82.第11話 1部目 魔法の適正年齢

たたら製鉄が本格的に動き出した。

たたら炉が完成し、十分な量の木炭と砂鉄が確保出来ている。

僕は今、たたら製鉄を見学するため、親父さんの側でジョンたちの作業をじっと見守っている。

最初に親父さんとウィルソンさんとの3人で行った、製鉄と違い炉が大きいため、炉の中の温度を高く保つのに苦労するはずだ。

火の温度が砂鉄を精錬するほどの熱にしなければならない訳だが、そうするにはとにかく風を炉に送り込まなければならない。

本来のたたら製鉄において、その役割はフイゴと言う送風機が担うのだが…。

この世界においては、送風機は人間そのものである。

元素魔法が扱えるジョンとケイが、炉の下に空けられた空気穴に、魔法で風を送り込んでいるのだ。

継続して魔法を使うことは、集中力のいる作業らしく2人揃って大量の汗をかきながら風を送り込み続けている。

炉の側に立っている事も大量の汗の原因の1つだろう。

一方、ヘクターは親父さんの指示の元で、砂鉄と木炭を交互に炉に入れる作業を担っている。

うーん。こうして魔法を扱っている様子を見ていると、やっぱり送風機は必要に思えるなぁ。

同じ送風機でも人力だと今とそう変わらないだろうし、作るとしたら自動送風機だろうが…流石にあの手の機械の仕組みはてんで分からない。

いっその事、僕が元素魔法を使えるようにして手伝えれば…。

いや、よしんば出来たとして大した戦力にはならんだろうなぁ。

そういえば、僕はいつになったら魔法を使えるようになるのだろうか?

成人年齢と言われる15歳からか?

「…父ちゃん。僕はいつになったら魔法を使えるようになるの?」

気になった事は直ぐ聞く。

この僕の癖にいい加減慣れたらしい親父さんは、驚く事なくすんなりと答えてくれた。

「10歳からだ。今はまだ、お前の体内にある魔力が安定してねぇからな」

いかん。さっぱりだ。

魔法は10歳から、と言うのは分かったが…。

体内にある魔力が安定してないから、と言うのはどう言う事だか、さっぱり分からん。

そんな僕の困惑っぷりを察してか、親父さんは続けて説明してくれた。

「子供の内に無理に魔法を使うと、安定してない魔力が暴走して、最悪自我を失い周囲に害を及ぼす存在になる。

中には暴走せずに済む子供も居るらしいが…大抵は駄目になるから、10歳未満の子供に魔法の扱い方を教えるのは禁じられてる。

10歳を迎えると、体内にある魔力量が安定して暴走しにくくなるから、魔法を使っても大丈夫だと言われてるんだ。

あと、元素と転換のどちらに適性があるかが、分かるのも10歳だな。

…まぁ、お前の場合は関係ないか」

ふーむ。

つまり、成長期が済んでいない内から、無理な運動を続けると、身体を壊してしまうようなものだろうか?

10歳になる前に魔法を扱う事は、骨が伸びっていないのに骨に負荷をかけ続けるような真似をする事と等しいのかもしれない。

それは確かに子供の成長に著しく悪影響を及ぼすだろう。

そして、各個人の個性が明確になるのも10歳、と…。

この世界においての年齢の節目は、10歳と15歳が一番大きいのかもしれないな。

となれば、僕が魔法を扱えるようになるのは…4年後?

次の春で7歳になるのだから、ほぼ3年後か?

そういえば、元素と転換のどちらに適性があると分かる方法はどうなっているのだろう?

見ていれば自然と分かるものなのだろうか?

僕の場合は、両方使える可能性が高そうではあるが…。

「どっちの魔法に適性があるって分かる方法は何?」

「あー…確か、教会に行って天秤で測って貰うんだったな…」

「天秤?」

親父さんはうろ覚えらしい記憶を頼りに説明してくれた。

10歳になった子供は、誕生日の日に教会に行く習わしになっており、そこで元素魔法、転換魔法、どちらに適性があるかを測る天秤に触れる事になる。

ティアナ教会が管理する神の遺物”天秤”の複製で審査するらしい。

本物の”天秤”は、ティアナ教会の本尊で管理されているとか…。

天秤には赤い玉と青い玉が片側ずつにぶら下がっており、天秤の中心に手を置くと、秤がどちらか傾いて適性が判断されるそうだ。

赤が元素。青が転換。

親父さんも10歳の誕生日の時に、秤に触れたら青い玉が下がったため、転換魔法に適性があると分かったそうだ。

だが異世界人においては、この天秤、役に立たない。

何しろ、どちらの魔法も扱えるのが異世界人の常だからだ。

異世界人である転移者が天秤に触れた所で、どちらに偏ることも無いため微動だにしないようだ。

「まぁ、お前もそうなるだろうけどな」

さらっと言われた事実に僕は戦慄した。

転生者である僕が転移者と同じく、本当にどちらの魔法も扱えるのだとしたら…。

「…それじゃあ、その時点で僕の秘密がバレるって事…?」

「……そう言われれば…確かに…」

わざわざ隠してきた事実。

適性検査の結果次第で、僕が転生者である事が白日の元に晒される事になるのだ。

しかし、それは困る。例え4年後の話だとしても、その時点でウェルスがどうなっているか分からない。

僕が転生者であると知られる事が、良い事か悪い事なのか今の時点では判断が付かないのだ。

もし、その時に、転生者である事が周囲に知られる事が不味い状況を引き起こすようだとしたら…。

全ての判断や責任を僕や親父さんに押し付けてくる状態が予想出来てしまい、考えるだに恐ろしい。

僕と親父さんは顔を見合わせて、恐怖を共有する。

「…ま、まぁ…その頃には少しはマシになってんだろ…。4年もある訳だし…」

「そ、そうだね…」

そして、問題を先延ばしにすることにするのだった。

実際問題、今どうこう出来る事では無いのなら考えても無駄である。

せめて、僕が転生者であると知られても状況が変わらないように、村運営をして行くしかないと言う事だろう…。

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