第45話『噂なんて信じない』イングヴェィ編
セリカちゃんに嫌いって言われたショックから俺はなかなか立ち直れていなかった
どれだけ自分ひとりの時間が止まっていたのかもわからないくらいで
気付いて追い掛けた時はすでに遅く今も見つからないままだった
セリカちゃんのコトならなんでもわかる本当だよ
君がドコにいたって見つけられるハズなのに…
どうして、見つからないの君がいないの
まるで最初から君がいなかったかのような夢のような感覚
嫌いって言われたショックがこんなにも強く影響してしまうなんて…
どうして、俺は間違ったコトしてないよ
君の為なら俺は何にだってなれるのに
君は…それを認めてくれなかったってコトなの
セリカちゃんのお願いを叶えたいだけ
そしたら君に好きになってもらえると思ってた
君のコトならなんでもわかっても、君の考えてるコトは何もわからない
人間は難しい生き物だ
それでも、俺は君のコトが大好きだよ
君が俺を嫌いになっても…俺はセリカちゃんを愛してるからね
セリカちゃんがいなかったら生きていけない
君がいなきゃ俺が俺でなくなってしまうから
大好きなの本当に…文字通り死ぬほど
俺はセリカちゃんの気配を探りながら、いつの間にかセレンさんの神殿まで来てしまっていた
すっかりまた夜になっちゃったな何日目の夜だろ
そしてまだそれに気付かず俺はある一室の窓を開ける
「やっと見つけたセリカちゃ…あれ」
「うわっビックリした!?」
そこにはソファに座りながらお菓子を食べていたセリくんがいた
「セリくんだ、こんばんは」
「笑顔でこんばんは、じゃねぇよ!?不法侵入なんだケド!?」
俺も驚いた
セリカちゃんの気配と勘違いしてセリくんの所に来てしまったなんて
同じだから仕方ないケド、いつもの俺なら間違えないもん
「何しに来たんだよ」
「なんか香月くんの匂いがすると思ったら、ここに山積みにされてるもの全部プレゼント?」
「聞けよ!?」
「香月くんも本当にセリくんが好きなんだね
でも、女の子が着るような服ばっかりだケドこれ着てみたの?」
「オマエは会話のキャッチボールができなくなったのか…」
香月くんからのプレゼントの山を見て、俺はこのお洋服はセリカちゃんに似合そうだなと考えたりしていた
「ん~…そうだね
セリカちゃんがいなくなって、ちゃんと頭が回らないんだよ」
「それ病気だろ」
「うん!俺はセリカちゃんのコトが大大大好きだからね!!
なのにセリカちゃんは俺を嫌いって言うんだよ…
どうしてなの?セリくんならわかるよね
俺はこんなにセリカちゃんを愛しているのに、セリカちゃんはどうして俺を愛してくれないの?」
俺が知りたいと近付くとセリくんは落ち着けと手を前に出す
「それは…わからない
セリカには好きな奴がいないし好きなのかどうかもわからない
俺はセリカだしセリカは俺だケド、こうして身体は別々に存在するワケで
似たような人生を前の世界で送ってきても、世界はまったく一緒じゃない
周りの環境も多少違って、周りにいた人達はまったく違うワケだし…
セリカのコトは俺が1番よく知っていても、好きのコトについてはセリカ自身がよくわかってないから
俺もイングヴェィのコトはわからないとしか言えないんだよ」
「そう…だよね
セリカちゃんが好きなのに、俺が向き合わなきゃいけないコト
セリくんにセリカちゃんの気持ちを聞こうだなんて反則だったよ」
セリカちゃんと同じ匂いに少し落ち着いた俺は小さく息を吐いて離れた
どうしたら好きになってもらえるのかも聞きたかったけれど、それも自分で考えなくちゃ意味がないような気がする
セリカちゃんは自分のいない所で勝手に自分の話をされるのを凄く嫌う人だから
セリくんはセリカちゃんでもね
「肩の力抜いて、ちょっとゆっくりしていけよ」
セリくんは俺がいっぱいいっぱいで肩に力が入っていたコトに気付いてくれて俺に休むように言ってくれた
ありがたくソファに座らせてもらってセリくんがお茶の準備をしている時、ドアをノックする音が聞こえて誰かが入ってくる
「おめでとうでござる
末永く爆発しろでござ…」
お祝いの花束を持ったロックがお祝いの言葉を口にしながら部屋に入ってきたと思ったら、俺を見て花束を落とす
「とんだビッチでござる!?他の男を連れ込むとな!?」
「えっ何?ロックがリア充部屋とか言ってあんまりここには来ないのに」
いつものコトと慣れているのかセリくんは普通にロックに聞いている
「拙者はレイ殿が彼女にプロポーズをして結婚する事になったと話を聞いてお祝いに来たでござるよ!?
そしたら他の男を連れ込んでる所を目撃して…」
ロックの信じられない発言にセリくんはせっかく用意したお茶を落としている
レイくんが結婚…?誰か知らないケド、ライバルがいなくなるなら嬉しいな
と考えながらも俺はレイくんの結婚相手が誰かわからない今は不安でしかなかった
「はっ!?レイが結婚?そんな話聞いてねぇぞ!?
彼女って誰だよ!?大親友の俺に何も言わないとか許さないんだケド!?
ってかレイはまだ18歳だろ
結婚できる歳でも早すぎるし!!」
「レイ殿の彼女と言ったら御主以外にいないでござらんか!!
音の町で聖女にプロポーズしたとの話がここにも届いてるでござるよ!!」
ロックの詳しい話に俺の感じていた不安は現実となって息を詰まらせる
「聖女って…まさかセリカのコトか……?」
「ウソだよ…そんな話……
セリカちゃんがレイくんと結婚?ありえないでしょ……」
ウソ…ウソだって言って
セリカちゃんは音の町にいて偶然レイくんに会ってしまったってコト?
ついにその時が来てしまったの
音の町…音楽が好きなセリカちゃんをいつか連れて行ってあげたいと思ってた場所だ
しかも結婚って…ウソだよそんなの!?
「イングヴェィ…落ち着けよ
なんか人殺しそうな目してるぞ…
聖女って言ったってセリカだとは限らないだろ
それにあのセリカが今は結婚なんてありえないと思う
セリカの心境に変化がないのは俺が1番わかるんだから…な?」
異常なまでの俺の雰囲気に気付いたセリくんは恐る恐る話かける
「今は…そうかもしれないケド、この先はわかんないじゃん……
だって…レイくんなんだよ!?
前世のセリカちゃんと深い関わりがあったレイくんなんだもん!!
安心できないよ!!絶対殺さなきゃ…今すぐ
なんで俺はわかっていたコトなのに、今まで殺せなかったんだろう」
レイくんがセリくんの大親友で、だから殺せなかったんだってコトも忘れて俺はかなり焦ってしまう
すぐにでも音の町に行かないとって俺は入ってきた窓から出ようとするとセリくんに手を掴まれる
「待って…俺も行く」
「セリくんは連れていけないよ」
連れて行ったら、邪魔するでしょ…レイくんを殺すコトを
「イングヴェィがレイを殺すって言うなら俺は止める
俺は友達がいなくて、やっと出来た大親友なんだ…奪わないでくれよ」
「……………。」
あぁ…卑怯だな…卑怯だよ
君じゃなかったら俺の邪魔をする奴だって殺すのに
セリカちゃんと同じ顔をしているセリくんの手を振り払うコトもその身体を突き飛ばすコトも出来なくなっちゃう…
「レイがセリカにプロポーズして結婚なんて話は信じてない…
偶然会ったとして、レイがすぐセリカを好きなんて変だ」
セリくんは知らないからわかってない…
レイくんは前世でセリカちゃんのコトが好きだったんだ
現世で再会してすぐ恋に落ちてもちっともおかしいコトじゃない
「でも、もしそうだとして
イングヴェィはライバルを殺さなきゃ勝てないのか
そんなの卑怯じゃないか
セリカを好きになる奴を全員殺して、誰もいなくなって残った自分だけを見てくれるなんて
本当にそれでセリカがイングヴェィを好きになってくれると思ってるの?」
「……セリカちゃんは俺を好きになるよ
それが運命だもん…
セリくんは大親友を殺されるのがイヤだからそんなコトを言って俺を止めたいだけだよね……」
俺が本気だってわかってるセリくんの手は震えていて掴むと一瞬びくりと反応を示す
正解みたいだね…
「イングヴェィ…違う
俺はイングヴェィにそんな気持ちで誰かを殺してほしくないだけだ……」
そんな気持ちってどんな気持ち……
セリカちゃんを好きな気持ちのコト?
「わかるようでわかんないな…
セリくんにはまだわからないんだね
俺がセリカちゃんを死ぬほど愛してるコトも…セリカちゃんにはわからないんだね……」
どうすれば君に俺の気持ちの全てを伝えられるんだろう
言葉にしても行動しても…伝え切れない
君に伝えるのは簡単なコトじゃないとわかっていたよ
俺は窓から外へと飛び降りる
すると、直後に背中に微かな重みを感じて
「俺もついていく!
今のイングヴェィを1人にしたら何するかわかんねぇからな」
セリくんは同じように窓から飛び降りて来たみたいだ
「……ズルイな~セリくんは
俺が君を無下に出来ないってわかっててやってるでしょ」
「うん!」
ほら…俺の弱いその笑顔は最大の武器だ
「セリくんもセリカちゃんもそっち方面は頭の良い子だからね」
「イングヴェィを止められるのは俺しかいないって言うならついていくしかないからな!」
反対に言えば、同じコトで俺はセリカちゃんのコトで簡単に狂ってしまうんだよ
「そういうコトだからロック、俺は暫くいないからセレンに言っといてくれよ」
セリくんの部屋の窓から俺達を見下ろしていたロックが舌打ちしながらその言葉を受け取っている
「レイとセリカの噂が流れてるのは音の町って言ってたよな
どんな所なんだ?遠いの?
ってか楽しいのか!?」
「セリくんってば超観光気分になってるじゃん!?」
さっきのシリアスモードはドコにいったのか
音楽が大好きなセリくんは楽しみだとワクワクして表情を輝かせている
「どうせ行くなら観光も一緒にすればいいだろ」
今はそういう問題じゃないと思うケド…
「色んな所たくさん見て、美味しいもの食べて、温泉も入ってさ~!」
みんな温泉好きだよね
「音の町って音楽が盛んなのか?
それって超楽しみなんだケド!!」
俺は空で待機させていたペガサスを呼び寄せて、セリくんを先に乗せてあげる
「久しぶりにセリカにも会えるし、やっぱり楽しみでしかないよ」
楽しみで仕方ないずっと喋ってるセリくんの笑顔を見ていると
なんだか…凍りついていた俺の表情も少しずつ溶けていくような気がする
「そうだね、楽しみだね」
自分の声が柔らかく優しくなっている変化にも気付く
「音の町はセリカちゃんの好みな音楽、クラシック系やケルト系などの民族音楽も多いからきっとセリくんは気に入ると思うよ」
「イングヴェィやっと笑った!」
「ん?」
ペガサスを音の町のある方向へと走らせていると、セリくんは俺に振り向いて笑った
「俺、イングヴェィのその笑顔大好きだ
太陽みたいに明るくてあったかい笑顔、こっちまで釣られちゃう嬉しいやつ」
「……………。」
セリくんの言葉に俺は思い出す
俺が笑うとセリカちゃんもいつも小さな笑顔を返してくれる…
恥ずかしがって俯いているコトも多くて、俺はそんなセリカちゃんも可愛くて綺麗で……大好きで
君に好きになってもらいたい愛してもらいたいって、ますます欲張ってしまうの
俺が笑うと君も笑ってくれる
嬉しかった
少しでも俺の気持ちが伝わってるんだって思えて心が満たされるから
「さっきまで恐い顔してたもん…
イングヴェィはめちゃくちゃ綺麗な顔してるから笑わないと冷たい印象があるし
なのに笑うとあったかく変わるから、なんか不思議で好き」
俺から見ると綺麗なセリくんもセリカちゃんもそういう感じは少しする
綺麗だから黙っているとクールに見えるケド、本当は恥ずかしがりで気が弱くて
でも、誰よりも心をちゃんと持ってる…
恥ずかしがる所が普通とズレてるのはあるケド
「ありがとう、俺もセリくんが好きだよ」
「ふーん」
何そのどうでもいい反応!?ちょっと傷付いた!
何もなくてもすぐに機嫌がコロコロ変わるのも君達の特徴だよね…
「セリカはイングヴェィのコト嫌いじゃねぇよ
だから、イングヴェィに物凄く気を使っちゃうんだ…
イングヴェィがシッカリしてくれないと傍にはいられない
それだけ……
じゃあ俺はもう眠いから寝るわ」
「えっあっ…オヤスミ」
話の途中だったけれど、セリくんはすぐに眠ってしまう
きっと眠気の限界がきたセリカちゃんが眠ってしまったからだろう
俺がシッカリしないと…
その意味は…自分を見失うなってコトだった
セリカちゃん…
俺の君への愛は間違ってると言うの……
-続く-2015/06/14
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