119.第17話 4部目 仕事の割り振り
「俺は反対です!ネッドさんを痛めつけて、テオくんを人質にする様な奴らですよ!?信用出来ません!!」
そう強く反対意見を言ったのはジョンだった。
ジョンの意見に賛成するかの様に、ケイとヘクターも真剣な表情をして親父さんを見ている。
リズはと言うと、襲撃時の状況を見ていないからか、立ち位置が微妙な様で困った様に目を泳がせている。
しかし、ジョンが言うならば!と振り切った様で、きりりとした表情で背筋を伸ばした。
パーカーは何も言わず状況を見守っている。
いつも騒がしいパーカーが静かなのは、また何か考え事をしているのかもしれない。
「あたしはネッドの決定に従うよ。この村の長はネッドなんだからね」
ジョン達が反対するのに対し、おばばが口を開いた。
年寄り達はおばばの意見に反対する理由もない様で、穏やかな顔つきをしている。
自分達は隠居して適度に畑仕事をしているから、村の事は勝手にしろと言いたいのだろう。
尤も、嫌だと思った事には遠慮なく反対するのだろうけど…。
今回はそこまでの事では無いのだろう。
おばばの賛成意見を聞いて、ジョンはカッとなって言った。
「また、何時、村を乗っ取ろうとするか分からないんですよ!?村に引き入れるべきじゃない!」
ジョンの反対意見は無理もない。
実際に親父さんがレオンくんと戦い、ボロボロになった姿を見ているのだから。
不安になるのも当然だ。
しかし、おばばは顔色1つ変えず言葉を返した。
「そう出来ない様にアメリアが拘束魔法とやらを、こいつらに掛けたんだろう?その上で村で働かせようってんだ。起こってもいない事に愚痴愚痴言うんじゃないよ。みっともない」
ジョンをバッサリと切り捨てる、おばば。
その言葉の節々には、かつての独裁者らしさが垣間見える。
みっともないと言われたジョンは怒りで顔を赤くさせた。
「こ、これから起こるかもしれないから止めるべきだと…!」
「ジョン」
しかし、親父さんの呼びかけでジョンの口が閉まる。
ジョンが自分を見ている事を確認してから、親父さんは言った。
「これは相談じゃない。事後報告だ。決定した事で変更するつもりはない」
「で、でも、ネッドさん…!」
「二度は言わないぞ」
食い下がろうとするジョンを親父さんは短い言葉で威圧し黙らせた。
事件の被害者であり、村長であるネッドがここまで言うのでは、もはやジョン達に言えることはない。
納得は行かないものの、受け入れる他ないと観念した様だ。
重苦しい空気が流れる中、レオンくんが一歩前に出て口を開いた。
「心の広ーい、村長サンがこう言ってるんだし、俺達も仲良くしようぜ?どうせ5年間は付き合う事になるんだしさぁ。な?」
レオンくんは実に軽い調子でジョンに言った。
却ってジョンを意固地にさせそうな言い方に、意図的な物を感じる。
恐らく、レオンくんはジョンの怒りを煽る様に揶揄っているのだろう。
その狙い通り、ジョンは憎々しげな目でレオンくんを見ている。
すると、次の瞬間、レオンくんが地面に倒れ込んだ!
顔を殴られて地面に伏したのだ。カシラが倒れたのを見て、騒つく盗賊達。
レオンくんを殴り付けたのは…。
「調子に乗るな。お前らを村で働かせる事を決めたのは俺だが、許したつもりはない。…特に、レオン。お前はな」
堪えきれなくなった親父さんの仕業だった。
拘束魔法の影響なのか、油断していたからなのか、モロに打撃を食らってしまったらしく、レオンくんは痛そうに頬に手をやっている。
「痛ッ!何だよ!仲良くしようって言っただけじゃん!」
友好的に接しようとしただけなのに、殴られた事を理不尽だと言いたげにレオンくんは抗議する。
親父さんは心底腹を立てている様子で続けて言った。
「お前らはこの村を乗っ取ろうとした罪人だ。罪を償わせる為に村に住まわせるだけであって、ジョン達と同じ扱いを受けられると思うな」
堂々と、扱いを差別化する事を宣言した事に対し、全員はそれぞれ違う反応を見せた。
盗賊達は親父さんへの敵愾心を募らせ、反対派だったジョン達は溜飲を下げた様に安心した表情を見せる。
年寄り達は親父さんの言葉を聞いて、村長としての成長を感じて喜んでいる。
それぞれに思う所はまだまだあるだろう。
しかし、これにてウェルス村には11人と言う大人数が一編に住む事になるのだ。
何はともあれ、これから全員に仕事を割り振らなければならない。
そう思っていると、重い沈黙を破る様に親父さんは仕事の割り振り話に入った。
「…双子の女の仕事は決まってるが、他の男共の仕事はこれから決める。
とりあえず、双子はリズの所で縫製作業をしろ」
「えぇ!?わ、私の所…!?」
白羽の矢を立てられたリズは驚いて声を上げた。
「ちょっとネッドさん!私、お針子になったばかりなのよ!?人に教えるなんて出来ないわよ!」
遠慮なしに抗議してくるリズに対して、親父さんも遠慮なしに呆れ気味に言葉を返す。
「んなもん、お前以外の奴にだって出来ねぇんだ。この村の中じゃ、お前以外の適任が居ない以上、仕方ねぇだろ」
「うっ…そ、それは…」
正論を言われリズは口籠る。そこへ、親父さんが不適に笑って言葉を重ねた。
「俺の足を縫ったぐらいだ。お前なら大丈夫だろ」
「ちょっと!あれはアメリアさんにお願いされたから仕方なくやったんだからね!?
好きでやったんじゃ無いんだから!ネッドさんの為にやったんじゃないんだからね!?」
そう抗議しながらリズは親父さんに詰め寄るが、親父さんは鬱陶しそうに手を振った。
「あーあー、分かった分かった」
「何よ、その態度!せっかく助けてあげたのに!」
「…俺の為じゃない、じゃなかったか?」
「っ!そ、そうよ!?ち、違うって言ってるでしょ!」
仲良く口喧嘩する2人を見て、一気に場の空気が和んだ。
2人は全くの無自覚で、一方は真剣で、一方は適当にあしらっているつもりなのだろう。
それでも、空気が和やかになったのは嬉しい。
そんな空気になったからだろうか?
事件当日に僕を捕まえていた双子の女が、突如親父さんに詰め寄った。
「「ちょっと村長サン!」」
「あぁ?」
また面倒な予感がすると言わんばかりの、顰め面で親父さんは双子に面向かう。
「「あたし達、双子じゃ無いから!勘違いしないでよねー!」」
「…はぁ?」
同時に同じ事をぴったり合わせて言ってるにも関わらず、彼女らは双子では無いと言う。
…顔も声も、背丈も一緒なのに年違いの姉妹なのか。
そう思っていると、姉妹はお互いに自己紹介を始めた。
「あたしがメル!リラの一個上でお姉さん!」
と、メルが明るく胸を張って言った。
「あたしがリラ。メルの一個下で妹よっ」
と、リラが落ち着いた様子で言った。
2人それぞれの自己紹介を聞いて、親父さんは呆れ気味に応えた。
「…年子か。双子と対して変わらねぇじゃねぇか」
親父さんの言葉を聞き、メルとリラはむっとした表情で反論した。
「変わるからー!あたしの方が偉いんだからー!」
と、メルが言う。
「変わるからー!あたしの方が若いんだからー!」
と、リラが言う。
一瞬の間を開けて、姉妹はお互いを見つめる。
どうやら、お互いにお互いが言った事が気に食わないようだ。
…うん。親父さんの言うように、大して変わらないように思えてくるなぁ。
だが、あくまでも年子の姉妹である事は、彼女らにとって一番大事な事なのだろう。
ここは尊重してやりたいところだが…果たして見分けがつくだろうか?
自己紹介の仕方から、微妙に性格の違いが見えたし、そこで見分けるしかなさそうだ。
「…とにかく。お前らにはリズの仕事を手伝って貰う。リズ、後は任せた」
「ちょっ…!ネッドさん…!」
姉妹の対応とリズさんの相手に疲れた親父さんは、逃げ出すように3人から距離を置いた。
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