85.第11話 4部目 賃金計算
その日の晩。
僕と親父さんは、机の上に並べられた売り上げ金を見て考え込んでいた。
「…残りは銀貨29枚と銅貨42枚…か」
布と縫い糸を買ったため、売り上げ金からその分差し引きされ、残りは銀貨29枚と銅貨42枚となっている。
ここから、パーカーたちの賃金を弾き出す必要があるのだが…。
「打刀の件があるから、少しはお金を残しておきたいね」
「あぁ。だが…実際、どれくらいの金をあいつらにやれば良いんだ?」
「うーん…。まずは月の食費から考えようか」
パーカーたちには、こちらから渡す賃金から食料を買うようにして貰う。
そのためにも、最低でも月の食費分だけは渡さなければならない。
だが、その代わり、税金や住居費などは掛かることがない。
いずれは必要になるだろうが、今の所は必要とならないだろう。
そもそも、売り上げの一部から賃金を出すのであって、あとの残りは村の財産に丸っと入ってしまうのだから、税金なんてものを設けても無駄である。
村全体で必要だと思われるものを購入する際は村の財産から出すのだから。
以上の理由から、パーカーたちには最低限の食費分と、技術に対する報酬を渡す算段で有る。
そして、月に必要な食費だが…。
「まず、今ウェルスで提供出来る食物は3つ。麦、干し肉、コンダイの塩漬け。あと、調味料としての塩だね」
この中でも麦と塩の値段決めは比較的楽だ。
エヴァンと散々取引して来たからで有る。
大体、麦は1kg辺り銅貨3枚。塩は1kgで銅貨10枚である。
塩は月々、人に必要となる最低限の量が300gほど。
つまり、月々に銅貨3枚ほどで塩を買い取って貰う必要がある。
尤も、外仕事が基本の若い男たちには、もっと必要になるだろう。
麦に関しても同じで、必要量の上下が個人個人で発生する筈。
だが、一々人によっての食費を計算していたのではキリがない。
そのため、いずれも最低限の費用を弾き出すのだ。
そこから足が出る分は、完全に実費で賄って貰うつもりである。
そして、麦は月々最低13kgとし、銅貨42枚で買い取って貰うことにした。
「まぁ、麦と塩はこんなもんだろうな。だが…肉と野菜はどうするべきだ?」
麦や塩を違い、野菜と肉は村で賄っているため同じような値段設定には出来ない。
うっかり、エヴァンに肉と野菜の基本料金を参考に聞くのを忘れてしまったために、また面倒で有る。
だが、これまでの取引から察するに、僕が記憶している物価価値と、こちらの物価価値はそれほど差が無い事が分かっている。
なので、大体の値段は弾き出せるだろう。
野菜は1kg辺り銅貨6枚ほど。鶏肉は1kg辺り銅貨30枚と言った所だろう。
月々の量に直すと、野菜も鶏肉も500gずつ分配すればギリギリ食っていける筈。
ならば、それぞれの月々かかる費用は、野菜で銅貨3枚ほどで、鶏肉は銅貨15枚、となる。
ただ、鶏肉に関しては燻製や干すと言った加工を施しているため、加工肉としての値段になる。
生の鶏肉としての値段なら、また違うが今回は加工肉としての値段で弾く。
これで大体の値段は設定出来たが、別に付加価値を乗せて値段を変えるつもりだ。
「コンダイはよっぽどの事がなければ、これからも定期的に採り続けられるけど…肉の収穫量は未知数だから…」
そう言いながら値段変更をどのようにするか考えていると、親父さんがパッと結論を出した。
「なら、野菜を安めにして、肉は高くするか。野菜は銅貨2枚。肉は銅貨20枚でどうだ?」
「…うん。良いんじゃ無いかな?よっぽど収穫量に差が出ない限りは、それを基本にして良いと思う」
親父さんの提案を吟味しつつ、問題ないだろうと判断を下す。
こうして、最低限必要な月々の食費が出揃った。
・麦/13kg 銅貨42枚
・塩/300g 銅貨3枚
・鶏肉/500g 銅貨20枚
・野菜/500g 銅貨2枚
合計 銅貨67枚
以上の基本に倣って、パーカーたちには最低限銅貨67枚以上を渡すこととなった。
さて、次に技術料である。
ただ、これに関しては個人の主観に頼るしかない。
なら村長である親父さんが取り決めても良いだろう。
「ー…父ちゃんはパーカーさんにどれくらい渡しても良いと思う?」
「あぁ?あー…パーカーには銀貨10枚以上渡しても良い気がするんだが…そんな余裕はねぇだろ?」
僕が思っていたより親父さんはパーカーを高く評価しているようだ。
今回の売り上げの3割ほどを渡しても良いと思っていたとは…。
人柄は苦手でも腕の良し悪しを的確に見れるのは、雇い主としては申し分ない。
また1つ安心材料が増えた事に僕はそっと息を吐く。
しかし、親父さんの懸念通り、正直それだけ渡していたら今後の賃金支払いに大きく響く事になる。
月によって賃金が大きく変わるような事は出来れば避けたい。
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