57.第7話 2部目 空気

小屋建設は順調に進んでいる。

やはり、若いだけあってジョンたちは機動力に優れていて実に頼もしい。

ドンドンと木を伐採し、設計図通りの太さ長さに木材を切り分けた。

しかし、木に穴を空けたり、溝を作る作業で難航し始めた。

鉄斧やナイフを屈指するも思う様に作業が進まないらしい。

「どうしたら良いんだ…」

設計図と睨めっこしながら、親父さんはそう呟く。

現在手持ちにある道具だけで小屋建設を成そうとしているらしい。

何もそこまで拘ることは無いんだけどなぁ。

作業が難航するなら、解決出来る道具を用意すれば良いのだから。

幸いな事に今ならば、それらの道具も案外簡単に用意出来るかもしれない。

「ジョンさんたちに、ノミと金槌を作って貰ったらどうかな?」

「ノミ?」

ふむ。反応から察するに知らない様だ。

やはり、この世界…と言うより、この国では木造建築は珍しいのかもしれない。

あるいは、親父さんが知らないだけか。

「ノミって言うのは金槌で打って、穴や溝を作るための道具の事だよ」

四角く平たい刀身。そして、先が刃になっている道具の事である。

今回、親父さんたちが躓いている問題は金槌と叩き鑿があれば、ほぼほぼ解決するはずだ。

ジョンたちは元々工具屋だったのだし、ノミくらいは知っているのではないだろうか。

幸いな事にエヴァンが買い取って行かなかった普通の鉄が、13kgほど残っている。

これを使えば、ノミと金槌を作成することは出来るだろう。

出来上がったら、持ち手を縄でグルグル巻きにしてしまえば即日で使えるはずだ。

「だが、あいつは工房では雑用しかしてなかったと言ってたぞ?作れると思うか?」

僕の説明を聞いた親父さんは不安そうに言った。

「まぁ、聞いてみるだけ聞いて見たら良いんじゃないかな」

出来ないなら出来ないで、教えてやらせれば良いのだ。

正直、鍛治の事は付け焼き刃程度にしか分からないが、どう言うものかを説明する手段は既に持っている。

小屋の設計図を書いた時の様に、羊皮紙に姿形を描いて見せれば、何となく作れるのではないだろうか。

まぁ、出来れば高額な羊皮紙は消費しないで置きたいのだが…。

雑用しかして来なかったとは言っても、父親であるパーカーや兄たちの手順は何度か見ているだろうし、とにかくやらせて見ればいいのだ。

「…そうだな。どっちにしろ、今のままじゃ作業も進みやしねぇし」

「そうそう。試しに聞いてみよう?」

せっかくの人材なのだから、吸収出来る事は吸収して貰わなければ勿体ない。

そう思いながら、喜んでにこにこ笑う僕を見て親父さんは不気味そうな顔をした。

僕は普段通りにどうしたか尋ねたが、親父さんははぐらかして微妙な表情の理由を教えてはくれなかった。

そんなに気味の悪い笑い方をしてしまっていただろうか?

人材が居る事への有り難みと、あれもこれも試せる喜びで笑っていただけなんだけどなぁ。

その後、親父さんはジョンたちにノミと金槌が作れないかを尋ねた。

やはり、工具屋に居ただけはある。ジョンたちはノミの事を知っていた。

その上、ジョンと共に来た2人の青年、ケイとヘクターは少しだけ鍛治をした経験があるそうだ。

パーカーや、ジョンの兄たちには遠く及ばないが、ノミを作るくらいなら何とか出来ると言う、頼もしい返答を得た。

金槌は持参してきたものがあるから、それを使うらしい。

そして、ジョンたちは小屋作りから一旦離れ、ノミの作成を始めたのであった。

僕はジョンたちの鍛造を見学させて貰う事にした。

僕が記憶している鍛造と、この世界での鍛造がどの様に違うのか見たかったのだ。

ジョンたちはそれぞれに持ち物と、親父さんから手渡された13kgの鉄、僅かに残っていた玉鋼を持って川へ向かう。

ジョンたちは製鉄する上での、最低限の道具を持ち込んで来ており、それらを使って鍛造するつもりの様だった。

「ホントにここは見渡す限り、木、木で凄いな」

周囲を見渡しながらヘクターが言う。

その言葉を聞いたジョンが嬉しそうに同意する。

「なー。俺も最初来た時は驚いたよ!」

「だろうな。うーん。心なしか、空気が美味い気がするな!」

「深呼吸すると気持ちいいって凄いよなー!」

わいわいと嬉しそうに会話するジョンとヘクター。

ケイは何も言わないが、その顔からは森の中を堪能している様子を伺える。

3人の反応を見て、僕は前世の記憶が蘇った。

お盆の時期に里帰りしてきた息子や娘たちや、連れて来られた孫たちが丁度こんな反応をしていたなぁ。

その頃には生活圏内の町も大分整備されていて、言うほどの田舎では無かったが、東京住まいになった子供たちは特に顕著な反応を見せていたものだ。

と言うことを考えると、グレイスフォレストは木々が少なく、人が大勢居るほどに大きい都会なのだろうか?

いずれはグレイスフォレストをこの目で見てみたいと思いながら歩いていると、川側に到着した。

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