83.第11話 2部目 査定

1ヶ月後。

エヴァンがウェルスを訪れた。

ミラー宅の扉を叩いたので、迎え入れると実に上機嫌な様子でにこにこ笑っていた。

1ヶ月前にリズをウェルスへ送り届けに来た時、いよいよ製鉄を開始すると親父さんから聞かされていたため、期待してやってきたのだろう。

ひとまず、いつも通りの塩と麦の取引を交わした後、僕たちは製鉄所と鍛冶場のある川側へ向かう事になった。

製鉄所には誰もおらず、少し離れた所にある鍛冶場から、トンテンカンテンと音が聞こえてきている。

僕たちが来た事に気がついたパーカーが声を上げ、一時作業を中断し、エヴァンとの商談に入るため、この1ヶ月の成果を茣蓙の上に並べた。

「おぉ~…これはこれは…」

茣蓙に並べられた鉄製の道具を眺めて、エヴァンは感心する声を上げた。

並べられたのは、ケイとヘクターによって作成された鉄製の道具たちと、パーカーとジョンが作成した玉鋼製の包丁と打刀である。

まず、鉄製の道具だ。

小さい槌の金槌が3本。大きい槌の金槌が1本。

ナイフが2本に、斧が1本…と言った具合だ。

他にも作った道具はあるが、それらはウェルスで使用するため取引には出していない。

「思っていたよりも良いものに仕上がってる…。やるじゃないか。ケイくん。ヘクターくん」

「…どうも」

「あざーっす!!」

エヴァンに仕上がりを褒められて、ケイは顔を逸らし照れている。

ヘクターは素直に喜びを表現して、勢いよく頭を下げた。

すると、パーカーがエヴァンの目の前に顔を出した。

「んな事より!こっちを見ろ!こっちを!!俺が打った刃物を見ろってんだ!」

ずいずいとエヴァンの目の前に、2つの刃物を突きつけるパーカー。

刃先を皮で包んでいるとは言え、危険極まりない行為だ。

「…パーカーさん、あんたねぇ…少しは弟子に遠慮ってもんを覚えてくださいよ!今、わたしが2人を褒めてたの見てたでしょうに!」

「あにぃ!?遠慮する必要が何処にある!?この程度じゃ褒めるには早いだろうが!」

何やら散々な言葉を聞いた気がするが、ケイとヘクターは少々ガッカリしているものの、へこたれては無いないようだ。

パーカーの物言いには慣れっこといった感じだ。

「まぁまぁ、父さん。そんなに突っかかっちゃ、エヴァンさんが査定してくれなくなっちゃうよ?一先ず、落ち着こうよ」

「うむぅ…査定されんのは困る!おらっ!早い所、そっちを済ませろ!」

ジョンがパーカーを諌めた事により、エヴァンはようやっと道具の査定に入る事が出来た。

値段は以下の通りである。


・金槌(小) 1本/銅貨8枚

・金槌(大) 1本/銅貨22枚

・ナイフ   1本/銅貨30枚

・斧     1本/銅貨40枚


小さい金槌は3本。ナイフは2本であることも含めて、全部で銀貨1枚と銅貨46枚の売上だ。

中々の成果である。

「思っていたより良く出来てたから、それぞれこんなもんですかね…。もっと品質が良かったら、もう少し出せるんですが…」

そう言って、エヴァンは申し訳なさそうに笑った。

何でもスミス・ツールでなら、それぞれ1本辺り、あと銅貨4枚ほど高く買い取っているらしい。

更に、そこにエヴァンの取り分である2割分を乗せて、売っているそうだ。

つまり、今回の道具らを市場価格に直すと…


・金槌(小) 1本/銅貨10枚

・金槌(大) 1本/銅貨26枚

・ナイフ   1本/銅貨36枚

・斧     1本/銅貨48枚


となり、エヴァンから諸々の道具を買い取った時よりも、安い値段で売られる事になりそうだ。

ちなみに、僕たちが購入した鉄斧は銅貨55枚だった。

銅貨7枚の差は結構大きい事が、良く分かる。

「そっちが終わったんなら、とっととこっちを査定しろ!」

エヴァンの良心的な査定に感心している横から、パーカーが目を血貼らせて入ってきた。

自分の打った作品の価値が相当に気になるらしく、エヴァンを揺すって急かしている。

「分かりましたって!…それで、パーカーさんが作られたのはどれです?」

「これだ!さぁ、見て慄けぇ!」

そう言って2本ある内の1本の刃から鞣し革を取り、刃が露わになる。

綺麗な刃紋が波打った、少しばかり峰の沿った見事な打刀だ。

刀匠と自称するだけあって、技術力の高さが伺える逸品である。

「ほぉ~…」

パーカーが掲げた打刀を見て、感心する様子を見せるエヴァン。

それに気が良くなったのか、パーカーは笑い声を上げた。

「ぐふふふ!ど~ぉだ!これぞ、日本刀よ!!」

「じゃあ、そっちの包みは何です?」

「うん?これか?これは包丁だ!当然、これも玉鋼製だッ!」

「ほぉほぉ、なるほど。ちょいと拝見…」

そう言いながら、エヴァンはパーカーが持っていた包丁を取ってしまった。

そして、包みを剥がして包丁本体をじっくりと見定めている。

「おい、エヴァン!見なきゃならんのは、こっち…ッ!!」

「父さん。主役は最後にって言うでしょ?だから、もうちょっと待とうよ」

「ん?んん~っ…まぁ、そうとも言うな!仕方ねぇなぁ!」

再びジョンによる仲裁が入ったお陰でパーカーは包丁の刃紋を眺め始めた。

うーん…今度から取引の場に、パーカーを同席させるのは止めたほうが良いかもしれないなぁ…。

一々、品物査定が止まってしまってキリがない。

「ふ~む……これは…相場より高く買い取っても大丈夫ですな!銀貨2と銅貨68でどうでしょう?」

包丁の査定を終えたエヴァンは、パーカーではなく親父さんの顔を見て聞いた。

「あー…ちなみに、相場ってのは幾らだ?」

対して親父さんは包丁の相場をエヴァンに聞き返す。

もしかしたら、僕が知りたいと思っている事を感づいたのかもしれない。

エヴァンは思い返しながら答えた。

「確か…大体、銀貨1に銅貨88って所ですな」

「はぁ!?そいつは相場より銅貨80枚分も高いってのか!?」

「え、えぇ…全くもってその通りです…」

親父さんが大きい差額である事に即座に驚いた事に、エヴァンは驚いて目を見張った。

しかし、これには僕も驚いた。

親父さんにではない。差額の大きさに、だ。

銅貨80枚と言えば、日本円で言う所の8.000円分である。

これほど大きい金額の違いを見ると、包丁自体の品質が良いと言う事が分かるものだ。

材料からして高くはなるだろうと予想していたが、これほどとは。

と、なれば打刀は一体幾らになるか…。

「…まぁ、エヴァンが構わねぇなら、こっちは良いが…」

「では、包丁は銀貨2と銅貨68で…っと」

親父さんから了承を得た事で、エヴァンは手元にあった羊皮紙に買取額を書いた。

そして、いよいよ真打ち登場である。

「さぁ!次はこいつだぞ!エヴァン!さっさと視やがれ!!」

待ってましたと言わんばかりに、パーカーはエヴァンの目の前に打刀を突き出した。

今度は刃の部分に皮を巻いていないため、本当に危ない。

ジョンやヘクターがパーカーを羽交い締めにして止めたので、エヴァンに怪我は無かったのが幸いだ。

そして、ケイから改めて打刀を渡されたエヴァンはじっと打刀を見つめる。

僕はゴクリと生唾を飲み込んで査定を待った。

地球における日本刀の価値は、ざっと100万円だった筈だ。

ともなれば、この打刀もそれ以上の価値が出る可能性が…!

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