99.第13話 5部目 抵抗
「…へー、マジで俺とやるつもりなんだ?」
太刀を手に前へ出たネッドを見て、カシラは不敵に笑った。
「お前らをこの村から追い出すには、お前を倒すしか無いってんならな」
「負けるって分かってんのに、ムボーじゃねぇ?」
「…それは、戦ってみてから言え」
ネッドは自身に能力向上の魔法を付与し、息を整えた。
そして、太刀を構えてカシラに向かって突進する!
目にも留まらぬ速さで繰り出された斬撃を、カシラはいともたやすく、一歩ずれただけで避けた。
「…ふぅん。少しはやれんじゃん」
「チッ!」
不敵に笑ったまま、ネッドの斬撃を”少し”と評価するカシラに、ネッドは盛大に舌を打って、次の攻撃に躍り出る。
ネッドが横薙ぎを放つと、カシラは体を反らせて避けたり、ひとっ飛びして避けたりと、実に軽快な身のこなしでネッドの重い斬撃を捌いて行く。
その光景を見て、ジョン達を含む全員が固唾を飲んだ。
重い攻撃を繰り返して放つネッドに、全ての攻撃を避けきるカシラ。
どちらも実力者である事は明らかだった。
盗賊達はカシラの動きを見て驚く様子はさほど見せないが、ジョン達はネッドが戦えている事に驚きを隠せない。
弓の名手であるとは思っていたが、まさか剣術まで出来るとは思っていなかったからだ。
ネッドが幾度か斬撃を放った後でカシラは大きく飛び跳ね、ネッドから距離を取る。
右手を天に向かって挙げたかと思うと、大量の氷の刃を作り出したのだ!
「避けられっかなぁ~?」
まるで実験をするかの様な調子で言い、カシラは氷の刃をネッドに向かって放った!
もうダメだ…!
ジョン達はネッドに待ち受ける残酷な現実を想像し、目を背けた。
しかし。
「無闇矢鱈に…こんなもん飛ばすんじゃねぇ!」
ネッドは何度も太刀を振るい、飛んでくる氷の刃を次々と撃ち落としていく!
両手でしっかりと柄の部分を握りしめ、何度も何度も繰り返し、迫り来る氷の刃を薙ぎ落としていく。
その姿を見て、カシラは口笛を吹いて言った。
「ヒュー♪カッコいい~!でも、前だけ見てて良いのか~?」
「!?」
向かってくる氷の刃を撃ち落とす事に集中していたネッドは、背後から迫り来る別の氷の刃の存在に気がつくのが遅れてしまった。
しかし、ネッドは焦る様子を見せず、短く息を吸うと大きく太刀振り、風圧で迫り来る氷の刃を全て撃ち落とした!
バラバラと地面に落ちては、消滅して行く無数の氷の刃。
その光景はまるで意に返さず、ネッドはカシラを睨みつける。
「どうした。もう終わりか?大した事ないな」
「…ま・さ・か!終わるわけないじゃん!ここまでやって、まだ立ってるのはあんたが初めてだしね!」
そう宣言すると、カシラは再び氷の塊を作り出した。
その形は先ほどの氷よりも細く短く、まるで弾丸の様だ。
先ほどの刃よりも捌くのが難しいほどの大きさである。
ネッドは素早く、そう判断し警戒しながら構えた。
「こっちは鉄じゃねぇけど、弾丸対日本刀。やってみようぜ~?」
「ふん。この太刀は鉄も切り裂くほどの強固さを持ってるんだ。こちらが負ける筋合いは無い…!」
「…ぜぇんぶ斬り裂けるなら、な?」
カシラの挑発に事実で返すネッド。
しかし、事実を聞いてもカシラから余裕が消える事はない。
むしろ挑戦的な事を言って、カシラによる第2撃目が開始された!
先ほどの無数の攻撃と違い、カシラは一発一発丁寧に氷の弾丸を撃ち込んで行く。
ネッドは淡々と氷の弾丸を切り捨てながら、徐々にカシラとの距離を詰めて行っている。
間合いに入ったら、一気に距離を詰めカシラを制圧しようとの考えだ。
と、その時。
ネッドの足元に向かって弾丸が撃ち込まれた!
するとネッドは、まるで吸い込まれるように地面を蹴って空中に浮き上がったのだ。
撃ち込まれた弾丸を避けようと瞬間的に判断した事であったが、それが間違いだった…!
「はい。しゅーりょー」
「!?」
空中に飛び上がったネッドの顔目掛けて、カシラは弾丸を放ったのだ!
身動きが制限される空中で避けられるはずもない。
ネッドは弾丸が当たると同時に半身を後ろに反らして、地面に叩き落とされた。
仰向けに倒れこむネッド。
「ネ…ネッドさぁあぁああぁん!!」
地面に伏せたネッドを見て、ジョンが悲痛に叫ぶ。
勝負が決まった。盗賊であり異世界人であるカシラが勝ったのだ。
分かっていた結果では有ったが、一縷の望みをかけていたジョン達にとっては、絶望以外の何物でもなかった。
まさか、ネッドが死んでしまうなんて…!
カシラは倒れ込んだネッドに近づきながらジョン達に向かって言う。
「まぁ、んなに落ち込むなって。ちーっと痛いだろうけど、これくら…」
ネッドに視線を移した瞬間。
「いぃ!?」
カシラの目の前を太刀の刃先が掠めた!
もう少しで鼻先を落とされる所だ。
カシラは急いで距離を取り、ネッドを注意深く見遣った。
「えぇ~…マジ?さっきの避けるとか…ヤバくね?」
「…煩せぇ!危ねぇもん、人の顔面向けて撃ちやがって…クソ野郎が!」
そう言うネッドの頰に、僅かに切り傷が縦一線、付いていた。
だがそれも、ネッドの転換魔法により自動回復されていっている。
悪態をつきながら太刀を構えるネッドの姿を見て、ジョン達は驚きと安堵に包まれた。
対して盗賊達は動揺しているようだ。
「…ふぅん。”転換”で肉体強化ね。通りで俺の元素攻撃の効きが悪ぃわけだ」
「あぁ?」
「全体的な強化っしょ?目とか筋肉とか…。思ってたより使いこなしてんね、現地人の癖に。
まぁ、そんならそれで、俺もそうするだけだし」
冷静にネッドの戦い方を分析した後で、カシラは体制を整えて拳を構えた。
すると、カシラの拳を氷が包んでいく。
異様な光景を目にしたネッド達は目を見張った。
「行くぜ」
と、短く言い終えると同時にカシラは一気にネッドとの距離を詰めた!
「っ!?」
そして、ネッドの顔面をカシラの拳が捉える!
まともに一撃が入ってしまい、ネッドの視界が酷く歪む。
ネッドは全力で意識を保ちながら、二撃目からカシラの攻撃を太刀で防御していった。
しかし、一撃一撃が重い上に、カシラの拳を包む氷が徐々に太刀を包んでいってしまっているではないか!
段々と刀身が重くなっていき、防御にブレが出てくる。
刀身の中心から広がる氷漬けにネッドが気を取られている内に、カシラは一歩下がって勢いをつけて、ネッドの顎目掛けて拳を突き出す!
防御しようと太刀を構えたが微妙なブレが発生し、カシラの拳は太刀をすり抜けてしまった。
そして。
「グッ…!?」
顎に重い一撃が叩き込まれ、ネッドは背中から地面に倒れ込んだ。
「…今度こそ、しゅーりょー!」
カシラの宣言と共に、盗賊達はカシラの勝利に湧き上がった。
ジョン達は地面に膝を付いて項垂れている。
やはり、どう足掻いても異世界人と言う優等人種には敵わないのだ。
その事実が突きつけられ絶望に暮れるウェルス村陣営。
だが。
「っ…ざけんな…!」
「んぁ?」
ネッドは諦めていなかった。
グラグラとする視界の中、太刀を地面に突き刺し杖代わりにして、必死に立ち上がろうとしている。
だが、足にまで影響が出ているらしく、ガクガクと震えてとてもじゃないが直ぐに立てるとは思えない状態だ。
「あーあー、やめとけって。もうマトモにやれないっしょ」
「っく…この…っ」
カシラの注告など聞きもせず、ネッドは何とか立ち上がろうと苦悶の表情を浮かべている。
痛々しい姿にジョン達は、歪む視界の先にある現実から目を逸らすしかなかった。
どうやってもネッドはカシラに勝てない。
善戦はしたものの、戦う手法を変えられた上に今だにネッドはカシラに傷の1つもつけられていない。
その事実が勝てない現実を指し示していた。
だが、それでもネッドは諦めないのだろう。
その事が自分達の無力さを、より如実に表していて、ジョン達は悔しくて仕方がなかった。
「だーかーらー、諦めろって」
そう言いながらカシラはネッドの肩に足を乗せた。
ぐっと足に力込め、ネッドを地面に縫いとめるように抑え付けてくる。
この状態ではカシラを力尽くで退かさない限り、ネッドが立ち上がれない。
「っつーか、フツー、顎に一発食らってマトモに動ける訳ないんだけど?
ヤバすぎでしょ、あんた。…しゃあねぇ、もう一発食らって、スヤスヤ寝ててくれよ。
その間にこの村、貰っておくからよ…?」
「このっ…クソ野郎…!!」
不敵に笑いながら言うカシラに向かって、ネッドは精一杯の悪態を付いた。
だが、負け犬の遠吠えに怯む勝者はいない。
カシラは再び、拳に氷を纏わせて大きく振り被った。
そして…!
「ー…っやめろーーーーーーー!!」
ー…子供の悲痛な叫び声が空に響いた。
第13話 完
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