104.第14話 5部目 3つの選択


眠るお袋さんと親父さんを起こさない様にと居間に移動し、事の顛末を聞いた僕は苦笑して言う。

「ー…それは随分と無茶をさせてしまったね…。

僕の体調さえ悪くなかったら、僕がやっていたのだけど…」

リズの心境を思って心苦しくなった。

この世界では一般的では無い方法でやらせただけではない。

ただのお針子であり、医療に精通していないリズにやらせた事が心苦しい。

その思いで呟いた言葉を聞き、おばばは怪訝そうな顔をした。

「…あんたは前世で医者でもやってたのかい?」

「いや。医者じゃなく宮大工だったんだけど…。軍役の一環で多少の心得がある程度だよ。

それでも、全く知らない若い娘さんよりは、出来たんじゃ無いかな…って思ってね」

「……つくづく、あんたって神子を寄越したティアナ様は凄い方だよ…」

そう言いながらもおばばは呆れ顔で深い溜息を吐いている。

何やら、妙に引っかかる言い方をされたが…まぁ、深く追求しないでおく事にしよう。

それにしても、僕と親父さんが気を失っている間のおばばの采配は、流石としか言いようがない。

傷口を縫うと言う発想が出来たのも、本人が産婆だからなのだろう。

僕を取り上げたのも、おばばだったしね。

「ー…そういえば、盗賊はどうなったんだい?」

僕はふと頭を掠めた疑問をおばばに問う。

今回の事件における加害者集団。盗賊のその後は当然気になる。

聞いておかなければ、今後の行動も決められない。

僕の問いを聞き、おばばはしれっと答えた。

「あぁ。あいつらは、空き家に閉じ込めてあるよ。念の為、二分してね」

見事な処置を聞かされ僕は再度、感心した。流石は元・村長である。

十数名居た筈の盗賊達を一箇所に溜めて置くのは、万が一が起きる可能性が高いだろう。

二分する事で勢力を削ぎつつ、閉じ込めておくのは現状のウェルス村で出来る最大限の処置だ。

「開けられるのはアメリアだけだし、脱出することはないよ」

つまり、空き家の出入り口を、何らかの方法で塞いでいるのだろう。

それもお袋さんの力を使って…。

「そうか…。にしても…あの時のお袋さんは恐ろしかったよ…。本人の前では言えないけどね」

「あぁ…」

僕の言葉を聞き、おばばは否定しなかった。

何でも、おばばもあの場に居たらしい。

年寄りの家周りをしていたお袋さんは、最後に立ち寄ったおばばの家で、エヴァンの叫び声を聞き、様子を見る為に一時避難していたそうだ。

しかし、時間が経つにつれ、騒ぎが大きくなり不安になったお袋さんは、

おばばの家を飛び出ていこうとしたらしいが、許さなかったおばばは条件を出した。

それが、おばばを連れて行く事、だった。

杖を付いて歩ける様になったおばばは、お袋さんと一緒に現場へ向かった。

そこで見たものは…僕が人質に取られている、あの瞬間だったのだと言う。

「盗賊のガキが、ネッドを氷漬けにしてただろ?

あれを見て、アメリアがいきなり氷の魔法を扱い始めたんだよ…。

見ただけで扱えるなんて…恐ろしいお嬢さんだよ、全く…」

「…。それじゃあ、お袋さんは元々氷の魔法は使えてなかったのかい?」

「恐らくそうだろうね。そもそも、氷を作り出す魔法なんてもんがある事自体、あたしは知らなかったよ」

氷の魔法と言う物が元から無かったとすれば、盗賊のカシラである彼が作り出したのかもしれない。

異世界人は魔法を作り出す事も出来るそうだし、そうなのかもしれない。

しかし、その魔法を見ただけで扱える様になるのも、驚きである。

発想出来ないだけで、使えない訳ではないと言うのは、まさしくこの世界の人々の特徴らしい。

…尤も、僕は”発想出来ない”と言う説に対しては懐疑的なのだが。

ともかく。現在、盗賊達は二分されて、それぞれ空き家に閉じ込められていると言う事が分かった。

これから、彼らの処し方を決めなければならない。

それには先ず親父さんが起きなければ出来ないのだが…。

「ー…オ?テオっ?」

「…うん?」

「アメリアが起きた様だね」

寝室の中から、お袋さんの声で僕を呼ぶ声が響く。

その声は少し不安気で、僕は急いで寝室の扉を開けて顔を見せる事にした。

「ここに居るよ。母ちゃん」

見せると同時に、お袋さんは安堵した様で微笑んでくれる。

「あぁ…テオ…良かった…」

「心配…かけんじゃねぇ。テオ…」

低く掠れる声を聞いて僕はハッとして、慌てて寝室に入った。

「父ちゃん!!」

「おう…。何だ…すっかり、元気だな…お前は……」

喋るのも少し辛そうにしながらも、親父さんは僕の頭を撫でて言う。

…あぁ。本当に助かったんだな…。

「うん…。父ちゃんは?」

「あ?俺か…?。……まぁ……3日もあれば…」

「随分と目算が短くない?」

驚異的な回復力を告げられ、僕は思わず冷静に返してしまった。

すると、それに対して親父さんは苦笑する。

しかし、そのやり取りでお互いが無事である事を確認でき、安堵した様だ。

家族揃って危機を脱した事に喜ぶ時間は嬉しかった。

その後、僕が目覚めた事を受け、おばばは自宅へ帰って行った。

年寄りを扱き使うなとの文句を言い残して。




それから1時間後。

3日もあれば回復すると告げた親父さんは、この1時間ばかりで起き上がれるまでになった。

とんでもない事だ。

しかも、もう既に盗賊への処置を検討し始めている。

「ー……テオ。お前の意見は?」

暫く、考え込んでいた親父さんが険しい顔をして僕を見る。

その顔から、何らかの選択を取ろうとしている様だが、その内容までは窺えない。

僕は求められるままに、意見を述べた。

「僕が思うに、先ず3つ選択肢が有るよ」

「全部言ってみろ」

親父さんにそう言われ、僕は3つの選択肢の内容を告げる。

1つ目は、グレイスフォレストに盗賊の身柄を引き渡す事。

グレイスフォレストならば、何らかの形で警察機関が存在する筈。

その警察機関に盗賊達の身柄を引き渡し、法の裁きを受けさせる事が出来るだろう。

2つ目は、何らかの誓約を盗賊に化し、全員を逃す事。

3つ目は、村に住人として受け入れる事。

以上の3つの選択肢を提示し、続けてそれぞれの損得を説明した。

1つ目の選択肢は、尤も人道的な選択肢と言えるだろう。

悪事を働いた者を法の裁きに晒す事で、その後の悪事への抑制が期待できるからだ。

しかし、その為には村を襲われた経緯と、また解決した経緯を話す必要が出てくる筈だ。

襲われたけど、何とか捕まえられたので、引き渡しに来ました。などと言う説明は、カシラと言う転移者の存在が許さないだろう。

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