84.第11話 3部目 代替案

「……う~~~ん…」

期待に胸を膨らませる僕とパーカーだったが、エヴァンの悩ましい顔を見て気分が一気に落ち込む。

何がそんなにエヴァンを悩ませているのだろうか?

「…どうした?」

一同揃っての疑問を親父さんが代表してエヴァンに問う。

すると、エヴァンは打刀をそっと茣蓙の上に置いて、神妙な顔つきで親父さんに対面した。

「いやぁ……大変、言い辛いんですが…わたし、武器は専門外なんです…」

「専門外?」

「えぇ…。わたしが普段売買してる品物は、日用品が主でして…武器や防具なんかは扱った事が無いんです…」

…思い返してみれば、エヴァンは武器類の商品は持ち歩いていない。

せいぜい狩りに使うための弓矢や、ナイフと言った所だ。

明確に戦闘するための品物は取り扱っていないのだろう。

と、なると…武器に分類される打刀の正確な査定が出来ないのか!

「何しろ、この辺りで武器を使う人間はそう居ませんから、武器屋もありません。町の自警団の一部が念のため持ち歩いている程度なんです。それも別の町から仕入れていて、その上で高いものじゃありません。せいぜい…銀貨10枚から20枚が良い所かと…」

エヴァンの説明を聞き、僕はかなりガッカリしてしまった。

どう考えても、この打刀が銀貨10枚や20枚で売買されて良いものではないからだ。

となれば、エヴァンが買い取る事も難しいと言う事になる。

売る宛てがないのでは、例え破格の銀貨20枚以上でも売る訳にはいかない。

「銀貨20枚だぁ!?ふざけんじゃねぇ!俺が打った打刀が、その程度の価値な訳がねぇだろ!!」

これに関してはパーカーに強く同意したい。

しかし、このままでは打刀は宝の持ち腐れになってしまう。

かと言ってエヴァンに押し付ける訳にも…。

「では、パーカーさんは幾らでしたら、この武器が売れると思われます?」

パーカーの噛みつきにエヴァンは困った様子で問うた。

すると、パーカーは言葉を詰まらせながら答える。

「そ、そんなの…ぎ、銀貨50枚以上だ!それ以下は認めねぇ!」

「父さん!?銀貨50枚もする武器なんて、この辺りの人間が買う訳無いだろう!?高い帽子を買っても余るほどの大金だよ!?道楽で刀を買う人なんて居ないよ!」

「ぐぬぬ…ッ!」

ジョンに正論をぶつけられ、パーカーは悔しそうに拳を握りしめている。

僕としては銀貨50枚でも安いくらいなのだが…。

この辺りの人々からすれば大金も大金。

とてもじゃないが売れないだろう。

参ったなぁ…。完全に手詰まりだ…。

「…なら、武器屋に見せてみりゃ良いんじゃないか?」

全員が諦めかけていた、その時に親父さんが口を開いた。

しかし、それは誰も希望は持てない提案である。

エヴァンが困った様子で口を開く。

「だ、旦那さん…この辺りに武器屋は…」

エヴァンが先ほど言ったように周辺の町に武器屋は無い。

あったとして碌な値段は付けられないだろう。

僕としては打刀の本来の価値に気がつく人に買い取って貰いたいのだ。

しかし、近くに相応の武器屋が無いのでは、それも…。

「この辺りじゃない。もっと…遠くに行けば、武器屋も有るだろ?」

「……まさか、首都ですか!?」

親父さんの言葉の意味を理解したエヴァンは驚きの声を上げた。

そして、僕も親父さんの意図を理解し、ストンと腑に落ちた。

そうだ。何も売買する場所に拘る必要はないんだ!

周囲に武器屋がないなら、ある場所まで持って行き、買い取って貰えば良いのだ!

こんな簡単な事に気が付けないとは情けない…。

打刀が買取不可かもしれない現状に先の事が見えなくなっていたようだ。

いや、しかし。親父さんが気が付いてくれて助かった!

「あぁ」

「なるほど…!確かに首都ならば騎士団が居る。延いては、騎士団御用達の武器屋も必ず有る…!そこへ持っていけば、あるいは…!」

新しい可能性が見えた事にエヴァンの顔色も嬉々としていく。

「…エヴァン。こいつを銀貨30枚で買う事は可能か?」

「え、えぇ!それくらいの蓄えなら有りますとも!」

親父さんの提案を聞き、エヴァンは即座に食い付いた。

そして、親父さんは打刀の刃を皮で包み、エヴァンに差し出して言った。

「なら、こいつを銀貨30枚でお前に託す。首都まで行って、こいつを売って来てくれ。もし、銀貨30枚以上で売れたら、売上合計から3割をお前に渡す。以下だった時は、銀貨30枚の内の3割を渡す。これで、どうだ?」

「…っ!分かりました。田舎商人ではありますが、意地を見せて銀貨30枚以上で売って見せましょう!!」

こうして、玉鋼製の打刀は銀貨30枚でエヴァンに託された。

結果が分かるのは早くて5日後。

グレイスフォレストから首都まで、1日半の距離だそうで3泊4日は必須だそうだ。

そして、結果として今回の売り上げは…。


・金槌(小) 3本/銅貨24枚

・金槌(大) 1本/銅貨22枚

・ナイフ   2本/銅貨60枚

・斧     1本/銅貨40枚

・包丁(玉鋼)1本/銀貨2枚 銅貨68枚

・打刀(玉鋼)1本/銀貨30枚

合計 銀貨34枚 銅貨14枚


過去最高の売り上げとなったのである!

打刀の価格は確定ではないため、大きく前後する可能性がある。

だが、それでも今回の成果としては大きな収入だ。

これならば、パーカーたちに問題なく賃金を渡せそうだ。

さて、問題はどのように分配するかだが…。

今夜辺り、親父さんと一緒に頭を捻る事になるだろう。

エヴァンとの取引が終了した後。

全員がホクホク顔で満足げに笑う中、親父さんは冷静な顔でエヴァンの荷馬車の中を覗いていた。

不思議に思った僕は、親父さんに駆け寄り声を掛ける。

「父ちゃん。どうしたの?」

すると、親父さんは僕をじっと見つめた後で口を開く。

「…テオ。そいつの着心地はどうだ?」

親父さんは顎で僕が着ている服を指し示す。

今、僕は、リズ作の服を身に纏っている。

1ヶ月前。なけなしの銅貨と少しの麦で買い取った布で、リズが作ってくれたもので有る。

そして、お袋さんもまた、リズが縫製したワンピースを着て、ここ最近は実に嬉しそうに過ごしている。

そんなお袋さんや、僕の様子を見て親父さんは布購入を検討しているらしい。

「…うん。着心地良いよ!父ちゃんも作って貰おう!」

「いや、俺は要らねぇ。それよりも、年寄りたちの分を…」

そう言いながら、ぶつぶつと何やら金勘定をしている。

これは、つまり…親父さんはリズを村へ迎え入れるつもりなのだ!

リズの仕事を作るために布の購入を検討しており、またどれくらいの費用が掛かるか親父さんなりに計算しているのであろう。

そうこうしている内に、親父さんが小難しい顔で悩んでいる事に気がついたエヴァンが声を掛けて来た。

「どうしました?」

「あー…前に買った布と同じのを10人分ほど欲しいんだが…」

親父さんの言葉を聞きエヴァンは嬉々として、布を荷馬車から取り出して来た。

そして、大人10人分の上下の服を作れるだけの布を買う事になった。

ついでに縫い糸も買い足して、合計銀貨4枚と銅貨72枚を早速使う。

これくらいの出費ならば大丈夫だろうと思ったので、僕も止めなかった。

これで村に新しい服が行き渡るなら安いものである。

そして、リズには村の一員として目一杯頑張って貰うのだ。

その結果、ウェルスでジョンと家庭を築くのであるなら、それはそれで喜ばしい事である。

…アクマでも村全体の事を考える上では…。

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