120.第17話 5部目 レオンの仕事

残された3人はなんやかんやと話をして交流を試みているようだ。

会話の端々から、リズが姉妹に対してジョンに手を出すなとか何とか聞こえてきた。

それに対して姉妹はジョンが誰だか分かっていないらしく、リズに教えられている様だ。

そんな様子を脇目に親父さんは話を進めている。

「ー…作業場には、元素魔法が使える奴を3人配置する」

「元素魔法ならー、あいつとあいつとそいつが、そこそこ使えるよ」

親父さんの言葉を聞いて、レオンくんが積極的に人員配置の手伝いをしている。

流石に彼らのカシラなだけあって、個々の能力をきちんと把握している様だ。

親父さんは少し面白くなさそうだったが、一々、元素魔法がどれだけ使えるかを確かめてる時間が勿体ない為、レオンくんが指名した3人を作業場に置く事にした。

作業場とは、たたら場と鍛冶場の事で、あの付近の事を総じて作業場と呼んでいる。

主には、たたら場の事だ。

そして、残った6人を畑に配置する事になる訳だが…。

「ネッドさん!ちょっと良いか!?」

「…何だ、パーカー」

今の今まで黙ってたパーカーが突如大声を上げて話しかけて来た事に、親父さんは辟易した様子で応える。

「俺の所にも1人、よこしてくれないか!?

今までは、ジョンかヘクターに弟子やらせてたんだが、こいつらはこいつらの仕事に集中させるべきだろ?

だから、俺の所に専用の弟子が欲しいのよォ!」

尤もな要求を聞き、親父さんは思案してから答えを出した。

「…それもそうだな。分かった。じゃあ、残った5人の中から…」

「おぉ!流石ネッドさん!話が分かるなぁ!転換魔法使える奴が良い!誰か、俺こそはって奴ぁ居ないか!?手ェ挙げてみろ!」

粛々と話を進めようとする親父さんの努力を無視するが如く、パーカーは喧しく話し続ける。

既に気疲れしている親父さんは深い溜息を吐いて、怒りを沈める様子を見せた。

すると、パーカーの騒ぎっぷりを見たレオンくんが楽しそうに笑い始めた。

「あっはは!おっさん、超元気じゃん!黙ってるから、怖ぇおっさんかと思ったのにさー!」

「む!?誰が強面だ!変な髪色してる若いのに言われたくねぇぞ!」

「言ってねぇし!俺のこれは、染めてたのが抜けて来てるだけだから!元は黒髪なの!」

「何!?転移者は髪の色も変えられるのか!?どんな魔法だ!?」

「魔法じゃねーよ。カラーリング剤って言う、薬があんだよ!もー、話してたら染め直したくなんじゃん!」

…何故か、騒がしいもの同士で通じ合うものがあるらしく、話が弾んでいる。

そうか。やはり、レオンくんの髪色は染められているものだったか。

となると、髪色が戻っている部分の広さで、彼が転移して来てからの時間が測れるだろうか?

…うーん。鑑定眼で人を見るのは気が引けるし、目算で導き出そうにも、あの手のファッションはよく分からない。

だが、そう早くは色落ちする訳ではないだろうし、半年経ってるか経ってないかと言った具合だろう。

和気藹々と話を続けるパーカーとレオンくんを見て、親父さんは諦めの境地に立ったらしく、怠そうに2人の間に割って入った。

「あー…。おい、レオン。転換魔法適性の、根性ありそうな奴はどいつだ?」

根性がある人間。と条件を付け足したのは、パーカーの無茶ぶりに耐えられる人間が良いと思っての事だろう。

その事を察したレオンくんは、ぱっと部下達の方を見て言った。

「ヴァル」

「応」

レオンくんの呼び掛けに静かに応対し、ヴァルが前へ出て来た。

隣に立ったヴァルの肩にレオンくんが手を置く。

「ヴァルは元々こいつらのカシラだったし、俺の次に転換魔法使いも上手いぜ。おっさん、こいつなら、ど?」

レオンくんの紹介を聞き、パーカーは嬉々とした目をしてヴァルを見分し始める。

その横で、親父さんがレオンくんに尋ねた。

「…お前、最初から盗賊のカシラじゃなかったのか?」

「は?んな訳ねーじゃん。俺、召喚されて来たんだぜ?

メルとリラと3人で、ぷらぷらしてたらヴァル達に絡まれたから、

したらカシラになってくれーとか言われただけだし」

「そ、そうか…」

けろっと盗賊のカシラになった経緯を答えられて、親父さんは驚いた。

そうか。レオンくんが結成した盗賊団ではないのか。

それを聞いて僕は何だか安心した。

しかし、返り討ちにしたら盗賊のお頭に勧誘されるとは、よっぽどの事だったのだろうなぁ。

勧誘に応じて、カシラになってからは苦労もあっただろう。

…ウェルス村を襲撃したのも、彼らを思っての事なのかもしれないな…。

やはりレオンくんが根っからの悪党とは思えない。

「ー…よし!決めたぞ!俺はこいつを立派な刀鍛冶にしてやる!!」

パーカーはそう宣言して、自分より背の高いヴァルの背中を勢いよく叩いた。

どうやら、パーカーのお眼鏡にかなった様だ。

ヴァルは叩かれても体の軸を一切、微動だにせず困った様な表情をしてレオンくんを見つめた。

助けを乞うてる様に見える。

「おー!やったじゃん、ヴァル。盗賊から刀鍛冶にジョブチェンとか、マジラッキーだな!」

しかし、レオンくんは気がついていない振りをして、パーカーと同じ様にヴァルを叩いて励ます。

「…応」

不服そうに見えるもののヴァルはパーカーの弟子となる事を受け入れた。

これで、残った盗賊は4人…。ん?数が可笑しいな…。

「じゃあ、残りの4人は畑仕事だ。ウィルソン、管理はお前に任せるぞ」

「おぉ!任せろ任せろ!」

親父さんの指名にウィルソンはワクワクした様子で答える。

「…予定より人数が減ったが、大丈夫か?」

「心配すんな!年寄り連中も働ける様になって来てるし、4人でも問題ないぞ!」

少し面倒くさがりな所はあるものの、人好きなウィルソンならば彼らとも上手くやってくれる事だろう。

しかし…。

「村長サーン?1人ハブられてマスヨー?4人じゃなくて、5人デスケド?ぷーくすくす」

親父さんの数え間違いを指摘しつつ、レオンくんは小気味良さそうに笑う。

そう。今、この場で仕事先が決まっていなかったのはレオンくんを含む、5人だ。

もっと言えば、ヴァルが抜けるまで決定していなかったのは6人だった。

しかし、親父さんは残り5人を畑に。とは言わず4人と言った。

誰か1人が溢れている。

すると、親父さんは無表情で目を見開いてレオンくんを見下ろした。

「あぁ…。だから、お前は俺が監視しながら、あちこちで働かせる。せいぜい身を削って働くんだな」

「…え!!?ハブられてたの俺かよ!?しかも、村長サンに見張られながらとか…!超ありえねーんデスケドーーーーー!!」

レオンくんは自身の運命を告げられ、膝から崩れ落ち、頭を抱えて叫ぶ。

その声は、晴れ渡る春の空に遠く遠く響き渡るのだった…。




第17話 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る