第14話『だって可愛いのに…敵なんだ…』セリ編

ロックに呼ばれて、はいはいと廃墟の出入口へと急ぐ俺の身体は急にレイに抱き抱えられ動きが止まる

なんだ!?と思ったと同時に廃墟から出たロックの身体が大きな鎌で真っ二つに引き裂かれるのが目に入った

「な……」

「セリ、前に出るな」

レイは俺を降ろし背にやると弓を構える

廃墟の出入口から覗くのは5mはある巨体の山羊みたいなモンスター…?

えっもうこれラスボスだろ?いきなりラスボスって…

さっき俺が考えてた悪い出来事のフラグを早速回収かよ!!?

「あいつはどうやら悪魔のようだ

この廃墟は神聖な力があったのか、奴はここには入って来れない

だから、出入口で出てくる人間を待ち伏せしていたんだな」

レイ説明ありがとう

廃墟は安全だとわかったケド、このまま外に出られなかったら餓死ですか…

レイは弓を引き撃つが、顔を引っ込めた悪魔には当たらない

「出て来いって言ってるんだな

セリ、ちょっとあれを倒してくるからこの廃墟から絶対に出ずに待っているんだ」

「ちょっとって!?何言ってるんだよレイ!!

あんないきなりラスボスに勝てるワケない!!

レイ殺されちゃうよ!ロックみたいに……」

行くなと俺はレイの手を掴む

レイなら本当に勝てるかもしれない

でも、レイの実力がまったくわからない今の俺からしたら

目の前で他の誰かが殺された後ならレイも死ぬんじゃないかって心配になる

レイは困ったなと苦笑する

怒るワケでも呆れるワケでもなく…

「勝手に人の幕を降ろさないでくれないかでござる」

んっ!?

ドコからか緑〇光みたいなイケメンボイスが聞こえてくる

でも…この変な語尾どっかで聞いたコトがあるような……

ロック?いや声が違う…

「さっきは油断したでござるが勝てない相手ではないでござるよ

手助け無用!レイ殿はそこで彼女とイチャイチャでもしてるでござる!」

声しか聞こえない

姿は見えないが、台詞からしてロックなのか?

リア充爆発推進してた奴がイチャイチャを推進するってどうしたんだよ…

廃墟の出入口からは何も見えないが、数分間の戦闘中に聞こえてくるのは悪魔の叫び声で途切れると軽く地面が揺れる

「任務完了でござる」

任務って言いたいだけだろそれ

廃墟の出入口に逆光でスリムな黒い影が現れる

ロックかと思ったがやっぱり違う…

姿が確認できるくらいの距離まで来ると、ロックと同じ忍者の格好をしているが

見た目は古い少女マンガに出てくるようなキラキラした男

普通にイケメン

古いケド

「誰だオマエ…」

「レイ殿の彼女はあの悪魔のあまりの恐さに記憶喪失にでもなったでござるか?

拙者はロックでござる」

「ウ、ウソやろ!!!!!!!!!!!???????」

「疲れたでござる」

ロックと名乗ったキラ男はドコからかピザとコーラを取り出し食べだした

すると、ボンッて音がするような勢いで太り俺の知るロックの姿に戻る

本人だ…本人だよこれ……

ってか、そのピザとコーラはなんだよ

「マジでロックだったのか…生きてたなんて

俺はてっきり数時間で死ぬモブだと思ってた

いや生きててよかったよ」

死んだように見えたのは忍者だから変わり身の術とかそんなんで回避したのか?

「悪魔の肉は食べられないでござるから無駄な体力を使ったでござるよ

次はピザの具になるものが良いでござるな」

「…しかし、どうして上級悪魔がこんな場所に……

まるで何かをずっと待っていたかのような……」

レイは悪魔の死体を見ながら呟く

レイの悪魔知識としては、上級悪魔は意味もなく行動したりしないと言う

ただたんに人間を殺したり騙したりしたいなら人間がたくさんいる街とかに行けばいい

こんな死んだ人間がいつ来るかわからないような場所にいるなんて

ちょっとおかしいと思わないかい

と言う

俺は悪魔とかいなかった世界だからよくわかんねぇし

レイの世界とこの世界との悪魔も別物かもしれないから

「まぁそういう気分とかだったんだよきっと」

としか言えなかった

死人に口なし、理由は今じゃもうわからない

悪魔のコトが気になりつつも、俺達は気を取り直して廃墟から外へと出る


近くの村を目指し暫く歩いていると、人間の顔くらいの大きさのゼリーみたいな奴らが現れた

半透明な赤やピンク水色黄色緑色とカラフルなゼリー達がプルプルしている

「なんだこれ?」

「スライムみたいだな」

レイはガイドブックのモンスター一部紹介のページを見ながら言った

スライム!?やっぱスライムっているんだ!?

俺の前世界のあの有名なスライムとはちょっと違って、完全に食べるゼリーみたいだケド…

やっぱスライムは定番だよな!!

「スライムは一応魔物の部類らしい

魔力がほとんどなく1番力の弱い存在」

そうだよなそれがスライムだよな

レイの説明にうんうんと頷きながらカラフルなスライム達に近付きしゃがみ込む

このプルプルしてるのが可愛い…触ってみたい……

「しかし、弱い自覚がなく好戦的で敵の口から体内に入り込み破壊するのがこいつらの戦い方だそうだ」

「何それ超こぇえ!!!!!!!?????」

レイの最後の説明を聞いた俺は反射的に立ち上がるが、スライムは俺の顔目掛けてジャンプしてはそのプルプルした柔らかく冷たい身体を押し付けるだけで体内に入ってくる気配はない

「ビ、ビビッた…なんともない

なんか、攻撃されてると言うよりはキスされてるような感じが…」

カラフルなスライム達は俺に群がりジャンプしては身体を優しくぶつけてくる

「ははは、心配しなくても

セリのその小さな口にはそいつらは入れないさ

好戦的と書いている割にはセリに対して、まったく敵意を感じられないな」

「しかし、魔物は魔物

いつ敵意を剥き出しにし襲ってくるかわからないでござる

殺られる前に殺っておくでござるよ」

ロックは双剣を手に取り俺に群がるスライム達に向ける

「やめろよロック

コイツらは何もしてないだろ

魔物だから殺すなんてヒドイぞ

倒すのは自分に敵意を向ける奴だけでいいじゃないか!」

カラフルなスライムをかき集め守るように抱きしめる

ケド、俺の腕をすり抜けてロックに飛び掛かる一匹のスライムが

「敵意があれば倒していいと言ったでござるな?」

ロックの一降りで真っ二つになって地面に落ちた

「…なんで……」

「セリ…言いにくが、そいつらが好意的なのはセリにだけであって

オレやロックには最初から敵意剥き出しなんだ…

敵意より好意の方が強いからオレ達に襲い掛からないだけで、セリがいなかったらそいつらは……殺している」

「…………………。」

レイの言葉に俺は黙り込んで他のスライム達がレイ達に飛び掛からないように強く抱き留めた

俺がさっき言った通り、レイが今言った通り…

敵意があれば倒さないと自分がやられる……

俺には好意的でも、レイ達にとったら敵なんだ……

自分の命がかかってる

俺はスライムを倒したロックを責められはしない

「オマエ達じゃロックには勝てないよ

早く逃げな…もう人間の前に出てきちゃダメだぞ」

カラフルなスライム達を地面に降ろし、行けと身体を優しく押した

たぶんコイツらは自分が勝てるとか負けるとかもわからないくらい弱い存在なんだ…

俺の言葉がわかったのかどうか、カラフルなスライム達はあっちの方へと行ってしまった

「…魔物に好かれるとは、レイ殿の彼女は人間に化けた魔族ではござらんか?

綺麗な容姿に騙されているだけで」

「ロック!セリは人間だ!

変な事を言うな、それ以上言うと許さないぞ」

まだ会って数時間しか経っていないのに、俺のコトなんて全然知らないのにレイは俺を信じて庇ってくれる

もしかしたらロックが言うようなコトだってあるかもしれないのに

俺は自分だからちゃんと正真正銘の人間だってわかるケド…

疑うコトしかできない世界で生きてきた俺にはレイの最初から信じる心が理解できなかった

俺は自分が善人じゃないってコトもよくわかってるもん…

「ちっ早く別れろバカップル」

それが本音だろロック!?

いやバカップルじゃないし付き合ってないし彼女じゃないし俺男だし

ロックは舌打ちしながら話は終わりだと歩き始める

レイと俺も同じように歩き始めた


どれくらい歩いたのかわからないが太陽は沈んで夜になる

今日はここで野宿だそうだ

小さな森の中で簡単なベッドを作ってもらって、普段からこういうのが慣れている2人は食べ物もすぐに用意してくれた

俺?何もやってねぇわ

荷物番くらいしか

ロックに女は足手まといだからとかなんとか言われて

「めちゃくちゃ疲れた~

お風呂入りたいのに、ないし…はぁ」

「これだから女は…風呂に入りたいだの野宿が嫌だの菓子が食べたいだの化粧が崩れただの(略)文句が多いでござる」

風呂以外何も言ってねー

木葉や枝で簡単に作ってもらったベッドに横になって中心にあるたき火へと目をやる

「ほらセリ、魚焼けたぞ」

魚の焼ける良い匂いにお腹が刺激されていた頃、レイが持ってきてくれた

「ありがとうレイ!」

わぁご飯だと飛び起き、美味しく頂く

疲れてあまり食欲がないと思っていたケド、この匂いと美味しさに食欲は湧いてくる

「このお魚美味しい

あ~野菜も食べたいな~」

肉も魚も好きだケド、野菜は食べたくなる好きなんだよなって言うとロックが俺にピザを渡してきた

「ピザは野菜でござる」

「はっ?」

「ピザは野菜でござる」

「はっ??」

ピザは野菜じゃないだろ……

俺はあの野菜の味が、マヨネーズとかドレッシングとかかけないで野菜の味を食べるのが好きなんだ!

「お腹いっぱい」

「もういいのかい?全然食べてないみたいだが」

「いっぱい食べたぞ!?」

「どこがだ、そんなだからこんなに細くなるんだ」

レイに手首を掴まれて折れそうと言われる

でも、俺は確かに細いかもしれないがガリガリじゃないぞ!?

「女のくだらないダイエットでござるか」

「そんなんじゃねぇよ

本当にお腹いっぱいなんだもん」

ロックは女は女はと言うけれど

「それで7日も歩けるとは思えないでござる

ちゃんと食べないと足手まといがただのお荷物になるでござるよ

彼氏に迷惑かけたくないなら食うでござる」

もっと食えと俺の前にピザを重ねてきた

ムカつく奴だけど、なんやかんや良い所もあるのかもしれないって思ってきた

本当にイヤな奴なら足手まといもお荷物も置いていけばいい

ロックは上級悪魔に勝てるくらい強いんだし、わざわざ俺に合わせる必要もない

ロック1人ならもっと早くに近くの村についたかもしれないのに

合わせてくれるってのは良い奴だよな

「ロックも…ありがと

それから面倒くさくて言ってなかったケド、俺男だからな

信じられないって言うなら証拠見せるから」

そう言いながら服を脱ごうとすると、ロックは顔を真っ赤にしてはいきなり鼻血を吹いて倒れた

なんだ!!???

「誰にでも裸を見せるとはとんだビッチ……」

裸っておい…まだ鎖骨しか見えてないぞ……

大丈夫かよ

ダメだなこれは、もう一生信じてくれないような気がしてきた

「恥じらいもなくなってるとは、すでにレイ殿とは…」

「何がだよ!?ねぇよ!?変な妄想すんな!!」

「ははははは」

おいオマエも笑ってねぇで否定しろやレイ!!

まぁいいか、俺が男だって信じてもらうには根気がいそうだしやっぱめんどくさいし

それに普段からたまに女に間違われるコトもあった

いちいち言うのもめんどくさくなって、長い付き合いになる奴じゃなきゃそのまま勘違いしたままでもいいだろってな

そんなコトより今の俺は疲れから凄い眠気に襲われる

今日はたくさん歩いたし、色んなモンスターにもあったし

1日でこんな疲れて、明日から本当に大丈夫なのか心配になってくるほどだ

「オヤスミ、セリ」

俺の様子に気付いたレイはそう言って笑う

「うんオヤスミ、レイ」

眠るなんて1番無防備なのにこのまま寝てしまっても大丈夫なのかと頭に過ぎるが

睡魔に勝てる気がまったくしなくて1番先に負けて眠ってしまった

なんの雑音もしない静かな場所、寝心地は良くないケド

空気が綺麗で風は涼しく暖かい

俺が生きていた世界と違って、この世界は綺麗だ…



-続く-2015/02/21

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