117話『自暴自棄』セリ編
もうどう足掻いたって、良い方に向かう気がしなかった
大きな絶望に沈んで、俺は結局変わらない運命をまた辿っていく
決められた絶対に逃れられない自分の運命に、また同じ結末なんだって…
嫌になる
はは…タキヤの勝ちだな……もうなんでもいいよ
「おや?セリ様久し……えぇーーーーー!!??無視っすか!?無視!?」
まっすぐこの先しか見えていない俺は魔王城へとやって来て、キルラに声をかけられたが返事をする気力がない
「あれれー?セリ、なんか元気なさげ~?それちょっと危ないよー?」
ポップが俺の様子に不安を表している
いつもの最後の流れを、コイツらは覚えているもんな…
「ストップ!ストップ!!セリ様落ち着いて!?」
ポップの言葉にやべぇと感じたキルラが飛んで来てはポップと一緒に道を塞ぐ
「邪魔するなら、殺す」
短い言葉で2人は石のように固まった
魔族や魔物は不老不死であるからか生まれ変わるコトがない
魔王は復活するコトができても、キルラやポップ達は勇者の力で殺されると永遠に消滅してしまう
だから…ラナが生き返るコトや生まれ変わるコトがない
本気の雰囲気からキルラとポップは息を呑むコトしかできなかった
「これが俺の運命なんだよ、オマエらはわかってるんだろ
じゃあな、まぁ楽しかったよ」
俺をしっかりと見据える2人の視線を感じながら俺は2人と視線を交わすコトができなかった
そのまま俺は足を止めず進む
「セリ様…」「セリ…」
キルラ…ポップ…ごめん……
俺はもう頑張れないんだよ
進むごとに足が重くなっていく
最後に見えるのは勇者としての運命、魔王を倒すコト
香月がどこにいるかは勇者の勘でなんとなくわかる
中庭へ行くと香月を見つける
空は昼間にも関わらず、真っ暗で今にも雨が降りそうだ
荒れそうな真っ暗な空
「セリ」
俺の姿を見た香月は足を止めている俺へと歩み寄ろうとする
「香月…次会ったら……殺し合いだって…話覚えているか?」
ピタリとその足を止めた香月との距離は手を伸ばしても触れられない
背に隠した剣を握り締め覚悟を決める
「俺ね…やっぱりこの運命が大嫌いだ
だから早く終わらせたくて……何度も同じ運命を繰り返すってわかってても
忘れたいんだ、今すぐに、今の自分が楽になりたい……」
ぐっと手と足に力を入れて香月の懐に入り込みそのまま剣を心臓へと貫き刺す
「香月だって、これを望んでたんだろ?
自分の魔王の力を取り戻すために、一度死ぬコトを
だから叶えてやるよ…」
剣から伝わる生暖かい血が手を濡らす
これで香月は望み通り死ねて、俺も勇者としての役目を終えて……死ねる
「素直じゃない…」
頭上から漏れる香月の言葉とともに香月は俺の剣を素手で掴みへし折る
そのまま俺を突き飛ばし、身体に残る剣の刃を抜き取った
「ぃった……」
ただの尻餅なのに、ビックリした俺の顔を掴み上げて唇を重ねる
あっ……俺はこの時はじめて香月の顔を見た……
ずっとここに来てから顔を上げれなかった…香月の顔を見れなかった…
「死なずに待っていなさい」
その言葉だけを残して、香月は…魔王の姿は消える
なにも…なにも…言えずに、香月がいなくなった瞬間を目の当たりにして
本音が溢れ出る
「ち…違う……俺は…本当は……」
なんで俺は…香月に甘えなかったんだ
一言助けてって、頼れば……よかったのに
殺したいワケじゃなかった
でも…でも!!怖かった
それをして、香月に受け入れてもらえないのが怖かった
本当に殺し合いになったら、それこそ絶望に耐えられない気がしたから
俺は自分の弱い心を守るために、香月と会話もせずに殺した
恋人に殺された気持ちは俺が1番よくわかってて、どれだけ辛いか知ってるくせに
自分の為に同じコトをやるなんて
凄く最低だ…最悪だ、自分が大嫌いだ……
香月を信じればよかった
そしたら俺はまだ立ち直れたかもしれないのに
はじめて運命を変えられたかもしれないのに……
「やっぱ…俺ってバカだ……香月のコト、大好きなのに
何やってんだろ…」
溢れて流れ落ちる最初の涙とともに真っ暗な空から痛く大きな粒の雨が降り注ぐ
濡れた地面を手探りで折れた剣を掴み、首元に当てる
「さよなら…」
力を込めて剣を引こうとすると、ぬるっと剣が手から滑り落ちる
見えづらい視界で両手に視線を落とすと、香月の血が真っ赤に染まっている
雨が止み、真っ暗な雲が捌けて
太陽の光が射して天が輝いていく
「…死なずに……待って、いろ……」
両手を組み、泣きながら祈る
「ごめんなさい、香月…待ってる……いつまでも待ってるよ
どんなに絶望しても、立ち直れなくても、ダメになっても…俺は死なない…」
だから…早く、会いに来て
そしたらもう意地張らないから、無理しないから、我慢しないから
ずっと香月には素直でいるから…
香月、大好き…愛してる……
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