100.第14話 1部目 氷漬け


僕は朦朧とする意識の中、目を覚ました。

何やら、外が騒がしいのだ。

お祭り騒ぎでもしているのだろうか?

エヴァンが首都から戻って、その結果を聞いた皆が騒いでいるのかもしれない。

…それにしても、騒がし過ぎないだろうか?

まるで弾丸が乱雑に撃ち込まれているような…そう、マシンガンの銃声のような騒音が響いている。

「…うーん…何事……?」

僕は軋むベッドから這い出て、居間の窓から外を覗いた。

しかし、覗いた窓から外は望めなかった。窓の目の前を何かが塞いでしまっているのだ。

「これって…エヴァンの荷馬車?」

それが何なのか見当が付いた辺りで、やはりエヴァンが訪問して来ている事に気がつく。

しかし、打刀の売り上げを聞いて喜ぶにしても騒々しすぎる。

僕は隣の別の窓から外を覗く事にした。

この数時間で熱が上がって来てしまっているようで、かなりフラフラな足取りだ。

だが、何が起こっているのか確かめないと、眠れるものも眠れない。

僕は椅子を引きずって窓際に設置し、椅子に登った。

そして、窓の外を見ると…。

「なっ…!?」

…にが起こっている!?

少し離れた位置で見慣れない人影が、親父さんを足蹴にしているではないか!

しかも、何やら親父さんは疲労困憊な様子で、目の焦点があやふやだ。

状況を飲み込めずにいると、見慣れない人影は親父さん目掛けて拳を振り下ろそうとしている…!

僕は後先考えずに窓を開け放ち、慌てて叫んだ。

「やめろーーーーーーー!!」

僕の声に驚いた大人達が、窓から顔を出した僕をじっと見てくる。

これは一体どう言うことか?

見慣れない人間が1人どころか、10人以上居るではないか!?

「は?何で、ガキが…」

親父さんを足で抑え付けていた少年が、僕を見て怪訝そうな表情をしている。

しかし、そう思いたいのはこちらの方である。

何故、こんな大人数がウェルス村に居る?

どう考えても由々しき事態だ…!

「坊ちゃん!逃げてー!!」

すると、荷馬車の向こうで伏せていたエヴァンがそう叫んだ。

事態は分からないが、僕の存在が更に状況を不味くすると言う事は理解出来る。

急いで逃げなければ…!

しかし。

「メル!リラ!そのガキ、捕まえとけ!」

「「はーいっ!」」

少年が指示する方が早かった。

僕は窓の側に居た、女2人に手を掴まれ逃げられないようされてしまった…!

「きゃーっ!この子、可愛いー!」

「女の子かな?男の子かな?」

僕を捕らえたメルとリラと呼ばれた女2人は、やたらと嬉しそうに騒いでいる。

まるで緊張感が無いが、僕は必死に抵抗する。

が、振りほどけない…!

いくら、相手が女とは言え、子供の僕では力の差があり過ぎるのだ。

「ヴァル!ガキを連れてこい!」

「応!」

少年はヴァルと呼ばれた屈強な男に次なる指示を出した。

そして、ヴァルは迷わず、ミラー宅に入ってこようとしている。

だが、ヴァルの足元に伏せていたエヴァンが、ヴァルの足を捕まえた!

「い、行かせませんよぉっ!」

「ふんっ!邪魔だ!」

「ひぐぅ!」

エヴァンが引き止めようとしてくれたが、それも軽く遇らわれてしまい、ヴァルはミラー宅に入って来てしまった…!

そして、僕は抵抗虚しくヴァルに横抱きされて、身動きが取れないまま外へ連れ出されてしまい、まんまと人質にされてしまった…。

「と、父ちゃん…ご、ごめんなさい…っ」

「テオ!!」

親父さんはボロボロな状態の中、必死に立ち上がろうとしている。

だが、その足元は何故か氷漬けになっており、その場に拘束されているようだ。

「大人しくしとけよ、村長サン」

少年はそう言いながら、僕の元へ歩いてくる。

どうやら、親父さんの足元を凍らせたのは、この少年のようだ。

しかし、この少年…頭の天辺が黒く、髪先が金髪だ…。

これはまるで、日本に居る不良少年では無いか!?

いや、しかし、この世界に生まれた人の事を全て知っているわけでは無いし…。

などと困惑する頭で考えている内に、更に熱が上がっていくのを感じる。

「さーてと…村長サン。あんたの息子は人質に取ったけど…どうする?」

「クソッ…卑怯者め…!」

「こちとら盗賊やってんだぜ?卑怯上等。要求叶えるまでは卑怯な事して何ぼでしょ?」

「クッ……!!」

あぁ。何て事だ…。

僕の存在を知らせてしまったために、親父さんを窮地に立たせてしまっている。

いや、もしかしたら、親父さんだけでは無い。

ウェルス村の存亡に関わる問題…。

……。

「…カシラ」

「んぁ?何だよ」

「このガキ、何か熱いんだが…」

「はぁ?熱いって何だよ……ぅお!マジであっちぃじゃん!

何?こいつ熱出してんの?面倒くせぇなぁ…」

…ん?

……何やら、でこが涼しい…?

「ー…この世界、冷えピタとか無いからなー。せめて、アイスノンでもありゃ良いのにな」

「あー!カシラがまた変な言葉言ってるー!」

「変じゃねぇよ。俺の世界にあったもんの名前だから。

…そういや、氷枕?だっけ?とかあったな…。

あ!あれ、アイスノンの劣化版か!?やべー、今になって気がついたわ」

「「訳分かんなーい!」」

でこが涼しいと言うのに、耳から入ってくる情報が煩くて仕方がない。

しかし、何故僕のでこは涼しくなっているのだろうか?

重い瞼を開けて、僕は涼しくなっている正体を知った。

カシラと呼ばれる少年が僕のでこに手を当てており、何故かその手が氷並みに冷たいのだ。

比喩ではなく、本当に氷嚢を当てられているかのような冷たさがある。

親父さんの足元を凍らせたと言い、この冷たい手と言い、カシラは氷の魔法が使えるのだろうか?

…ん?冷えピタ?アイスノン?

それは、日本由来の言葉では無いのか…?

と、言うことは…彼は転移者なのか!?

衝撃の事実に気がつき、僕は息が止まるほどに驚いた。

しかし、声に出して驚きを表現するほどの元気はない。

「って、言ってる場合じゃなかったな。…で、村長サンよぉ、どうする?

息子助けたいなら俺に降伏しな。そうじゃないなら、息子はこのまま凍らせるぜ?」

何とも恐ろしい言葉が出て来た。

いや、氷を自由自在に作り出せる彼なら、確かに僕を氷漬けにすることなど容易いのだろう。

現に親父さんの足元を凍らせて足止めしている訳だし…。

しかし、彼らに降伏すると言うのは、非常に不味い。

何が目的までかは分からないが、彼らの支配下に入ったら、間違いなくウェルス村は碌でもないことになる。

例え僕の身が氷漬けにされてでも、それだけは阻止しなければ…!

…いや、それも駄目だ。親父さんに多大な罪悪感を植え付けてしまう。

しかし、この状況を覆す方法が今の僕には思いつかない。

一体、どうすれば…!!

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