178.第27話 4部目 打ち合わせ
たたら場に顔を出して、ジョンさん達に迎え入れられながら、
レオンくんの所在を聞くとパーカーの所に居るとの返事が返って来た。
その答えを受け、僕達は鍛冶場へ向かう。
すると。
「ー…刀のおっさーん。俺にナックル作ってくんね?じゃなきゃ指輪」
「あぁ!?指輪ならジョンに言え!俺ぁ刀鍛冶屋だってんだ!」
「だーかーらー、刀のおっさんに言ってんじゃーん。武器なんだって、ナックルがー」
何やら、レオンくんはナックルダスターをパーカーにねだってる最中の様だ。
「そんな武器知らん!」
「マジ?この世界、ナックルも知らねぇとかマジやば…」
驚愕しながら目線を適当に空へ向けるレオンくん。
その流れで目線がこちらへ向き、レオンくんの言葉が止まった。
「あ。テッちゃんとコーシャクさまじゃん」
存在を認知された僕達は、レオンくんの側まで歩いて行き話しかけた。
「やぁレオンくん。君を探してたんだ」
「は?俺を?何で?」
怪訝そうにするレオンくんに話を切り出そうとした瞬間。
「おおお!坊主!!やっと来たか!ネッドさんはどうなった!?帰って来たか!?」
レオンくんを押し退けたパーカーが眼前まで迫って来た!
余りの近さに流石に冷や汗が流れる。
「こ、こんにちは、パーカーさん…。と、父ちゃんはもう少しで帰って来ま…」
「おおお!そうかそうか!!帰って来たら見せなきゃならねぇもんが、たんまりあんのよぉ!あ、そうだ!坊主、お前も見てけ!今回のも自信作だぞぉ!」
弾丸の様に放たれる言葉に圧倒されて居ると、腕を掴まれて店の中に連れ込まれそうになる。
「あ、後で見せて貰うよ!ぼ、僕、レオンくんと話が合って…!」
「あん?レオンと?放っとけ放っとけ!あいつの相手するより、俺の刀見てる方がためになるぞぉ!」
…駄目だ。
どうやら5日間ずっと誰にも作品を見て貰えなかった鬱憤が溜まってるらしい。
パーカーの作品には興味はあるが、今はそれどころじゃ…。
「ならば、私に見せて貰おうか」
僕の腕を掴んだパーカーの腕を掴みながら神代が言う。
「おぉ?あんた、誰だ?」
「私はこの子の祖父。イサミ・カジロだ。…ネッドを連れて来いと言った張本人でもある」
「…何ィ!?」
神代の自己紹介を受け、パーカーの目の色が変わった。
それと同時に僕の腕がパーカーの手から解放される。
神代に文句を言い始めたパーカーを他所に、神代が僕に目で告げる。
ここは任せろ。と。
僕は神代の厚意に甘え力強く頷き、レオンくんの元へ行き、2人で鍛冶場から少し離れた所に移動した。
「ぎゃはは!コーシャクさま、やべー!わざわざ、刀のおっさんにネチネチ言われに行ってやんの!」
人の不幸を楽しそうに笑って鑑賞するレオンくんの横顔を見て苦笑した。
「どうしてもレオンくんに話さなきゃならない事が合ったから助かったよ」
「あー、マジウケる。刀のおっさんの顔やべー。…あ、で、何だっけ?」
レオンくんの方から話を戻してくれたのを皮切りに、僕は学園へ行く事、キリキリムシ達と農民達との橋渡しの役目の事、
クグノチノミコトを信仰する上で、レオンくんが発祥である事にして欲しい事を頼んだ。
全ての話を終えた後、レオンくんが先ず最初に言ったのは…。
「ー…それって、コーシャクさまが、テッちゃんを人質にして首都に連れてくって事?」
話を始める前までの楽しげだったレオンくんとは打って変わって、神代への敵対心をチラつかせながら言った。
親父さんが戻ってくる代わりに、僕が首都の学園へ入る事になると言う情報だけなら、確かに人質の様に思われるだろう。
「ううん。僕は僕の意思で学園へ行く事に決めたんだ」
「ウソでもホントでもテッちゃんなら、そう言うだろ」
レオンくんにそう言われて、僕は痛い所を突かれて驚いた。
確かに人質として学園へ行く事になっても、同じ事を言うなぁ。
となると、この言葉だけでは信用に足らないか。
「うーん…。この村の未来を思って、植林の技術を作りに行くんだ…って言うのも、僕なら言うと思わない?」
「……ゼツミョーにウソって言えねぇのがムカつく」
「そっか。なら良かった」
ある種の信用を得られていた様で何よりである。
「っつーか、ミッちゃんと仲良くとか…レベル高くね?」
「そうかな?僕は緑丸くんとレオンくんは結構仲良くなれると思ってるよ」
「えー?マジ?」
「まじまじ」
暫く緑丸くんと仲良くなる手段を二人で講じた後で、レオンくんは次の話題に移った。
「ー…あー、それとさー。何だっけ、さっき言ってた神様の名前」
「クグノチノミコト、だよ」
信仰の対象となる神の名前は覚えて置いて貰いたいが、名前を覚えるのが苦手なレオンくんには果たしてどうだか…。
「ググ……何、その、検索しろ見たいな名前」
「レオンくん、最初から間違えてるよ」
やはり難しそうか?
神代の聞かれて一瞬迷ったのもこれが原因なんだよなぁ…。
「は?もっかい言って」
「クグノチノミコト」
「ク…グチノチノミコ?」
「うん。全然違うね」
本人は全く巫山戯てない様子なのに、間違え方が不遜すぎる。
僕から不正解の烙印を押されたレオンくんは、全てを投げ出すかの様に寝っ転がってから言う。
「あーもー!神様の名前とか覚えてられっか!!もー、あれだ!クーちゃん!クーちゃんで決定!」
「随分と可愛らしい御名になったなぁ…」
まぁ、さっきの間違えた呼び方で浸透されるよりは幾分かマシか…。
本来の名前はお袋さんと親父さんに覚えておいて貰う事にしよう。
レオンくんの呼び方は、親しみを込めて呼んでいるのだと言い張って貰う必要はあるが。
「テッちゃん無理だって。メルリラヴァルだって、今の呼び方じゃないと覚えてらんねぇもん」
「ん?メルさん、リラさん、ヴァルさんも渾名なの?」
「…どうだったけ?」
「…それすらも忘れたのかい?」
もはやレオンくんのソレは才能では無いかと思えてしまう程だ。
ともかく、必要な共有事項は伝え終えた。
後は今話した事を首都で待つ親父さんにも共有すれば、僕がここから離れた後も上手くやってくれる事だろう。
一頻り話し終えた僕達は、神代とパーカーの様子を見に鍛冶場へと戻った。
すると。
「ー…そうか!!つまり、薙刀ってのは馬上で使う武器か!槍と同じって訳だ!!」
「うむ。尤も、確かな腕前を持って居る猛者ならば、むしろ地上での戦闘でその威力を発揮するだろう。
馬上での扱いに長けて居るなら、尚の事な」
「なるほどなるほど!地上の次が馬上か!言われてみりゃ道理だ!」
…どうやらパーカーの新作について語っている所らしい。
しかし、まさか、打刀では飽き足らず、薙刀まで作り始めたとは…。
まぁ、日本の武器である事は変わりないが…。
「なぁんだ。全然仲良さそうじゃん。もっとギスギスしてんのかと思ったのに」
レオンくんは、つまらなさそうに言いながら、2人の側へ寄っていく。
「レオン!お前も見習え!神代侯爵は日本刀にも、薙刀にも精通している素晴らしい御仁だぞ!!」
「そりゃそうだろ。コーシャクさまって日本の軍人だぜ?知ってて当然じゃん」
呆れ気味に言うレオンくんに対して、パーカーは興奮気味だ。
「そうか!やっぱり日本っての素晴らしいな!!もっと日本の武器を作ってみたいもんだ!勿論、俺の中で一番は刀には違いないがな!!がっはっは!」
「うわ、いつにも増してウッザ」
心底、鬱陶しそうに言うレオンくんを見ながら、その後ろで僕も苦笑した。
すると、神代が口を開く。
「パーカーさん。私は貴方に武器を作り続けて欲しい。私は長年、貴方の様な刀鍛冶を探していたのです。
今後のアロウティ神国の防衛力を確固たるものとするためには、貴方の様な職人が必要だ。是非ともお力をお貸し頂きたい」
そう言いながら、神代はパーカーに右手を差し出した。
今のパーカーならば、刀生産にこれまで以上の熱量を捧げる事だろう。
神代の手も直ぐに取って…。
…ん?取らないな…?
「神代侯爵。あんたの申し出は願ってもねえ。
けどな、俺が刀鍛冶になれたのは、この村の、延いてはネッドさんのおかげなのよ。
だから、俺の刀が欲しいならネッドさんに話を通してくれや!」
意外な言葉がパーカーの口から出た事に、僕とレオンくんは顔を見合わせた。
まさか、そこまで親父さんに信用をおいていたとは…。
パーカーの言葉を聞き、神代は右手を引いた。
「分かった。必ずやネッドを説得し、貴方が打つ刀を買い占めさせて頂こう」
不敵に笑いながら言う神代を見て、パーカーは豪快に笑うのだった。
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