32. 第4話 4部目 養鶏したいんですが…?

鶏は個人でも飼育出来るほど飼いやすく、また繁殖もしやすい。

産まれる卵も栄養価が高く、また鶏が増えれば必然的に卵と肉の収穫も見込める。

最初の内は、頭数を増やすことに尽力しながら、無精卵は調理して食べてしまえば無駄もない。

僕の鑑定眼を使えば、無精卵と有精卵の違いくらいは分かるだろう。

そして、頭数が増えて来たところで、順に屠殺して肉にしてしまえばいい。

狩りで得られる肉には限りがある。生態系を考える上でも、狩りすぎるのは良くない。

だからこそ、家畜として飼い、増やして、屠殺し、肉を得るのだ。

これが出来る様になれば、肉に困ることもなくなると言うもの。

勿論、飼育環境は整える必要がある。

鶏小屋を建設し、麦藁を敷き詰め布団がわりにしつつ、麦の一部を飼料として分け与え、糞尿の掃除の面倒も見る必要がある。

中々に手間ではあるが、それでも得られるものは多い。

是非とも、セイショクノケイを捕まえたい!

しかし…。

「ー…問題は鶏小屋…なんだよねぇ」

鶏小屋を建設するだけの材料、人材、時間が無い。

小屋を建設するにあたり、木材を調達する必要があるのだが…丸太状態になった木を移動するだけの人材が居ないのだ。

更に、木材を加工するための道具もなければ、小屋を建設している時間があれば、麦畑に種を蒔く作業に、冬の準備…とやることは山積みで、とてもとても時間が無い。

そうこうしている内に、狩りを進めてしまうと鳥達に警戒される様になってしまい、捕獲するのが困難になる。

しかし、丈夫な小屋が無いことには、鶏を捕まえた所で逃げられてしまう。

鶏に逃げられないだけの丈夫な小屋を作るには…と考えが堂々巡りしてしまうため、僕は考えるのを止めた。

「捕獲したいのは山々だけど、管理小屋が無いんじゃどうしようもないね。養鶏はまだまだ先になるかな…」

その頃には、すっかり警戒されてしまって捕獲するのに難儀する事になるのだろう。

非常に残念ではあるが、今後暫くの肉の確保は親父さんの狩猟に頼る他なさそうだ。

「……。じゃあ、こいつはどうする?今日、食っちまうか」

目の前にある、首なしセイショクノケイを指差して、親父さんが言う。

既に血抜きが施されている。やはり親父さんはこの手の事には詳しい様だ。

親父さんは、狩人の家系に生まれた人なのだろうか?

ともかく、この肉の処理を考えねば。

「…干し肉…にするには今の時期だと気温が高すぎるね。燻製なら何とか出来るかな?」

今日食べてしまうのも魅力的ではあるが、冷蔵庫の様な便利な機械が無い状態では、肉を長持ちさせるために干すか燻製にするのが良い。

しかし、干し肉にするには、今の夏の時期には厳しい。下手をすれば腐ってしまう。

だが燻製ならば多少は融通が利くはず。

燻すつもりならば、肉も表面が乾く程度に干せば良いし、何なら布で水気をすっきり取ってしまって、直ぐに燻すことも出来るだろう。

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