第61話『止まらない時間』ローズ編

私が大好きなパパとママから離れて何ヶ月が経ったかしら

最初は帰りたい気持ちしかなかったけれど、日が過ぎていくごとにその気持ちが薄れていくのを感じているわ

ロックは私が家に帰る事を頑なに拒む…

それなのに、ロックを嫌いになれなかったのは

いつも私を守ってくれて大切にしてくれるからなのね

それは私が小さな女の子だから

私が成長して大人の女性になってしまったら、ロックは私をやっと家に帰すかもしれない

その時の私はもう家に帰りたくないと言うのかもしれないわ

あの時にイングヴェィさんが言ったように…

そう…私は大人になりたくないの

いつまでも、子供のままならパパとママから離れ離れになった寂しさもいつか消えて

大人になったら、寂しさだけを残して何かが過ぎ去っていってしまう気がするのよ…



「来週ロックにプレゼントしたいケド、何がいいかって?

えっなんで?」

男の人は何をプレゼントしたら喜ぶのかわからなかった私はとても仲良しの友達のセリくんを頼って聞いてみたの

そしたら不思議そうに首を傾げて

「来週って、12月24日はローズの誕生日じゃん

逆だろ、ローズがプレゼントするんじゃなくてロックがプレゼントするんだよ」

私の質問に変だよと言った

わかってるわ、でも私は自分が少しずつ大人へと成長してしまう誕生日を迎える事に複雑な気持ちを持ってしまったの

生まれた日をお祝いすると言うイベントは私の村にはなくて、誕生日の話をはじめて知った時は感動したのね

大切な人達がこの世界に生まれ出会えてありがとうとお祝いする日…とっても素敵

でも、私は違うの

私は…6歳になりたくないの…また1年経ったら…7歳に…そうして私は小さな女の子じゃなくなってしまうのね

「……………ふーん…ロックが喜ぶもんね…

どうせロリの使用済み靴下とかだろ」

察しの良いセリくんは私の思いに気付いたのかもしれない

だから、それ以上は何も言わずにロックに贈るプレゼントを考えてくれる

それはとっても的確なプレゼントだけれど…嫌よ

「じゃあ、明日にでも街に出てプレゼント見てみるか」

「嬉しい!ありがとうセリくん」

今日はもう遅いしとセリくんはいつもの綺麗な顔で笑う

「あのね、セリくんは来月お誕生日でしょう

どのように過ごすのかしら?

私もちゃんとプレゼント用意するわね!」

誕生日の過ごし方は本で見た事はあるわ

でも、人によって様々な過ごし方があるもの

とても興味深くて知りたい

「ん?………そういや、来月俺の誕生日だったか

すっかり忘れてたな、あんまり祝われたコトなんかねぇーし

この世界ではじめて過ごす誕生日だよな

ありがとローズ

この前レイが『1月18日は空けといてくれ』って言ってて

なんか、イルミネーション見に行くのとなんでも好きなもん買ってやるからってショッピングとー

植物館を貸し切りにしたみたいで俺の為だけにバースデーフラワーショーしてくれて、花を飾ってくれるんだって」

最初はうんうんと聞いていたけれど、だんだんとカップルの話を聞いてるような気になって…ん?となってしまうわ

セリくんお花好きだものね

「で、夜はその近くの温泉街のホテルで一泊!

俺が前から温泉行きたいって言ってたからさ」

どう聞いても付き合ってる

この自称大親友の人達

誕生日の過ごし方のレベルが高かったわ…

「素敵ね」

「だろ!?思い出したら楽しみになってきたぜ!」

よかったわね

「あとあと、植物館でレイが俺の為に作った新曲をショーの中で披露するからって言ってて

それもスゲー楽しみなんだ!

小動物もいるって言うから可愛いんだろうな」

うんうんそう、セリくん音楽も動物も大好きだものね~

そのままプロポーズされそう

凄く楽しみみたいでセリくんは終始ずっと笑顔で話した

私は…素直に羨ましかったの

大人になっても、そうしてお祝いしてもらえる事が…



次の日、私は約束通りセリくんと一緒に街へと出て来ていた

「ロックが喜ぶプレゼントってなんだろな…考えてたんだが、健全なプレゼントなんて何も思い付かなかったぞ」

「参考にセリくんがほしいものは?」

「俺は金で買えるものでほしいものなんてねぇからな~

男の俺でも男がほしいプレゼントが思い付かないって言うコトに気付いちまった…」

なかなか難しいわね、プレゼント…

私の村ではお祝いをする事もなければプレゼントを贈る事もなかったから…わからなくて困ってしまうわ

「とりあえず色々見て考えてみようぜ

何か良いものが見つかるかも」

行こうとたくさんのお店が並ぶ道を指さして笑うセリくんを見てると、わからなくて困っている今も帰る頃には解決するような気がしてくる

セリくんの綺麗な笑顔は私の暗い悩みも消し去って明るくしてくれるんだわ

親身になって聞いてくれて協力してくれるから

「そうね」

そうして私達は色んな店を見て回ったわ

「可愛い…」

私はひとつのお店の前で惹かれて立ち止まる

そこには真っ赤な可愛いコートがあって、この寒い冬にとても似合う…

コートと私の間にあるガラスは今の私の姿をも映して、私はやっと気付く

村にいた時は貧乏で新しい服に着替える事もなくて、ここに来てからもこの服が1番落ち着くからと他の服に着替えない

いつの間にか私は成長していた

袖が短くなって、丈が短くなって、気付いたら靴だって窮屈なのだと

パパとママの知らない私の時間が流れていく

止めてしまいたい私の時間、私の成長

私…やっぱり今も帰りたいと思うわ……

私をさらったロックを、何故憎まないの

パパママの所へ帰りたい、ロックと一緒にいたい

私はどちらを選べばいいの…

「いいじゃんこれ、ローズに似合ってるし」

考え事をしていた私はそう言われていつの間にかガラスの向こうにあったコートがなくなっている事に気付く

「人気があって現品限りだって、だからちょっと安くしてもらったよラッキー」

惹かれてたコートをセリくんが私にプレゼントしてくれた

驚いた、ただ驚いたの

プレゼントを貰った事が始めてで、どう反応していいかわからなくて

でもすぐに私ははっとする

「ごめんなさい…私はこの服が気に入ってるから」

「なんだ?このコートが気に入らないって?」

「違うの、そのコートはとても可愛らしくて素敵よ

でも、私はこの服も…どちらかを選ぶなんて……」

出来ないわ

この服を脱いでしまったら、パパとママとの思い出がなくなってしまうような気がする

私は服以外に何ひとつ持って来なかったもの

「どっちもほしいならどっちも選べばいいじゃん

それにコートはその服の上から羽織るものだから」

そう言ってセリくんは私の肩にコートをかけてくれた

温かい…冬で冷たくなった肩は毎年当たり前だったのに

肩から背中から腕から、心から全身が温かくなる

「ほしいものがあるなら、ある分だけ掴めばいいんだよ

何かひとつだけなんて決めなくていい

決められるなら、それ以外のものは最初からいらねぇものだろ」

冬は温かくして当たり前なんだってセリくんは言う

ほしいものがあるならある分だけ…それなら私は本当に全部選んでもいいの…?

「ちょっと早いケド、誕生日おめでとローズ」

嬉しかった

本当は最初から嬉しかったわ

プレゼントを貰った事も誕生日をお祝いしてくれた事も

「あ…りがとう…セリくん」

友達が出来た事も…

たくさんの人達に出会えた事も…

好きなだけ勉強が出来る事も…

何もかもが…

そうだわ、そうよ

パパとママもここに呼んで皆で暮らせばいいんだわ

それでひとつのお願いが叶うじゃない

「どう?プレゼントを貰うって気持ち

それを知らないのにロックにプレゼントなんて出来ないだろ」

なかなか決まらないのは私がその気持ちを知らなかったからなのかもしれない

はじめて貰ったプレゼントとお祝いに私はだんだんと見えて来たような気がするわ

ロックに何をプレゼントすればいいのか

「とっても素敵な気持ちになれたわ」

これが友達に…家族に…大切な人達に、生まれてきてくれてありがとうってお祝いする事

「…決めたわ、ロックのプレゼント」

「うん」

やっぱり成長する事には不安しかないけれど、生まれてきてくれてありがとうとお祝いしてもらえるのは嬉しい

ロックは私が10歳になっても20歳になっても…お祝いしてくれるかしら

パパとママにも会いに行って、私が嬉しかったこの気持ちを届けたいわ

パパとママがいてくれてありがとうって伝えたいのよ



そうして私の誕生日当日になり、私はロックを誘って近くの公園に来ていた

真冬の中で外は寒いけれど、その寒さのお蔭様で人気は少ないわ

落ち着いて話したかったからこれでよかったの

「ローズ姫、お誕生日おめでとうでござる!」

ロックはいつもと変わらない態度で、私へお祝いの言葉とどうやって持ってきたのか謎なくらい大量のプレゼントを贈ってくれる

「まぁありがとうロック、嬉しいわ」

心から嬉しかった

セリくんの時もとっても嬉しかったわ

でも、ロックからお祝いしてもらえるのはセリくんの時と違った嬉しさなんだと

私にはわかってその意味にもだんだんと気付き理解している

「あのロック」

だから私はこうしてプレゼントを用意したのよ

後ろに隠していたプレゼントの箱を私は渡す為にロックの前に差し出した

「いつもありがとうを伝えたくて」

何故かしら…さっきまで大丈夫だったのに、急に恥ずかしくなって俯いてしまう

私の手からプレゼントの重みがなくなる

ロックが受け取ってくれた事が嬉しくて私は笑顔いっぱいで上を向く

「これからもよろしくお願いします!」

「もちろんでござる!拙者から願いたいくらいでござるよ!

後4年は、ローズ殿のお側を離れはせぬでござる」

……………えっ

あ、時が止まる、心の時だけ、一瞬が自分だけ長く止まって

動き出したら、とても辛い気持ちになるとわかった

考えたら、とても悲しい気持ちになるとわかった

でも…時間からは逃げられない

「………うん」

ゆっくりと俯く

ロックが小さな女の子が好きな事は会った時から知っていたわ

自分でもそう言っていたのだから

その言葉の通り、何も違わない

なのに私はロックは私と言う人間の事が好きなんだと勘違いした

違うのね…ロックはローズの私が好きなのではなくて、小さな女の子の私が好き

大きくなったら成長したら、好きじゃなくなる

曖昧だった事…はっきりして知れてよかったじゃない

やっぱり…私は成長したくない

大人になりたくないわ!

ずっと小さな女の子でいたい…

「……お家に…帰りたいな…」

大きくなる前に、ロックが私から目を反らす前に、消えてしまいたかった

私がすがれるのはもう、パパとママしかいないの…

「パパとママに会いたいわ…」

「ローズ姫…今までそのような事は申さない大人びた貴女が急にどうしたでござるか」

「私はまだ6歳よ

パパとママが1番大好きな年頃でしょう

何もおかしくないわ」

ロックがいればパパとママがいなくても我慢出来た…

セリくんもレイさんも、皆がいたから…

だけれど、いつか10歳になったら

ロックは私の傍からいなくなるってわかったから

そうよ…思い出したわ、ロックは…私を大好きなパパとママから引き離した…悪い人だったわね

「……出来ないでござる

ローズ姫をご両親に会わせるわけにはいかないでござるよ」

「どうしてよ!酷い人ね、ロックの誘拐犯…」

涙が溜まる涙で睨み上げる

「そうだからでござるよ」

何も言えなくなった私はたくさん込み上げてくる感情を抑えながらロックの前から立ち去る事にした

……悪い人は嫌いよ

そう言葉に出したかったけれど、声が出なかった…

「ローズ姫!?どうしたと申すでござるか!?」

ロックはそう聞いてくれたけれど、私が返事をしなかったら追い掛けても来てくれなかった


ひとりでは帰れたわ

遠い場所ではなかったから

私は帰ったその足でセリくんの部屋を訪ねる

「こんばんは…あっそういえばセリくん出掛けると言っていたわね」

忘れていたわ、セリくんのお出掛けの準備をしているのを見て思い出す

今日はレイさんのコンサートに行くって言っていたもの

「いいよまだ時間あるし

でも、用意しながらでいいか?ちょっとゆっくりしすぎちゃってさ

なんかあった?」

私の表情から何かあったってわかるのね…そんなに顔に出てるのかしら

ロックの事は言わなかった

「私…パパとママに会いたい

セリくん、私をパパとママのいる村まで連れて行ってくれないかしら?」

ひとりでは帰れないとわかっている

外は危険だから、子供の私ひとりでは無理なの

お願い…私を村に帰して

「………別に俺はいいんだケドさ

何も知らないからいつでも連れて行ける、レイがいれば」

すぐにうんと言ってくれないの?

「でも、ロックがローズを家に帰さないのは意地悪で言ってるんじゃないと思う

ただたんにロリコン変態の誘拐事件ってのもなくはないよ

友達だから悪い奴じゃないって考えは俺にはないし

知ってる奴でも悪い奴は悪い奴なんだ

悲しいからそう思いたくねぇケド」

前にセリくんは、高校生の時にコンビニでバイトしてた時に一緒だった知り合いが実はお店のお金を盗んでいた事があったと話してくれたわ(実話)

防犯カメラに映っていたから本当なんだって

とても面白いオタクな奴だったって、ショックだったのだと

それから知り合いだろうが友達だろうが、必ずしも良い奴とは限らないと…学んだみたいなの

「俺はローズが連れて行ってって言うなら連れて行く

でも、ロックがどうして帰してくれないのか

その意味はローズが考えて、もう一度答えを出して

やっぱりただのロリコン変態誘拐犯だったでもいいから」

セリくんは暗くならないように最後に冗談を交えてアハハと笑う

「理由…」

「それじゃ、俺はそろそろ出掛けるから」

「いってらっしゃい!」

またなと手を振るセリくんに手を振り返して見送る

ロックが私を村に帰さない理由は、私が小さな女の子だから

村に連れて行かない理由は…なに

私が知らない所で何かあるのかしら…

何もないかもしれない

聞いてもロックは言わないわ

だから自分で考えるの

ロックを信じるか、信じないかで…決めるのよ



-続く-2016/01/03

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