29. 第4話 1部目 弓、出来ました!

お袋さんに草履作りを始めさせて1週間が経過した。

大分、板についてきたのを見て、僕は村の年寄りたちにも教えて回る様にお袋さんにお願いする。

「人に教える事で、より身に付く筈だから頑張ってね」

「えぇ。任せて!」

張り切った様子で、お袋さんは縄とありったけの藁を持ち、早速最初の家へ向かって行った。

さて、こちらはこちらでやる事がある。

「父ちゃん。はいこれ、出来たよ」

僕は出来上がったばかりの弓と矢を親父さんに手渡した。

弓は木を削って作ったもので、弦には細めに綯った藁縄を番えてある。

矢は苗木を火で炙り、先端を尖らせたものに樹脂で鳥の羽を付け糸で結わえたものだ。

更に藁が使える様になった為、僕は藁と縄を使って簡単な籠を作り、その中に矢を収納出来る様にしておいた。

これで、狩り具は完成である。

弓矢を受け取った親父さんは、驚きながら弦を引っ張ってみたり、弓の持ち具合を確かめてみたりとしている。

「…あぁ、これなら十分狩れそうだ」

「それを聞いて安心したよ。木で弓矢を作るのは初めてだったから」

「お前でも初めてな事なんてあるんだな」

「意外そうに言わないで欲しいなぁ…」

むしろこの世界に生まれ落ちてからは、初めてな事ばかりだ。

知識で知っていたとしても、実行する事は前世でもそうそう無かったのだから。

特に武器の作成なんかは、その1つだ。

作るだけでも犯罪となる時代に生きていたのだから、仕方ないと言えば仕方がない。

「…テオ。弓はこれだけか?」

突然、言葉少なに問うてくる親父さん。

予備の弓を作っておいて欲しいと言う事だろうか?

それなら僕も考えていた事だが…。

「後1本だけ作れるから、予備に作るつもりだよ?」

「なら、それはお前用にしろ」

「…へ?」

これまた予想外の言葉に情けない声が出てしまった。

自分用に弓矢を作っておけ…と言う意味だろう。

しかし、またどうして?

「俺は、俺の親父から弓の扱い方を教わった。だから、俺もお前に弓の扱い方を教える。だから、用意しておけ」

…そうか。親父さんの言葉で、何故この辺りには教育が浸透していないのか合点がいった。

つまり、この辺りの人々は親から子へと技術を習得させて、血を繋いでいっているのだ。

一子相伝の技であるなら、教育を受けずとも生きて行く事は出来る。

だから、教育が無い事に疑問も持たないのだろう。

思わぬ所で、思わぬものを教わる事になるようだが、これは嬉しい事だ。

狩りが出来る様になれば、それだけ村に貢献できると言うもの。

子供の身体の僕でも扱い方次第では弓矢で十分に狩りができる筈だ。

「分かった!作っておくよ!」

俄然やる気の出てきた僕は、早速にでも弓矢の作成に入りたかった。

だが、親父さんが何か言いたそうにしているのを見て、僕は高揚する気分を一旦落ち着かせる。

目が合った瞬間、親父さんは口を開く。

「…お前は俺よりも知識がある。俺たちの方が教わる事ばかりだって事は、この数日で嫌になる程分かった。…だが、それでも俺はお前の親として、出来る限りの事を教えてやる。その1つが弓の扱い方だって事を覚えておけ」

言い切った親父さんは弓矢を担いで、森へと入って行った。

早速、試し打ちに行くのだろう。運が良ければ、今夜にでも肉が手に入るかもしれない。

森へ入って行く親父さんの背中は、大きく逞しく広い背中だった。

教育を施されていまいと、親父さんが今の僕の父親である事に変わりはない。

そして、その事を僕は誇りに思えど、恥には思わない。

親父さんがそうである様に努力してくれているからだろう。

で、あるならば僕も精一杯それに応えるべく努力するまでだ。

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