135話『特別な関係』セリ編
香月が俺を連れ出してくれる
それは俺が楽になりたいだけの甘えだった
そんなコトわかっている
でも、少しだけこの時間がほしい
香月と一緒にいたい…愛しい人の隣に
血を流しすぎて弱っているのか、心の弱さが露わになっていく
手を引かれている途中で俺の意識はぐらりとして消えてしまう
次に目が覚めた時、どこかの知らない部屋…たぶんどっかの宿なんだろうけど
すぐ近くに香月の姿がある
夢じゃなかったんだ…もしかしたら俺が現実逃避してたのかと思った
体調は寝たらマシにはなったが、一晩で良くはならないな
「無理はしないと約束したのに」
「うっ…ごめん……」
香月に言われると、大丈夫だから!心配ないから!!とか威張ってた過去の俺が恥ずかしい
みんなに心配かけないコトが条件なのにな
「イングヴェィはどうしました」
「色々あって……あっ!?ヤバ!!早く戻らねぇと」
レイのコトだから俺を捜してるだろうし、あまり長くレイから離れるとまずい
最近落ち着いてるのにまたメンヘラこじらせられたらたまったもんじゃないぞ
急いでベッドから降りると足がもつれて転けてしまう
なんて恥ずかしいの…
「まだ動ける身体ではないでしょう」
香月に手を貸されて俺は思うように動かない身体でも無理に立ち上がる
「そうだけど、行かなきゃ…」
レイの傍にいなきゃ…すぐに…じゃないと
大きく重たい不安と焦りに襲われる
「急ぐ理由は」
行かせないと香月に強く押されてベッドに腰掛ける形に
気持ちは焦っているが、目の前の香月はどいてくれそうにはない
俺は話すコトにした
何故、俺がすぐ戻らなきゃいけないのかを
「何故、その選択をしたのですか…」
香月は遠くには俺を連れ出さなかった
きっと香月には俺のこの後の選択がわかっていたから
俺は香月と離れてからあった出来事を話した
主にレイのコトしかないんだけど
その話を聞いて表情のない香月が呆れているのを感じるくらい俺はバカな選択をしたと言われてるようだ
「わかってる!わかってるよ!?
でも、俺はレイを受け入れる覚悟を間違いとは思っていないんだよ」
「それは私も間違いとは言いません」
あれ、呆れた割には意外と肯定してくれるのか?
「セリは私とあの男を受け入れたのですから」
あ、あぁ…そういう
もしかして俺、香月にまで誰でもなビッチと思われてる?
「いやいや!受け入れると言っても恋人にとかじゃなくて
だからかな、距離感がわからなくて
レイとの仲に失敗するのが怖いんだ
俺の言動でレイが変わるのも…俺の周りを危険にさせる
頑張ろうって前向きになれる時と、不安になったりして潰れそうになったり」
勇者の剣が折れてしまって、引きずられるように俺の心も折れそうになった
脆い心…
香月が現れなかったら死んでたかもしれない
「ま、まぁ魔王の香月にはこういう人間の気持ちとかわからないから話しても困るよな」
無理に笑って誤魔化す
「そうですね、私にはわかりません」
知ってる
たまに寂しくなる…もっと香月に俺をわかってほしいって
ワガママだよな、でも大好きだからワガママになる…
「辛いも苦しいも悲しいも、私にはわかりませんが
セリは今そうなのだと言う事はわかります」
香月は俺の肩を引き寄せそのまま抱きしめる
「その時はこうするとセリはいつも」
香月の温かさに…胸に沁みて
泣きたくなるくらい込み上げて来るのに、でも
「笑ってくれる」
香月の言う通り、心が軽くなったような気がするんだ
あぁ…そうだ…そうなんだ
香月は感情のコトがわからなくても、こういう時はどうしたらと言うのが長い年月をかけて
俺をわかっている
優しくない時もあるけど
香月はいつも…何度生まれ変わっても、俺を愛してくれてる……
「香月…俺は、そうしてくれるだけで十分」
顔を上げて香月の顔を見る
「また頑張ろうって思えるから」
最高の笑顔だってこぼれるから
やっぱ俺ってめっちゃ単純なんだ!?
香月に抱きしめてもらうだけで、嫌なコトとか不安とか吹き飛んで
前を向ける
これが愛の力?なんて
「……あっ」
香月の口元が少しだけ緩む
「えっ、香月…」
目元もいつもより優しい
「もしかして笑ってる!?凄い貴重!!香月の笑顔なんて…ヤバい!好き!良いよ!素敵だよ!!」
俺が言うと香月はまたいつもの無表情に戻る
「なんで!?好きって言ってるのに、もっと笑えよ~!?うー!!」
香月の頬を摘まもうとしたら手を掴まれ阻止される
まぁいいか、無理に笑わせるなんてダメだもんな
もっと見たいけど
「不完全な復活は私を未熟にさせるようです」
「今まで子供時代とかなかったんだ?新鮮じゃん」
「この姿ははじめてです」
子供っての認めたくないんだ
そっかーそっかー、香月の子供の頃は少しだけ表情がある
大人になったら一切の感情がなくなるのか
どっちの香月も好き!!
笑顔の香月も好きだけど、笑顔のない香月も大好きだから!!
それくらいで俺の愛は変わったりしないぞ
「たまには子供時代を満喫するのもいいと思うぞ
青春!今しか出来ないからな!俺はもうなかった青春が過ぎたけど」
「子供扱いはやめてください
私はセリより年上です」
えっそうなの?
最初の最初から同じ頃に生まれたのかと俺は勝手に思ってたけど…
香月はあんまり自分のコト話さないもんな…
俺は自分の恋人の知らないコトが多い
知りたいと思わない俺だから聞かないしみんなも話さない
それに不満はないけど
知る方がいいのか知らない方がいいのか…
今のままで2人とは上手くいってるからいいと言えばいいのかもしれない…のか?
「話は変わるけど、香月は俺のコトもっと知りたいか?」
逆に聞いてみよう
好きな人のコトならもっと知りたいなんて意見も世の中にはあるもんな
俺は別に…ってもしかして愛のない奴??
「セリが話したくない事は聞かないので」
……そうだ…俺、香月には昔のコト話したくない
知られたくないんだ…
きっと、知ってると思うし気付いてるとは思う
長い生まれ変わりの中で完璧に隠し通すってのは難しいだろう
「セリが話したいなら知りたい、話したくないなら知りたくはありません」
ベストな答えで、俺は香月がやっぱり大好きだって思う
そうだ、そうなんだ
俺もそうだった
話してくれるなら聞くし、話そうとしないなら聞かない
知らないコトがあったって、好きであるコトには変わりないのだから…
「嬉しい…って、変な話しちゃって悪い
もう元気が出たから行くよ」
体調はすこぶる悪いが、気持ちが満たされてるからもう大丈夫
「さっきも言ったけど、これ以上はレイが心配だから」
「私も一緒に行きます」
俺が出発の準備をしていると香月は予想外の言葉を口にする
「えっ…香月はあの魔族を追うんじゃ」
「あれはセリを狙っていますから、一緒にいればそのうち会えますよ」
「確かに、でもダメだ!!香月が一緒にいたら拗れる!!」
「そうでしょうね」
もう遅いですが
そう香月の呟きとともに部屋のドアが破られる
俺はビクッとしたのに香月は少しも動じない
「セリ、こんな所に…」
レイは俺の姿を見ると駆け寄る
もう見つかった…ってか、よく見つけられるな
「レイ…ちょっと休んでて、すぐに戻るつもりだったんだ」
刺激しないように落ち着いてと言わんばかりに言い訳をする
なんでこんな気を使わないといけないんだ??
「香月さんと一緒だったのか」
香月が中学生くらいに幼くなったコトには触れないのか
姿が幼くなったところで魔王の気配、雰囲気、オーラ、その他感じるものはほかにない
誰もが香月を見て魔王とわかる
「あの名無しの魔族と戦った時に香月に助けられたんだよ
だから、俺がこうして無事なのも香月のおかげで…」
「………。」
恐いんだけど……この張り詰めた空気
香月はレイのコトなんて相手にしないって態度だし
それが逆にレイの癇に障るみたいだ
このままじゃ良くない方にしかいかない
なんとかしないと、でもどうしたら…
どっちかに肩入れなんて出来ない
この場を納めるには
「暫く、3人で行動しよう!!」
「はっ?無理」
すぐレイに拒否された
まぁまぁ最後まで聞けって、そんなの普通じゃ無理だって俺にもわかってる
「聞けレイ、あの魔族は俺の勇者の剣を折った
つまり勇者の力が通用しない何かに守られた魔族なんだ
そして、魔族は勇者にしか殺せないと言われてるけど
当たり前だけど魔王の香月だって魔族を殺すコトが出来る
魔族は魔王を殺す力はないけどな
レイと今の俺2人じゃあの魔族を倒せないってコト
香月と一緒じゃなきゃこの先厳しいんだよ」
「勇者の剣が折れた…?」
さすがのレイもその事実に眉をひそめる
俺自身は死ぬほどショックなんだけど
勇者の剣はあの魔族を攻撃するコトを拒んだ
俺があの魔族と対立し剣を抜く可能性がある限り、勇者の剣は元に戻らないだろう
だから、香月があの魔族を倒せば勇者の剣が復活するかもしれない
俺は自分が殺されるのも嫌だけど勇者の剣を復活させたい気持ちは強い
永遠にずっと最初から俺の傍にいてくれた唯一の存在だから
これからも俺と一緒にいてほしい
「確かに…セリの言う通り、オレじゃ魔族を倒せない…
香月さんと行動するのが1番良いとわかる」
「わかってくれるか!?」
話せばわかってくれるレイが成長したな~って、なんだか嬉しい
一度は関係が拗れたけど、このまま良い流れになってくれれば
レイは俺の腕を強く掴むと自分の方へと引き寄せる
「あの魔族を倒すまで香月さんと行動するよ
しかし、部屋は別にしてもらう」
それは…たぶん、レイが俺の腕を掴んでるってコトは
香月1人、レイと俺の2人って意味?…だよな
レイの気持ちを考えると、香月と一緒の部屋とかそりゃ無理だってわかる
俺がレイの立場だったら嫉妬で狂って殺害してしまうわ
本当なら2人が一緒に行動するってコトがないようにするのがベストなんだが
今回は敵が敵なだけに難しい話だ
「3人別々の部屋でいいんじゃ…」
俺の立場からしたら、恋人の香月と別の部屋で他の男とっておかしいだろ
香月はそんなの気にしないだろうけど
「それは聞けない」
「じゃあ一晩交代で」
「聞けない」
ワガママかオマエは!!!??
俺が困っているとずっと黙って見ていた香月が口を開く
「いいですよ」
そして香月は部屋から出て行ってしまった
静かに…
すぐにわかった、香月は俺が困っていたからこうすれば場が収まるって
その香月の気遣いに申し訳なく思う
俺は大好きな人にその選択をさせてしまう
レイと一緒にいるコトは正しいコトなんだろうか…
ここまでして、レイを見捨てられないのは俺がダメなんじゃないんだろうか
愛情と友情は違うハズなのに、その狭間が揺らいでいる気がする
レイにとって…俺の選択は正しいのか
レイはこんな俺でも一緒にいて幸せなのか?
「痛いよ…レイ」
強く掴まれるレイの手が離れる
レイに掴まれた腕を見ると赤くなっていた
「すまない、セリ…」
目が合わせられない
せっかく…少しは前みたいな関係に戻れるかもなんて期待したけど
ダメだ…こんなの、しんどいだけじゃん…
好きな人から離れなきゃいけないなんて…嫌だ
俺は香月の傍にいたい
それなら、簡単なコト
レイのコト…切ればいいんだ
「やっぱり…レイと一緒にいるなんて、出来ない……」
苦痛に感じて楽になりたかった俺がその言葉を口にすると、レイに押し倒される
「じゃあ殺す」
反応が速い、レイは俺がそう言うって薄々感づいていたのか
ナイフを目の前に突きつけられる
何度も殺されかけた
それでも俺はここまで生きてきた
今回こそ本当に殺されるかもしれない
それでも俺は、自由じゃないのは嫌なんだ
誰かに縛られるのは嫌だ
「殺せるか、レイに俺を」
「何度か殺したオレに聞くのかい
もう人間じゃないオレならセリの生まれ変わりに付き合える
今殺してもまた次があるってわかってるんだ」
確かに、取引にもならない俺の言葉なんて
わかってるけど俺は自分でも驚くほど冷静だった
この人生で死にたくない、死ぬワケにはいかないって思うコトもたくさんあるのに
それでも、このままズルズルとレイとの関係を続けても何も変わらないって気付いてるから
「次がある?ないって、わかってるのはレイだろ
オレは前世の一度もレイを受け入れなかった
これからだって俺はレイを受け入れない
オマエのコトなんて、大嫌いだからだ
何度生まれ変わっても、俺は香月を選ぶ
レイは香月にはなれない」
レイの向けるナイフが震えて見える
頬に温かいものがこぼれ落ちるのを感じて、目の前の表情が崩れていった
「知らない…知らない…
セリがオレを受け入れなくても」
はじめて見る…レイの感情が爆発した姿
「セリの気持ちなんて知らない
何があっても……一緒にいたい…」
押し付けられて、ワガママで、自己中なのに
その姿が素直だと感じた
本当に俺のコトが好きなんだって伝わってくる…
こんなに涙を流すレイを見たコトがなかった
確かめたかった
レイの気持ちが知りたかった
無理だってわかってても、それでも俺を愛してるんだ……
レイは俺を殺すコトが出来ない
「何があっても…?」
俺はレイの向けるナイフを掴み顔から離す
視界には何の邪魔もなくレイの顔がよく見えた
「オレから離れるなんて許さない」
レイはナイフを捨てて俺の顔の横へと手を置く
俺はレイに無理させたり我慢させたいワケじゃない
かと言って、レイの要求を全て呑むのは無理だ
俺は前世の一度もレイを受け入れなかった
でも、この人生ではそうじゃなかった
ずっと一緒にいて仲良くなって…大切で大好きな大親友だ
レイがこうなってから…
俺はずっとレイに香月と和彦を会わせちゃいけないって思ってた
こうなるからって…でも
それじゃダメなんだ
香月と和彦に会っても大丈夫なレイとの関係を築かなければ、誰も幸せになれない
俺は、ここでレイを見捨てるなんて…無理だ…
今のレイも受け入れるって決めたんだから……
俺はレイの肩を掴み自分へと引き寄せた
ビックリしたレイの顔を見て目を閉じてキスをする
自分からレイにキスを…
「……っ!?ど、えっ、なん」
なのに、レイは自分に何が起きたか理解するとパッと俺から離れた
「えっ嫌だった?」
半身を起こして笑うとレイはまだ混乱しているような様子だった
「…嫌、じゃないが……」
少しずつ落ちつく度に顔の赤みが増していくのが可愛いとこもあんだなって思った
「俺もレイと一緒にいたい、大好きだから受け入れるよ」
「さっきと言ってる事が違うような…」
「そうだな、意味は違う
レイのコトを恋人としては受け入れられない」
それがレイは香月にはなれないってコトの意味
「レイと俺は大親友だから」
全然わからないって顔をされる
俺も自分で何言ってるかわからん
でも、心はちゃんとハッキリとわかってる
「ならキスするのはおかしいじゃないか
それにオレはキスだけじゃ我慢出来ない…
この先セリと前みたいな関係に戻れるとは思えない」
俺はずっとモヤモヤしてた
レイに恋愛感情はないのに、最初は気持ち悪いと思ったけど
そのうち慣れてきたのかその辺はよくわからないが、レイにキスされるのは嫌じゃないって言うか
気にしなくなった
いちいち気にしてたらしんどいなって
「わかってる、戻らなくてもいい
なんかさ…俺は大親友だからこうじゃなきゃダメなんだって難しく考えて固執してた
でも、関係が拗れるならそんなコトどうでもよくなったわ
レイと俺だけの関係を築けばいいんだって気付いたんだ
じゃないと、レイも俺も不幸だ…」
俺はレイを受け入れるって決めたなら、それだけの覚悟を見せる
譲れないところもあるから、それはレイにもわかってもらいたい
「……嫌じゃないのか、ずっと嫌がっていて
またセリのストレスになって突き放されるのもオレは…」
「んー?まぁそのうち慣れると思う」
自分でも驚くほどケロッとしてると思う
あれだけ嫌だったし気持ち悪いって感じた時もあったけど
なんて言うか、考え方が変わった?みたいな
人は成長する生き物だ
それが良い方か悪い方かはまた別だが、そうじゃないと生きていけないだろ
もう苦しみたくない辛いのは嫌だ
レイは…俺を死ぬほど殺したいほど愛してくれてる
大切な人にそれだけ想われたなら、俺はそれでもう十分だ
レイの素直な涙を見たら、もう受け入れるしかないよ
俺は結局、レイのコトが大好きなんだから
「オレを受け入れる…セリにとって辛い事じゃないか」
「辛くしないでくれよ
俺にも譲れないものはある
香月と和彦と別れろってのはなし、俺の周りの人達に危害を加えるのもなし」
レイは俺の言うコトに頷いてくれた
もっとゴネるかと思ったけど、意外に聞いてくれて助かる
特別な関係ってのが大きいのか
独占したくても無理だってレイはわかってる
それでも、何があっても一緒にいたい
俺の気持ちを汲んでくれて、俺がレイを受け入れるならレイも俺を受け入れてくれるコトになったんだ
レイは…良い奴だよな……
だから、レイだけは特別なんだ
「俺はいいけど、セリカに手を出すのは絶対にダメだ」
「それは話が変わるな、今はセリの話をしているんだぞ」
「こらこら変わってねぇよ!?」
和彦ですらセリカにセクハラはするが一線は越えないんだぞ!?あの和彦ですら!!
ダメ、絶対ダメ、セリカはダメ
セリカは綺麗なままでいてほしい、守りたいあの自分を
セリカがレイを好きになったら話は変わるが、そうじゃない限り絶対ダメ
「セリカの話は置いておいて、香月さんと和彦さんの事は理解するよ
危害も加えない」
俺とセリカを手に入れたいなんて厚かましいなコイツ
「わかってくれるんだ…」
「嫉妬はするさ
でも…セリに沢山酷い事をしたのに、それでもオレを受け入れてくれる
負けたよ…
そこまでされたらさすがに、オレもこれ以上はな」
「レイ…!!」
わかってくれて、仲直り?出来て、嬉しさのあまり笑みが零れる
すると、レイは俺を抱き上げてキスをする
変な緊張はあるが、ドキドキはしない
変わった関係かもしれないが、何と比べるワケでもない
俺達は俺達が納得してる関係を築けばいい
まぁ絶対、和彦に話したら頭おかしいとか言われるんだろうが
そんなのいまさらだろ
オマエに言われたくないし
レイにベッドへと運ばれて、突き放した
「暫くはダメ」
「急に何、この流れでストップはないんじゃないか
香月さんがいるからか?」
レイには話してなかったから話そう
香月が元の姿に戻るまではキスまでしかしない
それからその時は約束してる和彦と香月が先だからと伝えた
「………そういう…事か
はっきり言うんだな、嫉妬する
オレは結局、和彦さんと香月さんの後なんだって」
「いやいやたまたまだって、先に約束してたからって話だぞ
レイが先に約束してたら2人が後だよ」
そうだろうかってレイは疑いの目を向ける
そこは信じてくれよ
「なんならレイも加わる?香月は気にしないし、和彦はその方が燃えるって言うから」
アハハと冗談っぽく笑う
「セリ、死ぬんじゃないか…」
リアルに考えて笑えなくなった
むしろ、あの2人を相手にするのだって命懸けだ
いつもかなりキツいのに、肉体的にも精神的にも
今回溜まりに溜まった2人を相手にするとか、それこそ自殺行為だよな
そこにレイを加えようとか俺はアホなのか
レイのマジな顔がそれを物語っているようだ
「それに」
レイは俺をベッドに押し倒すとそのまま唇を塞ぐ
「今は香月さんと和彦さんの話は聞きたくないな」
レイに抱き締められて、そのまま抱き締め返す
不安なコトもないワケじゃない
こうしてキスは受け入れるコトが出来たけど、いざレイと体の関係がはじまったら
それもちゃんと受け入れられるのか
レイとははじめてじゃないし、回数も重ねればきっと慣れると思ってる
レイと一緒にいるにはそれすらも楽しめるようにならなきゃ
唇を噛まれ、痛いって漏れそうになる言葉ごと押し込まれるようにレイの舌が口の中に入ってくる
痺れるような感覚が全身を巡っていく
ちゃんと応えなきゃ、レイのコト好きなら受け入れなきゃ…
そう思ってたらレイが俺から離れる
「……今夜は香月さんの部屋に泊まるといい」
「…いいの?」
「これ以上は我慢出来なくなるから」
俺から目を反らし行くように言う
レイもまだ戸惑いや迷い、不安があるようだ
それもそうだ…急にこうしようって、難しいよな
少しずつお互いの理想に近付くように時間をかけるコトだ
俺はレイに、オヤスミを言って部屋を出た
香月の部屋に行くと、俺が来るコトはわかっていたかのようだった
「よかったのですか」
「聞こえてた?」
「所々」
全部は聞こえてなくても、なんとなく俺を見ただけでわかると言ったところが香月らしい
「よかった…か、はわからない
まだはじまったばかりだから
でも、いつかはよかったんだって思えるように頑張るよ
やっぱり…俺にはレイのコト、切れなかった
それが答えなんだと思う」
どんなに迷い悩み不安を抱えるのは、それは俺がレイのコトを大切に思っていたからだ
嫌な悩みでも嫌な不安でもない
「香月は…こんな俺おかしいよね」
「人によってはそうかもしれませんね
私は、何も
和彦もセリがレイを切れない事くらいわかっていますよ」
香月と和彦は仲が良いとは言えない
どちらかと言えば悪い
俺を取り合いとかしないし、お互い別にそれは構わないみたいだが
それでも香月も和彦もそれなりにお互いのコトはこうだろうと言うのはわかってる
それが俺はちょっと嬉しかったりする
「2人とも…ダメって言わないから、俺のワガママやりたい放題じゃん…」
アハハと笑いながらも涙が落ちる
香月が香月で、和彦が和彦でよかった
だから俺は大切なものをたくさん持つコトが出来る
2人が恋人でよかった
俺は幸せだ
「セリがセリじゃなかったら、私は愛していません」
香月は俺の頬を包むから目を閉じると、流れる涙を舐めとった
レイと間接キスは嫌だったと…?
「それは…嬉しい告白だ
俺も香月だから大好き、魔王が香月じゃなかったら」
言葉を封じられるかのように香月の唇が重なる
ドキドキする…レイとは違う…
触れるだけのキスだけでも立っていられなくなるくらい
「私が魔王じゃない事などありえませんから」
香月が魔王に固執するのも、ずっと永遠に俺とこういう関係でいたいからって思ったら
凄く嬉しいし幸せな気持ちになる
好きな人から愛されるって幸せなコトだ
素敵で奇跡的なコト…
「こんな俺でも愛してくれて、ありがとう」
いつも、いつの前世でも
どんな俺でも愛してくれて…それだけで俺は救われる
だから…もう死ぬのは嫌だ、今度こそずっと一緒にいられるように
「そろそろ休みましょう」
寝る前に香月はぎゅっと抱き締めてくれるから、俺も嬉しくなって抱き締め返す
「うん!オヤスミ香月」
香月の顔を見上げると、また少し微笑んでるように見えた
新鮮だ
今しか見れない香月の貴重な笑顔
後何回見れるだろうか
香月が元の姿に戻って笑顔がなくなっても、俺は変わらず好きだから!!
だって表情に出さなくても、俺はなんとなくわかるから
何考えてるとかは読めない時も多いけど…
そうして俺はベッドの中で香月にくっつきながら眠るコトにした
あったかいし香月の良い匂いがする…とか思ってる間に寝た
めっちゃ疲れたし体調も悪いから
次の日、身体はまだ本調子ではないとは言え香月とレイとこうして3人で暫く一緒に行動するってコトが珍しくて嬉しかった
「打倒!名無しの魔族!!頑張ろうな!」
ってやる気を出してるのは俺だけだった
話し合いで上手く収まったワケだが(たぶん)
まぁ…レイはレイで香月には複雑な感情があって、香月は香月でいつも通りだった
無理に2人仲良くしろとは言わないが…この空気の重さ辛いだろ
俺は右手で香月の腕を、左手でレイの腕を掴んで組む
「ほら、行くぞ」
そしたら、香月は少しだけ表情を緩めてレイは仕方ないなと笑ってくれる
空気が悪いなら良くすればいい
俺が隣にいたら2人とも笑ってくれるんだから
「セリカ待て!」
さぁ出発だって時に後ろからラスティンに声をかけられる
「どうしてラスを連れて行かない!?
セリカの所へ帰る約束した」
振り返ると捨てられた小犬のような目で俺を見ていた
そうだった、ラスティンは強くなったから和彦に認められてセリカの下へ帰りたいんだった
俺かセリカがいればラスティンはもう人間を殺して食べなくてすむ
「和彦って人に会わせて、強くなった証明する
そしてセリカの所へ帰る!」
「そうだな、でも和彦には暫く会えないかも
セリカはラスティンの帰りを待ってるから先に会ってやってくれるか?」
ラスティンにセリカの居場所を教える
「ん?セリカはセリカなのに?」
きっとラスティンには一生俺とセリカの区別は付かないんだろうなって思いながら
だって俺もセリカもラスティンの中では人じゃなく食べ物だから
「行けばわかる」
そう言って笑うとラスティンは首を傾げながら、でも最終的にはわかった!と頷く
「また後で!」
ラスティンは久しぶりに会ったセリカ(俺)に喜びの笑顔を見せて行ってしまった
俺はラスティンとあまり関わりがなかったからあれなんだが、ラスティンが和彦に会うと言えるほど自分に自信がついたんだとわかる
セリカも嬉しいだろう、ラスティンのコト可愛がってたみたいだから
そうして俺は、香月とレイと3人で名無しの魔族を捜す旅に出る
不安しかないメンバーだが、俺がいればたぶん大丈夫だ
……たぶん…
-続く-
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