30. 第4話 2部目 感謝してます

この後、僕は早速2本目の弓矢の作成に取り掛かった。

2本目ともなると、大分作り方にコツを覚えてきた様で、かなりスムーズに事は運んだ。

時々様子をみにくる緑丸くんと和やかに会話しながら、僕は日暮れまで弓矢の作成に夢中になっていた。

帰ってきたお袋さんに声をかけられるまで、水も飲まずにいた事を叱られたり、年寄り達の様子を聞いてみたりしながら、親父さんの帰りを待つ。

「ー…足を痛そうにしてたけど、皆、草履作りは楽しそうにしてたのよ!明日も頑張って、お家訪問しなくっちゃ!」

生き生きとして話すお袋さんは、ここ数年で一番輝いている。

やはり、やれることが増えるのは良い事だ。それだけ人を活気付かせるのだから。

「出来る事なら、一箇所に纏まってくれた方が教えやすいんだけどね…」

そうするには年寄り達が歩ける様にならなければならない。

まだまだ多い問題を解決するには、1つ1つ確実に向き合っていかなければ。

ひとまず、一時的ではあるものの、年寄り達に生き甲斐を与える事は出来ただろう。

「母ちゃん。苦労かけるけど、最後までお願いします」

…おっと。また畏まった言い方をしてしまった。

親父さんと違って、お袋さんは静かに泣くんだよなぁ。

怒鳴りつけられるより、よっぽどキツイから見逃して欲しいのだが…。

しかし、予想と違ってお袋さんは優しく微笑んで、突然僕を抱きしめた。

「何を言ってるの。テオの方がよっぽどでしょう?私がする苦労なんて、微々たるものよ。あなたのお陰で、私たちがどれだけ救われてるか…」

優しく、優しく。

お袋さんは僕の背中を撫ぜながら言う。

不覚にも泣きそうになったが、僕はグッと堪えつつ思い切ってお袋さんを抱きしめ返した。

「それはお互い様だよ。母ちゃんが産んでくれなきゃ、僕は此処に居ない。このウェルスに居られるのも、母ちゃんと父ちゃんが頑張ってくれたからだよ。僕は、その頑張りにちょこっと便乗してるだけ」

僕がこの歳になるまで生きてこれたのは、親父さんとお袋さんが必死になてウェルスと僕を守ってくれたからだ。

そうでなければ、僕は早々に真の神の子として天に召されていただろう。

その苦労に報いるためにも、僕の前世の知識が役に立つなら、喜んで活用させてもらうまでだ。

「うぅ…テオぉ…」

僕を抱きしめながら、お袋さんは泣き始めてしまった。

「ぅわっ…か、母ちゃん…お、おち、落ち着いて…っ!」

結局泣かせてしまった事に、どうしたものかと慌てていると、家の玄関扉が乱暴に開いた。

「…何してんだ、お前ら」

抱き合った状態でお袋さんが泣いているのをみた親父さんは、帰って早々に呆れた風に言った。

「と、父ちゃん?お帰りなさい!こ、これはワザとじゃなくって…!」

しかし、玄関を背に立っていた僕には親父さんの顔が見えない。

このままでは、あらぬ誤解を受けかね無い事に慌てて、お袋さんを泣かせた事への弁明を必死で話す。

すると、泣いていたお袋さんが僕の肩口から顔を上げて、親父さんの方を見た。

「…きゃああぁーー!!」

「ぐぇっ」

見たと同時に耳を劈かれる悲鳴を浴び、口から臓物が出るのではと思うほどに再びお袋さんに強く抱きしめられた。

一体、親父さんの身に何が…!?

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