第15話『新しい世界での生活、戸惑うばかり』セリカ編

「みんなに紹介するね

今日からここに一緒に住むコトになった俺の可愛いセリカちゃんだよ」

えっ誰の私だって?

イングヴェィは私をみんなに見てもらいたかったのか、わざわざこのお城にいるみんなを広間に集めて全員が注目する中で紹介されてしまった

超人見知りな私は大勢の前で強い緊張と恐れで顔が真っ赤になって気が引けてしまう

イングヴェィの言葉にたくさんツッコミたいケドそれ所じゃないくらいに

俺のセリカちゃんって何?

そう言えば、初めて会った時から私を恋人だとかなんとか思い込んでる危ない人だったっけ…

私は本当にこの人についてきてよかったんだろうか

一時は信じちゃったケド、今は通常通り疑う気持ちが強くなる

いや、そんなコトより私をみんなに紹介したイングヴェィの言葉の後のこのシーンと静まり返った空気…どうすんの!?

そして、私はここに立たされてすぐに気付いた

私みたいな人間もいるケド、ほとんどがアニメやゲームに出てくるような人外の姿をしている人達が多い

景色もそうだし、自分のいた世界とは随分違う

ちょっとビックリするケド、アニメやゲームに染まった私の脳はすぐに受け入れる

少しすると目の前の大勢の人外達がざわざわとしだした

「はー!綺麗な人間ー

あれほど綺麗な人間見た事ない」

「イングヴェィ様がこうして誰かを我々に紹介する事はなかった

それほどあの綺麗な娘が大切だと言うのか」

「俺のって言うからには恋人とか?」

違います

それはイングヴェィの妄想です

他人と話すのが苦手な心の中で思うだけで私は何も言い出せない…

「あの綺麗な娘はセレン様が探してる勇者様だっけ?」

「えぇ?聖女様と聞いたけれど」

所々で、勇者とか聖女とか聞こえてくるケド…どういう意味なんだろう……

凄く気になるわ

「美味そう…」

なんかあそこでよだれ垂らしながら私を見る危ない奴いるんだケド!?大丈夫!?

隣にいるイングヴェィに目であそこに変な奴がと訴えてみるケド

「大丈夫だよ、セリカちゃんを食べたりしないよ」

私の言いたいコトはわかるみたいでも、ニコニコ笑ってるだけで……信用ならないわね…

そんな中で、私は部屋の端のほうにいる人間達の強い睨みの視線に気付くコトなくこの時が過ぎていった



数日後、イングヴェィが私の部屋を用意してくれた

私の好みとか話していないのに、さすがストーカーなんでもわかっているかのようにその部屋の出来は超可愛い私好みの内装

ピンクや白や紅と言った私の好きな色、動物柄、お花柄、動物のぬいぐるみもたくさんあって

クローゼットを開けるとそこにも私好みの私に似合うお洋服がたくさんあった

レースやフリルが多く、ワンピースタイプが多いな

靴やバッグまであるわ

そして引き出しを開けると、下着も……

「……………これも……イングヴェィが選んだのかしら………」

白やピンクと言った清楚色ばかりだけど、どれも私好みだわ……

思わず浮かれていた私の気持ちが一瞬で冷静さを取り戻す

後で聞くと、イングヴェィはこんな感じでお願いねと内装のプロや洋服屋に頼んだのだと知った

一通り部屋の中を見た後、私は昼間の太陽の光が入り込む窓を開けようと窓際に近付く

すると、窓の外に見える光景に驚いた

「わっ動物さんがいっぱいいる!!」

森に囲まれたお城だから動物がいてもおかしくはないんだろうケド、何より私が驚いたのは動物達は私を見ても私が窓から手を出しても逃げるどころかみんな近付いてきてくれるの

「可愛い……」

動物が大好きな私は思わず窓から外に出て動物達に囲まれる

餌も持ってないのに近寄ってくるなんて、私のいた世界じゃありえなかった

あの世界の動物達は人間が敵であるとハッキリわかっていた

だから、人間を見るとすぐに逃げるか襲ってくる

動物が大好きな私は実物の動物を見るコトも触れるコトもあまりなかったな

「オマエ達、みんな可愛いね

このお城で飼われているの?それとも野生なの?」

鳥は私の肩に止まり、リスなどの小動物は私の頭や腕によじ登ってくる

鹿や犬や小熊馬キツネなどの大きい動物は私の傍に寄ってくるから撫でてあげる

「いくらここがファンタジーの世界でも動物は人間語を話せないよね」

話しかけても返事はない

その変わりに私に好意的だと言う態度をしてくれるわ

「セリカちゃん、こんな所にいたの

部屋にいないから誰かにさらわれたのかと思って一瞬焦っちゃったよ」

動物達と癒しの時間を過ごしていると私の部屋の窓からイングヴェィが顔を覗き込ませる

「あっイングヴェィ

見て見て、動物達がたくさん

みんな可愛いの!!」

「ふふ、セリカちゃんが1番可愛いよ」

うん知ってる

「不思議だね、獣達は人間を恐がるのに

みんなセリカちゃんのコトは好きみたいだよ」

「えっ?そうなの?」

この世界でも動物は人間が恐いんだ…

それを聞くと複雑な気持ちになる

人間は動物を食べるもの

私も動物大好きなくせに、肉好きだし食べるし

野菜や果物も好きだし、魚も食べるわ…

動物達からしたら、人間は自分を食う化物か何かだもの

恐くて当たり前だよね

「そうだよ~俺が嫉妬しちゃうくらいに…ね」

じょ、冗談でしょ…動物相手に嫉妬なんて……

この子達の好意はイングヴェィの好意とは違うよ

なのに…笑顔のイングヴェィは目だけマジだった……

「そ、そういえばウサギさんがいない…

私は動物の中でもウサギが1番大好きなのに、会いたいな」

イングヴェィの嫉妬の気を反らそうと私は話題を振る

私が聞くとイングヴェィは私の部屋からウサギのぬいぐるみを持ってきた

「ウサギってこんな感じの獣のコト?」

「うんそう…でも、そのぬいぐるみみたいに丸顔で二足歩行で服来たりしてないケド」

可愛いウサギのぬいぐるみだケド、本物のウサギにはちょっと似てない

可愛いクマのぬいぐるみと本物のクマが掛け離れたくらいの容姿してるやつ

「ウサギって獣が存在するのは知っているんだけれど見たコトがないな

この世界のドコでも、かなりレアな獣として認識されてて

もし、人に見つかるコトがあればそのレアさからかなりの高額な値段で取引されちゃうくらいだよ

最近はそういう話もまったく聞かなくなったけれど」

「それって絶滅してるかもって…意味?」

「………えっと……」

イングヴェィは私が大好きなウサギはいないかもしれないと言いづらそうにしている

「ううん!絶滅なんてないよ!

きっとドコかに隠れて生きてるハズ

獣に好かれるセリカちゃんだからウサギさんだっていつか会いに来てくれるよ!」

「そうかな…」

「俺がこれから世界中を走って探して来るよ?」

その笑顔が本気で見つけてきそうでなんか恐い

私の為に、隠れて生きているかもしれないウサギさんを引きずり出すのはダメだよ

ウサギさんは大好きだし抱っこしたいケド、それで悪い人に見つかって最悪なコトになったらイヤだもん

ウサギのぬいぐるみで充分

「いい…イングヴェィが探しに行ったら、私は1人になるから」

「セリカちゃん……好き」

深い意味もなく、私はただこのお城でイングヴェィ以外と話せないからと言ったつもりだったケド

イングヴェィにとってさっきの私の台詞は愛してると同じくらいの意味で取られていた

めちゃくちゃ嬉しそうで幸せそうな顔してる

私に群がる動物ごと抱きしめてくるの

イングヴェィの冷たい体温が伝わる

反対にイングヴェィには私の人間の体温が伝わってるんだろうな

…イヤじゃないから、突き放せない

なんでイヤじゃないんだろう……

男なんて気持ち悪くて恐いだけなのに…

そう思わないのはイングヴェィが人間じゃないからなの…?

そんな単純なコトで私の危険意識は薄れてしまうものじゃないハズなのに…

「ねぇ、セリカちゃんこれから少しお出かけしよっか?」

「別に何も予定はないからいいケド…」

「これから色んな所、セリカちゃんと一緒に行ったり見たりしたいんだ

でも、今日ははじめて君を外に連れて行くから夕方には帰れるこの近くを案内するよ」

お出かけ…ちょっと楽しみかも

私は動物達に今日はバイバイしてイングヴェィに抱き上げられたまま自分の部屋の窓から中へ戻った

「あのね!セリカちゃんに今日着てほしいお洋服があるんだ~!

俺が決めたのでいい?」

いい?って聞いておきながら、まだ何も言ってないのに私のクローゼットから服を選んでいる

「全部セリカちゃんに似合って可愛いから迷うな~

今日の気分で選んで、ハイこれね!」

イングヴェィはたくさんある中からこの森にいそうな妖精さんみたいなふんわりした白メインの服を出してきた

可愛い服…嫌いじゃないわ…

服を受け取ると今度は

「髪飾りは…」

アクセサリーを探しているイングヴェィは引き出しを開ける

「あっそこは…」下着が……

「何これ……服?にしては布が足りなさ過ぎるような……?」

下着を不思議そうに見ているイングヴェィに私は察した

もしかしてイングヴェィ……女物の下着見たコトないのか……

「イングヴェィって今まで何人の女の子と付き合ったの?」

「どうしたの急に、セリカちゃん?

俺はセリカちゃん以外を恋人にしたコトなんてないよ

言葉じゃ信じてもらえないかもだケド」

「いや、信じます…

それね…今イングヴェィが手に持ってるものは女の子用の下着だよ

私が服着ている下に着るもの」

「……………………。」

私が指差してその布の少ない服が何かを説明するとイングヴェィの時間は数秒止まり、動き出すと顔がみるみる赤く染まっていった

この反応は…私が初恋って本当だったんだ……

いや待て、初恋だろうがなんだろうが女の子の下着知らないってその歳でありえないだろ!?

エロ本とかも見ないのかよ!?

人間の常識は通用しないってコトか

「……っえぇ!?そうなの!?ご、ゴメンねセリカちゃん!!

知らなかった…

知らないからってこんな失礼なコトするなんて……」

まぁ普通、女の子のクローゼット漁ったりはしないよね

イングヴェィの感覚はショップで彼女の洋服を選ぶと同じだったんだろうケド

「別にいいよ

ついでに教えておいてあげるわ

このブラジャーって胸につけるやつは後ろにホックがあるから、ここを外さなきゃいけないのよ

いざって時は」

「い…いざって時……?」

「知らなかったら困るかなって」

イングヴェィは意味わかってるのかわかってないのか、どんどん赤くなる顔は冷めるコトはない

愛言葉を口にしたり手を繋いだり抱きしめたり唇以外にキスをしたりするのは恥ずかしがりもなくするのに

それ以上のコトになると、こんな反応しちゃうのね

イングヴェィの彼女になる人は大変そうだな

他人事のように言う私は冷静だった

………イングヴェィは私を見てドキドキするの

伝わるほど強い気持ち…

私の心は?今はとても冷たく暗いわ

貴方への恋も愛も見つけられないくらいに

本気で好きになったら、こんなクソみたいに汚く慣れてしまった私にも

ドキドキしたり恥ずかしいとか照れたりするのかな……

「ってセリカちゃん!?いきなり何を!?」

「何をって着替えてるの

お出かけするんでしょ」

普通に着替えをしようとする私にイングヴェィは慌てて私の手を掴んで止めた

「ダメだよ!俺が部屋を出るまで着替えちゃ

俺は男なんだよ……」

「じゃあ…襲うの……」

別に…試すつもりもなく無意識に着替えをはじめていた

恥ずかしくなくても男の前でそんなコトしない

でも、イングヴェィだからなのか無意識だった

なのに、私はもしかしたら崩壊するかもしれない言葉を口にしていた

イングヴェィのコトまだ信じてないのに心の中ではドコかで信じているんだわ…

だから…私はイングヴェィに私を襲うの?と聞いた時、私の心は痛みを感じた

それでもしイングヴェィが他の男達と同じだとわかれば

私の心は今度こそ崩壊してしまうから

聞いてしまって後悔した恐くなった

もしかしたらやっと信じられるかもしれないと思った私の甘さ

「しないよ

俺はセリカちゃんがイヤがるコトは絶対にしない

君を傷付ける奴は許さないから…俺自身だってね」

恐くなって震えていた私の手は震えを止める

強く掴んでいたイングヴェィの手が優しく離れて

「でも、そういう気持ちがまったくないってワケじゃないから

やっぱり気をつけてね

俺の大好きなセリカちゃん…」

イングヴェィは私の額にキスをして、部屋を出て行った

「……イングヴェィ…………」

男が目の前にいて、何もされなかったコトなんてなかった

無事なコトなんてないのよ…

イングヴェィは私のコトが好きならなおさらそうなんじゃないの……

私は知らずに心震え涙を流していた

誰かに大切にされたコトなんてなかったから、イングヴェィの優しさが私の心に突き刺さる

貴方の愛は美しい

私の醜さがより際立つくらい…



-続く-2015/03/01

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