137.第20話 5部目 誘拐

謎の客が村に訪れてから数日後。

その一団は、謎の客と同じように突然現れた。

長閑な村とは到底不釣り合いの、武装を施した物々しい一団が村に侵入してくる。

真っ先に気が付いたのは、畑仕事をしていた元盗賊の男達だった。

1人が急いでレオンの元へ走り、レオンはネッドに知らせる様に指示を下した後で謎の一団の元へ走った。

「こんな寂れた村に何の用だ?」

レオンの登場と問いを受け、一団を率いる長らしき男が前へ出る。

軽装に見えるがしっかりと急所を守るように防具を身に付け、腰には細身の西洋剣を携えて居る。

傭兵弾の様な印象がある。

「…この村に、ネッド・ミラーと言う男が居る筈だ。今直ぐ、ここに連れて来い」

単刀直入に伝えられた用件にレオンは眉を顰めた。

村長サンに用事?こんな物騒な連中が?

レオンは直感で、ネッドを一団の前に連れて来てはならないと察した。

しかし、謎の一団が来たとネッドに伝えるように指示をしてしまった後では、接触は避けられない。

レオンはネッドが来る前に、一団を帰らせる事を考え口を開く。

「ネッド・ミラー?誰それ?その男、何かしたの?」

レオンは息をする様に嘘を吐いた。

しかし、レオンの言葉を丸っと信じるほど、一団の長は甘くはなかった。

レオンの問いに、一団の長は再び単刀直入に答える。

「ネッド・ミラーには誘拐の容疑が掛かっている。…隠し立てするなら、容赦はしない」

一団の長がそう言うと、長の後ろに控えている武装した男達が武器に手を掛けた。

その様子を見て、レオンは鼻で笑う。

「はぁ?隠し立ても何も、居ないって言ってんじゃん。何?あんたら、こんな寂れた村の住人を虐殺するつもり?」

「大人しくネッド・ミラーを引き渡せば、危害を加える事はない」

「それって「渡さないなら殺す」って言ってんのと同じじゃねぇ?」

「居るんだな?この村に、ネッド・ミラーが」

「人の揚げ足とんなよー。ただの例え話じゃん!居ないったら居ないから。ほら、帰った帰った」

そう言って、レオンは手で追い払う仕草を一団に向ける。

その態度を見た一団は、ムッとしてレオンに対し腹を立てた。

長も同じ様にレオンに腹を立てたらしく、腰に携えていた剣の柄に手を掛け、抜刀の構えを取って言う。

「…ふざけるな。ネッド・ミラーは何処だ!?」

「何?俺とやるつもり?」

「貴様がネッド・ミラーを隠し立てするのならな!」

「ネッド・ミラー、ネッド・ミラー。煩せぇなぁ。何?人の言葉、分かんないの?

赤ちゃん言葉で話してやろうか?俺、得意だぜ?何をそんなに怒ってるんでちゅか~?

機嫌直してくださいでちゅ~」

今にも抜刀しそうな相手に対し、レオンは態々嫌らしく煽った。

すると、一団の長はカッと顔を赤くさせる。

「貴様…ッ!!」

「うーわー。煽り耐性低っくぅ!こんな事ぐらいでマジで怒んなよぉ。

場を和ませるためのジョークジョーク!」

「何が冗句だ…!」

遂に一団の長は抜刀し刃先をレオンへ向けた!

「これ以上、誘拐犯を隠し立てするならば、こちらも容赦しない!

答えろ!ネッド・ミラーの居場所を…!!」

「っるせぇなぁ…。知らねぇって言ってんだろ。やんのか?アァ?」

刃先を向けられているにも関わらず、レオンは態度を覆さなかった。

それ所か喧嘩上等と言いたげに顔垂れて、一団の長を静かに睨みつける。

その眼光に怯む様子を見せる一団の男達だったが、長だけは毅然とした態度でレオンを睨みつけている。

一触即発の雰囲気が流れる中、レオンは歪んだ笑顔を浮かべて手に冷気を宿し始めた。

一団の長の脅しに怯む事なく、立ち向かう様子のレオンの異様な雰囲気に一団はたじろいだ。

普通の村人ではない!その直感が、頭の中で警鐘を鳴らしている。

一団の長は真っ直ぐにレオンを見据え、いつでも反撃出来る体勢を取った。

拳に冷気の塊を纏わせたレオンは、じり…っと長との距離を詰める。

お互いに攻撃の機会を伺い、睨み合う。

そして、レオンから先に仕掛けた…!

「そこまでだ!!」

聞き慣れた声を聞き、レオンは攻撃の手を止めた。

…何で、今来るんだよ…!

現れた人物の姿を見て、レオンは心の中で毒気吐いた。

「ネッド…ミラー…!!」

一団の長がネッドの姿を見て絞り出す様な声を出してネッドを呼んだ。

名前を呼ばれたネッドは苦悩する様子で、レオンまで歩いて来る。

その間、誰も動く事は無かった。

自分の目の前に立ったネッドにレオンは言う。

「…もう少し待てなかったのかよ?」

「待ってたら、お前は笑い転げてた所だぞ」

「……マジ?」

「ウェルス村の住人限定だとでも思ってたのか」

「うーわー!最悪じゃん!」

衝撃の事実に気がつかされたレオンは頭を抱えて嘆いた。

その横を通り過ぎ、ネッドは一団の長に向き合う。

「……」

「…何処だ?」

言葉短く一団の長がネッドに問う。

「ここには居ない」

「嘘を吐くな…!お前がお嬢様を攫った事は…!」

そこまで言って、一団の長は言う事も忌々しいと言いたげに言葉を飲み込んだ。

何処か悔しさも滲ませている。

「…あぁ。そうだ。俺がお嬢様を連れ去った」

「なら、今直ぐにお嬢様を…!」

縋る様な言葉を投げかけられ、ネッドは絞り出す様にして言う。

「分からない」

「何だと…?」

「お嬢様とは…もう、9年以上会って居ない。何処に居るかも分からないんだ」

「それが通用するとでも…!?」

「連れ去って直ぐに、お嬢様とは逸れたんだ」

ネッドの淡々と伝えられる言葉を聞き、一団の長は苛立ちを募らせていく。

「っ。お前は…貴様は!お嬢様を連れ去っておきながら、見失ったと言うのか…!!」

「その通りだ」

「っく…!」

確固たる意思で伝えられるネッドの言葉に一団の長は怯む。

場に沈黙が流れる。

少しして一団の長は深呼吸してから、冷静な顔付きになりネッドを見据えて言った。

「…ネッド・ミラー。イサム・カジロ侯爵の命を以って、

貴様をアメリア・カジロ侯爵令嬢、誘拐の容疑で拘束する!」

声高々に告げられた内容を聞いて、レオンやその場に居た村人達は耳を疑った。

ただ1人、ネッドだけが苦悩の表情で黙って聞いている。

まるで、こうなる事が分かって居たかの様に…。

一団に取り囲まれたネッドは、抵抗の意思も見せずに乱暴に拘束された。

その様子を見ていたレオンが、怒りで再び拳に冷気を貯めていく。

周囲に出て来ていた元盗賊の村人達も、今にも一団に襲い掛かりそうな雰囲気になっている。

その空気を察したネッドが声を張り上げて言った。

「止めろ!」

ネッドの静止の一言に、村人達はハッと我に帰り拘束されたネッドを見る。

その目は間違いなくウェルス村の村長であり、誘拐犯とは思えないほど真っ直ぐだった。


ー…村人達はネッドを拘束し馬車に乗り込んだ一団を、黙って見送る事しか出来なかった…ー。




第20話 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る