143.第21話 6部目 転移時期の相違


「レオンくんって、2005年にこっちに転移して来たのかい!?」

「は?そうだけど?それが何?テッちゃんもだろ?」

何てこった。

てっきり、レオンくんも2018年からこちらに来たものかと僕は思って居た。

そして、レオンくんも同じ様に思っていたらしく、僕は2005年に死んで、こっちに転生したのだと思っていたのだ。

つまりは、レオンくんは僕から見たら過去の人間だと言う事になる…!

…いや、そもそも101歳まで生き長らえた僕の方が珍しいか…。

「僕が死んだのは…2018年、だよ…」

「……は?2018?…え?は?……はぁーーーーーー!!??」

事態を理解したらしく、レオンくんは大声を上げて驚きを表した。

お互いにてっきり同じ時代から来たものかと思って居たら、僕の方が未来人だったと言う事実は中々に衝撃的だ。

道理でレオンくんの言動から、曾孫の学生時代を思い出す訳である…。

ギャルやらルーズソックスやらが流行って居た時代だった様な…?

「え。っつーか、テッちゃん……死んだ時、100歳超えかよっ!?ヤベェ!」

「随分生きたよねぇ」

「ちょ、他人事かよ!?…っつーか、ひょっとして俺って、テッちゃんの孫とかとタメだったりする…?」

「うーん…。僕自身、若い時に結婚したもんだから…。何人かの曾孫が同年代になるのかなぁ…?」

レオンくんの疑問にそう答えると、言葉もなくレオンくんは驚く。

しかし、よくよく考えれば、2018年の時点でレオンくんが17歳だとしても、僕の曾孫世代と同じになるな。

…まぁ、長男と末っ子の三男の年の差を考えれば、無理もないか。

長男の所に玄孫が3人、三男の所に中学生の曾孫が居たしなぁ…。

5人も直系の子供が居て、全員結婚して家庭を持ってくれたが故の数だなぁ。

しみじみと前世の子孫達を思い浮かべて僕は和む。

…おっと、それはともかくとして。

「しかし、こちらの世界に来る時期が、それぞれに違うと言う事は…お祖父様も当然、違う時代の日本からこちらに来たんだろうなぁ…」

「あー、確かに。どうする?戦国時代から来た日本人だったら!」

「それは流石に話が合わなさそうだな…。せめて明治から昭和生まれの人だと良いんだけど…」

候補の中でも昭和生まれなら、前世の僕の子供世代くらいだから、全く話が合わない何て事はないだろう。

尤も、僕の子供世代だとして、今世で孫である僕の方が祖父より精神年齢が上と言うのは…中々に複雑だ。

「ともかく、会ってみない事にはどうしようも無いからね。明日にでも出発するよ」

親父さんが連れて行かれたのは今日の昼間。

エヴァンから聞いた首都までの道のりから考えるに、一団は明日の昼ごろには首都に着くだろう。

こちらは一日遅れての出発になる。

親父さんの罪状が確定する前に、首都へと急がなければ…。

上手い事エヴァンが村に来てくれれば、そのまま首都まで連れて行ってもらえるかもしれないが、来なかったらこちらから出迎う必要があるな。

そんな事を考えていると、レオンくんが言った。

「…テッちゃん。まさか1人で行くなんて言わねぇよなぁ?」

レオンくんの言葉を聞き、僕は大事な用事を思い出した。

お袋さんから聞いた話を、真っ先にレオンくんにしたのには当然理由がある。

それを分かっているのか、レオンくんは意地悪く笑って僕を見ている。

僕はフと笑い、答えた。

「レオンくん。一緒に来てくれる?」

「テッちゃんがどーしても俺に頼りたいってんなら、仕方ねぇーなー!」

答えを聞いたレオンくんは得意げに身を反らし胸を張った。

こう言う所がどうにも曾孫を連想させるんだなぁ…。

「うん。頼りにしてるよ。同行お願いします」

頭を下げて首都までの同行を頼むとレオンくんは、嬉しそうに前のめりになって言う。

「任せとけって!でさぁ、拘束魔法なんだけど、一時的に解除…」

「それは無理かなぁ」

「っんでだよ!!」

「それはそれ。これはこれ、だよ」

「マジでテッちゃんって、そーゆーとこシビアすぎ…」

要望を即座に却下されたレオンくんは、ガックリと項垂れる。

確かに、万が一の時レオンくんが抵抗出来ないのは辛いものがある。

かといって、拘束魔法を解除するのは話が違う。

ただでさえレオンくんはウェルス村で刑に服している身だ。

その身柄を外に連れ出す上に、拘束魔法を解除しては他の者達に示しがつかない。

それに、ここぞとばかりに力を奮われるのは困る。

今の僕にはレオンくんを止める手立てが無いし、制御出来る根拠がない。

故に、レオンくんには同行者としての役目と、諸々の補佐をして貰うだけにするつもりだ。

エヴァンも一緒に行動する事になるとは言え、やはり気を使う必要が無いレオンくんが同行して居た方が行動しやすくなる。

「一緒に来てくれるだけで充分助かるから、魔法や力が使えなくたって問題ないよ」

むしろ、力で解決する方法以外を取る事を前提に行動すれば良いのだ。

すると、レオンくんが面白くなさそうな顔をしたと思ったら、机に突っ伏して言った。

「……テッちゃんってさー、マジで、そーゆーとこあるよなぁ…」

「そう言う所?」

「別にぃ?」

言葉の意味を聞いたものの、レオンくんは答えずシラを切られてしまった。

そう言う所とは、何だろうか…?

うーん…。やはり若者世代との交流は難しいものがあるなぁ…。




ー…首都アルベロにて。

日本刀を打った刀匠を探していた途中で、長年探していた憎き相手を見つけたとの情報を得た侯爵は、煮え立つ腹を酒で冷やしていた。

「ネッド…ミラー…」

憎き男の名を呟き、侯爵は苦々しく顔を顰める。

愛する末娘を連れ去り、行方を暗ました男。

刀匠が見つからず苛立っていた侯爵に、別の苛立ちを思い起こさせる存在。

末娘のアメリアが居なくなってから、9年間ずっと行方を探し続けていた。

それが、まさか、刀匠を発見したと同時に誘拐犯の行方を掴む事になるとは思いもしなかった。

刀匠と誘拐犯は森の奥地に存在する、聞いた事もない名前の村に居たのだ。

この国にある数少ない森林の奥に、望むものが2つも合った事に侯爵は武者震いした。

あれだけ探しても見つからなかったものが、同時に見つかるとは何かの導きだろうか?

自身の領地に居る酒造に態々作らせた、馴染み深い酒の味も今夜はよく分からない。

苦いんだか、旨いんだか、さっぱりだ。

「……アメリア…」

酒を口にしながら、15歳の姿を最後に会えなくなった末娘の名前を静かに呼ぶ。

子供達の中で唯一、自分の目の色を受け継いだ可愛い末娘だ。

故郷から、この世界に喚び出されてからと言うもの、侯爵にとっては外国人と変わりない人間ばかりと交流を持って来た。

その所為か、ずっと故郷に通じるものを追い求めて止まなかった。

日本刀も、末娘のアメリアも、侯爵にとっては数少ない故郷との繋がりを感じられるものなのだ。

もう戻る事が叶わない故郷と数少ない…。

「……大尉…」

会う事は絶対に出来ない存在を口にし、侯爵は自身の情けなさに歯を食い縛った。


いつまで…。いつまで過去を引き摺ってるんだ…!

自分は日本に戻れないと知った日から、この世界に身を置くと決めた。

なのに、この歳になっても日本での事を引き摺るなど情けない…!

…刀匠も見つかった。アメリアの行方も掴めるだろう。

その全てが終わったら、いい加減忘れよう。

思い出すだけで虚しくなるのだから…。


侯爵は残った酒を一気に飲み干し、席を立つ。

数日後にはネッド・ミラーを捕らえた私兵団が帰ってくる。

必ず、アメリアの情報を聞き出す。

…ネッドは9年前までは侯爵家で優秀な働きをしていて、見込みのある青年だった。

父親から仕事を引き継いでからは、当然のように頼もしくなっていた。

ネッドの父親とはそれなりに交流を持っていた事も有り、ネッドをもう1人の息子と思う時もあった。

だが、そんな関係を滅茶苦茶にしたのもネッドだ。

それもアメリアを誘拐すると言う最悪の形で、ネッドは侯爵の信頼を裏切った。

許せる訳がない。許してはならない。

万が一、アメリアの身に最悪な事態が起こっていたら、その時はネッドを…!

決意を胸に侯爵は首都の別宅から、夜の城下町を睨んだ。


かつて、アロウティ国を救った英雄の目をして…ー。




第21話 完

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