46. 第5話 9部目 小銭稼ぎ そして グレイスフォレストにて2
需要と供給により、これから値段が上がることも考えられる。
その場合は、買取価格を上げて貰うように交渉すれば良い。
エヴァンに見えない様に、僕は頷いて交渉を成立させる様に親父さんに指示を出した。
「…分かった。それで売る。いくつ持っていける?」
「ありがとうございます。そうですなぁ…とりあえず、10個で」
結果的に作成された麦藁帽子の殆どが売れた形になり、僕たちの儲けとして銀貨1枚分となった。
次に麦藁で作った籠だ。
大小それぞれにあり、出来栄えもバラバラである。
こちらは小さいので銅貨8枚。中くらいで銅貨10枚。大きいので銅貨14枚となった。
それぞれに2つずつ買い取って貰い、銅貨66枚の儲けとなった。
帽子と合わせて、銀貨1枚、銅貨66枚で日本円に換算すると16.600円の売り上げとなった。
まぁまぁな売り上げとなった。やはり、銑鉄と比べるとどうしても見劣りしてしまうが、こればかりは仕方がない。
町で売れるかも分からないものを買い取ってくれただけ、エヴァンには感謝である。
その後、僕たちはいつも通りの買い物をしつつ、プレゼントした麦藁帽子を被って町へ帰っていくエヴァンを見送ったのだった。
これで、僕の考えていた金稼ぎ計画の第2弾は終了した。
大方の予想通り、それほど稼ぐことは出来なかったが、全く実りのない期間を考えればマシである。
村の年寄りたちに、籠と帽子がいくつか売れた事を話すと大いに喜んでいた事から考えても、今回の事は意味のあるものだったと僕は思う。
年を取ってもやれることがある。残せるものがあると言うことは、それだけで生き甲斐になるのだと改めて実感した。
後は年寄りたちの健康状態を少しでも良くしてやる事が出来れば、もっとウェルスは活気付くはずだ。
…最も、どんなに年寄りが元気になった所で限界が先延ばしにされただけで、根本的な解決には至らないのだが…。
若い人間にウェルスに入植して貰わなければ、この村に未来は無いのだ。
未来を築くためにも更にウェルスで出来る事を増やさなければならない。
同時期のグレイスフォレストにて。
工具工房、スミス・ツールの奥工房から騒音と奇声が響き渡った。
この工房の親方であるパーカー・スミスの歓喜の笑い声である。
「…父さん、何してるんだ?」
自分の師匠でもある父親の奇声を聞いた、スミス家の長男のロイドが怪訝そうに呟く。
「例の鉄で遊んでんじゃね?それより、兄さん…この見積もりなんだけどさぁ」
父親の奇行を気にも留めない様子で仕事の話をしようとする次男のフィリップ。
「今、気持ち悪い笑い声と破壊音したけど、何があったの!?」
工房の外から三男のジョンが慌てた様子で、買い物袋を持って入ってきた。
「全部、お前の親父の仕業だよ」
まるで父親のパーカーが悪いのは、ジョンの父親であるからと言いたげなフィリップに対し、ロイドが苦笑して言う。
「俺たちの、父親だろ」
パーカー・スミスには3人の息子が居る。
いずれも父親の工房で修行しながら働いている。
長男のロイドは工具作成を担当。跡取りであるために、パーカーからみっちりと技術を叩き込まれている。
次男のフィリップは経理を担当。工具作成はあまり得意でないため、懇意にしている店やエヴァンと言った、数字に強い人たちから計算を学び工房を支えている。
三男のジョンは…今の所、雑用係である。微妙な立場に居るからか、工具作成にも経理にも手を出していない。
最も、暴走しがちな父親のストッパー役をすることがあるため、それなりに重宝されている。
「父さんが?…今度は何してるんだろ?」
自分の失言を気にする様子もなく、ジョンは不思議そうに首を傾げて奥の工房に続く扉を見た。
「気になるなら見てこいよ」
「そうだな。見て来て貰えると、俺たちとしても助かる」
素っ気なく言うフィリップと、作業の妨げになるから何とかして欲しいと言いたげに苦笑するロイド。
この2人の兄は、父親であるパーカーの暴走にほとほと飽きていて、振り回されるのは御免らしい。
その結果、末っ子であるジョンが父親の暴走癖を止める係を押し付けられてしまっている。
工房に勤める弟子達は、ジョンを気の毒がるが、ジョン本人はそんなに父親の暴走を嫌には思っていない。
これほどの適材適所は無いと言われるほど、ジョンは父親の相手が上手い。
「分かったよ。ちょっと見てくるね」
そう言って、ジョンは奥工房へ足を向けた。
「あぁ…どうしても、手に負えなさそうだったら呼んでくれ」
長男のロイドが、これからジョンを待ち受ける災難を哀れんで口にした言葉に、大丈夫!と返してジョンは奥工房へ入って行った。
「父さーん?凄い音したけど、大丈夫ー?」
奥工房に入ったジョンは父親を呼びながら、部屋の奥へ進む。
すると、右手にナイフを持った父親の背中が見えた。
物騒な光景に眉を潜めるジョン。
「父さん…?」
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