第83話『呪いのぬいぐるみ』イングヴェィ編

セリカちゃんは最初に会った頃より、少しずつだけれど心を開いてくれているのがわかった

しかし、異性として見てくれているのかどうかは怪しい所なんだよね

警戒心が強く疑い深い君が、たまに無防備な時がある

それは少しでも信頼しているからと前向きに捉えるか、ただたんに異性として見られていないか…

セリカちゃんのコトならなんでもわかる俺でも、自分の強い感情(願望)に邪魔されて読み取れない時もたまにあるんだ

たぶん少しでも信頼してくれてるからだとは思うけれどね

それでもまだ俺の下に戻っては来ない

ずっと傍に置いておきたいのに

早く俺のコトを好きになればいいのにな~


今日はセリカちゃんに俺の城へ遊びにおいでと誘ったらOKしてくれて、今は中庭でセリカちゃんが来るなりお腹を見せている犬を撫でくり回している

「犬…可愛い!!私の所には白虎がいるんだケド、毛がない(白虎の姿に戻れず人の姿をしている)から可愛くないのよね」

動物はモフモフだから可愛いとセリカちゃんは満足して笑う

「ここは森に囲まれているからセリカちゃんの大好きな動物がたくさんいるよ

運が良ければ超レアのウサギさんにも会えるかも、いつでも遊びにおいで」

うぅ…本当なら俺がセリカちゃんに会いたいから毎日行くって言いたい所だけど絶対嫌って言われそうで

動物で釣ろうとする俺はなんて情けないんだろう…

「動物ならセリくんの所にもたくさんいるもん、魔王城からならセリくんの所のほうが近いし」

ガーン!!動物で釣ってもダメだった時のダメージと来たら…!?

「ううん!俺はセリカちゃんに毎日でも会いたいんだ

だから…」

「それ、イングヴェィっぽい」

えっ?

セリカちゃんは撫でくり回した犬を抱っこしてその手を掴み俺の頬にポテッと押し付けた

「イングヴェィは変に考えないで素直でいたらいいんだよ

思ったコトなんでも言ってやればいい

私に気を使っているのか、それともどうしたら好かれるかと計算しているのか

そんなの、イングヴェィには出来ないし無理だよ」

もしかしてバカって思われてる…!?

「素直なのが、イングヴェィの良い所なのに

考えるからダメになってわからなくなる

イングヴェィは私のコトならなんでもわかるんでしょ?

じゃあ考えるまでもないね」

あぁ…そうか、セリカちゃんは俺の不安も何もかも消し去ってくれる

こんなコトしか思い付かないの、なんて情けない自分と思っていたコトも

やっぱり間違っていて、これからはそんなコトしなくていいならもう自分が情けないと思うコトもないんだ

俺は嬉しくなって、遠慮していたセリカちゃんへの抱きつきもいつも通り再開する

「セリカちゃん…!大好きッッッ!!」

こうしてセリカちゃんを抱き締めてるほうが好き

触れるのを我慢するなんてストレスしかないよ

大好きを抑えるなんて、やっぱり俺にはできそうにない

と俺はセリカちゃんの頬にキスをする、いつも通りの!

「良い所がウザイ時もあるけどね…」

「そのうちセリカちゃんはウザイが好きに変わるよ」

「あれなんだ、凄く腹立つ」

そんなこんなやり取りをしていると、少し離れた所で騒ぎが発生しているコトに気付く

「ん?どうしたんだろう、なんだか騒がしいような」

その騒ぎはあまり良い意味ではなく、だんだんとスピードを上げて中庭へと近付いてくる

「これは穏やかじゃないようね」

セリカちゃんは犬を腕から下ろす、犬は中庭の出入口に向かって吠える

俺は様子を見てくるとセリカちゃんにここで待つように言った

この城に何者かが攻め入ってきた?

いや、ここの人達はひとりひとりが強い

そんな簡単に暴れさせるコトなんてありえない

でも…それがありえるほど強い者が現れたとしたなら…

俺が騒ぎのする方へ向かおうとした時、小さな男の子がすれ違いセリカちゃんの後ろへと隠れた

よっぽど恐い思いをしたのか震え隠れている

一体何が…

「ヘイ!兄ちゃん!!死ねやぁ!!!」

男の子とすれ違った直後、真横から襲いかかってきたのはウサギのぬいぐるみだった

ホラーチックな見た目に凶暴性、鋭い牙を目一杯見せ付け鋭い爪を振り上げてくる

喋る、動く、殺しに来る、そんなぬいぐるみは映画の話じゃないのかと思いながら頭をワシ掴みにする

それくらい小さなぬいぐるみだった

「あっ!離せ!この野郎!?このオレ様をなんだと思ってんだぁ!!」

「ただのぬいぐるみでしょ」

このウサギのぬいぐるみ、騒ぎになるほど強い力を感じる

みんな奇襲されてパニックに陥ってやられたって所だろうね

でも、こうして掴んでしまえば対した敵じゃないよ

「おいたが過ぎたね、誰かに送り込まれたの?それとも自分から来たの?目的は?」

「誰が話すか!オレ様はオレ様の意思でしか動かねぇ!目的はただ殺戮が好きなだけよ!」

ぬいぐるみの頭を掴んだ手に力を込めるとちゃんと話してくれた

痛みは感じるんだ、中は綿っぽいのに

「そっかーそういうのやめようね、悪いコトだよ」

笑顔でそう言うとぬいぐるみは黙り静かになった

「さて、セリカちゃんもう大丈夫だよ」

ぬいぐるみを持ったまま俺はセリカちゃんのほうを振り向いた

「一瞬で終わったね…ちょっと拍子抜け

でもたくさんの人が傷付いたでしょう

私の回復魔法を使って」

「ありがとうセリカちゃん、助かるよ」

自己回復を持つ者、回復魔法が使える者、それぞれいてもセリカちゃんの瞬間回復魔法には敵わない

回復魔法は基本的に詠唱が長く、傷も大して塞がらない

わかりやすく言えば応急処置と、戦えるほどには回復しますよって感じかな

自己回復は強さによるよ

「君ももう隠れなくてもいいよ、恐いのは退治したからね」

セリカちゃんの後ろに隠れていた男の子に優しく声をかける

あれ…こんな子いたっけ…?人間の子供

もしかして俺が知らない間に誰かが連れて来たとか

そんなコトを考えていると、男の子は俺に抱き付いてきた

「おいクソガキ!その野郎を殺せぇええ!!」

「っ……」

言葉を発する暇もない

男の子が抱き付くと俺の身体は爆発するかのように四方へと飛び散る

「イングヴェィ!?」

「次はその女もやっちまえ!!」

一瞬空を仰いでセリカちゃんの声を聞く

君の回復魔法のおかげで俺はすぐにバラバラになった身体は元通りになり武器を掴み

男の子の首目掛けて振り下ろそうとしたら

「待って!」

セリカちゃんの声で止められる

男の子はセリカちゃんに抱き付いていた

俺と同じように爆発させる為に…でも、瞬間回復魔法を持つセリカちゃんにはそれが意味のないコトだった

「君に言われて待っているけど、その子は君を殺そうとした

だから…」

いつも…セリカちゃんは俺の手を止める…

君を守るこの手を…

この気持ちを抑え付ける…

「ううん、違うのイングヴェィ」

男の子はいつまでもセリカちゃんに抱き付いていた

爆発しない人がはじめてだったのか困惑ながら、泣きそうになりながら

「クソガキぃ!何やってんだぁ!!誰が育ててやったと思ってんだ!

お前の親は誰だ!言ってみろ!このオレ様だと!

さっさと殺せ!殺せ!殺せぇええ!!!」

「子供は何も悪くない、悪いのはこのバカ親」

殺せ殺せと連呼して近くで飛び跳ねていたぬいぐるみをセリカちゃんは思いっきり叩き飛ばした

ぬいぐるみだから非力なセリカちゃんでも思いっきり叩いたら吹っ飛ぶよね

「…確かに、今回は子供に罪はないか」

俺は武器をしまう

しかし、ぬいぐるみが親って…しかも人形じゃなくてウサギのぬいぐるみね…

「お姉ちゃん…どうして爆発しないの?」

男の子は抱きついたまま顔を上げて不思議だとセリカちゃんを見つめる

「僕は生まれた時から生き物に触るとみんな爆発するんだ

記憶はない生みの親も僕が爆発させて殺したんだってパパが毎日言うんだ」

あのぬいぐるみ最低だな…

「僕は誰も殺したくなかった、こんな能力のある自分が嫌だった

でもパパが言うことは絶対…じゃないと捨てられるから…」

クズだなあのぬいぐるみ…

でも、捨てられてしまうぬいぐるみが逆に人間の子供を捨てるか…悲しいコト

あのぬいぐるみはそうしたぬいぐるみ達の集合体で人に復讐する為に殺戮を繰り返していたのかも

「子供を脅して人殺しさせるなんて、あんなのパパじゃないわ

ただの悪いお友達よ!」

ぬいぐるみはお友達って素敵だけど、この場合はどうなの!?

「生意気な女ぁ!!そのクソガキはオレ様と一緒にこれからも殺しまくるんだよ!!」

またぬいぐるみはセリカちゃんに襲い掛かろうと跳び向かってきたから頭を掴んで止めた

「うわ離せ!クソ野郎!?」

「セリカちゃんの回復魔法は生き物しか効かないんだよ

俺はお裁縫得意じゃないし」

ぬいぐるみの足を掴み引きちぎる

「ぎゃあああああ!!!!」

「私もお裁縫は得意じゃないの」

次に腕を引きちぎる

ちぎれた所から白い綿が飛び出し、ぬいぐるみは悲鳴をあげ続けている

「や、やめてよ!パパを殺さないで!!」

男の子はセリカちゃんから離れ俺の掴むぬいぐるみに手を伸ばすが届かない

「このぬいぐるみは俺みたいにバラバラになっても死なないよ、きっと」

「そうなの…?でも、痛がってる!パパ可哀相!」

……人殺しをさせる親をこんなにも心配している男の子の顔を見ると、返してはいけないハズなのに俺はぬいぐるみを男の子に渡していた

俺には親も兄弟もいなかった

自分の子供も永遠に存在するコトがない

血縁と言うものが存在しない種族

だからわからないコトしかない

それでもこの子がそんな顔をするなら返すのが正解なんだと思った

「パパ、パパ、痛い?痛いね」

泣きながら親の手足をくっつけようとする

見かねたセリカちゃんがぬいぐるみを拾い上げた

「仕方ないなぁ、下手だけど私が縫ってあげる」

「あっゴメン、セリカちゃんに手間かけさせて」

「ううん、それに二度と人殺しができない体に作り替えてやりたいもの

この牙も爪もいらないでしょ

あと手は凶器を掴めないような形にして足は歩かせない、うるさいから口も縫い付ける

改心するまで、ぬいぐるみらしくショタに抱っこされてればいいのよ」

それがいいねとセリカちゃんに笑顔を向けると君も笑顔を返してくれた

これでぬいぐるみは人殺しができないし男の子も命令されるコトがない

「ところで君の名前は?」

いつまでも男の子じゃ不便だよね

「クソガキです」

ぬいぐるみが言ってたままか…

「それは名前って言わないな~…」

困ったなと思っていたら、ぬいぐるみがポツリと呟く

「ユウキ」

「えっ?」

「だからユウキっつってんだよ!そのクソガキの名前!!」

常にキレ気味でぬいぐるみの声は大きいのに、さっきの言葉だけは人間より耳の良い俺にも聞こえにくかった

「その名前はクソガキが生まれる前からこいつの親が決めてたんだよ」

「何コイツ、めっちゃ良い奴?」

セリカちゃんは戸惑っている

「うっせー!女!!たまたまだよ!たまたま聞いただけだっつーの!そして覚えてたんじゃなくてたまたま思い出しただけだかんな!!」

「親父の照れ隠し、面白いわ!」

何がツボだったのかよくわからないけど、セリカちゃんが楽しそうだからいっか

「パパ…僕の名前はユウキなんだ…へへへ、パパ大好き!!」

「懐くなクソガキ!うざってーんだよ!!」

口は悪いけど、ユウキに抱き締められてぬいぐるみが何処か嬉しそうに見えた

人殺しをさせたのは悪いコトだけれど、ユウキにとってこのぬいぐるみは本当の父親なんだろうな

生き物に触れたら爆発させてしまう能力を持った少年をたったひとり避けずに向き合い傍にいたのだから…

「それから僕、パパ以外にも好きな人できたよ!」

そう言ってパパから離れるとユウキはセリカちゃんに抱き付いた

「セリカさんが好き!」

な、なんだって…!!!

「人って、こんなに…あたたかいんだ…知らなかった

だって、いつも抱きついた瞬間に粉々に吹っ飛んでなくなってしまうから…」

「あ、あのね…ユウキ

女の子には簡単に抱きついたりしちゃダメなんだよ?セクハラって言って悪いコトだからね」

まだわかってない子供なんだと自分に言い聞かせながら、俺は優しくユウキに教える

「イングヴェィがそれを言うの?

まぁまぁいいじゃない、子供なんだから」

とセリカちゃんは甘いけど

「良い匂いがして、この辺とかとても柔らかい…フニフニ」

セリカちゃんの匂い嗅いでるし、何か胸触ってない!?

これ子供だからって俺は許せないよ!もう大人気ないとか言われてもいいから!!

「ねぇセリカさん、返り血で汚れちゃったから一緒にお風呂に入ろうよ」

「ダメに…決まってるでしょ」

優しく…優しく…笑顔で、俺はユウキの肩を掴みセリカちゃんから引き離す

「イングヴェィさん恐い…邪魔すると触りますよ?」

恐いまではセリカちゃんに向けて猫被り、その後は俺のほうを向いて悪魔のような笑みを見せた

なるほどね、さすがはあのぬいぐるみの育てた人間の子

人殺しは嫌でも性根は一筋縄ではいかないようだ

「やれるものならやってみなよ…君のパパを修復不可能なくらいバラバラにしてあげる」

「パパをバラバラにするより先にイングヴェィさんがバラバラだね」

この…言いたくなかったのに、めっちゃクソガキじゃん!!しかもエロガキ!!

「ユウキやめろ、オレ様達は今まで勝てても人外のプラチナと勇者の聖女には敵わねーよ」

「パパ…どうしたの、いつもと様子が」

「オレ様はもう…歳だ…稼業(人殺し)はしまい

これからは静かに暮らして、孫を楽しみに過ごすよ

今まで悪かったなユウキ、オレ様の自慢で大切な息子よ」

「パパぁ…ぐすん」

感動的な場面なのかもしれない

でも、そういうのがわからないセリカちゃんは思ったコトをそのまま口に出してしまう

「改心早くない!?一度の負けで精神やられすぎでしょ!?

ぬいぐるみが歳取るか!?孫ってユウキの年から考えて後10年くらいかかりそうだけど、それまで大丈夫!?生きてる!?

いやそもそもユウキの子供がアンタの孫と言えるのか…」

うん…改心が早過ぎて逆に怪しいよ

かと言って、ぬいぐるみが嘘をついてるようには見えない

「そうだ、パパのほうはなんて名前なの?」

「オレ様に名前はない、不便ならチョコストロベリーバナナパイナップルアップルチェリー梨スイカマンゴーデコレーションと呼んでくれ」

余計不便………っっっだ!!!

狂キャラかと思ってボケかましてくるとは思わなかった

本人は至って真面目なのかもしれないけど

「うわーネクストの親戚かと思うわ、そんな名前

梨がスゲー気になる

覚られないから、イチゴくんでいいよね」

それセリカちゃんの好きなフルーツ選んだだけだよね!?

「セリカさんがいいなら僕もパパの名前はそれでいいよ!」

ユウキはすっかり明るくなり少年らしい笑顔を見せて、イチゴは改心(?)して大人しくなった

そんな一件落着みたいな雰囲気になった所で、セリカちゃんはイチゴとユウキにやられた人達を治しに行くと言って中庭を出ようとしたから俺は手を掴んで引き止める

「イングヴェィ?」

嫌な予感がしたから…それは当たったみたいで中庭には数人の人間が入ってきた

「誰?君達」

普通の人間じゃないな、見た目も屈強で強そうって言うのもあるが…

これは悪魔に魂を売った人間達か?そんな気配を感じる

でも、俺の敵じゃない

「勝手に入ってきて、失礼なコトだよ」

敵じゃないハズなのに、何かがおかしい

イチゴとユウキはそれなりに強かったからってのもあってここまで来れたのはわかるけれど

この人間達は俺の仲間だって負けはしない

だから、ここまで来れるコトがおかしいんだ

「さっさと…」

帰れと言おうとした時だ

敵が別々に俺とセリカちゃんとユウキに襲い掛かる

「強気だね、誰を相手にしてるのか教えてあげる…!」

セリカちゃんには指一本触れさせない

イチゴを片手に掴みセリカちゃんはすぐにユウキの傍に駆け寄り、敵が塞いでいないほうの中庭の出入口まで走るように言った

しかし、予期しない出来事に驚いたユウキは走る時に足がもつれ勢いよく転ぶ

「泣かないの!痛くなんかないでしょ」

と転んで泣きそうなユウキの手を掴み立たせたけど

「あれ…治らない…?」

セリカちゃんは自分の回復魔法が効いていないコトに動きを止めてしまった

君にとって、絶対の力が使えなくなってしまったらそれはとても大きなショックだと思う

動けなくなってしまったセリカちゃんを目掛け敵が群がっていく

「セリカちゃん!!」

何人かは退けたけれど、全ての攻撃は弾けず俺はそれを受けてしまう

「あっ、イングヴェィ…私のせいで…」

武器を持っていた右腕が切断されてしまった

すぐに左手で拾おうとしたが、そんなコトは当たり前のように読まれ阻止される

「大丈夫セリカちゃん、君は逃げて」

俺の身体はあっという間に敵達に捕らえられてしまう

ヤバイ、このままじゃセリカちゃんが…

と焦ったが、敵はセリカちゃんにもユウキにも興味を示さなかった

どうし…いや、もしかしてこれは…

「イングヴェィから離れなさい!」

セリカちゃんが勇者の剣に手を伸ばした時、リジェウェィとカトルが来てくれて前へと出る

「うるさいから、お菓子が不味い」

「イングヴェィがこの程度の連中に苦戦しているとは、珍しい事だな」

明らかにふたりは面倒だと言う態度

待って!これにはワケが…

伝えようとするより先にリジェウェィは火魔法を唱えるが、マッチ棒でシュッとやった時の小さな火が一瞬出てきただけですぐに消えた

「……いや、ふざけないでリジェウェィさん」

カトルの現実逃避とさっきので魔法が使えないコトに気付くリジェウェィ

「オレが今日までふざけた事などあるか?」

「ある」

「魔法が使えなくなっている…何故だ」

そうなんだ、ここにいる者達は魔法に特化しているからそれが使えなくなった今

この悪魔に力を借りている人間の敵にすら勝てない

「魔法が使えなかったら!これで戦うしかないの!」

セリカちゃんが勇者の剣を引き抜くとリジェウェィとカトルは必死で止めた

「やめて!一生のお願いだから!!セリカさん!!」

「回復魔法の使えないセリカは小動物並みに弱い、うさぎはケージに閉まっておかないとな」

ふたりともセリカとユウキを連れて中庭から出て行く

セリカちゃんは最後まで、でも!と悔しがり抵抗していたが、それでいいんだよ

君に何かあったら困るからね…

みんなが見えなくなってから俺は確信する

敵のこの人達はセリカちゃん達を追わなかった

最初から俺が目的

セリカちゃん達を襲ったのは俺が必ず守ろうとするから、少しでも隙を作る為

「プラチナを手に入れたぞ、持ち帰りボスに報告だ」

「「「はいっっっ!!!」」」

そうして、俺は敵に捕まってしまった

俺の前の世界も、この世界にもこんな話がある

プラチナの心臓はその力を得られ

髪は願いが叶い、瞳は未来を映す

美しい身体の肉は不老不死になれると宝石のように高く売れる

全て迷信に近いが、心臓はあながち間違えていないかも

前の世界で俺の他にもうひとり純血のプラチナがいたんだ

その人とはただの顔見知り程度だったが、その人はある日に心臓を狙われプラチナの力を奪われた

プラチナは死なないと言われているが、その人はやっぱり死んだのか、それとも奪った者の身体で生きているのか、どうなったのかは知らない

どれにしろ、俺は奪われるワケにはいかない

この心臓はセリカちゃんを愛する俺だけのものなのだから

さて…どう逃げようかな…

両手はないし、魔法も使えないんじゃ厳しいな

しかし何故、ここで魔法が使えなくなったのかはわからない

魔法無効と言えば前にそんな村があった

あの時は香月くんに助けられて、村は滅んだが魔法を無効にする方法は香月くん達の魔族が手に入れているハズだけど…

香月くんがそんな良いモノを他人に教えるワケがない

それとも、魔族無効は他にも方法があるのか

すでに知られているのか…



―続く―

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