118.第17話 3部目 会合

「何それ?アメちゃんに俺の殺しを手伝わせるって事?あんた、それでも旦那なの?自分の女にそんな事させんのかよ!?」

自分が殺される事よりも、お袋さんに人殺しの手伝いをさせる事に対して、レオンくんは怒りを露わにした。

すると、親父さんがレオンくんに負けず劣らずの大声を出して対抗する。

「黙れ!お前に俺達の事を言われる筋合いはない!」

「何が筋合いだよ!自分1人の力じゃ俺を殺せないからって、アメちゃんに手伝わせるとか最悪最低だろ!!」

親父さんの反論に、レオンくんも譲らない様子で言い返した。

一触即発しかねない、ピリピリとした空気が漂う。

この状況でも子供である僕は何も出来ない。

何とも歯痒い思いをしながら、冷や冷やしているとお袋さんが2人の間に割って入った。

「レオンくん。私はネッド1人に人殺しの重荷を背負わせたくないの」

「…アメちゃん?」

お袋さんの言葉を聞いて、レオンくんは困惑している。

お袋さんは構わず続けた。

「貴方達の事は村の問題でネッドは村長だから、貴方達が私達の提案を受け入れてくれないなら、村の安全を考えて行動しなきゃならないの。

それがこの人の役目だから。だからって人を殺す事が最善策だなんて思いたくない。

でも、どうしようもないのなら、私は少しでも良いからネッドと同じ重荷を背負いたいの…。

ごめんなさい。心配してくれたのは嬉しいわ。ありがとう。レオンくん」

そう言って微笑むお袋さんを見て、レオンくんはとても深い溜息を吐いた。

そして、俯いて考え込み始める。

逡巡する様子を見せながら、もう一回溜息を吐いた後でレオンくんはぱっと顔を上げて言った。

「…分かった。拘束魔法、受けてやるよ」

「カシラ!!」

レオンくんの決断を聞き、盗賊達は反発の意思が籠もった声でレオンくんを呼んだ。

それに対して、レオンくんは罰が悪そうにしながら応えた。

「仕方ないだろ。俺、アメちゃんに人殺しの手伝いさせたくねぇもん」

「レオンくん…」

レオンくんの答えを聞き、お袋さんは嬉しそうに微笑む。

その顔を見てか、レオンくんはふっと表情を柔らかくし、苦笑する。

すると、盗賊達も観念した様に項垂れた。どうやら、レオンくんの決定に従うつもりらしい。

お袋さんから話を聞く感じ、レオンくんはお袋さんに好意的なのだろうとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

…だからだろうか。親父さんが面白くなさそうに不機嫌になっているのは。

ピリピリした空気を纏う親父さんがいつ爆発するか心配している内に、お袋さんはレオンくんに拘束魔法を施す。

昨日の内に僕とお袋さんで完成させた拘束魔法の魔法陣を、レオンくんの背中に書き込む。

書き込むとは言っても墨で書く訳ではなく、お袋さんの指先が不思議な光を纏いながら、魔法陣を描いていっている。

もしかしたら、あの光こそが魔力そのものなのかもしれないと、僕はフと思った。

10分ほどでレオンくんへの拘束魔法の書き込みが終了し、その後次々に残りの盗賊達も魔法陣を背中に受けていく。

態々背中に魔法陣を描いて貰っているのは、その方が諸々の面倒が避けられるからだ。

魔法陣の解読や、目につきにくい為、反発心を産む要因を少なくする効果を期待するなどである。

そして最後の1人が終わった。

だが、別の場所にも盗賊の一味が監禁されているため、そちらにもこれから赴く予定である。

その予定を話すと、レオンくんが言った。

「なら、俺も一緒に行って、あいつらを黙らせてやるよ。俺が受けた後だって知れば、あいつらも観念すんだろ」

「…そう言って1人だけ逃げ出すつもりじゃないだろうな?」

レオンくんの申し出を聞き、親父さんは怪しみながら言った。

「何?逃げられるようになってんの?」

ニヤニヤと嫌らしく笑うレオンくんを見て、親父さんは苛立ちを募らせていく。

「逃げた所で拘束魔法は解けないぞ」

「分かってるよ、んな事。俺としてはアメちゃんと暮らせるなら、文句ねぇし逃げるつもりねぇから」

さらりと言われた言葉を聞き、親父さんの目の色が変わる。

…目で人を殺せそうなほどに恐ろしくなっている。

「…アメリアに近付くな」

精一杯怒りを鎮める様、努めた声で告げた親父さんに対し、レオンくんは実に軽々とした態度で答えた。

「別に良いじゃん。俺はアメちゃんと仲良くしたいだけなんだし。アメちゃんを傷付けようってんじゃないんだからさぁ。なぁ、アメちゃん?」

「え?えぇ、そうね。これから一緒の村で暮らしていくのですもの。皆で仲良くしましょうねっ」

含みがある様に感じるレオンくんの言葉を聞いても尚、お袋さんはいつもの調子でのほほんと応えている。

レオンくんの答えを聞き、親父さんの不機嫌具合が悪化していると言うのに…。

これはもう、レオンくんが意図的に親父さんを怒らせているとしか思えないな。

信じがたいが恋敵として…。




その後、レオンくんに同行して貰い、残りの盗賊達の説得に立ち会って貰った。

レオンくんの予想通り、全員が拘束魔法を受ける事を同意した。

勿論、不満はあるだろう。

しかし、彼らを生かしつつ、罰を与えて更生の機会を設けるには、これが一番だと僕は思う。

悪者だからと切って捨てるには、余りにも若い者達ばかりだ。

彼らの意識を変える事が叶えば、双方共に得をする事だろう。

僕はそうなる事を望んでいる。

尤も、彼らの意識を変える為には、先住民達の協力が不可欠だ。

親父さんと相談して、彼らを村に引き入れる事を、年寄り連中と移住組に説明する場を設ける事になった。

作業場で働くパーカー達は親父さんが呼びに行き、年寄り連中と自宅で縫製しているリズは僕とお袋さんで呼びに行った。

その間、盗賊達には村長宅近くの空き地で待機して貰う。

ここで逃げ出すものが現れれば、それまでだし、残った者達だけ村で働いてくれれば良い。

どうせ、お袋さん以上に強い魔力を持つ人間でなければ、あの拘束魔法を解く事は出来ないのだから。

僕達は足を悪くしていた年寄り達の速度に合わせながら、ゆっくり空き地に向かうと、もう既に親父さんとパーカー達が戻ってきていた。

…何やら、若い男達で睨み合いを繰り広げている。

「来たか」

僕達の姿を見て親父さんが短く言う。顔には既に気疲れが滲み出ている。

「おーおー!随分と賑やかじゃないか!」

睨み合う若者達の姿を見てウィルソンが楽しそうに言った。

移住組が来る前までは、親父さんを除いて一番若かったウィルソンは、段々と人が増えていく事を純粋に喜んでくれている。

今回増える住人が盗賊だと話しても、人手が増える事の方を喜んだくらいだ。

ウィルソンには基本的に畑の管理を任せている。

最近では年寄り達も畑仕事に復帰出来る様になってきたから、その管理もウィルソンが取り仕切ってくれている。

何人かの盗賊を畑仕事に回すつもりだから、その管理も任せるつもりだ。

大らかで賑やかしのウィルソンならば、盗賊だろうと一緒に働く仲間として受け入れてくれるだろう。

問題は移住組の方なのだが…。

「さて…全員揃ったな?まず、ここに居る、こいつらの事を説明する」

そう切り出して親父さんは、盗賊達が5年間の月日を村で過ごし無償で働く事で罪滅ぼしとする。と説明した。

拘束魔法の事もざっと説明し、先住民達に危害を加えられない様にした事も言った。

また、危害を加えようとした時点で刑期が伸びる事も。

以上の説明を終えると同時に、移住組の中から声が上がった。

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