111話『私の騎士様』セリカ編

この世界はやっぱり絶望しかないんだ

私は毎日のように信者達の穢れを受けていた

死ぬまで一生私はこうなんだと知っている

前世の私もそうだったと、私が知らない気が遠くなるような昔からずっとずっと…

頭がおかしくなりそうだ、気が狂いそうだ

なのに…変わらない運命だってわかってるのに

それでも、私が生きているのは

いつか王子様が私を迎えに来てくれるからって、夢見てるから

頭ではそんなコトありえないってわかってるのにな

でも、そう思わなきゃ生きれない…

なんで生きてるんだ?

死んでもまた生まれ変わるだけで、同じだからよ…


夜になった、深い夜に

信者達から解放されて、眠れなかった私はあの建物に来ていた

何もしたくない気持ちもあった

でも、まだ人の心が残っている私はどうしてもこうせずにはいられなかった…

「貴女は…」

「静かに」

1人ずつならきっと気付かれない

そう思った私は捕まった人達を逃がそうと考えた

たまたま開けた牢屋には私が肉塊から助けた女の人だった

「さぁここから出て逃げて」

「聖女様…?」

そう聞かれて私は頷き出口へと案内する

その間に私はさっきの問い掛けに思わず頷いてしまったが

やっぱり私は聖女なんかじゃないとモヤモヤする

この身がそうでないコトは当然だが、私は世界を救えはしない

回復の魔法が使えたところで…誰も助けられていない

そう思っているのは私だけか?

あの幹部や信者達を見ていると、私が間違っているのか…私がおかしいのかと思えてくる

こうして誰かを助けているのも、私がそう思っているだけで

本当は何も助けになっていない意味のないものなのかもしれない

それでも私は…自分が間違ってると思わない

私は自分が正しいと思うコトを…する……

「どうして私を逃がそうとなさるのですか?」

外に出た彼女は私を見て問い掛ける

「私が貴女の立場だったら逃げたいと思うから…」

「そうなんですか…」

逃げたい、私もそうだから

どこへ…逃げると言うのか

逃げる勇気がないだけじゃないか

逃げようとしたコトもないくせに、逃げたいと思うのに…どうして私は逃げ出せないのか

わからなかった

全然、わからないんだ

ずっと昔から、小さい時から私はずっとこのまま怯えて怖がって我慢して耐えて…

ただただ時だけが過ぎていく

「聖女様、私は逃げたいわけではないんです」

ずっと目を合わせられていなかった

助けたつもりの彼女に

後ろめたかったから?何も出来ない私は見ているだけしか出来ない弱い自分が気まずかった

彼女の言葉に顔を上げる

「ずっとチャンスを伺っていたんですよ」

そう言って彼女はスカートの中に隠し持っていたナイフを取り出して私へと突き付ける

咄嗟にそのナイフを持つ手を掴み抵抗するが

「聖女のあんたを殺せる時をね!!!??」

押されしまう…私が非力なコトはわかっていたし

こんな隠せるようなちゃっちいナイフじゃ私は死なないコトくらいわかっている

受けてもよかったのかもしれない

このナイフの痛みは彼女達が受けた痛みと比べたらそれほどでもないだろう

でも、私はそのナイフが怖かったんじゃない

彼女の憎しみも苦しみも悲しみは私自身に向けられていたから…

「あんたがいなかったら!!私達はこんな目に合わなかった!!」

「私は…何も…してない」

力負けしてどんどんナイフの先が目先に近付く

「馬鹿ぁ!?あんたの信者共はあんたがいるから罪は全て浄化されると信じ切っている!!

あんたがいなきゃ罪を犯せない、天の僕は穢れを恐れているからねぇ

あんたがいるから私達はあんな惨い目に合うのよ!!!」

ふっと自分の力が抜ける

ずっと憎しみも苦しみも悲しみも私を押し潰そうとしている

私には私のそれがあった

でも、この人のそれは私だったんだ

違う…この人だけじゃない、きっと私がいるコトでたくさんの憎しみも苦しみも悲しみも私へと注がれている

間違ってなんかいない…本当にそうだ

私がいるからアイツらは罪も穢れも浄化されると信じている

私の…この身体を使って……

なんだ…なんだそれ……本当に…なんだよ

生きてるのが、バカみたいだ

「死ね!!」

目を閉じると生暖かいものを感じる

血の匂いだ、あんまり好きじゃない

でも、私を刺すコトで彼女の気が晴れるなら…それもいいかな

私はこの程度じゃ死なないし

それで貴女の憎しみも苦しみも悲しみもなくなるなら…

………。

「悪い、汚してしまったな」

あれ?痛くない?それに男の声…?

おかしいと思って目を開けると足元には私を殺そうとしていた女の人が後ろから心臓を貫かれ息絶えていた

すぐに状況を理解する

声のした男がこの女の人を殺して…?

足元から目線を上げると、金髪に夜色の碧瞳をした男の人が立っていた

えっ…誰だろう?でも、もしかして…助けてくれた……?

「あっ、いや…大丈夫、シャワー浴びて着替えればいいから……」

腕や手、足にも服も血がついてしまったコトを目の前の男は申し訳なさそうにする

そんなコトより

「どうして…殺したの、この人は悪くは…なかった…悪いのは」

「自分だって言いたいのかい?」

いつの間にか私は彼から目を反らしていたようだ

彼は私の顔を掴み自分の方へと振り向かせる

「綺麗な人…」

「えっ?」

「いや…この女はナイフを手にしてセリカに襲い掛かった

違うかい?」

違わないけど…でも、その理由を貴方は知らないから

「オレはレイ、聖女セリカの騎士」

ん?そんなのいたか?私に騎士なんて…

ってか、急に自己紹介?足元で1人死んでますけど

レイと名乗った男は私の目の前にチラシをかざす

そのチラシには『求む!!聖女様を護衛する騎士達!!』と見出しがあり、近々その試験があると書かれている

つまり…

「になる予定の男だ」

気の早いバカってコトで…いいのかな?

試験って難しいんじゃ…もう受かった気でいるとか世の中ナメてんのか?

「現在無職?」

「1週間後にはセリカの騎士だ、そこらで働くより給与も良いそうじゃないか」

聖女として働いてるのに給与とかないブラック企業にいる私は相場なんてわからないけど、きっと良いんでしょうね

羨ましい

「じゃあやっぱり今はニート」

「話は戻すが」

認めてから戻せよ

「オレはセリカの騎士だ、どんな理由があれセリカを殺そうとするなら守る為に殺す」

「レイ…でもね…」

待って、初対面なのに急に距離近すぎて私の騎士とか恥ずかしげもなく言い切るから

何も言葉が出て来ない

「この女の人は被害者なのよ

私がいるだけで大勢の人が…酷い目に遭って……」

「セリカはここに来てまだ日が浅いからわからないんだな

セリカがいない時だって、何も変わらないさ

聖女は言い伝えじゃ、死んでもまた生まれ変わると言われている

いなければいないで、罪を背負いながら待つだけだ

いつか救ってくれる聖女様が現れる日まで…ってね」

心が…ぐちゃってなる

いつか救ってくれる人…それはずっと私が求めていたコト

あれもこれもどれもそれも、私の全てが重なればぐちゃぐちゃになる

憎しみも苦しみも悲しみも、いつか救われるコトも

私もあれば、誰かもそう

そして…それは最悪の形で私へと向けられる

「そんな……そんなコトって…

それじゃあ、私は……この世界の絶望だ」

真っ暗になる、もっとも許せないコトが私だと言うなら

もうどうしようもない

「……オレはそうは思わないけど」

目の前が…暗くなっていく

絶望に呑まれかけたら

「はじめてセリカを見た時、綺麗な人だと思った

こうして近付くと遠くから見るよりずっとずっと綺麗で、触れたいと手が伸びるよ」

そう言ってレイは私の髪へと手を伸ばし撫でる

「今回の騎士の試験はオレにとってチャンスじゃないか?

セリカの傍にいられる最初で最後の」

ど、どういう……意味?

急に私の心も身体も緊張に支配される

「まだ受かってないのに…」

なんか恥ずかしくなって私はレイの手から逃れるように身を引く

「受かるさ、オレは強いぞ?そしてセリカを守るよ

だから」

身を引いた私の腕を掴みレイは自分へと引き寄せた

「オレの傍にいてくれないかい

ずっと見ていたんだ…ずっと…セリカをはじめて見た時、生まれる前からずっと…そんな気がしてたまらなくなる」

爽やかな笑顔で抱きしめられる

私は誰かに笑顔を向けられたコトなんてなかった

私は誰かにこうして優しく抱きしめてもらうコトがなかった

だから…わからなかった

この心の奥底から湧き上がるよくわからない気持ちが…

「誰にも渡したくないんだ、誰かの手に渡るくらいなら…奪われるくらいなら」

レイの私を抱きしめる腕に力が入る

ちょっと苦しくなった私が身動きするとレイは私から離れた

「そういう事だから、1週間後また会いに来るよ

その時は本物のセリカの騎士として」

別れの前にレイは私の手にキスを落とす

そして爽やかな笑顔で私に手を振って夜の街へと消えていく

私は…何も言えなかった……

「顔が…熱い……」

風邪?ウイルスに強いこの私が?

ううん、風邪なんかじゃない

ドキドキするんだもん……頭の中がレイのコトで埋め尽くされる

たった今会っただけの人に…

ちょっと優しくされて甘い言葉を囁かれただけでこんな気持ちになるとか

私って騙されるちょろい女?

完全なるメスブタ…

これが……

「恋…?」

この私が?恋?レイを愛してる?

いや待って、あんな初対面で「オレは君の騎士だ!」って言うような変人に?

私…って…変なのかな、おかしいのかな

でも…はじめて守るって言われた…

それだけで私は嬉しかったんだ…

私の胸に確かにある今までにない何かをしまい込んで私はその日を待った

レイが約束を果たしたら、また確かめたい

自分の気持ちを

「ごめんなさいね…貴女は何も悪くないのに」

足元にいる女の人に私は屈んで彼女の瞼をそっと閉じて祈る

レイは私を守ってくれただけ、悪くはない

でも、私は本当に誰かに守られていい存在なのだろうか?

私がいるコトで世界がおかしくなるなら…私は……本当は倒されるべき存在なのでは

何度生まれ変わっても、物語りによくある世界を破滅させる魔王と同じように

それでも、守ると言ってもらえたコトが凄く嬉しかった……



それから1週間が経った

私の知らない所で騎士の試験が行われ終わると、選ばれた騎士達が私の前に姿を見せる

そこにはレイの姿もあった

本当に合格してる…ちょっと引く

しかもレイはその若さで騎士団長にまでなった本物の実力者だと知る

凄いな、強くて賢くて、しかもイケメンとか

モテそう

私には縁のない人だと…思ってしまった

聖女の護衛として近くにいるハズなのに

そんなに凄い人は遠くに感じるよ

だって私は…普通の女の子じゃないから…

「セリカ!約束通り、セリカの騎士になって参上したぞ」

レイははじめて会った時と変わらない爽やかな笑顔で私の下へとやってくる

「おめでとう、本当に騎士になるなんて」

「これからはずっとセリカと一緒だな」

………。

何も言えない

素直に嬉しかった…

口元が緩むのがわかる

なのに、恥ずかしくて笑顔になるのを我慢するかのように隠してしまう


それから、レイは私の騎士として傍にいてくれた

レイは今まで会ったどんな人とも違った

優しくて守ってくれる…

でも、それは昼の時だけ

夜のコトは…知られたくなかった

聖女の役割がどんなものかは知らなくていい

だけど、私はいつも思っていた

助けてほしい、守ってほしい、救ってほしい

そんなの無理だってわかってるのに

だって現実はいつだって残酷に真実を突きつける

朝早くのコトだ

いつもより騒がしいと感じて目が覚める

何事かと私はパジャマのまま聖殿から外へ出ると数人の信者と護衛が大怪我をして倒れていた

その中で見知らない人物が私を睨み付けて叫ぶ

「やっとここまで辿り着いたぞ!この魔女め!!」

彼の瞳は私への憎悪に満ちている

酷い怪我を負いながらも視線は私を捕らえて放さない

「君は…」

なんとなくわかっていた

「お前がいるせいで世界は平和にならねーんだ!!

穢れも罪も浄化する聖女様?胡散臭せーよ!?」

胡散臭いのは知ってるよ

「お前んとこの信者どもはその信仰のせいでやりたい放題暴れてやがる

どれだけの人達が犠牲になっているか」

わかってる…わかってるわ

そんなコト、言われなくても私はよくわかってる

「何度も生まれ変わるって話だったな

それなら何度だってお前を殺してやる!

そしておれは世界の平和を手に入れてやんよ!!」

それが正しいコトなんだと思う

悪は倒される

平和の為に……

「うおおおおおおお!!!」

少年は私目掛けて剣を突き向け走る

だけど、すんでのところでその剣は弾かれた

「なにっ…!?」

驚いた少年は弾かれた衝撃で尻餅をつく

ここにいる護衛と信者をたった1人で倒した実力の持ち主をあっさりと退けたのは

「レイ…?」

私の前に立ち少年を見下す

「セリカ、遅くなってすまない」

「ううん…大丈夫」

今日のレイは非番だったのに、駆けつけてくれただけでも嬉しいよ…

「おい、あんた」

「…ちっ、魔女の犬め」

「クソガキ」

「はあ!?おれは間違ってない!!」

レイは尻餅ついたままの少年と目線を合わせるように屈む

「あぁ、あんたのやってる事は間違っちゃいないさ

しかしな、それを向ける相手を間違ってるんだよ」

弾き飛ばした剣を指差すレイ、少年は横目で剣を見る

「セリカを倒した所で、世の中は変わりはしない

また新たに頓珍漢な言い訳でも作ってこれまでの行いは変わらないだろう」

「くっ……」

「勘違いするな、セリカはたまたまそのイカれた奴らの言い訳に使われているだけで

セリカに世界を絶望に落とす力はない」

「………。」

少年は何も言い返せなかった

悔しいさから来るのか自分の浅はかさに腹を立てているのか、唇を噛み締めて

「…うっせー!!そんなのこの女を倒してみないとわかんないだろ!?

もしかしたらこの女がいなくなったら皆が正気に戻るとか

お前だって洗脳されてるだけなんじゃない!?

バーカ!バーカ!!アホアホ!!お前みたいなイケメン嫌いだ!死ね!!」

言い捨てるだけ捨てて剣を拾って逃げて行った

「なんだあのクソガキ…」

レイは呆れて肩を落とす

確かに、私が無意識に人を悪に変えてしまっているのかもしれない

でも、そんなわからないコトより

私はレイの言葉が凄く嬉しかった…

私もさっきの少年のように自分が悪いと思っていた

自分がいるから世界の絶望はなくならない

、世界は救えないんだって

だけど、レイは違うかった

私のせいじゃないって…言ってくれた

その言葉だけで…私は…十分だ

「怪我はないかい?セリカ」

「う…ん……」

レイは私の方に振り返り手を取る

「オレが非番でさえなかったら、セリカに酷い言葉を吐き出させなかったのに

やはりあのクソガキは逃がさず殺した方がよかったな」

子供だと思って甘くみたとレイは後悔している

いや逃がしてあげて、そこは

「ううん、これでよかったんだよ

だってレイが庇ってくれたから、嬉しかったよ

さっきの言葉」

レイの手を握り返して私は微笑む

心から嬉しいって笑顔になる

私のせいじゃないって、レイがわかってくれてるって知れたから

それだけで私は幸せな気持ちになる

「セリカ…」

レイの顔を見ていると、その顔が近付いて来る

「あっ…みんなの怪我を治さないと!」

ふと視界の隅に倒れている人達の方に意識が向き私はレイから手を離す

「……他の人の事なんて…」

「…ん?なにレイ?」

何か呟いたコトには気付いたけど、何を言ってるかは聞き取れなかった

「いや」

「ほらレイ、みんなのコト頼んだわよ

私は怪我を治せても気を失ってる人はそのままなんだから部屋に運んであげて」

「セリカが言うなら」

幸い死人は出なくてよかった

みんなに回復魔法を使いながらも、頭の中はさっきの嬉しい言葉だけがいっぱいになっていた



いつしか私は、いつかレイと恋人同士になれたらいいなって夢を見るようになった

いつか告白できたら、でも私のコトを知ったら嫌われてしまうんじゃないかって怖さもあった…

「ぼーっとしてどうした?悩みでもあるのかい?」

頭をポンッとされて私は自分の顔が暗くなっているコトに気付く

悩みは…ある

でも、大丈夫

なんでか、レイが傍にいてくれると嫌なコトなんて忘れられるから

これが恋をする良い効果なのかもしれない

頭を撫でられてちょっと照れくさいのと嬉しい気持ちで心がいっぱいになる

「なんでもないよ」

そう笑えばレイもいつものように爽やかな笑顔を見せてくれる

冷静な自分もいないワケじゃない

ちょっと優しくされただけで好きになるとか危険なコトだって

レイにとっては全てお仕事なワケだし…

それでも私は逃げたかっただけなのかもしれない

この方が心が楽だったから

何かの支えが、拠り所がほしかった

冷静な自分はいつも私を現実へと引き戻そうとする

それを私は抗って、見ないように聞こえないように

「あっ…雨が降ってきた…」

天が私を愛しているコトも、私は知っているのに

「部屋に帰ろう、セリカに風邪を引かせたらオレが叱られるからな」

レイは私の手を掴んで部屋へと連れて行く

ただ手を掴まれただけでドキドキする

レイは私のコトどう思ってるんだろう

他の女の人にも同じように優しくするのかな?

私だけ、特別なのかな…

凄く気になるし…そういうの考え出すと不安になる

この不安も、好きだから起きる悩みなんだよね…

先に中へとレイに背を押されると、目の前に怪しい人影が入る

「っ…!?」

声を上げる暇もなかった怪しい人影は私に刃物を突き立てる

でも、私より先に異変に気付いたレイに引っ張られ人影からの攻撃をギリギリ回避するコトが出来た

さ、さっきのは…冷や汗かいた

確実に急所を、私の回復魔法を意味ないものにする即死を狙ってきている

今まで何度か危害を加えられるコトはあったが…本物の登場ははじめてだ

「プロか…セリカの殺害は自らの意思じゃないな

誰に雇われた?…と聞いても答えはしないか」

レイは剣を引き抜き怪しい人影、暗殺者へと向ける

プロ…か、個人的な依頼か、組織に反対する何かの団体か…

気持ちはわからないワケじゃない

私が存在するコトでこの世界は絶望なのだから

レイは私がいなくてもそうだから関係ないと言ってくれてその言葉は凄く救われて嬉しかった

でも本当に私が存在しなかったら?

0にはならなくても80が30になるかもしれない

私は何度も生まれ変わる

だから罪を重ねても、いつか私が浄化してくれると信じ切っている

もちろん殺したところでまた生まれ変わるのだから、根本的な解決とは言えないのにな

私を殺す意味などないのかもしれない

それでも気持ちの問題として、私はこの世界の魔王みたいなものなんだ

「レイ、無理はしないで

貴方が死ぬのは…嫌なの」

「心配するな、オレは誰にも負けはしない」

戦うとかよくわからない私にはどっちが強いかなんてわかない

ただ、見た目では暗殺者の方が強そう

凄いオーラ放ってるもん

勝てる気がしない

「やはりだんまりか…それならそれでいい

何人送られて来ようと、全てオレが倒すだけだ!」

そう言ってレイは暗殺者に向かっていく

即死でない限り、レイには私がついているから負けるコトはない

でもやっぱり心配だった

目の前で殺すか殺されるかの戦いは…見たくなかった

レイと暗殺者の強さは互角だった

一瞬だけレイが疲弊を見せた時、暗殺者はレイに勝つコトよりその隙を付いて私へと迫る

だけど、レイは背を見せた暗殺者を背中から切り捨て暗殺者は私の目の前に崩れ落ちた

その一瞬の強い殺気は全てを私を憎んでいたものだった

この人もきっと間違っていない…

世界を平和にするには

私を倒すしかない

私がいるから…世界は歪むんだ

どんなにレイにそんなコトはないと言われても…現実はこっちなんだよ

何をしても罪が浄化される聖女の存在で、人々の欲望や興味心は歯止めが利かない…

「大丈夫かい…セリカ…」

苦戦していたレイは肩で息をしながらも私へと手を差し出す

いつの間にか私は座っていた

自分で立とうとしたけど、立てない

どうして?

「怖かったんだな…」

そう言われてわかる

腰が抜けてるんだって

怖い…?私が?

いつ死んでも構わないってずっと思っていた私が?

見上げる先にレイの顔がある

…死にたく…ないんだ…私

だって、レイに好きって伝えてない

後悔があるから

そんなの絶対に嫌だって、思ってるんだ…

「だ、大丈夫…」

レイの手を取って立ち上がり無理に振る舞う

まだ好きって言えない

臆病だな

「また自分のせいでとか考えていないだろうな?」

レイは私のコトをよく知っていた

「オレはセリカがいなくなったら嫌だぞ」

掴もうとしない私の手を無理矢理掴み引っ張る

「この手は絶対に離したくない

オレの傍にいてほしいんだ…ずっと」

自分が世界にとっての悪だと自覚しているのに死にたくない

それでも幸せになりたいと思うなんて

レイがいるから私は生きたいって思っちゃうんじゃん…

レイのせいだ…レイのせいで、この世界には永遠に平和は訪れない

私が生きてしまうから



私のレイへの想いは日に日に強くなっていく

翌日、私はレイが来る前にいつも助けてもらったお礼をしたいと考えていた

聖女の騎士なのだから守って当たり前、給与に含まれてるとは言え…

あれは仕事だけど…

でも、仕事なら…あんなカッコいい台詞言わないよね…?

ずっと傍にいてほしいなんて…もしかして両想い?

急に熱が上がる

やだ…恥ずかしい…

両想いとか…

ど、どうしよう…レイと恋人に?

そして、いつかは結婚…

あっ…いいなそれ、私もウェディングドレス…着たい

あの真っ白でキラキラしてて綺麗なの…憧れだ

可愛いお嫁さんは…夢だよね、お姫様みたいなの

バカだなぁ~私、大人になっても子供みたいな夢見て…

でもいいじゃん、だっていくつになったってお嫁さんは女の子の夢だよ

ねっ?ふふふ…

そして、結婚したら子供も産まれるだろうし

あったかい家族とか…憧れる

……………まぁ、これは叶わない夢かな

夢だから妄想なら許されるよね?

子供は………私には無理な話だった

天はたった1人の人間しか創らなかった

それが私

たった1人、だから私は神様が創った他の人間と違って子供が出来ない身体だった

って言うのを聞いた

姿形は他の人間と同じつくりなのにね

たぶん…本当のコトだと思う…

ま、まぁ考えるのはやめよう

暗くなっちゃうし…

でも…レイが私が子供を産めない女と知ったら…好きになってくれないかなぁ……

って!!そこまで考えるとか気が早いと言うか…まだ恋人にもなってないのに

いやでも大事なコトだもんね……うん

とりあえず!今はレイにお礼するコトを考えなきゃ

ん~…でも男の人って何が嬉しいんだろ?

わかんないな…う~ん…ん~……

そもそも私の出来るコトって何もないのでは…

あっ…お手紙!!感謝の気持ちを伝えるの

うん、お手紙は良いと思う

後は~、料理したコトないけどなんかお菓子を作ってみよう!!

料理が出来る女性は人気よね!うんうん

じゃあ、頑張るぞ!!

そうして私はレイが来る(出勤)前に一生懸命お手紙を書きお菓子を作ったのだった

喜んでもらえるかな…

準備が出来て少しするとレイがやって来た

ふー、ギリギリだった

何がいいか考える(妄想)時間が長かったもんね

「おはようセリカ」

「…………。」

あっ無視しちゃった

いや違うのよ!?一生懸命作ったのに、急にヘタレたの!?

なんか恥ずかしいし、怖いし…ヘタレた

「…セリカ?」

意識すると…何も出来なくなるんだ…

これが恋の病…重症だ

私は勇気を振り絞って、レイに押し付けるようにお菓子と手紙を渡して

「帰れ!!」

シッシッと手であしらう

「何か怒ってるのかい!?」

レイは何かした?って慌てふためく

う、うるさいな…私が帰れと言ったら帰れよな…

恥ずかしくて顔が熱くなるのが自分でわかる

レイにブツを渡して私は聖殿にある自分の部屋へと引きこもる

後悔などない!恥ずかしくても…私は…レイに自分の気持ちを伝えたかった

手紙に好きとは書いていないけど

でも、きっと私が好きってコトは感づくよね…あぁ~恥ずかしいなぁ

少しして私の部屋をノックなしで入ってくる無礼者がいた

「セリカ!!」

レイは飛び込むようにして私を抱き締める

「オレは仕事だからセリカを守っているわけじゃないんだ

オレはセリカが好きだから君の騎士になった

ずっと傍で守りたいから」

手紙には、いつも守ってくれてありがとう嬉しい

と短く書いた

嬉しいってコトを私は伝えたかった

貴方だから嬉しいんだってコトを…

「私を…好き?」

「そう、セリカを一目見て…綺麗な人だと心を奪われた」

見た目だけが好きなの?それはなぁ…微妙だぞ

でも…好きって言われて嬉しい

「ずっと…手に入れたかった…君の全てを…」

少し離れたレイは私の頬に手を添える

「キスして…いいかい?」

「いやダメだよ」

付き合ってすぐとか女の子はドン引きだよ!?

良い雰囲気をぶち壊しいくスタイル

違うの…違うのよ、嫌なんじゃない

恥ずかしくて…恥ずかしくて…耐えられないから

「………頬なら…許す、わ」

やった!と言わんばかりにレイは嬉しそうに笑みをこぼして私の頬へとキスをする

あぁ…頬でも、普通に恥ずかしい

こんなに恥ずかしいのに、ちゃんとレイの恋人をやれるのだろうか

ってか、レイは私を好きって言ってくれたけど私はまだ好きって言えてない

恥ずかしいからって言い訳だよね…

でも、もう少し待って

いつかちゃんと好きって言えるくらい勇気を出すから

今は緊張と恥ずかしさで身体も心も固まってしまうから

「やっと…セリカを」

またレイは私をぎゅっと抱き締める

レイだけだよ、私に好きって言ってくれるの

ああ、嬉しいな嬉しい嬉しい嬉しいよ

キラキラしてて優しい気持ちになれる

あたたかい気持ち、綺麗な恋心

こんな感情、生まれてはじめてだ

ずっとこのまま…嫌なコトを忘れられたら……いいのにな

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