81.第10話 6部目 幼馴染

ー…一方、ミラー宅にて。

昨日からウェルスに滞在する事になったリズが、早速、お袋さんと僕の採寸をしに訪問して来ている。

お袋さんは慣れた様子でリズに採寸させており、その間、女性らしい会話に花を咲かせていた。

「ー…まぁ。それじゃあ、ジョンくんはリズちゃんの王子様なのねぇ」

「はいっ!小さい頃から、ジョンは私だけの王子様ですっ」

お袋さんが言うのとリズが言うのとでは、何やら言葉の捉え方が違う様に聞こえる。

今、話していたのは、リズがジョンを好きになったキッカケである。

聞いてみるとなんて事はない、よくある話だ。

幼い頃のリズは同い年の男にいじめられる事が多かった。

その理由は当時のリズには見当が付かなかったが、今思えばリズが美少女だから、いじめられたのであろう。

…と、本人が言ったのが、何とも印象的だった。

ともあれ、リズはいじめられていた所を、幾度となくジョンたちに助けられたために、ジョンを好きになったらしい。

尤も、聞く限りでは、リズを助けたのはジョンだけではなく、同じ幼馴染のヘクターとケイも混じっていた様だが…。

リズにとっては、そこは重要じゃない様だ。

「ジョンは私に自信をくれたんです!男の子が、私をいじめるのは、私が可愛いからだって…だから、自信を持つべきだって…!なのに、ジョンたら私より可愛くない女の子とばっかり、恋人になるんですよ!?酷いと思いませんか!?絶対、私の方がジョンの恋人にピッタリなのに…!」

どうやら、それがリズがジョンを病的に追いかける事になった本当のキッカケの様だ。

自分を可愛いと言った癖に、自分を選ばないとはどう言う事だ!?と言った心情なのだろう。

やはり、リズは中々に決めつけが激しい。

「ふふっ。自分を認めてくれる言葉をくれるって嬉しいものねぇ。それが気になる男性なら尚の事だわ」

それにしても、お袋さんはよくリズの暴走に柔和に付き合えるものだなぁ。

本人が天然故だからだろうか。

「…もしかして、アメリアさんも…!?」

お袋さんの言葉を聞いたリズが、目を輝かせて聞いた。

確かに、今の言葉は実感がこもっていた。言われた記憶があるとしても可笑しくない程に。

まさか、あの親父さんが甘い言葉でも言ったのか!?

すると、お袋さんは少し頰を赤らめて言った。

「私の場合は…目が綺麗だって言ってくれたの」

「きゃーっ!あのネッドさんが!?ただの朴念仁だと思ってたのに…!」

酷い言い草である。

まぁ、普段の親父さんから考えるとそんな事を言う姿を、想像出来ないのは事実だ。

「ふふっ。…私の目は、ほら、”これ”でしょう?ずーっと、人から良くないモノとして扱われてきたから、自分は酷い事を言われるほど、醜いんだと思い込んだら…自信が無くなっていったの」

そう言いながら、お袋さんは自身の片目を手で覆う。

お袋さんが言わんとしている事が理解出来ず、僕は首を傾げる。

「でもね、ネッドが”そんな事はない。貴方の目の色は人を惹き込む。まるで、煌めく星空のようだ”…って」

「っきゃああぁ!素敵!素敵ですねっ!私、ネッドさんを見直しましたっ!」

お袋さんの言葉を聞き色めき立つリズとは対照的に、僕は信じられない思いで一杯だった。

本当に親父さんがそんな事を…!?

お世辞にも紳士的とは言いづらい、あの人が言う事とは思えない言葉だ。

…それにしても、何故お袋さんは目の色に劣等感を抱いていたんだろうか?

僕には非常に見慣れた色なのだが、それほど人の癪に障る色なのだろうか?

うーん、と考え込んでいると、いつの間にやらお袋さんの採寸を終えたリズが僕を呼ぶ。

「はいっ。次はテオくんねっ」

「あ…はい」

大人しく採寸される事にし、僕は意識を静かに保つため目をそっと閉じる。

しかし、それすら許されなかった。

何故ならリズが爛々と輝く目で訊ねてきたからだ。

「ねぇ、テオくんはどんな女の子が好きなの?」

「…え?」

「あら。それは、私も気になるわぁ」

お袋さんがリズの質問に便乗してしまったために僕は逃げ場を奪われた。

さて、どう答えたものか…。

話の流れから”女子の好み”を聞かれる事になるだろうとは、予想出来たはずだった。

しかし、生憎にも質問されるまで予想がつかなかったために、答えに迷ってしまう。

ここは無難にお袋さんの様な…と答えるべきだろうか?

だが、リズはともかくお袋さんは僕が転生者であると知っているし、誤魔化せるか、どうか…。

「…やっぱり、同い年の女の子がいないとピンと来ない?」

答えに迷っていると、リズが困った様な顔で僕の顔を覗き込んできた。

これはシメた。これに乗っからない手はない。

「うーん…。そう、かも…」

「そっかぁ…じゃあじゃあ、私とジョン見たいな関係はどう思う!?」

おっと。一瞬残念そうにしたのは何だったのか。

ともかく、追求は逃れられそうだし、同意しておこう。

「いいなぁって思うよ」

「やっぱり、幼馴染って良いよね!その人の事を一番理解してるって事だもの!」

「あはは…」

まぁ、ジョンが気の毒じゃないとは言わない。

ジョン本人はまるで気がついていない事が、却って救いとなってるな。

幼馴染か…そう言えば、千代子とは幼馴染の仲だったな。

幼年学校に通い始めてからと言うもの、ぱったり親交は途絶えてしまっていたけど…。

まさか、士官学校を卒業して見合いした相手が、その時の幼馴染とは思わなかったな。

…こうして、しみじみ考えると、やはり逢いたくなってしまうなぁ。

だが、逢いたいがために命を粗末には出来ん。

すまない。千代子。もう暫く、待っていて欲しい。

今世を全うしたら、必ず君に逢いに逝くから…。




第10話 完

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