151話『恋も愛も叶う未来』セリカ編

いつも義理の父親は母親に隠れて私を自分の部屋に連れ込む

最初の頃は何かと理由を付けて、躾だと言って私を叩き殴り蹴る

それは痛々しい痣になって何日も残った

私が成長していくと父親は私を女として見始めた

女と言ってもまだ子供の年齢だ

これも最初は際どい部分を触られるだけだった

ただ肌に触れられるだけでも気持ちが悪くて、子供なりにその行動に嫌悪を持つ

私が嫌がると父親は暴力で私を言いなりにさせる

だんだんとエスカレートしていって、指を入れられた時にたがが外れたのかそのまま犯された

痛かった…気持ち悪かった…悲しかった…辛かった…苦しかった…

憎くて怖くて

汚かった……

私は私が酷く汚い人間になったんだと絶望した

何度も殴られ犯され…そんな日々が続く

殴られたら痛くて、それが嫌で気持ち悪いのを我慢した

機嫌が悪い日は皮膚が裂けて血が出るまで棒で殴られる

その後はいつも通り犯される

身体中の全て…綺麗な所なんてもうどこもない

どれだけ繰り返してきたのか

長かった私の子供時代…トラウマ時代


大人になったのに、私は…この男に逆らえる身体ではなかった

父親の部屋に連れ込まれた私は突き飛ばされ馬乗りにされる

「や、やめてください…私は…もう」

「黙れ!」

怒鳴られると身体が竦む

「大人しく言う事聞いてろ」

機嫌が悪いようだ

私の顔を力一杯叩き、口の中を切ってしまう

頬が痛い…口の中に血の味が広がる

こんなに痛いの他にない…

殴られるコトへの恐怖が痛みを増して、私は身体に力を入れて耐える

父親は乱暴に私の服を剥ぎ取った

父親が私の中に入って来るのを感じると、私は過去の全てが鮮明に感覚すらも走馬灯のように流れ込む

鮮明に思い出させる記憶の中には様々な苦痛に耐えた日々

あのコトもこのコトもそんなコトまで

忘れていたけれど、気になる男の子がいて

その子の前で犯されながら告白を強要されたコトもあった…


痛いのが嫌だから大人しく気持ち悪いのを我慢して終わるのを待つなんて

惨めだ…死ぬほど……

いつも…いつも…こんなの慣れるワケない

嫌なものは嫌だ、気持ち悪いものは気持ち悪い

怖いのは怖いよ

痛いのも…何もかも……生きてるコトが…辛い

あぁ……そうか……私……気持ち悪くて汚い


流れるように襲ってきた過去のトラウマの日々がもう一度何年にもかけて味わったような気分だ

気がついた時には父親はいなかった

あぁ…汚いのが…残ってる……

私は破けた服で身を隠し、外へと出た

少し離れた場所には物事つく頃の子供の私とイングヴェィがいた

あの頃の私はまだ義理の父親に何もされてないハズ…

お気に入りのキリンさんのぬいぐるみを大事に抱いて…

そんな子供の私にイングヴェィは優しく微笑みかけた

「これで……いいんだわ…」

イングヴェィは何も知らない、綺麗なままの私を見ていて…

その私なら、イングヴェィに相応しい素敵な女性になれる

愛される資格のある私…

私はわかっていた…

過去を変えるってコトは今の自分がなくなるってコト

殺された人を助けるコトとは違う

だんだんと消えていく自分の身体を確認すると、視界まで霞むようでよく見えない

小さな私…もうこれで大丈夫、貴女には幸せな未来しか待ってない

イングヴェィは必ず貴女を幸せにしてくれる運命の人だから

だから…だから…大丈夫……安心してね

瞬きをすると涙が零れ落ちる



うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!

嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!!

私だって、幸せになりたかった!!

ずっといつかは幸せになれるって信じて、だから耐えて生きてきたんだ!!!!

それすらも私は許されないのか!?願うコトすら無駄なのか!?叶うコトなんかないのか!?

こんなの、こんなの…………

憎しみと苦しみと悲しみの中で死にたくなんかない!!

私だって、救われたかった…助けてほしかった……守られたかった…ずっとずっと……

いつまでも、待ってたのに……

だけど、私にはもう運命の人もいない

私は…

「さよなら…私の……王子様…」

私は短剣を引き抜き、目を閉じて自分の首へと刃を当てる

何もしなくても存在が消えていく私は、もう生まれ変わるコトもない

だって、これからの私はそこにいる子供の私になるのだから

それでも私が最後に自分が生きて決めたコトをしたかった

自らの手で死を…

死にたくなかった…生きたかった…

幸せになりたかった…な……

「セリカちゃん!?」

イングヴェィの声が聞こえたと思ったら私の手の中にあった短剣が奪い取られる

短剣を捨て、イングヴェィは私を強く抱き締めた

「あっ…最後にさよならしてくれるの?

ありがとう…イングヴェィ…

でも、私はもうイングヴェィの運命の人じゃな」

否定を消し去るように、イングヴェィは私の口をキスで塞ぐ

………はじめて…だった……

愛のある…キスは……

あんなにも誰かに触られるのが、気持ち悪くて汚いと感じていたコトが

「…イングヴェィ?」

涙が溢れるほど嬉しいなんて思ったコトはない

「俺の運命の人はセリカちゃんだけなんだよ!?」

「うん…だから、子供の私が成長したら」

「違う…セリカちゃん…違うんだよ

俺ね…わかったんだ

俺が幸せにしたいのは、今この腕の中にいて目に映る君だってコト」

イングヴェィは私を腕の中に閉じ込めて、その瞳には私だけを映していた

「……私…」

言葉が出ない…イングヴェィは…こんな私で良いって言ってくれるの?

「俺はセリカちゃんを必ず幸せにするって誓ったよね

君のコト、救いたいんだ、助けたいんだ、守りたいんだ

信じて、俺を…セリカちゃん、もう何にも君を傷付けさせないから」

「私…こんな…私……

さっきも…父親に犯されたばっかりで

こんな穢れた私…

イングヴェィには相応しくない……」

思い出しただけでさっきのコトに吐き気がする

まだ感覚も残ってる…汚い…感触も、臭いも味も…全て私を穢してる

「セリカちゃんのコト、大好きだよ

過去も含めてどんなセリカちゃんも、今の君を俺は愛してる」

イングヴェィの言葉に…心が少しずつ晴れていくような気がする

いつも…いつも大きくて深くて綺麗な恋と愛を、イングヴェィはくれる

どんな私でも…愛してくれる……

こんな私でもイングヴェィは…私を…?

「それに君がさっき体験したコトは過去のトラウマに過ぎない

影が君を苦しめたんだね…」

でも服が破れてるって言おうとしたら、私の服はどこも破れていなくて乱れてもいなかった

トラウマ…あんなに鮮明な感覚まで…あれがお守りが壊れて力を増した影の呪いだって言うの?

見事に私を追い詰め自殺に追い込んだ

イングヴェィに止められて私は生きてるけど

「だからね、セリカちゃんそんな顔しないで」

イングヴェィはまた私に優しいキスをしてくれて、いつもの私が大好きな太陽みたいな笑顔で照らしてくれる

「わかってくれるまで何度だって伝えるから

俺は目の前の、君が、セリカちゃんが大好き!死ぬほど愛してる!」

イングヴェィの明るい笑顔が…私に憑いた影を押しのけて

私は……嬉しくて…嬉しくて…幸せで……

泣きながらも照れてでも、イングヴェィに笑顔で伝える

「私も…イングヴェィが大好き」

やっとわかった

この気持ちが何なのか、私はずっとずっとイングヴェィのコトが大好きで

貴方に恋をしていたんだ

その恋に気付くと、私の心にぽっかり空いた隙間がなくなったコトで影は完全に消滅した

もう辛くない

過去のコトは消えないし忘れるワケでもない

でも、またトラウマに苦しめられても

イングヴェィがいてくれるから

私はもう大丈夫

「うん、嬉しいセリカちゃ」

「イングヴェィ!大好き!大好き…イングヴェィ」

イングヴェィが私の名前を呼ぶ途中で私はイングヴェィに抱き付いた

「セリカ…ちゃん……嬉しい、けど……恥ずかしくて……どうし…よう」

するとイングヴェィは身体を固めて顔を真っ赤にした

体温のないイングヴェィは熱が上がるコトはないけど、その顔はこれでもかってくらい赤く私を好きな気持ちが溢れている

イングヴェィは自分からはめちゃくちゃ積極的だけど、私から来るとかなり弱かった

私からの好意が慣れてないからって言い訳までして緊張しまくりだった

「イングヴェィにキスしてもらいたいって言っても…恥ずかしくて出来ない?」

急にメスの顔をする私

「…………。」

あれイングヴェィ息止まった?

「……セリカちゃんってセリくんなんだね…みんながセリくんのコト小悪魔って言ってるのがわかった気がする…」

まぁセリくんは私だからね

でもセリくんは小悪魔ビッチだけど、私はビッチじゃないからね!!イケメンは好きだけど!!

「セリカちゃん…」

イングヴェィが私の肩を掴む手が緊張で震えてるのが伝わる

私が目を閉じると、間が長かった…

そのうち私の唇にイングヴェィの唇が触れる

慣れてないぎこちない短いキス

恥ずかしさのあまりに私達は離れてしまう

お互い顔を真っ赤にして

心臓が死ぬほどドキドキする…これが好き…?

私にも……恋ができた…

さっきはその場の雰囲気や勢いがあったけど

こ、この恋人同士…って雰囲気では

恥ずかしくて照れすぎて…無理……って思っちゃう

お互いの顔が見れないくらい暫く俯いたまま沈黙が続く

「あっ…そろそろ…帰りましょうか」

沈黙すら耐えられなくなった私は短剣を拾い腰にある鞘に収める

ごめんね…イングヴェィが私の身を守るためにくれた短剣を自分を殺すために使おうとした私を許して

「そ、そうだね…」

………シーン

どうやって帰るの!?

「そういえば、天使が時間が来たら帰れるとか言ってたかも…」

イングヴェィは天使からの説明を思い出して口にする

私は影の影響で話を聞く余裕はなかったわ

「んー…そうだ、時間が来るまでセリカちゃんの前のこの世界でデートしようか」

「えっ?でも…この世界には嫌な思い出しかないから…」

イングヴェィは私の手を掴む

「だからだよ、最後に良い思い出に塗り替えよう

俺じゃ…無理かな?」

太陽みたいな笑顔に曇りが過る

そんなコトない…好きな人と一緒ならどんな場所だって……良い思い出になれる

こんな…私を殺した世界ですら

きっと

「ううん…イングヴェィと一緒なら」

私の言葉を聞いてイングヴェィの顔は晴れたようにパッと明るくなる

私の手を掴み引っ張って、私を街へと連れ出してくれた


デートと言っても、この世界のお金を持っていなかった私達はショップを見て回るくらいしか出来なかった

それでも、私はイングヴェィと一緒に…デートするコトが何よりも嬉しかった

「この服、セリカちゃんにとっても似合いそう」

ショップに飾ってあるマネキンが着ている服を見たイングヴェィが指をさす

「可愛い!私の好きな感じの服だわ」

イングヴェィは私の好みも似合うものも完璧にわかっていた

服とは奥深く難しいものだ

どんなに可愛い服と思っても試着すると、自分に似合わないってのはよくあるコト

店員さんが着ててカッコいいから可愛いから自分も着たいってコトがあったんだが

試着すると死ぬほど似合わなくてショックを受けたコトもあった

身体のラインや雰囲気もあるんだろう

それでも、自分は好みのものが似合う方だったからラッキーなのかもしれない

「セリカちゃんはこっちより、こっちの方が凄く似合って可愛いよね」

イングヴェィはお姉系より、クラシカルガーリー系のファッションが似合うと言ってくれる

「色合いは淡い方が凄く可愛い、パステル色を見るとセリカちゃんを思い出すくらいね

とくにピンク色はセリカちゃんのイメージかな」

褒められて…凄く恥ずかしくなる…

ピンクも私の好きな色だし…それが似合うって凄く嬉しいな

「帰ったらたくさん買ってあげるね

セリカちゃんの似合うものたくさん買って、その可愛いセリカちゃんとたくさんデートしたいもん」

も…もう…イングヴェィは恥ずかしいコトをペラペラと…

イングヴェィからしたら素直に出た言葉だから、褒めようと思ってしてるコトじゃないから恥ずかしくないんだ…

嬉しいけど照れちゃうから…

ショップを見て回っていると、お腹が鳴る

やっ!?恥ずかしい…お腹空いて鳴るなんて…死にたい

「お腹空いたね、何か食べたいけど」

外に出てイングヴェィは困ったなと考えてくれる

この世界のお金を持ってないからどうしようもないわ

「いいよ、我慢できるわ」

「お金持ってそうな人から貰おうか

命が惜しかったら金を出せって脅して」

「やめて!そんなお金でご飯食べたくないわ!」

アハハとイングヴェィは笑う

普段は悪いコトしないけど、私のためなら何だってやるイングヴェィは本当にやりそうで怖かった

「あっラッキー」

何かを見つけたイングヴェィは一瞬だけ離れてすぐに戻ってくる

その手にはアイスの棒を持っていた

「新商品のアイスを無料で配ってたよ」

たまにあるやつね

イングヴェィは私を近くのベンチに連れて座らせてくれる

「北海道生クリーム使用のバニラアイスクリーム!?めっちゃ美味しそう!」

北海道って書いてるだけで絶対美味いって思う不思議

イングヴェィはアイスクリームの包装を剥がして私に渡してくれる

「1つしかないから半分こしようね!」

「俺はいいよ、お腹空かないからね」

イングヴェィは人間じゃないから空腹を感じるコトがなかった

何か食べたりして美味しいとか不味いとか感じるコトは出来るみたいだけど

「でも…」

「ほら、早く食べないと溶けてきてるよ」

アイスの棒の部分を持っていると、そこまで垂れて来ていた

慌てて私は溶けてる部分のアイスを舐めとる

うーん!やっぱり美味しい!北海道バニラ!!

これは半分食べたらイングヴェィにも食べてもらいたいわ

私はアイスの先の部分を口に含める

この溶け具合が1番アイスクリームは美味しく食べれると思う

美味し…

「やっぱりダメ!!」

急にイングヴェィが私からアイスの棒を奪った

「えっ!?なんで!?」

「な…なんでも……」

イングヴェィは顔を真っ赤にして私から視線を逸らす

「セリカちゃんって…天然な所あるよね…無防備と言うか…」

私は天然じゃないわ

そんなコトよりイングヴェィの持ってるアイスの棒が溶けて垂れて…あぁ勿体ない…

お腹空いたなぁ……

「イングヴェィの意地悪…ほしいって言ってるのに……」

「う、うーん……セリカちゃん…そんなコト言わないで

俺が悪かったよ

セリカちゃんは何も悪くないのにね」

そう言ってイングヴェィは私の頭を撫でてくれる

そしてまたアイスを渡してくれたから私は喜んで食べた

その間イングヴェィは私の方を見なかったけど、なんでだろ?

食べ終わるとまたイングヴェィが頭を撫でてくれて笑ってくれる

「帰ったら美味しいもの食べようね」

何食べようかな!!

ふと、私は近くのショーウィンドウに飾られたウエディングドレスへと目が奪われる

懐かしいな…この世界では叶わなかった

私はずっと、これに憧れていた

素敵な…可愛いお嫁さんになりたかった

ウエディングドレスが似合う花嫁さんに…

幸せに…なりたかった

なれなかったけどね、なれずに死んじゃったもの…

「……セリカちゃん…」

「さっ行こっか!まだ遊び足りないわ」

私は見ないようにした

悲しくなるから…この世界はやっぱり辛いコトをたくさん思い出しちゃう

「なれるよ、セリカちゃんのなりたかったもの

いつか俺が必ず叶えるから

昔の俺ならすぐにでも!って自分本位に先走っちゃうけど、それは早すぎるってわかってる

セリカちゃんと一緒にこれからも

ベストなタイミングで叶えたいから

だから、もう目を逸らさなくていいんだよ

君だって幸せになれる

俺が幸せにするって君に誓ったよね」

どんなコトもイングヴェィは、真剣に私を想ってくれる

なかった私の夢、叶わなかった姿

今度は、なれるって…叶うって…約束してくれる

イングヴェィの約束は私を笑顔にする

絶対に守ってくれるから

諦めなくていいんだ

私は夢を見ていいんだ

叶えたい願いがあっていいんだ

幸せになれるコトを許されるんだ

やっとやっと……長かった…運命に

「…うん……イングヴェィ……」

イングヴェィが私の手をすくい上げる

その指にキスをしてくれて、私は未来の幸せを夢見て涙する

こうして大好きな人と…デートしたかった…

街にいる幸せなカップルみたいに…私もそんなコトがしたかった

それをイングヴェィは叶えてくれる

ありがとう…イングヴェィ…

いつも私に…恋をしてくれて…

こんな私を…愛してくれて……


それから私達は夜までデートを楽しむ

そんな道の途中で捨てられている本の束が目に入った

その1番上にあった本は私が幼い時に大好きだった王子様のお話の絵本

懐かしい…この物語…

私の手を掴んでくれるイングヴェィの手を握り返す

この過去に戻る前は、もう二度とこの手を握るコトは出来ないと思っていた…

過去の自分をイングヴェィに相応しい女性にするために、今の私が消える覚悟だったから

私は…過去の幼い自分を犠牲にしたんだ

自分が救われるために…

幼い私がこれからどんな地獄を生きていくか、私は知っているのに

私は…イングヴェィから手を離そうとした

「…俺はセリカちゃんの運命の人だよ」

だけど、イングヴェィは私の手を強く握って離さなかった

私のコトならなんでもわかるイングヴェィ

私の考えてるコトも不安も嫌なところも…何もかも

「幼い君には、未来で出逢うのを待ってる俺がいる

君の考えは未来の俺を消すってコトなんだよ

今の君が消えてしまったら、未来の俺が消える

そんなコト…しないで

未来の俺だって、君に会えない運命なんて死んでも嫌だよ

大好きな君に会いたいから、だから……」

やっぱり…私は自分のコトしか考えていなかった

イングヴェィの悲しくて強い想いが伝わる

「うん…ごめんなさい……」

私の零れる涙をイングヴェィが拭ってくれる

「そうだ、ちょっと待っててねセリカちゃん」

イングヴェィは捨ててある本の束の紐をほどき絵本を取り出す

「まだ綺麗だね」

捨てられていた絵本は新品に近い形でとても綺麗だった

それを持って、イングヴェィは幼い私に会いに行こうと言う

この時、私は思い出した

あぁ…そうか、私…ずっとこの絵本を拾ったと思っていたけど

本当はイングヴェィから貰ったんだ…

もしかしたら、イングヴェィがこの行動を取ったコトで私の記憶が変わっただけなのかもしれないけれど

私は離れた場所から2人を見守る

幼い私にイングヴェィは絵本を渡す

王子様の絵本…お姫様を助けに来る王子様の…私の大好きだった絵本…

ずっと夢を見ていた…憧れ

「君の未来には必ず王子様が現れるから

大丈夫…大丈夫だから

待っててね…迎えに行くよ」

未来の俺が必ず…

イングヴェィは幼い私の頭を撫でる

その表情はとても辛そうに、でも精一杯笑って泣きながら

どんな辛いコトがあっても…待っていたら、救われる日が来るから…

あの絵本は…いつか義理の父親に破られてしまう

けど、私の心にはずっと王子様がいる

それだけは……誰にも壊されない

そして、イングヴェィは私の所へと戻ってきてくれる

「運命がもっと早くに引き寄せてくれればよかったのに…

ごめんね、セリカちゃん…助けてあげられなくて

君の過去に俺がいなくて…ごめんね…」

イングヴェィは涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠すように私を抱き締める

「ううん……いいの、いつか報われたらそれでいい

未来の、今の私は幸せだから…いいの」

大丈夫…過去の私、未来を信じて……

幸せになれるって…信じて…

イングヴェィの背中に手を回して抱き締め返す

大好きな人、恋をして愛して、幸せを感じる

いつかそんな日が来るって信じた私

ちゃんと…そんな日が来たよ

だから…大丈夫……



少しして私達は時間が来たみたいで、気がついたら元の世界に戻っていた

元の世界は時間が経っていないのか、私の部屋には過去に行く前と変わらずの天使が立っている

「上手くいったみたいだね」

私の顔を見ただけで天使はわかったのか、憑き物が落ちたようだと笑う

「おかえり、セリカちゃん」

天使が両手を広げて私を迎える

約束した通り、私は天使にただいまと抱き締める

「やっぱりイングヴェィはセリカちゃんを助けてくれたね

ありがとう、イングヴェィ」

天使は全部わかっていたんだ

私が自分を消してまで違う自分になろうとしたコトも

それを天使も許さなかった

イングヴェィなら必ず私を助けてくれるって信じてる

私より…天使はイングヴェィを信じていてくれた

「やっぱり、セリカちゃんを幸せに出来るのはイングヴェィだけ!」

天使は私をぎゅっと抱き締めて頬ずりする

もしかして天使の大切な人の旦那様になる人って……

「こちらがお礼を言うコトだよ

過去は変えなかったけど、天使のおかげで本当の意味でセリカちゃんを救えたんだ

ありがとう天使、セリカちゃんの幸せを願ってくれて協力してくれて」

「うん!大好きなセリカちゃんが幸せになるためならね」

……私、変わらなくてよかった…

私が私でよかった…

もし過去を変えてしまっていたら、この現実もなかったコトかもしれない

私が変わったらセリくんだって変わってしまう

失うコトになっていた

失いたくない、今の大切なもの

「それじゃあ…俺はこれで」

天使は私から離れるとドアへと手をかけて振り返る

「2人っきりにしてあげる」

クスッと天使は笑った

「「ちょっと待って!?」」

イングヴェィと私は同時に天使を引き止めた

「今2人っきりにされたら恥ずかしくて死んじゃうわ!」

「両想いになれて死ぬほど嬉しいのに、緊張しすぎて心の準備が…」

テンパるイングヴェィと私に天使はえー?っと困りながらも笑う

「もう、こっちの2人も仕方ないな~」

天使がいてくれて、やっと私はイングヴェィと一緒にいられるけど

こんな恥ずかしくて緊張するって…付き合うコトになったらどうなるの!?

恋人同士になるって……考えただけで、私にはまだ早いわよ……

そ、それに……イングヴェィと恋人になったら…セリくんがあの3人といつもしてるコトだって……?

するって……コト…だよね……

死ぬかもしれん

ど…どうしよう……

セリくんに出来て私に出来ないコトなんてないハズなのに、私出来る気がしないよ…

ま、まぁまだ…だし

まだ付き合うとか恋人になろうとかそんな話出てないから、心配するのは早いワケで……

ま、まだ…大丈夫……いつも通りにしてればいいのよ

ねっ…

そんなこんなで、私は影が消滅してその支配から解放された

もうトラウマに殺されるコトはない

なくなったワケじゃないから、思い出すコトだって苦しくなるコトだってあるでしょう

でも、もう大丈夫

隣には大好きな貴方がいるから

いつだってその笑顔が私を笑顔にしてくれる

私が隣にいるイングヴェィを見上げると、イングヴェィは赤くした顔で太陽みたいな明るい笑顔をくれる

私の、運命の人…永遠の恋人…

貴方に恋をして、愛して……

私ははじめて幸せを知った



-続く-

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