第74話『女神の祈りを汲み取って』セリカ編
「セリカ様ー!?セーリーカーさまあああああああ!!!!???」
遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえる
ラナは今日も絶叫と悲鳴と奇声を混じらせながら私を捜している
私がいつも隙を見て姿を消すのはひとりでいたいから
大親友がベッタリでそれがイヤじゃないセリくんとは違う
他人といると無理をしている自分がいる、疲れてしまう、息苦しい、私に構わないで
どうしてそんな風に感じて思ってしまうのか
わかるようでわからない…
これ以上傷付くのを恐れ避けているのか…面倒なだけなのか
いつまでも過去に囚われ、憎しみから苦しみから悲しみから逃れられないから…
ラナはラナで私に何かあったら自分が殺されると心配で気が気じゃないのだろうけれど、大丈夫よ、たぶん
人気のない木々の間を歩く
天は美しい光を木々の間から照らしてくれる
今日は良い天気ね、空気も綺麗で澄んでいるからそれだけでちょっと嬉しくなる
「………あっ」
のに、そんな気分も一気に失われてしまう
大丈夫じゃなかった、この世界も結構治安悪いのよ
この美しい光景を汚すようなコトを目の当たりにした私は考えるより先に前へと出る
「やめなさい、嫌がってるでしょ」
変態の男がか弱い女の子を襲っている、まだ未遂のようだが
この世界でもよくあるコトだ
別に驚きはしない、またかって思う
ケド、何回だって…慣れるコトなくて気持ち悪いもの
目の当たりにするのも……自分の身に起きるのも……
「お前は…」
私の止めに気付いた男はあっさりと女の子から手を離して私に向かってくる
何コイツ、迷いなく私を認識した瞬間に攻撃してくるなんて!?
「死ねぇー!?何処まで私の邪魔をすれば気が済む!盗人の小僧っこめ!!」
男の水魔法は私の炎魔法を消し去る
ヤバイ、いきなり過ぎたのが予想外で対処が遅れる
水魔法は私の全身を包み込み息を奪う
私にとって苦しくはないがそれはマズイ
息が出来なければ苦しくなくても数分で死ぬ
「得意の回復魔法で平気な顔か、小僧を苦しませて殺したかったが死ぬなら何でもいい
これ以上邪魔が入らないならどんな死に方でも!」
こいつ、初対面じゃない
セリくんと何か因縁があるのか
邪魔…そうか、そこの女の子は人間じゃない…女神か
噂は聞いている、女神を盗んだ大罪人とは私のコト
女神が見えて触れるこの男は大神官のタキヤ
その位の人間であれば、セリくんと私の区別は付くハズなのにそれが出来ない今相当冷静じゃないぞ
なんとか…しないと
集中して、炎以外にも私は魔法を持ってるじゃない
私を守ってくれる…最大級の魔法が…
だんだんと天が真っ暗な雲に覆われていく
音がする、この水の中まで響く大きな音…
私を助けてくれるものだ…
「なに…急に雲行きが怪しく……っぐわああああああ!!!」
真っ暗な天から大きな音と光とともに響く
その光はタキヤを貫き地面に叩き付けた
天から雷を、これも天魔法のひとつなんだ
最近使えるようになったよ
でも、やっぱり天魔法は難しくて私の意思ではまだ上手く使えない
不安定だけど、私を助けてくれる心強い味方
たまたま…運がよかった
タキヤが倒れると真っ暗だった天は先程の雲ひとつない晴天へと戻る
地面に倒れたタキヤの様子を伺うと気絶しているだけで死んではいなかった
私の意思で使えていないからこの程度の威力しかないのか…
髪の毛チリチリじゃん、これは精神的ダメージがデカイね
「…大丈夫?」
近くでタキヤの乱暴に怯えて座り込んでいる女神に手を伸ばす
彼女は私を見ると恐怖から安堵に変えて、不安から安心に変えて、涙を零した
「私がいたのはたまたまだ、天魔法が助けてくれたのも運がよかった」
彼女は何かを伝えようと口を開くが、私にも彼女の声は聞こえない
それに気付いた女神は残念そうに、でもありがとうと嬉しそうに私の手を取る
「だから…コイツはここで殺しておくよ」
しかし女神を立たせ、私がそう言って勇者の剣を引き抜くと女神はタキヤを庇うように私の前に立った
首を横に振って悲しみの表情を向ける
「さっきも言ったの、聞こえてなかったワケじゃないよね
さっき貴女を未遂で助けられたのは運がよかったから
私が負けなかったのも運がよかったから
今コイツを殺しておかないと、この先セリくんが殺されるコトくらいわかるでしょ?」
それでも彼女はどかなかった
女神だからか?人間を救うコトに縛り付けられてその身を犠牲にしてまで…守るべきコトなのか……
「…恐かったでしょ、その男のコトが
イヤでしょ、気持ち悪いでしょ
私が来なかったら貴女は痛いのよ、苦しいのよ、辛いのよ…
ずっと…」
わかってないワケじゃない…この女神は……それでも、クズすら見捨てないと言うのか
女神の鑑だな、可哀想に
「……それなら何故貴女はその男から逃げる?自分の国から離れて、どうして……」
はっ…と気付いた
私は彼女の気持ち、聞かなくてもわかるのに
庇いながらも彼女の身体は恐怖に震えて、我慢している涙も今に流れ出しそうに…苦しい
女神だからって…恐いよ、襲われたら…
人間の女の子と変わらない感覚もあるんだ……
その感覚を持ち合わせながら神である彼女は…どうしようもないんだ……
神は人間を裏切れない…それが運命
「……悪かった……もう、大丈夫だよ」
勇者の剣を鞘に収めると女神は私に抱き付いて泣いた
人間の女の子と変わらない…恐かったと泣き叫ぶ、聞こえない声で……
でも、タキヤをここで殺せないのはこの先面倒なコトになりそうだ
決着を付けるのは私ではないから気にするコトはないけれど、心配ではあるわ
暫くして落ち着いてくれたみたいで女神は私から離れる
そしたら、タキヤから彼女を救い安心すると私は気付いてしまった
貴女が私を見るその瞳の色を
私を通して抱いている想いの表情に
真っ赤な顔で、もう一度ありがとうと微笑む
愛しく優しい笑み
これは…そう、女の勘と言うのかな
この娘はセリくんのコトが好きなのね…
一部の人にしか見えない女神結愛
自分の国から、タキヤから逃げ出したんじゃない
ひとりで逃げる勇気も度胸もないのだから
無意識に差し伸ばした彼の手を、彼女は人間みたいに恋に落ちて取っただけ
なるほど、いやどうもしないケド、セリくんにこのコトを私から伝えるつもりはない
結愛ちゃんを見て可愛いとは思うわ
控えめな大人しい感じの守ってあげたくなるような可愛い女の子
「まぁ…こんな所にひとりでいるってコトはセリくんと逸れたのね
大丈夫、私なら何処にいるかわかるから連れて行ってあげる」
こっちとセリくんがいるほうを指さして連れて歩こうとした時、結愛ちゃんは私の手を優しく掴み指の方向を反対に向けた
彼女は言葉が話せないし文字も私がわからない代わりに、どうにかして何かを伝えようとする
「あっちに何が…」
ふと結愛ちゃんの手に真っ白な手袋がしてあるコトへの意味を思い出す
前にセリくんが言ってたの
女神結愛の素肌に触れると自分だけに彼女から無数にある世界の絶望が伝わってくるのだと
数えきれない世界のありとあらゆる醜い現実は耐えられないもの
香月の持つ恐怖とはまた違う…
あれは何もしなくても相手に死ぬほどの恐怖を与える
女神結愛のものは…現実に何かから与えられる苦しみや痛みなどの負の全て
「わかった、行ってあげる」
セリくんと再会するコトより優先するコトって…
私が結愛ちゃんの指したほうに足を向けると止めるように手を引っ張られた
「どっち!?」
彼女を見ると迷って困っている
私に行ってほしくないみたいに…
それでも私に教えたのは、その先にある何かを私にどうにかしてほしいってコトじゃないか
と私は思うのだけれど
「……何かわからないケド、行くか行かないかは私が決めろってコトね
それなら行くに決まってる
私に嫌なコトがあるかもしれない
でも、行くのは気になるからよ
行かなかったら気になって寝れないもの」
心配でオロオロしている結愛ちゃんとともに私は何かある先へと向かった
「ふーむ…何もなさそうだが…」
と結愛ちゃんの指し示した場所を見渡す
パッと見は何もない感じだが、ふと不自然な土の盛り上がりを発見する
「なんだココ?掘ってくださいと言わんばかりの」
そのくせ隠してるつもりのやつ
私は土の盛り上がりをどかしてその先に地下へと続く扉を見付けてしまった
「あー、もうなんか嫌な予感する所だわ」
結愛ちゃんの顔をチラリと見るとやっぱり行かないほうが…と私の身を案じている
「貴女が私ひとりを守るのと、それ以外の人を助けるのと、どっちが正しいと思う?」
私は地下へと続く重い扉をこじ開け、迷わず入っていく
「正解は、後者
結愛ちゃんは女神なんだから、私情を挟んじゃいけない時って今なのよ
心配しないで
私はそう簡単に死なないし、セリくんのよしみで貴女の苦しみをひとつ救ってあげる」
地下へと続く階段を下りる
篭った匂いは酷く嫌なもの、私はこの匂いを知っている…
ハズレを引いた、そう確信する嫌な匂いからする予感
地下の部屋に着くと、私は目眩をしてしまうほどの嫌悪感に包まれる光景を目の当たりにする
数人の女性が監禁されている場所
手足を拘束され、自由を奪われ、心だけを殺されて
女の人達は倍はいる男達に囲まれ、陵辱されていた
彼女達からは意識はあるものの声ひとつ漏らすコトがないのは、こうなってからかなりの日が経っているからなのだと思った
「うぅ…っ」
この光景に私はおもいっきり吐いてしまい、膝をつく
なんで、来てしまったんだろう…
結愛ちゃんに止められたのに…
さっきまでの威勢はどうした?
私はここへ何しに来たんだ……
何があったって大丈夫なんじゃなかったのか
何が…あったって……死ななきゃ大丈夫だって?
バカだ…私、いつも自分の限界を知らずに後悔する
思い出してしまう…いつも隠している私の過去が、鮮明に……私の心を襲い出す
やめて…やめてよ……
こんなの嫌だ、恐い
何度も何度だって、慣れるコトなんてない
いつだって気持ち悪くて恐くて辛くて悲しくて苦しくて…憎くて
結愛ちゃんが引き止めたのは私を気遣って、でも彼女達を助けてほしくて…
でも、ダメだ…
私、引きずられてる……過去に、その時に逆戻りしてる
「……誰だ~あ?そこにいるのは」
男のひとりが私に気付き、掴んでいた女の子から手を離して向かってくる
「………っ……。」
来ないで、そう言葉に出してるつもりなのに声が出ない
「新しい女か、お前もこっちに来い!!」
大きな声が抑え付けられるような感覚に陥る
男は私の髪を引っ張り引きずるが
「ぃ、痛い…!痛い!?」
私が痛いと抵抗すると顔を殴られた
殴られた所が酷く熱く感じた
ジンジンと熱とともに痛みを伴って、鼻から血が流れて口の中は血の味がする
意識しないで涙が勝手に流れ落ちてくる
何…コレ……痛い…凄く痛いよ
「やかましい!まだ抵抗するなら!!」
私は数回地面に顔を打ち付けられた
痛い!凄く痛いよ……
まただ…またなんだ……これは夢じゃない、夢なんかじゃない
またこの現実に私は直面してるんだ
相手が違うだけ、これから起こるコトはいつもと同じコト
殴られて犯されて…
運が良ければそれで解放されるが、運が悪ければそれがずっと繰り返される
何回も、何度も
……いつものコトだよ…こんなの……
「静かになったな」
殴られるのが嫌だった、痛いのが恐かった
我慢していれば、いつかは終わるから
私はいつも心を殺して逃げた、諦めるしかなかった
こんな細腕の女が、男に勝てるか?
逃げるコトだってできないんだよ…
無理なんだもん……こんなの、私には……
涙を流すコトしか出来ないんだ…
だって…痛いんだもん……恐くて、私は……
「へっへっ」
気持ち悪い顔が私を覗き込む
ベタベタした汚い手が私の足を撫でて、下着を下ろしていく
顔を逸し涙で霞む私の視界に、何かが映る
………君は……
「この女の肌は最高の触り心地だ、他の女とは比べ物にならないぞ~」
思い出した
私は…私は、もう
汚らわしいその手を、私の足を掴む男の顔を蹴り飛ばした
「ぐぇ!」
男は私の蹴りで火傷を負った顔を痛みで抑えている
「あぁ……そうだった、ここはもう私のいた世界じゃなかったんだ」
素早く立ち上がり、私は回復魔法で痛みを無効にし怪我も治す
トラウマの蘇りで自分の力さえ忘れていた
私は、もう自分を見捨てたりしないって決めたんだ
勝てないって最初から諦めたりしない、精一杯抵抗してそれでもダメだったらそん時はそん時だ!!
「この女!生意気にも逆らいやがって!全員でやっちまうぞ!」
おーこわいこわい
昔の私なら何もできずにやられてただろうな
でも、ラッキーだよ
だって今日の敵は魔法も使えないただの人間の男なのだから
私が負けるなんてありえないのだ
「生かしては帰さない、お前達は世界の為に死んだほうがいいのだから」
私の炎は容赦なく男達を骨も残らず焼き殺す
悲鳴を上げるヒマもなく、一瞬で消し去る
最初からこの世界にいなかったかのように
「……ふん、私としたコトが情けなく取り乱してしまったな」
結愛ちゃんが心配そうに私の手を掴むから、面白く言い訳してみた
いや…笑い事じゃないんだけどね…
今回はたまたま勝てただけ
過去のトラウマから解放されたワケでもない
それでも、私は自分をもう見捨てないって思い出したんだ
もう私は痛みを感じない、怪我もしない、回復魔法があるもの
あとはその恐怖に打ち勝つだけ
この先、勝てない奴もたくさんいるだろうし
もしかしたら、また嫌なコトがあるかもしれない……
そんな先のコトを心配していたら、恐くて何も出来なくなる
だから、その時はその時でなんとかすればいい
そうだよね…セリくん…
私は私を助けるよ
さて、それじゃ捕まってる女の子達をみんな助けなくちゃ
私はひとりひとりの拘束されている紐や鎖を外していく
私の力じゃ解けないから、勇者の剣を使って強引に
力が入り過ぎて手や足を切っちゃった女の子とかいたケド、気付かれる前に回復魔法で治して知らんプリした
みんな…生きてはいるけれど、かなり傷付いて憔悴しているわ…
可哀想に、ここには彼女達の身体を拭いてあげる綺麗なタオルもなければ
彼女達が着ていたであろう服も見当たらない
どうしよう…そうだ、持ってきてもらえばいいんだ
あとは…私は彼女達を見る
そして、助けた女の子達に問うの
悪い奴らを倒して終わりじゃ…ないもの
私が、1番よくわかってるのだから
「まだ終わってないわ…
……死にたい人は私が殺してあげる
私なら痛みもないし苦しくもなく殺せるからね」
私の言葉に女神なら止めると思ったケド、女神は私の後ろから動くコトはなかった
こんなに穢されては死ぬコトがたったひとつの救い…
私はそれを信じて疑わなかった
ずっと死を望んでいる…それが出来ないのは死ぬのが恐い人間の本能に邪魔されているから
私なら、それを選ぶ
だからみんなもきっと……
「……私…死なない」
でも…
「私も…」
違った…
「あたしも死は選ばない」
私の信じて疑わなかった救いは彼女達と違った
「…どうして?死にたくなるくらいのコトをされたのよ
この先ずっと、この過去に苦しまされてずっと…ずっと……」
生きていくの?
なんで…わかってないの?この人達は
私と違って強いの?……違う…
そんなんじゃない
彼女達は…
「だって…セリカ様に助けてもらったからです」
「えっ…?」
私とは違う結末を迎えてしまったから
「うん、誰も助けてくれないって思ってた絶望の中からセリカ様はあたし達を見つけて助けてくれた」
「なのに死ぬなんてできません!」
信じられなかった…すぐには
でも、私が知らないだけで…
私は…私は誰にも助けてもらえなかったから…そんなコト思ったコトもなかった
助けてもらっても死を選ぶコトもあるかもしれない
でも、選ばない人達もいるって…私は……
私は…過去に、返事も聞かずに助けた女の子を殺した……
なんて、私は…自分中心なんだろう……
「……それなら…いいの
でも、死にたくなったらいつでもおいで……」
結愛ちゃんが止めなかったのは彼女達の答えがわかっていたからなのかもしれない
私は誰にも助けてもらえなかった
自分しか頼れなかった
その自分ですら強い力には抗えなかった
いつか終わるコトをずっと我慢して耐え続けるだけ
弱い自分は大嫌いだった
そんな運命がイヤだった…
今も…私は、人間は嫌いだ
私自身も含めて……
私は…どうしてこの世界で生きている
助けてくれる人達がいたから……
死ぬのが恐いのはもう違う
今は死にたくない
私が生きていられる世界なら
私を救って守って助けてくれる人達がいる……ここには
「セリカ様?」
「っ、ゴメンなさい少し考え事
こんな所に長居はしたくないよね、でももうちょっと待ってね」
もうすぐしたらセリくんが私の異変に気付いて来てくれるから
みんなは私をセリカだと、聖女だと知っていた
私が来た時、私は気付かなかったけれど
彼女達は自分は助かったんだと、救われたんだと、信じて疑わなかった
そして今こうして自由になれて、傷付いてた心も身体もありながら
私に救われたんだと言う事実に希望を持った
みんな泣いているのに
それでも、死を選ばなかった……
私が助けてしまったから…
それは…正しいコトだと思う…
それから私は彼女達にかける言葉も見つからず、数分してセリくんが来てくれた
「セリカ!?大丈夫か…」
「もちろん、知っての通り
それより早く彼女達へ…」
セリくんは私の思ったコトを受け取っていて、被害に合った女の子達の為にタオルを持ってきてくれていた
それをひとりひとりの肩にかけていって、途中で1人分足りないと気付いた時は一瞬オロオロしたケド、すぐに自分のマントを渡してあげていた
セリくんも一応男だから、女の子達の裸に戸惑っているみたいだけど、女の子達はセリくんを男として見ておらず恥ずかしがる人は誰もいなかった
わかってたの、だからセリくんに任せたのよね
「本当は女の子のセリカが彼女達のコトを見てあげたほうがいいんだろうケド、俺と結愛ちゃんが見ておくからセリカは先に外に出ててくれよ」
えっ?どういうコト?
助けが来るまで私が彼女達を見るのがいい
でも、セリくんは私に外に出ろと言う
自分のコトなのにその真意が見えない
まあいいか、セリくんでも私でも同じなのだから
女神の結愛ちゃんも一緒だし
私は深く考えずに下りて来た階段を上る
薄暗い地下から数時間後に出た外の空気は爽やかで太陽は眩し…
「セリカ!!」
外へ出るとすぐにレイに抱き締められた
何事かと思って私は思考が追い付かない
レイはイングヴェィと違って私を突然抱き締めたりしないから
「無事かい!?」
あっ…
そうか、レイは繋がってるセリくんの異変から私に何かあったんだって気付いて、心配してくれたんだ……
中に入って来ないで外で待っていたのは、セリくんに入るなと言われたからだろう
レイは気が気じゃなかったと、一度離れ私の全身を眺める
服の汚れと破れ、なんか気付いたら裸足
そんな私の様子を見るとレイの表情は苦しくなっていく
「無事じゃ……」
「ないよ、無事じゃない」
私の言葉にレイは青ざめていく
「鼻血が出るまで殴られた、口の中も切れたし、汚い手が私に…」
レイの中で私はどんなに綺麗な聖女様だったのか
それが崩れて、貴方の気持ちは…
「あっ……」
強く強く抱き締められた
もう一度、貴方は私を抱き締める
何も言わずに
「……レイ…?」
私の声に返事をしなかった
その代わりにレイは私を痛いくらい抱き締めるの
………それが…なんだか……とても、苦しかった
少しずつ熱くなる瞳に涙が浮かんで
私は…苦しいのに、嬉しくて…なんでかわからないくらい
抱き締めてもらえるコトが苦しいくらい嬉しかった……
「ゴメン…今回はそれで大丈夫だったの
だから、私は平気よ
痛いのも怪我も私の回復魔法があれば…」
セリくんが先に外へ出ろって言ったのは、レイが死ぬほど心配してるからって意味だったんだ
「平気なものか、セリカは無理してる」
何も言わないから、自分が気付いてやらなきゃいけないって
レイは私のコトをよくわかっていた
セリくんとずっと一緒にいて、私のコトは言わなくても
なんとなく、薄々気付いていく…
「なんか、それがクセになっちゃってね」
セリくんの傍にはいつもレイがいる
この世界では助けてくれる人がいるの
だから私は生きていられる…
それにもっと早く気付くべきなのに、今気付くなんて遅いよね
同じなんだ、彼女達と
今の私は死を選んだりしないって…
「あの、レイ……」
「ん?」
私はレイから少し離れて、ちゃんとまっすぐ見上げる
「いつも私(セリくん)を助けてくれて」
でも、ちょっと恥ずかしくなって
だって改めてお礼を言うなんて慣れないんだもん
「………ありがとう…」
ちょっと最後目を反らしちゃった
「っ…セリカ!?」
驚くレイに私は何も言えなかった
いつも冷たくしちゃうから…
「…もしかしなくても…オレに気があるのか、セリカ」
レイは顔を真っ赤にして勘違いしているが私はそれどころじゃなかった
香月にもちゃんと言おう
ユリセリにも、リジェウェィにも、ラナと楊蝉と…それからそれから…
イングヴェィにも…ちゃんとありがとう言うの
イングヴェィは私がピンチの時はいつも助けてくれるもん
今回は私が自分を助けられたから、イングヴェィの助けは必要なかった
私は私を助けられてよかった…ちょっとだけ強くなれたんだ
あの時の自分との約束を果たす為に
「あっ!?私、今ノーパンだったんだ!どうしよう」
なんか違和感があると思ったら、脱がされてたんだった
「セリカ…君は何も言わないとは言ったが、そう言う事は言わなくていい……」
レイはまた顔を真っ赤にして私から視線を逸す
でも、すぐに私のほうへと向き直る
私が笑うから、レイはいつもと変わらない爽やかな笑顔で私を見つめてくれた
それが、今度は苦しくない心地の良い嬉しい気持ちとなったのでした
―続く―2017/09/18
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