51. 第6話 4部目 必要なもの
それほどに日本人にとって日本刀とは格別な魅力を持っている。
そんな刀をパーカーは再現しようと…いや、既に再現してしまっていたのだ。
「ー…これが、その証拠だ!」
パーカーが持ち出したナイフの刀身を見て驚いた。
その見た目は腰刀だと言われても、疑問に思わない程のものだったからだ。
更には、従来の鉄製のナイフを切り裂いた証拠まで出されてしまった。
確かにこの切れ味は日本刀特有の物だと言えるだろう。
何せ、日本刀は銃弾をも切り裂くのだから。
にしても、良くこれだけ立派な腰刀を作ったものだ。
日本刀と西洋刀では、そもそも打ち方が違う筈だが…その違いも再現したのだろうか?
疑問に思いながら腰刀に見入っていると、パーカーは腰刀を作っただけでは満足出来ないと言い、更には夢を語った。
「俺は昔から刀匠になるのが夢だったのよ!刀と一口に言っても、種類がある!そいつを全っ部、打ち尽くしてこそ!俺の”刀匠になる”ってぇ夢は叶うんだ!」
胸が熱くなる様な感覚を覚え、僕は打ち震えた。
この人は現実に刀を一本仕立て上げた。ならば、太刀や打刀を作る事だって出来るかもしれない。
それも、この世界で初めて…!
「だから、ネッドさん!あの鉄を作ってくれ!そして、俺に買わせてくれ!!この夢が叶うなら、俺の所の工具を幾らでもタダで下ろしても良い!!」
「は!?た、タダぁ!?」
随分と思い切った交渉内容に親父さんは素っ頓狂な声を上げた。
だが、それはパーカーの息子のジョンも同じだったらしく、呆れた様子で口を挟んだ。
「また勝手な事を…フィリップ兄さんが怒る姿が目に見えるよ…」
「はん!勝手に怒らせとけ!あの店はまだ俺の店だからな!」
「いや、怒られるのは俺なんじゃないかなぁ…」
同行しておいて、父親の暴挙を止められなかった咎を受ける未来を思ってのことなのだろう。ジョンは遠い目をしている。
「…で、ネッドさん!どうだ!?悪い話じゃないだろう!?」
「え?お、おう…そう、だな…?」
ぐいぐいと迫ってくるパーカーに、親父さんは押され気味だ。
これはいけない。このままでは、パーカーの思い通りに事が運んでしまう。
この世界初の刀の誕生には興味を惹かれるが、今はそれ所ではない。
僕は慌てて親父さんの服を引っ張った。
それに気がついた親父さんは僕と目が合うと、冷静さを取り戻した様子でパーカーに向き直る。
「…ちょっと、考えさせてくれ」
「……え!?」
思ってもいなかった返事が来たかの様に、パーカーは意外そうに声を上げた。
そして、食い下がろうとしたパーカーをジョンが羽交い締めにし、エヴァンと共に家から出て行く。
僕たちの答えが出るまでの間、村を見て回るそうだ。
尤も、見て回るものがあるほど村は発展していないので、そう時間は掛からずに戻ってくるだろう。
その前に親父さんと話を詰めなければならない。
「…テオ。俺を止めたのには理由があるんだろ?話せ」
聞く姿勢になってくれる親父さん。
無条件で僕を信頼してくれている事が伝わってくる。
だが、僕は親父さんを止めた理由を話す前に、親父さん自身に問う必要があった。
僕の言葉を盲信するだけでは駄目だからだ。
「その前に父ちゃんに聞きたいんだけど…パーカーさんが提示した内容を良いと思う?」
「あ?……まぁ、悪くはないんじゃないか?金要らずで道具が手に入るってんだから…」
親父さんの見解を聞き、やはり聞いて良かったと思った。
親父さんの言う様に、玉鋼を買い取って貰える上、工具も無料で提供されるなんて実に旨い話だ。
しかし…。
「うん。有難い話だよね…でも、その道具を使う人って誰かな?」
「誰って…俺と、ウィルソンと…テオ……」
道具を使う人間を数え始めて直ぐに親父さんは違和感を覚えた様だ。
数える手が止まり、親父さんは顔を顰めた。
「……だけ、か?」
確認する様に見つめてくる親父さんに僕は応える。
「うん。母ちゃんも使えるものは使えるだろうけど…幾ら道具を貰った所で使える人が居ないんじゃ、宝の持ち腐れだよね?」
と、まぁ、本来ならこの矛盾に気が付くべきなのだが、親父さんはパーカーの勢いに飲まれて承諾してしまいそうになっていた。
それに、僕が親父さんを止めた理由は他にもある。
「なら、この話は無かった事にすんのか?」
1か0しか無い様な言葉を口にする親父さんを僕は否定する。
「そんな事はないよ。ただ、交渉内容を変えれば良い」
そう。僕は無料で道具を貰う以上の事をパーカーに望みたいと思っている。
「どう変えるんだ?」
「今のウェルスに欲しいものを考えれば直ぐに分かるから、考えてみて」
直ぐに答えを言ってしまっても良かったが、親父さんには考えて欲しかったため、僕は答えを濁した。
まともな教育を受けてこなかった親父さんには、事あるごとに自分で考える力を身につけて貰わなければならない。
これは、ウェルスの発展にも深く関わる事だ。
親父さんは険しい顔をしながら真剣な様子で考えている。
道具が必要でないなら、何が必要か?
金だろうか?食料だろうか?
いや…。
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