22. 第3話 2部目 弓を作ります

過重労働の疲れを癒すために、親父さんは帰って早々に昼寝を始めた。

畑が完成したのが昼過ぎだった事もあり、僕にもまだ作業できる時間がある。

僕は裏庭に置いてある、木材を手に取った。

これも、買い物で手に入れた斧で調達してきたものだ。

実は畑作りよりも先に、親父さんにお願いしたことがある。

それは、木の伐採。

太い幹の木と、細い幹の木、更にまだ苗木の状態のものを伐採して貰った。

これらは、今後、より村を発展させるために必要な物を作る上で必要だった。

最も、前回の製鉄よりは革新的ではないのだが…。

それでも、麦の収穫の時期が被るこの時期においても、出来ることはやっておきたかった。

夏が過ぎれば秋が来て、それすらも過ぎれば冬となる。

この辺りは温暖な気候なのか、冬を迎えてもそれほど雪は降らない。

しかし、それでも冬は冬。寒いものは寒いのだ。

今年の冬は去年の冬よりも快適に過ごせるようにしておきたい。

その為にも、僕は自分の身長よりも高い木材の表面を石で削っていく。

木目が整うまで地道に石で粗を削り出す作業だ。

「お前…今度は何やってんだ?巣でも作ってんのか」

「…あ。緑丸くん。お昼休みはもう良いのかい?」

日中通して僕を監視する役を担っている緑丸くん。

しかし、最近では僕のやることなすことに興味を持ち始めてくれているようだ。

それほど頓珍漢な事はしていないと思うのだけど、緑丸くんには珍しいらしい。

「ふん。羨ましいだろ?お前らより先に麦、食ってんだからな!」

鼻を鳴らして自慢げに言う緑丸くんに、僕は少し嫌味を言う。

「皆で毎日食んでるのに、まだ食べる所残ってたの?」

この辺りには結構な数のキリキリムシが居る。

そのせいで例年の麦は凶作続きだったのだが、今年からはキリキリムシ達の方が割りを食っているのではないだろうか?と思う。

つまり、毎日麦を食べ続けられるほどの量は無いのでは?と言う事だ。

しかし、緑丸くんは僕の心配をよそにとんでも無いことを言った。

「今年から日によって食べる所を変えるようにしたからな!

それに、麦を食べない日も決めたりしてたしな!」

胸を張って言う緑丸くん。

「…おぉ…それは凄い…」

素直に感嘆の声が溢れると、緑丸くんは突然むっとした。

「お前、俺様達のことをバカにしてんのか!?お前ら役立たずの人間と一緒にすんじゃねぇ!」

噛まれはしなかったが顔に激突された。痛い。

今日は首から上を攻撃される日だなぁ…。

「ー…で、それ。何だよ?」

ぶつかった勢いで、僕の頭によじ登った緑丸くんが僕の手元にある木材を見て言った。

「あぁ…これは弓を作ってる所だよ」

「弓ってあれか…人間が使う飛び道具か」

今僕は、親父さんに斧で伐採して貰った細い幹の木を半分に割ったものの、木目を丁寧に整えている所だ。

購入したナイフで削り取ろうと思ったのだが、親父さんとお袋さんに早々に取り上げられて使えないように、何処かに隠されてしまった。

ここでも子供であることの弊害が出てしまった事に、悔しさはあるが…受け入れるほかないと考えて、僕は川原で拾ってきた大きめの石を使って削っている。

木炭を作る際に、倒木を石で破壊した時とさして変わらない作業だ。

そもそも、このやり方で弓を作るなら、製鉄よりも先に作る事は可能だった。

木は石で徐々に削って伐採する。

弦の部分を樹皮で作り、矢は苗木を火で炙って石に擦り付けて尖らせ、鳥の羽を樹脂で矢にくっ付ける。

…と、まぁ、以上のように作る事は可能だったのだが…。

「ナイフが使えてたら、もう少し楽なんだけどねぇ」

やらなかった理由として、木目を整えたり、先端に切れ込みを入れるなどの細かい作業を、楽なものにしたかったと言うのが強い。

元々、財政難を解決し刃物が手に入れば、狩り具は自分で作ろうと思っていた。

出来る限り、自分達で調達出来るものは調達して行かないと、また財政難になりかねない。

製鉄を四六時中していられるほど、この村には人員が居ないのだから、仕方のない判断だと思っている。

しかし、ナイフを使うのに許可が下りなかったのは失敗だった。

ナイフを使わずとも出来る方法があると口を滑らせたことが原因だ。

そして、現在僕は石で地道に木目を削っている。

「中身はじじいでも、見た目は子供だしな!何でも自分の思う通りに進むと思うなよ!ざまぁみろ!」

そう言って緑丸くんは僕の頭の上で嬉しそうに飛び跳ねた。

「そうだねぇ…僕がいくら刃物の扱いには慣れてると言っても、納得してくれなかったしねぇ…」

子供の身体…正確には手だが、幼い手には購入したナイフは危なすぎると言う判断は親として最もである。

しかし、どこかで転生者である僕なら扱いきれると、納得してくれると思っていたのが、いけなかったようだ。

緑丸くんの言うように、思い通りにならない事も今は甘んじて受けなければなるまい。

「…慣れてるって前世で何やらかしたんだ」

僕の発言を不穏に思ったのか、緑丸くんは神妙に聞いてきた。

一体、緑丸くんの中の僕はどんな人間なんだか…。

「ん?…鉛筆削ったり、竹とんぼ作ったり、彫刻刀で熊を掘ってみたり…」

「お前の言ってる事、全ッ然分かんねぇ!」

素直に答えたのに緑丸くんに盛大に突き放されてしまった。

前世では鉛筆をナイフで削るなんて普通だったのに、それがそもそも分からないと言われてしまったら、僕はどうすれば良いのか。

緑丸くんの理解すら得られない事に、がっくりしながら僕は弓の作成を続けた。

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