16. 第2話 7部目 製鉄しますが…!?

それから2日後。

結局、砂鉄も炉も一晩では乾かなかったため、安全をとって2日後の今日に精錬する事にした。

幸いな事に昨日も今日も雨は降らなかったため、砂鉄も炉も完璧に乾いていた。

昨日は追加で木炭を生産し、その分も含めて大量の木炭を川側の作業場へと持ち込む。

作業場に着いてすぐ、森の中に驚きの声が響き渡った。

「ほぉー!?これが、ネッドとテオが言ってた高炉か!?」

僕が作った炉を見て、驚きの声を上げたのは、村の中で親父さんの次の働きとして活躍してくれている、ウィルソンさんだ。

御年47歳の御仁だ。村の中では比較的若い方である。

「はい。今日はそれで砂鉄を精錬します。火の方、よろしくお願いします。ウィルソンさん」

「おう!任せとけぇ!火をつけるだけなら、俺でも出来らぁ!」

今回、ウィルソンさんに同行をお願いしたのは、何も荷物持ちだけの為ではない。

ウィルソンさんは、火の魔法を得意としているらしいので炉の火付け役として付いてきてもらったのだ。

木炭を作る際は、お袋さんに火点けを頼んだが…。

これからやろうとしていることは、中々に危険な行為だ。

お袋さんを危険な場に連れてくる訳にはいかない。火傷をするのは、我々男だけで事足りる。

と、言う理由からウィルソンさんに同行をお願いしたのだ。

「ありがとうございます。それじゃあ…早速、精錬を始めましょうか」

まず、木炭を炉の中に敷き詰め、ウィルソンさんに火を点けてもらう。

更に木炭を投入していき、火の勢いが強まるのを待つ。

火の具合を見ようと炉の前に身を乗り出したら、親父さんに勢いよく後ろに引っ張られた。

親父さんの体に衝突すると同時、凄い勢いで怒鳴られた。

「火傷したらどうすんだ!作業は俺とウィルソンでやるから、お前は指示だけしてろ!」

そう言いながら、親父さんは僕を炉から遠ざける。

どうやら、僕も火傷をしてはいけない対象の様だ。

いや、これは仕方ない。今の僕は子供なのだから。

「えぇー。俺もやんのかい?火を点けるだけだと思ってたのに…」

伝えていた作業とは別のことをやる事になった状況に、ウィルソンさんが不平不満を口にする。

しかし、親父さんは聞き入れない。

「つべこべ言うな!テオに火傷させてぇのか!?」

「うん!それは嫌だな!よし、テオ!次はどうすんでぃ!?」

「え、えぇっと…」

凄い勢いで指示を求められる状況に苦笑を浮かべながら、僕は親父さんとウィルソンさんに火の具合を確かめてほしいと頼んだ。

その後、火の勢いがかなり強まって来た所で、砂鉄を投入させる。

少しすると、炉の一番下の穴からドロリとした真っ赤な液体が流れ出て来た。

「おっ!?もう、鉄が出来たのか!?」

興奮気味にウィルソンさんが、赤い液体を見て言った。

「あ、それは違います。それはノロって言って…えぇっと…鉄の灰汁みたいなものです」

「灰汁?じゃあ、鉄じゃねぇのか」

「鉄と言えば鉄ですが、どうしようもないので、炉から掻き出しちゃってください」

僕の説明を聞いてウィルソンさんは首を縦に大仰に振って納得してくれた。

炉に向き直してノロを掻き出しながら、「流石、神子だ」と言っている。

それを聞いて親父さんは、面白くなさそうにウィルソンさんを睨む。

どうも親父さんとお袋さんは、僕が神子だ。転生者だ。と言われるのが気に食わないらしい。

僕としても転生者ならまだしも、神子と呼ばれるのは慣れそうにない。

何しろ僕は何てことない、前世でも普通の人間だったのだから。

今回の鉄の精錬のやり方を知っていたのは、前世で知り合いがたたら場に従事していた関係だ。

たたら場を見られることなんて、滅多にない経験である。

知り合いに声をかけられた時に、僕は真っ先に飛びつき見学しに行った。

4日3晩、休むことなく行われるたたら場での精錬作業は、素晴らしいの一言に尽きるものだった。

作業を手伝いはしなかったものの、一連の作業を知り合いの解説混じりに見たことが

今回の精錬に役に立っているのだ。

最も、この状況を件の知り合いが見たら、渋い顔をされそうだが…。

そこは、緊急事態である事を考慮して許して貰おうではないか。

ノロを掻き出しつつ、火の状態を保つため風を送り込む。

息を吹きかけて…と言うのは危険極まりないので、ウィルソンさんが風の魔法を使い空気を流し込んでいる。

木炭と砂鉄を数十分に一度、交互に入れていき精錬を続ける。

段々と砂鉄を入れる間隔を短くしていきながら、炎が緑色になるのを確認し精錬を続けて約5時間。

ウィルソンさんが体力の限界を訴えて休んでいる傍、僕は炉の中を覗いた。

親父さんに一度は止められたが、事情を説明して何とか見せてもらえた。

まだ火の勢いはあるものの、何とか見ていられる。

どうやら、炉が侵食されて限界を迎えてきて居る様だ。このままでは自壊するだろう。

その前に、炉を破壊しなければならない。

しかし、炎が燃え盛る炉を破壊するには鉄製の引っ掻き棒が必要だったような…。

これは一晩おく必要があるだろうか?

いや、炉を壊すことも鉄を精錬する上で必要な過程であって、それはまだ火が点いている状態でないと…。

「どうした、テオ」

僕が悩みに悩んでいると、親父さんが怪訝な顔で僕の顔を覗き込んできた。

「そろそろ炉を壊さないといけないんだけど…まだ火が点いてるから、どうしようかと…」

「せっかく作った炉を壊すのか?」

炉を壊す事に抵抗を感じたのか親父さんは眉をひそめる。

疑問に思うのはそこなのか?と思わないでもなかったが、僕は話を続ける。

「うん。それは今やるとしても、明日やるとしても必要な事だから。

問題は今の状態で炉を破壊する必要があるんだけど、炎が…」

「そうか、壊すんだな。分かった」

「え?」

僕の言葉を遮って、親父さんは唐突に僕を持ち上げた。

そして、ウィルソンさんが寝そべって居る隣に下ろし、直ぐ様に炉へと戻って行く。

一体、何のつもりで態々こんなことを…。

と言う疑問を思い浮かべ、その理由に見当が付いた時には遅かった。

ガラガラと言う派手な音が辺りに響き渡り、火の粉が舞い上がっている。

「お、親父さん!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る