117.第17話 2部目 英雄譚

ー…私たちが住む世界【イモン・ディ・ルアナ】は、女神【ティアナ】さまが造られました。

ティアナさまは、皆に魔法と言う奇跡の力を分け与えて下さりました。

ティアナさまはおっしゃりました。


『この力を使って”世界”を広げなさい』


皆は頭をかしげます。


「世界はこんなに広いのに、どう広げれば良いんだろう?」


皆が揃って困りました。

悩んでも悩んでも、世界は広がりません。

すると、黒くて大きい、とても恐ろしい怪物が現れたのです。

悩む皆の気持ちから生まれた怪物でした。

突然現れた怪物は、悩む皆を襲い始めました。

ばた。ばた。と倒れていく人達。

怪物はどんどん皆を殺していってしまいます。


「このままでは皆が死んでしまう!」


困った皆はティアナさまに願いました。

怪物を無くしてください、と。

すると、ティアナさまは、とある1人に力を授けたのです。

皆から賢者と呼ばれたその人は、ティアナさまから貰った力を使いました。

すると、眩い光に包まれた人間が次々と現れたのです!

眩い光を放ちながら現れた人間に、ティアナさまが英雄と名付けました。

英雄は言います。


「僕達に任せて!必ず皆を助けるよ!」


とても心強い言葉に、皆は嬉しくなって声を上げました。

すると、どうでしょう?

皆の悩みから生まれた怪物は、いつの間にか綺麗さっぱり居なくなっていたのです。


「英雄が怪物から皆を守ってくれたんだ!」

「ばんざーい!ばんざーい!」


怪物が居なくなった事に皆は手を挙げて喜びました。

英雄の活躍で、ティアナさまの望み通り世界も広がり、皆は大喜び!


「英雄と一緒にいれば、世界は広がっていくんだね!」

「ティアナさまの願いも叶ったんだ!」


皆は英雄に心からのお礼を言いました。

英雄は言いました。


「僕達もこの世界が大好きだよ!これからもよろしくね!」


英雄の言葉を聞いて、皆はまた手を挙げて喜びました。

こうして、皆と英雄は仲良く楽しく暮らしましたとさ。

おわり。




「ー…寝たか?」

ベッドに横たわり目を閉じるテオを見て、ネッドがアメリアに聞いた。

「えぇ。もう、ぐっすりよ」

愛おしそうにテオを見つめながらアメリアは本を閉じた。

この世界の始まりと、この世界を救った英雄の物語。

遥か昔から伝わり続けている伝説とも言えるだろう。

ネッドやアメリアに取っては、何て事ない昔ながらの御伽話だ。

絵本を読めない子供でも、決まって大人から聞かされてきた。

この本も、何人もの子供に御伽話を伝えて来たのだろう。

テオもその1人となったのだ。

「ありがとう。ネッド。テオに本を買って来てくれて…それと怒ってごめんなさい」

本の表紙を撫でながら言うアメリアに、ネッドは目を丸くして答えた。

「謝るな。…テオを学校に通わせてやれない代わりだと思えば、安いだろ」

「…そうね」

ネッドの言葉を聞き、アメリアはテオの頭をそっと撫でた。

この世界の平民は近しい大人から生きていくのに必要な知識を教えられる。

だが、それ以上の事を教わることはない。

教わりたいのなら、学校や一部の人間にしか開放されていない図書館に行くしかない。

しかし、そのどちらも、貴族以上の人間でないと入れないのだ。

何故、貴族以上でないと入れないのか?

それすらも平民は知らされていない。

ただ、多額の金が無ければ入れないと漠然と伝わっている。

今のミラー家や、ウェルス村の財政ではテオを学校に通わせるなんて出来る筈もない。

いや。正確には通わせる事は出来るが、それは出来ないのだ。

テオが転生者である事を公にすれば、【異世界人連盟】が保護対象として然るべき対応を取ってくれるだろう。

しかし、テオ自身がそれを望んでいない。

テオが特別である事を望んでいないのに、特別な立場に追いやる事などネッドとアメリアには出来ない。

だが、テオは学ぶ事に貪欲だ。それと同じくらい、何かを成す事に貪欲だ。

そんな人間の可能性を潰してしまうかもしれない事を、親として心を痛めずにいられないのだ。

幾ら転生者であり自分達よりも年上の様に感じる子供でも、ネッドとアメリアに取っては掛け替えのない存在なのだから。




翌日。

僕達は盗賊達が閉じ込められている空き家に足を運んだ。

いよいよ、彼らと交渉する日となったのだ。

お袋さんが入り口を固めている氷を溶かして扉を開けた。

開けると同時に声がかかる。

「あれ?アメちゃん?さっき来たのにどうし…」

困ったように微笑みながら空き家に入ったお袋さんの後から、険しい顔つきをした親父さんが入った事で、言葉が途中で止まった。

今の声は…恐らく、カシラのレオン。転移者の彼だろう。

僕も親父さんの後に続いて空き家に足を踏み入れる。

「…お前達に話がある」

親父さんがそう言うとレオンくんは不適に笑った。

「何?解放してくれんの?」

「お前達の返答次第ではな」

レオンくんの質問に対して親父さんが答えると、盗賊達は騒ついた。

その騒つきをレオンくんが片手を上げて止める。

実にカシラらしい。

「…で?何?」

真剣な面持ちで聞くレオンくんに、親父さんは嫌そうにしながら説明し始めた。

レオンくん達に説明したのは、拘束魔法を受けて貰った上で村で5年間働き、それを村襲撃に対する罰にすると言う事である。

「ー…ふざけるな!カシラに手も足も出なかった男の下で働けだぁ!?」

「そうだ!そうだ!姐さんの背中に隠れる様な男が偉そうに!」

盗賊達の反発を聞き、お袋さんは困った様に眉を下げる。

この先、親父さんが言う言葉を察してしまったからだろう。

そして、親父さんは僕達が思った通りに冷たい態度で盗賊達に言った。

「受けられないなら、全員殺すだけだ」

「…なっ!?」

親父さんの言葉を聞き、盗賊達は余りの衝撃に硬直した。

すると、レオンくんが僕を見て言う。

「あーあ。良いの?チビの前でそんな事言っちゃってさぁ?それに、俺を殺したいなら、村長サンの力じゃ無理でしょ?どうすんの?」

尤もだ。

盗賊襲撃時にも、親父さんは善戦したもののレオンくんには擦り傷1つ付けられなかったと言うのだから。

力で捻じ伏せることは難しいだろう。そうしている内に反撃に出られる可能性が非常に高い。

「そ、そうだ!カシラに敵わないお前にカシラが殺せるはずが…!」

「勘違いするな」

盗賊の1人が噛み付いたと同時に親父さんは言う。

「確かに俺はコイツに敵わなかった。…だが、お前らを捻じ伏せられない訳じゃ無い」

「な、何だと!?」

「お前らを殺す事なら俺でも出来る」

親父さんの言葉を聞きレオンくんはしれっとした態度を返す。

「あっそ。でも、そいつらは殺せても俺は殺せないでしょ?それはどうすんの?俺だけ生かすの?」

「カ、カシラぁ!?」

盗賊達はカシラにあっさりと梯子を外された事を受け、顔を悲しげに歪ませた。

それは暗に部下達が親父さんに敵わない事を肯定しているからだろう。

それでも自分が優位である事は変わりないと言いたげに、質問を重ねるレオンくん。

親父さんはちらりとお袋さんと目を合わせた。

お袋さんが静かに小さく頷くのを見ると、親父さんは向き直って答える。

「…お前はアメリアの魔法で拘束する。その後で俺が首を切る」

「…は?」

親父さんの答えを聞き、レオンくんの顔色が変わった。

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