59.第7話 4部目 宝の石
ケイとヘクターはともかく、ジョンの印象は今日で大分変わった。
パーカーと2人で来た時には、飄々としていて大人しく、苦労人の印象があったのだが…。
やはり友人の前と親の前では、違って見えるのだなと僕は思った。
ただ、どちらもジョンである事に違いはない。
「あと、問題は出来だけじゃない」
「あー…まぁな」
ケイは残念そうに眉を下げ、ヘクターはそれに同意した。
出来が良い、悪いだけの問題ではないとは、どう言う意味だろうか?
僕が疑問に思っていると、ジョンも首を傾げて不思議そうにしていた。
「何が問題?」
そして、ジョンが疑問を代弁してくれた。
すると、ケイは短く答える。
「砥石」
「無いんだよなぁ」
ケイの答えに言葉を付け足す様にヘクターが言う。
なるほど。砥石がなくては、幾ら鍛造で工具をこさえても、切れ味が持たないと言うわけか。
なら、砥石は持って来ていないと言うことだろうか?
製鉄する上での最低限の道具しか持って来ていないと言っていたが、その中に砥石はなかった様だ。
「あぁ、砥石か。でも、あれはなぁ…」
ケイとヘクターの言葉を聞きジョンは納得したようだが、砥石を持ち込めなかった事情があると匂わせる。
「砥石に何かあるの?」
気になって僕が尋ねると、ジョンが苦笑して答えた。
「砥石って貴重品なんだよ。各地の鉱山から採掘してはいるんだけど…年々、採掘量が減っていってるんだ。ウチの店に幾つか砥石があるけど、どれも高かった記憶があるなぁ」
砥石が貴重品であると聞いて、僕は心底驚いたが同時に納得した。
恐らく、ジョンが言っているのは天然砥石の事だ。
鉱山の地層から取れる砥石の事で、数が限られている。
ここが日本であるなら人造砥石と言う物があるから問題にならないが、この世界では人造砥石を製造する事が出来ていないのだろう。
だから、天然砥石を発掘して刃物を研ぐのに使う他無いわけである。
しかし、天然砥石の数が年々減っていっているなら、それに代わる物を作り出してしまうと言う事は考えられていないのだろうか?
それこそ人造砥石を作ってしまえば解決するはずだが…。
まぁ、この辺りは僕が考えることでも無いか。
しかし、砥石か。欲しいな。
今の所、斧やナイフの切れ味はそれほど落ちていないにしても、今後必要となってくるのは目に見えている。
かと言って、購入となると金が幾らかかるか計り知れない。
出来るなら自力で天然砥石を見つけてしまいたいものだ。
そんな事を考えていたら、すっかり日暮れになってしまったため、僕たちは帰路に着いた。
ジョンたちに送って貰い、帰宅して直ぐ僕は砥石がありそうな場所を考える。
天然砥石とは、火山岩が風化し、途方にくれる様な長い年月をかけて、同じ大きさの粒子が繋がった石の事である…と記憶してる。
と言うことは、砥石がある山は火山である可能性が高い。
更に言えば、現状で人が立ち入っていない山や、その付近の川原が条件を満たすはずだ。
そこで僕が思い至ったのは、コタバの葉を見つけた草原向こうに見えた大山である。
標高の高い大山であり、火山である可能性は高い。
となれば、あの山の表面や地層に砥石となる石が埋蔵されているかもしれない!
普通に探せば見つかるかもしれないが、砥石になる石を見極めるには専門の知識と道具が必要だろう。
そこで僕自身の記憶と、僕の鑑定眼の出番である!
前世では日常的に使っていた仕事道具を研ぐのに、積極的に砥石を使っていた。
基本的に人造砥石を使っていたが、天然砥石の事は知り合いの砥石屋から熱弁された記憶がある。
その記憶の中から、僕は砥石になる石に目星をつける。
標高の高い大山ならば、目星をつけた石がある可能性も高い。
これにより、僕の鑑定眼がどこまで成長したか確認することも出来るかもしれないし、上手くいけば良い事尽くめである。
僕は早速帰宅した親父さんに、大山に行きたいと相談した。
「あの山か…また歩く事になるぞ?大丈夫か?」
コタバの葉を見つけに行った時と、川と磁石を見つけた時も大山へ向かって歩いて行ったが、そのどちらでも僕はへばってしまっていた。
恐らく今回もそうなるだろう。親父さんもそれを危惧しているようだ。
なるべく足を引っ張らないようにしなければ。
「頑張って歩いて、親父さんに迷惑かけないようにするよ!」
僕が意気揚々と言うと、親父さんは眉間に深い皺を刻んだ。
「俺が聞いてんのは、お前は決まって無理するから大丈夫なのか?って意味だ。前も言っただろ。無理せず、歩けなくなったら言えって」
「あ、うん…そうだったね」
僕の予想は外れていたようだ。
親父さんは僕の体力を心配してくれているらしい。
結局、僕と親父さんは明日、大山へ向かう事になった。
親父さんとお袋さんに、限界が来たら必ず言うようにと念押しされて、僕は眠りにつく事になった。
ボロボロのベッドで寝返りをうちながら、僕は明日を思い描く。
まるで、宝石を探しに行くかの様なワクワク感が僕を包んでいる。
いや、この世界のこの時代において、砥石は正に宝の石だろう。
それがこの手で見つけられたら、どれほど嬉しいか。
早く日が昇って明日になって欲しいと思いながら、僕はゆっくりと夢の中に誘われていくのだった。
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