17. 第2話 8部目 無茶が過ぎませんか!?

何と親父さんは、炎が燃え盛る炉を素手で崩したのだ!

石と粘土で作ってあったからか、侵食が進み強度が無くなっていたからか、

はたまた親父さんがバカ力なのか、炉はガラガラと崩れて行って居る。

何と言うことだ。僕が壊す必要があると言ったばかりに、あんな暴挙に出るなんて…!

あまりの出来事に言葉を失って居るうちに、親父さんはどんどん炉を崩していき、完全に崩れると親父さんは僕に話しかけてきた。

「壊したぞ。これで鉄は出来たのか?」

平然と話して居る親父さん。

…いや、鉄とかそれどころでは無い!

「そんなことより、親父さん!手!!」

急いで駆け寄り、僕は親父さんの両手を引っ張って、直ぐに川の水に浸し患部を見た。

火傷どころではない。焼け爛れて、皮がめくれ上がって居る。

とてもじゃないが無事とは言えない。

「おい、テオ…」

「こんな無茶をしてくれなんて指示してないよ!」

怒鳴りつけると親父さんは目を丸くさせた。

僕は必死に頭の中で、親父さんの焼け爛れた手を治療する手立てを模索する。

しかし、幾ら考えてもその手立ては浮かばず、僕は歯を食いしばった。

「…テオ。そんな顔すんな」

普段と違う様子の僕を見て親父さんが言う。

「家族がこんな状態になって冷静で居ろって!?」

「いいから落ち着けって」

そう言って親父さんは川から手を出し、焼け爛れた両手の手の平を上にした。

とにかく冷やさなければ…!と頭がいっぱいになって居る僕の目の前で、

信じられないことが起こった。

焼け爛れていたはずの親父さんの手の平が、見る見る内に治っていって居る。

「この程度なら直ぐに治せるから、心配すんな」

完治してしまった手の平を親父さんは僕に見せた。

一体何が起こった?理解が及ばず、僕は疑問符を頭の周りに飛ばす。

目を見開いて、今度は別の理由で言葉を失う僕に親父さんは言う。

「治癒魔法だ。一時的に人体の再生能力を底上げする」

これも魔法だって?魔法と言うのはトンデモナイ。

これまでの人生の中で最も驚いた魔法である。

しかし…。

「ー…からって…」

「ん?」

「治せるからって鉄を溶かすほどの炎の中に、手を突っ込むなんて無謀にも程が有る!

まだ皮だけで済んだものの、肉まで焼け爛れてたらどうしてたんだ!」

僕の叱責を受け、親父さんは肩を竦めて顔を引き攣らせた。

「い、いや…壊す必要があったんだろ?なら、良かったじゃ…」

完全に立場が逆転している状態で、僕は容赦無く親父さんを叱責し続ける。

「こんな方法でしか壊す方法が無いなら、多少鉄の出来が悪くなっても

一晩置いてから炉を壊す方法だって有ったんだ!

それを親父さんが、僕の言葉を待たずに炉の破壊を強行したんだろう!?」

全く、人の話は最後まで聞いてほしいものだ。

まさか親父さんが僕の話を待たずに行動するとは思わなかった。

いや…これは僕の責任でもある。最初に全行程を説明しておくんだった。

そうすれば、事前に注意することも出来た筈なのに…。

「テ、テオ…す、すまん…」

頭を抱える僕を見て、親父さんがおずおずとしながら謝る。

「いや、僕ももっと早くに注意しておくんだったよ…言葉足らずだったね、ごめん」

僕の言葉を聞いて、親父さんは安堵したらしく表情を明るくさせた。

お互いに謝ったところで僕たちは、破壊された炉の塊に目をやる。

所々に残り火があり、まだまだ熱を持っていそうだ。

不本意な方法であるものの炉は破壊出来た。しかし、これでは中身は取り出せそうにない。

火かき棒も無いのでは手をつけられないし、親父さんに同じ事はさせられない。

本当なら今直ぐにでも状態を確認したいのだが…。

川に直接投入して、冷却する事も考えたが引き揚げる苦労を考えると躊躇してしまう。

ならば、やはりこのまま放置して火と熱が収まるのを待ったほうがいいだろう。

その事を親父さんとウィルソンさんに説明して、僕たちはお昼休みを取ることにした。

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