49. 第6話 2部目 突然の来客
とある日の午後。
僕は親父さんにくっ付いて、森の中を歩き回った。
冬に向けてなるだけ多くの肉を得て燻製肉を作るためだ。
冬の準備はお袋さんや、村の年寄り達にもして貰っている。
僕たちは冬の間の食料を確保出来る様に、頑張るのみだ。
緑丸くんとの実験のおかげで、野生の動物達の話し声は聞かずに済んでいる。
狩る対象になる小動物の声が聞こえずに済んで、僕は心底ホッとした。
都合が良いとは思うが、これから食べようと思っている生物の会話を聞いては、目覚めが悪くなる事は明らかである。
緑丸くんが言語理解能力を制御できる事に気が付かせてくれて居なかったら、今の僕は罪悪感に苛まれて居た事だろう。
ご都合主義ではあるが、こればかりは良かったと素直に思う。
そうして、僕は親父さんの指導の元、弓矢を扱って獲物を狩ろうと邁進する。
しかし、飛距離や力が足りず、結局僕が狩れた獲物は1匹にも満たなかった。
むしろ、下手に矢が掠り、余計な怪我をさせてしまい可哀想な事をしてしまった。
こう言うものは一撃必殺である事が望ましいのだな。と、改めて強く思い、もっと精進しようと心に決めた。
結局今日は鳥を2羽分、親父さんが仕留めて帰る事になった。
十分に血抜きをし、縄で足を括って親父さんは軽々と肩に担ぐ。
「帰るぞ」
一言。短くそう言って親父さんは歩き出す。
僕たちは森を抜け、家に向かってウェルスの中を歩いていく。
ミラー家が見えてくると同時に、今の時期には無い筈の見慣れた物が家の側にあるのが見えて、僕たちは足を止めた。
「あれって…エヴァンの荷馬車じゃ…」
「…何で、あれが家にあるんだ?」
荷車に繋がれたまま馬が地面を鼻先で突いている姿を見て、僕たちは首を傾げた。
ウェルスに行商に来る時に、エヴァンが乗ってきている荷馬車だが、前回取引した時から、まだ1ヶ月ほどしか経っていない。
にも関わらず、エヴァンの荷馬車はここにある。
親父さんは家の側に、狩ってきた鳥を置く。お袋さんに見せないためだ。
そして僕たちは怪訝に思いつつ、荷馬車を横目に家の玄関の扉を開いた。
「あら。お帰りなさい、ネッド、テオ」
扉を開けたら真っ先にお袋さんが迎えてくれる。
その様子に変わった所はない。
「アメリア。外にエヴァンの荷馬車が…」
「おぉ、やっとお帰りですね!お待ちしていましたよー」
親父さんが荷馬車がある理由をお袋さんに尋ねようとすると、エヴァンの声で遮られた。
扉の陰に隠れて見えていなかった様だ。
「エヴァン!何でお前が居るんだ?」
当然、親父さんは村にいる理由をエヴァンに尋ねた。
「いやね?今回、用があって来たのは、わたしじゃないんです」
「は?」
しかし、返って来た答えを聞いても、謎が深まるばかり。
すると、エヴァンの背後から何者かが飛び出して来た!
「おおおおお!あんたが噂のネッドさんか!!会いたかったぞぉお!」
謎の御仁が感動極まった様子で親父さんの手を取り、上下にブンブン振り回している。
「あぁ!?何だ、このおっさん!?」
困惑する親父さんと、興奮止まぬ様子の謎の御仁。
何事かと思いながら僕はこっそり親父さんの腕の下を潜って家の中に入った。
すると、もう1人居た若い男が謎の御仁を止めに入る。
「はいはい。父さん、それくらいに。これじゃ本題に入れないよ」
「おぉ!そうだな!」
どうやら若い男は、謎の御仁の息子の様だ。
ごつい印象を受ける謎の御仁と、飄々とした印象の若い男。
身形からして、悪い生活を送っているわけではなさそうだが…。
一体、こんな辺境な村に何の用があって来たのか?
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