14. 第2話 5部目 川、見つけました!
「テオ」
磁石を見つけてホクホク顔をしている僕に、丁度帰ってきた親父さんが呼びかけてきた。
「父ちゃん!お帰りなさい!」
「お、おう…何か、妙にハイテンションだな…」
いつになく上機嫌となった僕は親父さんに磁石を見せながら、砂鉄を集めやすくなった事を実践を交えて説明した。
「こんなもん良く見つけたな…」
そう言いながら、親父さんは磁石を掲げて観察する。
掲げられた磁石は陽の光を反射して黒光りしている。
今の僕たちには紛れもない宝石だ。これ1つで目標にまた一歩近づくのだから。
さて、磁石も手に入れた僕たちは、親父さんが見つけた滝へと向かった。
大山の山肌を滑り落ちてくる大量の水。辺りには水しぶきが散っており、立派な滝壺が出来ていた。
更には、目論見通り滝壺からあふれ出た分の水が、川となり北の方向に向かって流れていって居る、
これは幸いだ。何しろ、僕たちは北方向から南下して、この大山へと来たのだから。
つまりは、この川を辿りつつ村のある方向へ戻ることが出来るのだ。
「上手いこと、村の近くまで川が続いてると良いんだけど…」
そう言いながら、僕たちは川を辿りながら村へと向かう。
「まぁ、あれだけの勢いがある滝から出来た川なら、それなりに続いてんだろ」
親父さんのいうように、この川は川幅はそれなりに広い上に川底も浅くはない。
故に、そう簡単には途切れていないだろうと思われる。
しかし、大山に行くまでに2時間もかかっている道のりと、同じだけ川が続いて居るかと考えると少し不安になる。
太陽の光が差す方向で方角を確かめつつ、僕たちはひたすらに川を辿って歩いていく。
そろそろ行きと同じだけの時間が経っただろうと言う辺りで、僕たちは一度方角を確認する。
「ちょっと待ってろ」
そう言って親父さんは実に見事な身のこなしで、木の天辺まで登っていく。
太陽の方向を確認するのと、周辺の状況を確認するためだろう。
どうも親父さんはサバイバル経験が豊富なようで、この手の事は得意としている。
川だけを頼りに、斯くも無謀に森の中を進んでいられるのは、偏に親父さんのサバイバル知識があるからだ。
そう。何も下手に格好つけずとも、親父さんも頼りなる格好いい男なのだ。
ただ、それ以外の知識に偏りが見られるのが玉に瑕なだけなのだ。
そんな風に考えて居る間に、親父さんはあっという間に木から降りてきた。
「日は大体向こうの方にある」
そう言って親父さんは日のある方向を指差した。
「そっか。じゃあ、ウェルスは…」
現在の季節は初夏。ともなれば、本来なら太陽は大体北東から登ってくる。
そう仮定して、僕は親父さんが指差した方向が、時間帯から大体北西である事に見当をつける。
そして、村を出るときの太陽の位置を思い出した結果、僕たちが向かうべき方向は…。
「太陽の方向に行けば着く」
「えっ」
僕が真剣に考えてる間に、親父さんはさっさと先に行ってしまった。
もはや親父さんには、考えるよりも感覚に頼った方が早いのだろう。
それほど親父さんは、この森の周辺と太陽の位置関係を把握してるのだ。
何はともあれ付いていけば大丈夫そうだ。
先を行ってしまう親父さんを慌てて追いかけていき10分ほどすると、森が拓けた。
遠くの方を目を凝らしてみると、見慣れた家が見える。
どうやらミラー宅の裏庭側に出たようだ。
「つ、着いたー!」
ようやっと帰ってきた村の姿に底知れぬ安心感が、疲れた体を癒してくれる。
「…本当に近い場所に川、あったな」
緊張で凝り固まった体を伸ばして解す僕の横で、親父さんは来た道を振り返って言った。
徒歩10分ほど離れた場所にある川。ウェルスからでは、川音は聞こえてこない。
探そうと思えば見つけられたかも知れないが、宛ても無く探すほどの用は今までなかったのだ。
しかし、これからは度々向かうことになるだろう。
「うん。これで一々、大山に行く必要は無くなったね」
「砂鉄だったか?どこで集めるんだ」
「川底だよ。炉も川底の石と粘土を使って作るつもりだよ」
僕の説明を聞いて親父さんは無言で目を見開いて驚いて居る。
もはや言葉にして驚くのも煩わしいと言った様子だ。
おそらく、親父さんが想像していた炉とはレンガ作りの物だろう。
しかし、レンガを作るには粘土で形を作って窯で高温で焼く必要がある。
そもそも、それが難しいのにレンガ作りの高炉など以ての外だ。
だからと言って炉が作れない訳ではない。
石を組み上げながら、繋ぎとして粘土を使用して炉を作成する事が出来る。
最も、本来のたたら場ならば粘土のみで炉を作るのだが、人手が無い現状では、簡単に作れる方法を取るのが良いだろう。
石の分、粘土が少なく済むし炉の整形も、容易い筈だ。
勿論、炉として使うには水気があっては効率が悪い。
そのため、炉を組み上げても直ぐには使えず、
全体が乾くのを待つ必要があるため、実際に精錬が始められるのは、早くて明日になるだろう。
砂鉄も川底から集めるし、それが乾くのを待つ必要もある。
ともかく、まずは行動あるのみだ。
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