56.第7話 1部目 種
ネッドから設計図を見せられたジョンは驚きの声を上げた。
「これ…設計図ですか!?」
「あぁ。川の側に小屋を建てたい」
しかし、ネッドはいつもと変わらない態度で話を進めようとしている。
その事にジョンは再度驚いた。
「この設計図はネッドさんが描かれたんですか!?」
「あ?あー…それは…」
食い気味にジョンに尋ねられ、ネッドは気まずそうに目を泳がせた。
テオが描いたとは言えず、どう説明したらいいものかと頭を悩ませる。
しかし、その態度を”応”と受け取ったらしいジョンは益々と声高になった。
「凄い…!これをネッドさんが…!」
その興奮ぶりは何処かパーカーを思わせて、ネッドはうんざりした。
ジョンに罪はないが、どうにもパーカーの浮かれっぷりがネッドには苦手の様だ。
「勿論、作らせて頂きますよ!建築は初めてですけど頑張ります!」
ネッドが何も言わない内から、ジョンはキラキラとした目で作業を了承した。
「お、おう…」
押され気味ながらネッドはジョンに小屋を建設する手順を説明する。
テオから聞いた説明をそのまま伝えただけだが、ジョンは説明を聞くたびにネッドを尊敬の眼差しで見つめる様になっていった。
本来なら、この視線を向けられるべきはテオであり自分では無いと言う現実に、ネッドは嫌気が差す。
テオの優秀さを突きつけられるたび、自分が何も出来ない人間であると気がつかされるのだ。
だが、それでは駄目だ、とネッドは奮起し気持ちを切り替えた。
何故ならテオから小屋の建設を、設計図ごと丸投げされたからである。
建設手順をテオから聞かされ、それに必要な素材を集める事もネッドがジョンたちを使い達成しなければならないのだ。
テオはレンガ作りだけは手伝うと言っていた事から、まずは木を伐採する所から始める必要がある。
しかし、冬が近づき、川の水も冷たくなってきている。
その中テオに粘土を採取させレンガ作りをさせるなど、ネッドは親として許せない。
なので、テオには手伝い程度の事をやらせるつもりで、後の事は自分たちだけで成し遂げたいとネッドは強く思った。
優秀な息子の恥にならない親でいるために。
親父さんがジョンたちに指示しながら、木を伐採している姿がミラー家の裏庭から見える。
川に向かって木を伐採し、道を確保する作業をしているのだ。
ちなみに今伐採している木は、ギスである。僕はこの木は杉と同じものだと思っている。
そんな様子を見る僕はと言うと伐採されたギスの木の枝から、木の実を採集している。
ありったけの実を集めて、春になったら蒔く予定である。
発芽する種としない種が必ず出てくるはずだが、そこは僕の鑑定眼の出番だ。
実際に採集した種がちゃんと受精しているか確かめると、しているものとしていないものの区別がついた。
いやぁ、鑑定眼、便利である。
普通なら、発芽する種かどうかなど確かめようもない所を、この目で確かめられるのは強みだな。
あとは春になってから、休眠状態の種を目覚めさせる作業をしつつ、差し技でも増やしていきたい。
尤も、杉は増やしすぎると花粉症を発症しかねないので、程々にしておくことにしよう。
まぁ、杉の場合であって、この世界の杉に良く似たギスは花粉症の元にはならないかもしれないが…。
ともかく、別の木の植林も試してみたい所である。
「また妙な事やってんのか!」
ちまちまとギスの実を集めている僕に緑丸くんが話しかけてきた。
「これは実を集めてるんだよ。あ、受精してない実、食べるかい?」
受精した実が入った藁籠の横に置いてある、捨てる予定の実を緑丸くんの眼前に差し出す。
すると、緑丸くんは器用にも僕の指からギスの実を叩き落とした。
「要らねぇよ!妙な味すんだよ、それ!」
「へぇ。具体的にどんな味?」
既に食べた経験があるなら味を聞いてみたい。
あ、でも、虫と人とじゃ味覚が違うか。
「自分で食ってみりゃ良いだろ!」
「うーん…やだ。緑丸くんと違って、僕は繊細だからね」
「てめぇ!そりゃ俺様がバカだって言いたいのか!?」
「それを言うなら、大雑把じゃないかなぁ」
「どっちでもバカにしてんだろ!?」
怒り浸透となった緑丸くんはしきりに僕の顔に激突してくる。
しまいには鼻や耳を噛まれそうになったため、僕は早々に謝って難を逃れた。
「ー…で!食うつもりじゃないなら、何で実なんか集めてんだ?」
気を取り直した緑丸くんは僕の行動の真意を訪ねてきた。
「植林するつもりだからだよ。春になったら、この辺りに埋めようかなって」
そうだ。種を植えたら、目印になるものを立てておく事にしよう。
休眠状態を冷ますのに、水をやらないといけないし。
僕の説明を聞いて、緑丸くんは牙をカチカチ言わせて怪訝そうな表情を見せた。
「はぁあああぁ?ホント、お前のやる事って訳分かんねぇな!」
せっかく説明したのに、この言い草である。
木は成長するのに何十年もの時間がかかる。
だからこそ、早め早めに植林出来る様に育てておきたい故の行動なのだが…。
相変わらず緑丸くんの理解には及ばないらしい。
「…なのに聞いてくれるんだねぇ。緑丸くんは優しいなぁ」
「あ、てめ!またバカにしてんな!?」
こうして、僕たちは再び攻防戦を始めた。
結果として、緑丸くんに鼻を噛まれて痛い思いをした僕の負け。
果たして僕が緑丸くんに勝てる日は来るのだろうか?
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