのに、オレはこの病気で死ぬんだってわかっていた

オレが死んだらセリに寂しい思いをさせてまたたくさん泣かせてしまったら

自分を許せなくなる」

はいはい惚気(?)は壁にでもぶつけてほしいわ

「だから、セリカが助けに来てくれて本当にありがとう」

「たまたまよ、タイミングがそうなっただけ

本来ならセリくんがここに来たわ」

部屋の隅で背を向けていた私をレイは後ろから抱き上げた

「セリカはオレの為に泣いてはくれないだろうな

それでも、オレはここで死ねない

これからもセリカを守っていきたいから」

セリくんを、でしょってまたひねくれたコトが浮かぶ

レイが死んだら…私だって泣くよ

私はそこまで薄情じゃないわ…そんなコトもわからないレイは私を全然わかってないな

「当然ね、私は私を泣かせる男は嫌いだもの」

嬉しくて私が勝手に泣くのは許す…

レイはいつだって、私を守ってくれる

素敵な人…わかってる

でも…どうやって好きになったらいいのかわからない

現実を見なきゃいけないコトくらいわかってるのに

私はいつまでも妄想の中で生きてしまう

そこから出たくない…

だって、私は…

「下ろしてもらえる?」

「あぁ…」

レイは少し寂しそうにする

抱き上げていた私を下ろしてレイはそれでも私に笑ってくれる

ちゃんとレイのコト…見てるよ…見てるからね

もうすぐセリくんがここへ来るのを感じる

「レイ…!レイ……」

ドアが開いたかと思うとセリくんはレイの顔を見ると泣きそうな顔をした

「それじゃバトンタッチして、私は帰るわ」

セリくんの横を通り過ぎて廊下へと出る

「えっセリカ、待ってくれよ」

早くレイと話したいハズなのに、セリくんは廊下に出た私を追いかける

「どこに帰るんだよ、これからレイと一緒にユリセリの所へ行くぞ」

「私の帰る場所くらいわかるでしょ」

ハッキリと私からは言わなかった

セリくんは唇を噛んで言いにくそうにする

「もう…香月は、俺の敵なんだ…そんなコト言わなくてもわかるだろ?」

「わかるよ、だって私のコトだもの

でもセリくんは香月と別れたワケじゃない

本当はずっと一緒にいたい…今まで通り」

私を身代わりにして、言い訳にして…ね

本当に香月のコトが嫌いなら私も行かない

セリくんは香月の傍にいたいのよ、こうなっても

「違う!そんなコトない!!

勝手に行動するな!それが俺の本当の気持ちとか言って!そんなの全然違う!

わかってねぇ、わかってねぇよセリカ

香月は俺のコトなんて……」

わかってるよ、隠したって無駄なんだよ自分に言い訳しても…

「レイが待ってるわ、早く行ってあげて」

セリくんが止めるのも聞かず私は背を向けた

「セリカ…セリカの…アホ!!」

悲しい気持ちだって、辛いのだって、苦しいのだってわかる

それでもセリくんが望んだコト

自分が香月の傍にいたい、いつか本当に愛してもらえると信じて

私は香月の所へ帰る

複雑な自分の心を持って、自分がそうしたいならその願いを代わりに叶えるの



-続く-

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