58.第7話 3部目 似た者親子

川側に到着すると、早速3人はそれぞれに動き始めた。

ケイは持ち運んで来た丸太を設置し、道具を並べて用意している。

丸太は金床の代わりにするそうだ。

ヘクターはジョンと一緒になって木炭を積み上げている。

そして、ジョンが魔法で火を点け、風を送りながら火の勢いを強くしていっている。

その傍らで、ケイとヘクターは持ってきた13kgある鉄の塊の中から、大体同じ大きさの物を選び、持ち込んでた道具の1つ鉄棒を、選んだ鉄塊で挟み込んだ。

そして、ケイが火の魔法を使い、鉄棒と鉄塊を熱で圧着させた。

結構、無理矢理な方法を取っている様に見える。

「ジョン。火の準備ー」

ケイがジョンに言葉短く話しかける。

「大丈夫、いける」

燃え盛る木炭の山を見ながら、ジョンはケイの言葉に答える。

すると、ケイは先ほど鉄棒に圧着させた鉄塊を燃え盛る木炭の中に突っ込んだ。

そうして暫く鉄塊を熱して数十分。

ケイは頃合いを見計らって、火の中から鉄塊を取り出した。

真っ赤に光り輝く鉄塊が姿を現し、準備は整った様に見える。

そして、ケイは熱された鉄塊を丸太の上に乗せた。

どうやら、親方役はケイがするらしく、自前の金槌でコンと丸太を叩く。

「よっし。じゃー、ヘクターよろしく」

「応!任せろ!」

ヘクターが景気良く返事をすると、背負っていた柄の長い金槌を手に持つ。

そして、ケイが1回鉄塊を金槌で叩き、次にヘクターが鉄塊に向けて金槌を振り下ろした。

その様子を見る感じでは、僕の知っている鍛造と殆ど変わらない。

カン、カンと心地いい音が響く中、ケイとヘクターは黙々と鉄を打っている。

ここまで見た感じ、日本の鍛造と変わらない。

もしや、師匠がパーカーである事と関係があるのだろうか?

パーカーはしきりに刀匠を謳っていたし、鍛造の方法も日本式を選んでいたのかもしれないな。

だからこそ玉鋼を使って、腰刀を作れたのだろうし。

となると、この世界独自の鍛造はまた違う形であるのかもしれない。

そういえば。

「…ジョンさんは鍛造やらないの?」

一緒になって、ケイとヘクターの手並みを見ているジョンに僕は問うた。

「え?俺は工房で雑用ばっかだったって言わなかったっけ?」

あまりにけろっとした様子で答えるものだから、拍子抜けしてしまった。

「き、聞いてはいたけど…」

「良かった。俺は準備は出来るけど、鉄を打ったこと無いんだよねー」

と言って、ジョンはからっと笑った。

うん。彼は嘘はついていなかった。

ただ、僕が要らぬ期待をしてしまっただけである。

何にしても、ケイとヘクターが少しでも鍛造出来る知識を持っていて助かった。

「それに…俺は製鉄やるから良いんだ。兄さんたちと同じ事しても、つまんないでしょ?」

そう言って、ジョンはまたも明るく笑う。

…もしや、ジョンが工房で雑用をしていたのは、自ら望んでやっていた所もあるんだろうか?

三男坊らしい悩みを抱えていたのかもしれない。

「なら、早く製鉄出来る様にしなきゃね」

工房での役目が無くてウェルスに来たなら、余計に製鉄と言う仕事を与えなきゃならないな。

「そうだね。玉鋼ってのがどう作られるのか、早く知りたいよ。ケイ~!ヘクター~!早い所、ノミ作っちゃってよねー!」

楽しみである事を体現しながらジョンは、鉄塊に火入れして様子を見てたケイとヘクターに話しかけた。

「うるせー!ホンットお前って奴は…」

「親方そっくり」

ヘクターが苦笑して鬱陶しそうに言葉を返し、続いてケイは鉄塊の状態を見ながら淡々と言った。

「えー?父さんと俺の何処が?」

不思議そうに言うジョンを見て、ヘクターは苦笑しながら声を張り上げた。

「自分の欲望に素直な所だよ!!」

「はい、ヘクター。打つよー」

火から鉄塊を取り出したケイは、またも淡々とヘクターに指示する。

ケイの指示を聞いたヘクターは鉄打ちに戻り、あっという間に集中し始めるのだった。

「言い逃げかよ。酷いなー。まぁいっか。早い所、作ってくれるなら」

「はは…」

パーカーと似ている所をすばりと指摘され、ジョンは反論も許されない状況になった事に対し不満そうに言葉を漏らした。

しかし、今回のやり取りでジョンという人物が何たるかと言う事と、ケイとヘクターの言わんとしている事が分かった気がする。

それに、親父さんがジョンに苦手意識を持っているように見える理由も。

ジョン自体に問題がある言うより、その後ろにいるパーカーを思い出すから苦手なのだろう。

それもジョンがパーカーに似ているからなのだろうと、僕はしみじみと思った。

それから半日が過ぎ、日が沈みかけてきた頃。

ついに、ウェルス村で初めて作られた1本目のノミが完成した!

出来上がったノミの柄部分に藁縄をグルグルと巻きつけて、使える様にもなった。

早速、出来栄えを確かめるために、ケイはノミを石に突き立て金槌で穿つ。

カンッと金槌がノミを打つ高い音が何度か響き、暫くすると標的の石が真っ二つに割れた。

「まあまあ」

石を割ったノミの先端を吟味しながら、ケイは自己評価を下す。

「使えれば問題ないだろ」

ケイの自己評価の低さを慰める様に、ヘクターが口を開く。

しかし、ケイは頭を横に振った。

「親方が見たら怒る」

「大丈夫、大丈夫!今は居ないから!」

神妙な顔で言うケイに対し、ジョンが実に楽観的に返した。

しかし、パーカーの息子であるジョンが返したのがいけなかったのか、ケイとヘクターはジョンを睨む。

ジョンは気にする様子もなく2人の視線の理由を問うが、2人は言葉を濁した。

これが普段からの3人のやり取りなのだろう。

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