136.第20話 4部目 謎の客

ー…川側にある鍛冶屋にて。

見知らぬ男の影が感心する声を上げた。

「おぉ…これは、大変素晴らしい…!」

「そうだろう、そうだろう!あんた、分かってるじゃないか!!」

自身が打った包丁を褒められて、パーカーは満足気に笑った。

「にしても、あんた、こんな寂れた村までよく来る気になったなぁ」

ニヤニヤと意地悪く笑いながら、レオンが客に向かって言った。

すると、パーカーがキッと目を吊り上げて怒鳴りつける。

「馬鹿言ってんじゃねぇ!ウェルスほど良い村はねぇぞ!」

「そりゃ、刀のおっさんからすりゃ、そうだろうけどさーあ」

「いいや!ウェルスは誰が見ても良い村だ!そうだろう!?お客さんよぉ!」

突如話を振られた客は虚を突かれて戸惑った。

「えっ!?え、えぇ…そ、そうですね…」

「ほら見ろ!お客さんも良い村だって言ってるじゃねぇか!」

「いや、そうゆーのユードージンモンって言うから」

レオンのツッコまれたものの、パーカーは全く意に返さず背を向けた。

「ちょっと待ってろ!俺の作品をもっと持って来てやる!」

そう言いながら、鍛冶屋の奥へ入っていこうとするパーカーにレオンは言った。

「おーい。刀のおっさーん!余計なモン持ってくんなよー?」

「何ィ!?余計な物だと!?」

「”アレ”持ってこようとしてんなら、村長サンに許可貰わなきゃじゃね?」

レオンが名前を伏せたまま、そう指摘するとパーカーは顔を顰めて足を止めた。

「むっ…それもそうか…」

「俺が聞いて来てやるよ。村長サン、たたら場っしょ?」

「うむ!急いで聞いて来てくれ!」

「あいよー」

パーカーの頼みを聞き、レオンはネッドが居るたたら場へ向かって走って行く。

男の客をここまで案内して来たレオンが居なくなったのを見計って、客はパーカーに伺った。

「あの…”アレ”ってもしかして……日本刀、ですか?」

「!?。お、お客さん知ってんのかい!?」

知る人ぞ知る幻の武器の名を聞き、パーカーは目を見張って驚愕した。

それと同時にパーカーは喜んだ。

「はい。実は…とある方の依頼で、首都で売られた日本刀を打った方を探して、ここまで来たのです」

「おぉ!つまりは俺だな!?」

「それを確かめるべく足を運んだのです」

「そうかそうか!遂に俺が打った刀が評価される時代がやって来た訳だな!!」

自分が武器職人として認められるかも知れないと知り、パーカーは有頂天になった。

「…ちょっと来い」

そう言って、パーカーは客を鍛冶屋の奥へ案内した。

そして、パーカーは一本の打刀を壁の棚から下ろし、客の前へ差し出した。

「刀には影打ちと真打ちってのがあるって知ってるか?」

「いえ…初めて聞きます」

「刀ってのは何本も打つ物なのよ!で、その中で一番出来の良い刀を「真打ち」。二番目に出来の良いのを「影打ち」って言うんだ!

で、こいつは首都で売った打刀の…真打ちだ!」

パーカーの説明を聞き、客は目を見開いて言う。

「つまり…あの刀より出来の良い刀…!」

「その通りだ!あんたの依頼主は、こいつもお気に召すと思うぞ!」

「間違いありません!あの刀を、あの方は大変気に入られて…」

客がそこまで言った所で、鍛冶屋の外からレオンの声が聞こえて来た。

「おーい!村長サン連れて来たぜー!何で、中入ってんだよー?」

「おぉ!連れて来たのか!」

レオンの声を聞いたパーカーは客に一言もなく、鍛冶屋の外に出た。

そして、レオンに連れて来られたネッドに開口一番に言う。

「ネッドさん!この客は俺の刀の良さを良く分かってる客ですぞ!」

子供の様に目を輝かせて報告してくるパーカーを見て、ネッドは怪訝そうに顔を顰めた。

「…は?刀?…お前、俺が来る前に客に見せたな…!?」

「えっ!あ、いや!つ、つい…!」

「つい、じゃねぇ!!何のためにレオンが俺を呼びに来たと思ってんだ!!」

「あーあー。俺の気遣い無駄になっちゃってんじゃーん」

刀を褒められて箍が緩んでしまったパーカーは、ついうっかり外の人間に口外してはならぬ事を話してしまった。

身内以外に褒められていない刀の事だったのも大きかった。

ジョンやテオ、レオンなどと言った理解者が村の中に居るものの、外の人間に褒められる事はまた別格に嬉しかったのだ。

散々に説教した後で、ネッドは溜息を吐いて客の居場所を尋ねる。

「…で。その理解ある客は何処だ?」

「えーっと…鍛冶屋の中に」

「…っ!口外されちゃ不味い物だらけの場所にか…?」

「むっ!そういえば!お客さーん!」

急いで客を呼びに行ったパーカーの後ろ姿を見ながら、ネッドは大きな溜息を吐いた。

「ひひっ。結果的に着いて来て良かった感じ?」

「…の、ようだな」

レオンがネッドに許可を取りに行った段階で、ネッドは同行する予定ではなかった。

しかし、刀の閲覧許可した後で、レオンからパーカーを目当てに来た客だと聞いたネッドが急遽同行を決めたのだ。

「にしても、何で?」

結果的にネッドが同行して正解だったと言わざるを得ない状況となっていたのだが、そもそも何故ネッドは同行すると決めたのかレオンには謎だった。

「まぁ…ちょっとな…」

レオンの問いにネッドは言葉を濁した。

答えを濁されレオンは納得しなかったが、納得したフリをして話を切り上げパーカーを待つ。

しかし、いつまで経っても鍛冶屋からパーカーと客が出てこない。

不審に思った2人は、恐る恐る鍛冶屋を覗き込んだ。

「パーカー…?」

「おっさーん?」

2人の呼び掛けに呼応するように、鍛冶屋の奥でガタッと音が鳴った。

少しすると、埃まみれになったパーカーが慌てて姿を現した。

「お客さんが居なくなった!探したが、何処にも居らん!!」

理解者が居なくなった事に愕然とした様子で話すパーカーの言葉に、2人は顔を顰めて怪訝に思う。

「居なくなったぁ?俺達、ずっと外に居たけど、鍛冶屋から出てくる奴なんか見てないぜ?」

レオンの言葉を聞き、パーカーは目を見開いてレオンの両肩を勢いよく掴んだ。

「そう思って、鍛冶屋の中を探してたんだ!だが、何処にも居らん!何処に行ったんだ!?」

「ちょっ!痛てぇんですけど!?おっさんが知らないのに、俺が知る訳ないじゃん!」

「うおぉぉ…っ!せっかく理解ある客が来たと言うのに、何処に行ったんだあああぁ!!」

「っるせ!ぅるせっ!デスボイスで叫ぶなって!」

パーカーとレオンのやり取りを他所に、ネッドは無言で鍛冶屋の中を探して回った。

しかし、パーカーの言う通り、何処にもそれらしき人影は無かった。

鍛冶屋に設けられた出入り口は2箇所。

外に開放するように設けられた店先と、店の裏に出られる勝手口だ。

ネッドは勝手口から店の外に出て、周囲を見回す。

人の気配は感じられず、風の静かな音だけが流れている。

まるで、化かされた様な錯覚を覚えた。

店先に戻ったネッドは盛大に落ち込むパーカーを宥めてから、鍛冶屋を後にした。

レオンを残して来たから、嫌でも元気を取り戻すだろう。

ネッドはたたら場へ戻りながら、消えた客人が何者であったのかを思って、嫌な予感を溜め込んでいった。




ー…。

「ネッド…。ネッド・ミラー…!」

村から遠く離れた場所で立ち止まり、男は先刻目撃した人物の名を憎々しげに呟いた。

本来の目的とは違ったモノを見つけた事で、男は急いで村を離れなければならなかった。

それがネッド・ミラーと言う男の存在だった。

男は村の方向をじっと睨んだ後、急いで走り去って行った…ー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る