66.第8話 4部目 ショクリン

「グレイスフォレストって、そんなに都会なの?」

「都会だってぇ?どうして、そう思う?」

「ウェルスと違うなら、グレイスフォレストは大きい町なんだろうなぁって思ったんだけど…違うの?」

尋ね返された僕は素直に思った事を伝える。

すると、パーカーは珍しく苦笑して答えた。

「そりゃウェルスと比べりゃデカイ町だがなぁ?だだっ広いだけよ。俺たち人間が住む場所より、家畜達の放牧場の方が広いからなぁ!」

うん?でも町の名前からすると、森の中にありそうなのになぁ。

確か、”恵みの森林”じゃなかったか?

でも、パーカーの口ぶりからすると、町は平原の真ん中にでもあるかの様な印象を受ける。

僕が疑問に思っているとパーカーは親父さんに話しかけた。

「それに比べたらこの辺りは凄いでしょう!?ネッドさん!あれだけの木に囲まれてんですから!」

「あぁ。俺たちも最初にウェルスに来た時は驚いた」

パーカーに話を振られ、親父さんは素直に頷く。

「え?でも、父ちゃんは狩りも出来るし、森の中に入るのは慣れっこなんでしょう?」

これまでの親父さんの慣れっぷりを見たら、とてもじゃないが唯の都会っ子とは思えない。

なのに、森が珍しいなんて事が…。

「あー!そうか!坊主は生まれてこの方、ウェルスから出た事が無いんだもんなぁ!」

パーカーが突然、合点がいった様子で声を上げた。

まるで「だから知らないのか」と言葉が続きそうな事を言って。

「え?う、うん…そうだけど…」

「じゃあ、教えてやる!良いか?森なんてのはな、この国じゃあ珍しいんだ!」

ー…え?

「周辺国はどうだか分からんが、ここアロウティでは木自体が珍しいのよ!グレイスフォレストから見たら、ウェルスの周辺の森なんて、ずうっと遠くに見えんだ!それにアロウティの首都アルベロなんて周りは砂だらけだしな!まぁ、後何十年も経たずにこの辺りの森も無くなるだろうってのがお国のお偉いさんの発表だ!今の内に木がある環境を楽しんどけよ、坊主!」

…。

……。

………?

だ、駄目だ。思考がまるで追いつかない…。

パーカーも、パーカーの話を聞いていた親父さんも、まるで顔色を変えない。

それが普通だとでも言うかの様に。

…普通?普通だって!?

木が無くなっていく状況が普通だと!?

「ちょっ、ちょっと待ってよ!この国では、しょ、植林はしてないの!?」

「…ショクリン?何だそりゃ?ネッドさんが聞いた事あんのかい?」

「あ?いや?知らねぇが…」

「ネッドさんじゃねぇってっと…坊主、そんな言葉ぁ何処で覚えてきたんだ?あ!あれか!子供の言葉遊びだな!?面白い言葉思いつくなぁ!で?どんな意味なんでぃ?」

今世で未だかつて無いほどの目眩が僕を襲った。

“植林”と言う言葉自体を知らないだと?信じられない…。

僕の様子が俄かに可笑しくなった事を察知した親父さんが、僕を連れ出して帰宅してくれなかったら、情けなく僕はその場で倒れ込んでいたかもしれない。

それほどの衝撃だった。

帰宅し、顔色が真っ青になった僕を見たお袋さんが、何処か怪我をしたのかとしきりに心配してくれた。

だが、僕に答える余裕はない。

僕は言葉を絞り出して親父さんに尋ねる。

「…と父ちゃん…ほ、本当に…この国は…植林をしてないの…?」

「……すまん。俺は聞いた事が無い」

親父さんが申し訳なさそうにして答えを言ったのを聞いて、再び目眩が僕を襲う。

目頭を押さえ困惑する頭を落ち着かせようと努力したが、疑問ばかりが溢れ出して僕の思考は一向に落ち着きを見せない。

どうして、どうして、どうして!?

植林をしてないなんて…!?

何故、そんな馬鹿げた状態のまま、この国はそれを放置しているんだ!?

植林をする所か残っている木を片っ端から伐採してるだって!?信じられん!

後何十年もしない内に、この辺りも平原になる…?

この国の首都周辺は砂ばかり?つまり、砂漠化してるって事か?

そんな状態になるまで一体どれだけの時間を要する?

そんな時間がある間に植林すると言う結論に至らなかったのか!?

何故だ?何故だ!?

考えれば考えるほど僕は困惑していく。

すると。

「テオ。何をそんなに難しい顔をしてるの?大丈夫。ここには私とネッドが居るわ。あなたの絶対的な味方が2人も居るのよ?大丈夫。だから、落ち着いて?ね?」

そう言ってお袋さんは、僕を優しく抱き締めてくれる。

背中を優しく何度も撫ぜてくれた。

不思議なものだ。段々と気分が落ち着いていく。

母親の不変の力は凄まじいな。

「…うん。もう大丈夫。ありがとう、母ちゃん」

一度、深呼吸をして更に気分を落ち着かせた所でお袋さんから離れ、礼を言った。

すると、お袋さんは嬉しそうに微笑む。

「ふふっ良いのよ?もっと甘えてくれても」

「ははっ。改めては恥ずかしいな」

完全にいつも通りに戻った僕は、改めて親父さんに向き直り、この国の現状について聞くことにした。

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