15. 第2話 6部目 炉を作ります
ウェルスで一休みした僕たちは、再び川がある東の森へと向かった。
途中、間隔を置きながら、木に古布を巻きつけて目印をつけておく。
今後も通うことになるのだから、少しでも分かりやすくしておく必要はあるだろう。
古布を巻きつけるのは親父さんにお願いした。
今の僕の身長で巻きつけた所で、碌な目印にならないのは明らかである。
大人になると子供に戻りたいと思うものだが、こう不便だと早い所大人になりたいと思わざる負えないなぁ。
そうして目印をつけながら僕たちは、再び川を見つける事が出来た。
「ー…さて、テオ。どうすんだ?」
指示を仰ぐ親父さんに、僕はやる事を説明する。
「今日の内にやることは2つ。1つは砂鉄を集めて、一箇所に纏めて置いておく事。
乾かす必要があるから、ある程度広げた状態で一晩置くよ。
もう1つは炉作り。川底から石と粘土を採取して、川から遠くない所に作る。
いざって時の防水用の水として川の水を使いたいからね。
出来れば作業を分担したいんだけど…」
僕の説明を聞いた親父さんは、僕の手から磁石を取り上げた。
「なら、砂鉄集めは俺がする。高炉作りなんて言う細かいことは俺には出来ねぇ」
見事な自己評価だ。
「うん。僕もそれが良いと思う。あ、でも、石と粘土集めを手伝ってくれるかな?」
「あ?当然やるに決まってんだろ。子供1人で川に入れられるか」
乱暴な答え方をしながらも親父さんは川底から程よい石を、ひょいひょいと拾って集めてくれている。
その間に、僕は慎重に川の中を歩きながら粘土を鑑定眼を使って探す。
割と直ぐに見つかったが、粘土は川底にあり僕の手では届かなかった。
完全に潜ってしまえば届くだろうが、川の流れに負けてしまいそうだ。
だが、石を拾っていた親父さんが僕の様子に気がついたようで、直ぐに駆けつけてくれたおかげで粘土も難なく手に入った。
材料が揃ったところで、親父さんは磁石を使って砂鉄集めを始めた。
順調に集まっていく砂鉄を横目に、僕は石を組み上げていく。
こう石を積み上げて行くと、なんとも懐かしい気分になる。
前世の子供の頃の遊びといえば、砂遊びやら泥遊びだった。石を積み上げる遊びなんかもやったものだ。
しかし、懐かしい気分になると同時に、複雑な気分にもなる。
川の側で石を積み上げている、この状況。この行為自体は賽の河原で死んだ子供がやることだ。
子供の状態でないにしろ、僕は死んでいたはずの人間。
何の巡り合わせか、この世界に転生してしまっただけで、本来ならあの世で似たような事をしていたかもしれない。
最も、賽の河原ではなく裁判を受けて地獄に落ちていたかもしれないのだが。
そう思うと、どうにも今いるこの世界が死後の世界だと言われても、今なら信じてしまいそうだ。
まぁ、そうだとしても、出来る限りの事をして親父さんやお袋さん、それにウェルスの人たちの為に動くだけだ。
そうこう考えているうちに、順調に石は積み上がり、それなりに立派な炉が出来上がった。
大きさは大体高さが1メートルほど。直径30センチほどである。
本来のたたら場からすれば、物凄く小さい。しかし、今はこれが限界だ。
下の方に大きい穴を開けつつ、炉の所々に空気穴を作っておいた。
これで、精錬が出来るはずだ。あとは、炉が乾くのを待つしかない。
辺りはすっかり薄暗くなっており、そろそろ帰らなければいけない時間だろう。
集められた砂鉄の量も結構なものになっている。おそらく、今回だけでは消費できない程の量だ。
親父さんはかなり頑張って集めてくれたらしい。
「父ちゃん。今日はもう帰ろう」
未だ川の中に入っていた親父さんに声をかけると、ざぶざぶと音を立てながら川から上がってきた。
その手には砂鉄が付いた磁石を持っており、今日最後の砂鉄を山となっている砂鉄の上に乗せた。
「沢山集めたねぇ」
砂鉄の山を見て、しみじみと言うと親父さんは不思議そうな顔を見せた。
「ん?マズかったか?」
沢山集めた事を言外に責められたと思ったのだろうか?
そもそも、どのくらい集めるかを言っていなかったし、その事については責め様も無いのだが…。
「不味くはないけれど…このままではちょっと問題かな」
山となっている状態では、水分を伴っている砂鉄は当然乾きづらい。
最初に平たくして乾かす説明したはずだが、おそらく砂鉄集めに集中してしまって忘れていたのだろう。
僕は下の方から崩すようにして砂鉄を手前に平たく広げる。
「水分を飛ばさなきゃ熱が通りづらいから、これだけ済ませて今日は帰ろう」
すると、親父さんは平たくしておくことを思い出したのか、勢いよく山を崩し始めた。
「俺がやるから、お前は先帰っとけ」
自分の仕事をこなせて居なかった事に焦りを感じたらしく、親父さんはせっせと山を平たくしていく。
必死に頑張っている姿を見ると手を出しづらいな。
致し方ない。
「夜道が怖いから、ここで待ってるね」
僕はその場に膝を抱えて座り込み、親父さんを見守る事にした。
「あん?……そうか。分かった。すぐ終わらせるから待ってろ」
「うん」
親父さんは一層急いで砂鉄の山を平らにしていく。
せっかく2人でここまで頑張ってきているのに、1人で家に帰るなんて寂しいではないか。
これは、僕たち親子の共同作業なのだから。
その後、僕たちは汚れに汚れた手を川で洗い流しつつ、帰路に着き、家で夕飯の支度をして待っていてくれていたお袋さんを驚かせることとなる。
2人揃って砂まみれ、泥まみれにもなれば当然の反応であった。
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