105.第14話 6部目 苦渋の選択


この世界では、転移者や転生者などの異世界人に、現世界人は対抗出来ないのが普通だと思われているからだ。

故に、説明義務が発生する。

つまり、盗賊達が日本刀を売って得られる大金を狙って村に来た事と、お袋さんが転移者を圧倒するほどの魔法を放ったと言う事実を説明する必要があるのだ。

2つ目の選択肢は、何らかの誓約を以って…と言う曖昧な条件の元で行われる。

お袋さんの存在が抑止力となり、盗賊達を村に近付けさせない事が出来るかもしれないが…。

希望的観測に過ぎず、力をつけて戻ってくる可能性が高い。

しかし、その可能性を排除して考えるならば、1つ目の選択肢で生じる損を被らなくて済む。

3つ目の選択肢は、3つある選択肢の中で尤も危険を孕む。

しかし、扱い方を間違えなければ、彼らは良き住人として定着するかもしれない。

尤も、ただで住人とするには甘すぎるので、この選択肢でも何らかの誓約を設けなければならないだろう。

彼らは悪事を働いた罪人であり、刑に服さなければならない。

「ー…今、説明したのが僕の考える選択肢、それぞれの損と得になるよ」

僕の説明を聞き、親父さんは難しい顔で考え込んでいる。

側で聞いていたお袋さんも、何とも言えない面持ちだ。

親父さんがどんな答えを出すか、戦々恐々としながら待っていると親父さんが僕を見た。

「…テオ」

「なに?」

「本当に、その3つしか選択肢は無いか?」

親父さんの問いを聞き、僕は親父さんが最初に出した選択肢が何であるかを察した。

そして、答える。

「……。4つ目の選択肢、だね。でも、僕にはその選択をする事はお勧め出来ない」

「何故だ」

「中途半端になるからだよ」

「何…?」

僕達の会話を聞いて、お袋さんは怪訝そうに眉を顰めている。

…出来れば、お袋さんの前でこう言った話はしたくないのだが…。

しかし、話を明確にしておかなければ、何が起こるかわからない。

特に、親父さん相手では。

「親父さんが思い浮かべている選択は「盗賊のカシラを殺し、他を逃す事」…じゃない?」

「えっ…」

僕の確認を聞き、お袋さんが小さく驚きの声を上げる。

対して、親父さんは冷静に答えを返してきた。

「そうだ。それが、どうして中途半端になる?カシラを殺せば、盗賊の力を確実に削ぐ事が出来るだろう?」

親父さんが言う様に、彼ら盗賊の力の要はカシラの存在だろう。

そのカシラが殺されれば、盗賊達の気を削ぎ落とし二度と村に訪れない様に仕向ける事は可能かもしれない。

だが、”かもしれない”。と言うだけだ。

「…それだと、生き残った盗賊達が復讐に来る可能性を捨てきれない。いや、十中八九、復讐しに来るよ」

「復讐だと?自分達の悪さのツケじゃないか。逆恨みもいい所だ」

「僕達の理屈としては、ね。けど、彼らは彼らでカシラを尊敬してるだろう。

慕う存在が殺されれば、それが例え筋の通った理由でも理不尽に思えるのが、人を慕うと言う事だよ。

間違いなく、彼らは力をつけて僕達に復讐しに来る。

運良く撃退出来たとしても、本懐を遂げるまで彼らは何度でも村を襲撃しに来るだろうね。

それなら、いっその事、一度に全員殺してしまった方が安全だよ」

僕の考えを長々と説明し、最後の最後で4つ目の選択肢は皆殺しであると暗に突きつけた。

すると、親父さんもお袋さんも、僕を恐ろしい者を見る様な目で見る。

自分の子供の口から皆殺しを提案されるなんて、悪夢だろう。

だからこそ、4つ目の選択肢は最初から省いていたのに。

親父さんに指摘されては、確実に説明しなければならない。

認識に齟齬が生まれるだけで、最悪の結果を招くかもしれないのだから。

「だから…僕は、親父さんに4つ目の選択肢を取って貰いたく無い」

「……」

素直な気持ちを告げると、親父さんに迷いが生じる。

頭を殺し、盗賊を遠くへ追いやれば、日本刀の事もお袋さんの事も隠せると思っていたのだろう。

その考え自体に間違いはない。だが、中途半端なのだ。

中途半端に遺恨を残すくらいなら、全ての事情を説明した上でグレイスフォレストに引き渡す方がマシだ。

それでも、僕は日本刀の存在をまだ大々的にしたくはない。

徐々に周知させていきたいと思っている。

だから、1つ目の選択肢も完璧とは言えないし、2つ目の選択肢においても再度襲撃される可能性が高い。

3つ目だってそうだ。つまりは完璧な策などないのだ。

常に何かしらの危険は伴う。ただ、選択肢次第によっては最善策になり得るだろう。

僕は…3つ目の「住人として受け入れる」の選択を取りたい。

グレイスフォレストに引き渡せないなら、この村で彼らの罪を償わさなければならないからだ。

「……3つ目、の選択を取ったとして…奴らが村で悪事を働かない保証は?」

悩みに悩んだ結果、親父さんが口にしたのは僕の望む選択肢だった。

内心で嬉しく思いながらも、僕は努めて冷静に答える。

「うん。僕もそこが問題だと思う。出来れば、彼らに枷に代わる何かを施したいんだけど…」

足に鉄球着けさせた所で、悪事を働く時は働くだろうし。

そもそも、それが効果を成すとは思えない。

すると、親父さんが不意にお袋さんを見た。

「…アメリアなら、出来るんじゃないか?」

「え?私…?」

唐突に指名されたお袋さんは困惑している。

それは僕も同じで、親父さんに言葉の意味を訊ねた。

「どう言う事?」

「盗賊達はアメリアの魔法に抵抗出来なかっただろ?

つまり、アメリアの魔力の方が強いって事だ。

なら、アメリアが奴らを拘束出来る様な魔法を使えば…」

…んん?

駄目だ。魔法の話はさっぱり分からない。

疑問符を浮かべる僕に対し、見当がついたらしいお袋さんが口を開いた。

「でも…人を拘束出来る魔法なんて…。私、知らないわ…」

「カシラが使ってた、氷の魔法は使えてたじゃねぇか。

俺はお前があんな魔法使った所、初めて見たぞ」

「あの時は…テオを取り返したくて、必死だったもの…」

うーん。会話についていけない。

しかし、これは…親父さんとお袋さんに任せた方が、上手く行くかもしれないな。

「えーっと…僕にはよく分からないけど…。

使った事がない魔法を即興で使えちゃう母ちゃんなら、人を拘束出来る魔法も作れるんじゃないかな…?」

「作る?…私が、魔法を…?」

異世界人にしか成し得ない、新たな魔法を作り出すと言う異業を突きつけられ、お袋さんは困惑している。

だが、お袋さんの頑張り次第では3つ目の選択肢が現実の物となるかもしれない…!

「人を拘束するってんなら…離れた場所に居ても作動する様にしないといけないな…。

となると、魔法陣を人体に書くのが良いか?」

魔法陣。と言うと、我が家のコンロとして使われている、アレと同じものだろうか?

アレも、どう言う仕組みになっているんだか僕には皆目見当がつかない。

10歳を過ぎれば、多少は分かる様になるかもしれないが…。

拘束魔法が必要なのは今だ。今はお袋さんに頑張って貰うしかない!

「うーん…。確かに、それなら出来るかもしれないけど…」

と言う、希望を持てる言葉をお袋さんから聞き、僕は飛び付いた。

「なら、やってみようよ!僕も、一緒に考えてみるから」

「テオ…」

僕の励ましの言葉を聞き、お袋さんはうんと悩んだ。

そして、答えを出す。

「うん。そうね…分かった。頑張って、作ってみるわ」

「うん!頑張ろう!」

まだ少し不安気であるが、言質を取ったからには、やれる所までやって貰おう。

勿論、僕も僕なりの知恵を絞って、お袋さんの手助けをするつもりだ。

もし、お袋さんが拘束魔法を作り上げた暁には、この村に新たな住人が増えるだろう。

こうして、僕達家族は”盗賊を村に迎え入れる準備”を始めるのであった…。




第13話 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る