47. 第5話 10部目 グレイスフォレストにて3
再び呼びかけると、パーカーは嬉しそうな歪な笑顔で振り返った。
「ジョン!見ろ!このナイフを!遂に…遂に出来たんだ!ぐふっ、ぐふふふふ!これで、俺の夢にまた一歩近づいたぞぉ!」
ナイフをジョンに見せつけたかと思うと、自身の顔の前に持っていき食い入る様に刀身を見て、次には天を仰いでナイフを掲げる…と言う、実に忙しない動きで喜びを表現している。
「…そのナイフって、ダールさんの所から買ったって言う鉄で作った奴?」
父親の奇行を言及せず本題に入るジョンは実に平然としている。
慣れてる故なのか、気にするほどではないのかは分からないが、妙に肝が座っている。
そんなジョンにナイフの事を言及された事を喜んだパーカーはナイフを渡した。
「どうだ!?素晴らしい出来だと思わんか!?」
手渡されたナイフをジョンはじっと見つめる。
今までのナイフと違った所があるのか疑問に思うほど、普通の片刃ナイフだ。
ただ、刀身の部分がやたらに綺麗に輝いている。
「…綺麗な刀身だとは思うけど」
「おぉ!そこも刀の魅力の1つだ!目の付け所は悪く無いぞ!」
否定の言葉以外は何でも受け入れてくれそうな程、パーカーは上機嫌である。
しかし、このナイフの素晴らしい部分はそこだけじゃないと言外に言われたため、ジョンは再び注意深くナイフを観察した。
すると、あることに気がつく。
「何か、刀身、やけに薄くない?」
と、呟いた瞬間パーカーの目の色が俄かに変わった!
「そう!よく気がついたな、ジョン!!上の2人と違って、お前はやっぱり見る目があるぞぉ!」
しかし、その上の兄2人は至って常識人であり、異端なのは寧ろパーカーの方であることは周知の事実だ。
異端扱いされるパーカーにジョンが手放しで褒められる時は、大抵パーカーが趣味で作ったナイフやら剣やらを評価した時だけである。
複雑な気持ちになるものの、パーカーが作るものを面白いと思う自分もまた、異端かもしれないとジョンは密かに思った。
「こんなに薄く打ったら、直ぐ折れちゃうんじゃ無いの?」
ジョンの疑問は当然だ。
ナイフや剣と言った武器類は、両刃で刀身には厚みがあるのが普通だからだ。
そうして打たなければ、直ぐに刀身が折れてしまうのだから当然である。
しかし、今目の前にあるナイフは片刃で刀身が薄く、これまでのナイフの形に逆らうかの様な姿をしていた。
ジョンの疑問にパーカーは目をひん剥いて語り出した。
「いいや!この鉄はこの打ち方で間違いない!それが可能となる鉄とも言えるな。まぁ、最初の内は薄くし過ぎて直ぐに折れちまうなんて事もあったが、この薄さはこれで極めたに違いない!これだけ薄ければ、取り回しは良い!持ち運びも楽!更には…!」
言葉の途中で、パーカーはもう一本、普通の既存のナイフを取り出した。
スミス・ツールでも販売しているナイフだ。
そして、ジョンの手から新しいナイフを奪い返したかと思うと、そのナイフで既存のナイフを斬りつけたのだ。
「な!?何してるの、父さん!」
流石のジョンもこれには驚き、静止の言葉を慌てて口にする。
「いいから見てろ!」
しかし、パーカーは止めない。
それ所か、まるでノコギリを使うかの様に新しいナイフで、既存のナイフを切り裂いていっている。
あまりの光景にジョンは言葉を失った。
ナイフがナイフを切り裂くなんて…!
半分まで切れた辺りでパーカーは手を止め、言葉の続きを言った。
「切れ味も…これまで以上だ!」
ジョンの驚愕の表情を見て、パーカーはしたり顔で笑う。
「なっ…父さん!一体、何をしたの!?」
信じがたい光景にジョンは我が目を疑った。
しかし、パーカーの手にあるナイフが真実を示している。
確かにパーカーが作成した、新しいナイフは既存のナイフを切り裂いたのだ。
「見ただろ!?これが、この鉄の威力だ!!ぐふふふふっ!笑いが止まらん!」
そう言ってパーカーは再び大仰な笑い声を上げた。
ジョンはパーカーの手から、新しいナイフを取り上げ、刃を確かめた。
あれだけ乱暴な扱いをしたら、ナイフがダメになってしまう。
いや、ダメになって当然だ。
しかし、ジョンは刃の状態を確かめて驚愕した。
何故なら、僅かな傷があるだけで、殆ど刃こぼれしていないからだ。
これは一体どう言う事だ?
父さんは一体、何を作り出してしまったんだ…!?
理解が追いつかないジョンを置いてけぼりにし、パーカーは唐突に宣言した。
「ジョン!俺はウェルスへ行くぞ!!」
「え!?ウェルス…!?どっ、どうして…」
ウェルスはとっくの昔に廃村になったと思っていたジョンにして見れば、普段の会話の中でなら、本格的に父親の気が触れたのだと思っただろう。
しかし、新しいナイフの原材料である鉄を、商人のエヴァンから買い取ったと言う事を思い出してジョンは気がついてしまったのだ。
エヴァンはあの鉄をウェルスから運んで来た。
となれば、あの鉄はまだウェルスにある可能性がある。
パーカーは更にあの鉄を手に入れて、自身の夢を叶えるつもりなのだ。
数々の異世界人が作ろうとしても作れなかったと言う”日本刀”を…。
第5話 完
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