50. 第6話 3部目 幻の武器【日本刀】

日本語に訳すると”恵みの森林”かな?

僕がそんな事を考えてる間にも、エヴァンは説明を続ける。

「パーカーさんがやけに、あの鉄を気に入ってまして…またあの鉄が欲しいとの事で、ウェルスまで案内した次第です」

ようやっとエヴァンが此処にいる理由に合点が行き、僕たちは納得した。

以前にエヴァンから聞いた、鉄を買い取ったお得意さんとはパーカーの事なのだろう。

しかし、先ほどのパーカーの騒ぎようは一体…?

「お前は案内役で、用があるのはアイツらか…。で、一体どうしてあんなに騒いでたんだ?」

「あぁ、あれはですね…」

何やら言い篭るエヴァン。言いづらい理由があるらしい。

すると、お袋さんがクスクスっと笑いながら、理由を説明してくれた。

「ダールさんたら、此処にくるまで貴方達が作った事、言い忘れてたのよぉ」

「いやぁ、わたしも言ったつもりでした」

なるほど。

つまり、最初エヴァンに鉄を見せた時と同じ様な反応が、パーカーに起こったと言うことか。

廃坑か何かから鉄を拾って来たのかと思いきや、作ったのだと聞かされて驚いたに違いない。

ミラー家を訪れたのは、鉄を拾って来た場所を聞きたかっただけで、まさか尋ねた家の主が製鉄したとは思いもしなかったのだろう。

しかし、鉄が作れるとなったら、また話は違ってくる。

そのため、余計にパーカーを興奮させてしまう結果になった訳である。

となれば、恐らくパーカーはあの鉄…玉鋼を作って欲しいと言う筈。

しかし、解せないのは、何故ウェルスに来てまで玉鋼を欲しがるのか?

そもそもウェルスで作った玉鋼は、予想額とは下回った金額で買い取られていった。

そこから考えるに、玉鋼は何ら変哲のない鉄なのだろうと踏んで納得していたのだが…。

不思議に思い考えながら、スミス家2人の帰還を待つ。

暫くすると、少し興奮が冷めた様子のパーカーと、相変わらず飄々とした印象のジョンが戻って来た。

3人分の椅子しかない環境で、交渉の席に座ったのは親父さん、エヴァン、パーカーだった。

お袋さんは奥の部屋へ行き、ジョンはパーカーの後ろに立っている。

僕は親父さんの側に立って、交渉の様子を見守ることにした。

「早速だがネッドさん。是非とも、あの鉄を再び作って頂きたい!

俺はあの鉄に惚れたんだ!あの鉄なら、俺のやりたかったことが…!」

「はい、父さん落ち着いて」

「むぐ」

また興奮し始めつつあったパーカーを、後ろに立っていたジョンが手で口を塞いで止めた。

ジョンは苦笑しつつ親父さんに話しかける。

「急にこんな事になって、すみません。父は刀の事になると自分を制御出来ない質でして」

「…カタナ?」

先ほどから聞きなれない言葉が続くと思ってるらしく、親父さんは顔を顰めて怪訝そうにしている。

僕としては、久しく聞く純正な日本語に胸が躍る感覚がある。

しかし、何故”刀”だけは、そのままの名前で伝わっているのだろうか?

てっきり、カナタやら、タナカやら…日本人の苗字に聞こえる様な変更がなされているかと…。

「あ、刀については父に説明させます。…父さん、なるべく簡潔に」

そう言ってジョンはパーカーの口から手を離した。

そして、パーカーは嬉々として刀について話し出す。

「一言で刀を説明するならば…これまで数々の異世界人が作ろうとしても作れなかった武器のことだ!」

衝撃的な説明は僕に頭から冷水を浴びた様な感覚をもたらす。

数々の異世界人が作ろうとしても作れなかった武器?

どう言うことだ?玉鋼という存在はこの世界においては普通にあるものではないのか?

「…は?異世界人が作れなかった…?」

親父さんはパーカーの説明を聞いて、疑い深そうに聞き返した。

「そう!姿形は文書に残されているが、現物は1つとして存在しない幻の武器…それが刀だ!」

パーカーの話を纏めるとこうだ。

この世界に喚び出された異世界人の中には、度々”刀”と呼ばれる武器を所望する人間が居た。

しかし、この世界にある鉄では刀を作成することは叶わなかった。

刀の特徴を再現しようと鉄を打つと、脆くなりがちでまるで使い物にならず、結果的に異世界人が望む刀が作られたことは一度もないそうだ。

刀の特徴とは…刀身は片刃で細長く薄い。更にしなやかさも備わり、滅多なことでは折れない。

その上で、岩をも切り裂くほどの切れ味を持つ…これだけ聞くと、夢物語の様な特徴を持った武器である。

だが現実に日本に存在していた武器であり、その威力は折り紙つきだ。

銃が普及した後でも、日本刀の存在は日本人の心の根深い所に存在し続け、美術品としての扱いになった現代日本においても、その魅力が衰えることはない。

そして恐らく転移して来た異世界人とは日本人の事だ。

彼らは日本刀の威力と魅力を知っていた。

だからこそ、こちらの世界で再現しようとした。

しかし再現する事は叶わず、文書として残っただけで幻の武器として伝わっているのだろう。

前世では僕も軍刀を持って戦争に赴いたことがある。

士官学校の卒業と同時に祝い物として新造刀を貰ったのだ。

尤も、抜刀する事は無かった。銃器が主だった武器だったからだ。

戦争が終わり、軍が無くなる同時に手放さざるを得なかったが、戦争中は心の支えの1つとして手元にあったものだ。

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