144.第22話 1部目 テオの外出
「ー…ここが、ロールルの村…」
グレイフォレスト、バクツネと言った町を通り過ぎ、首都へ向かう僕達は、段々と緑が無くなっていく様子を目の当たりにした。
グレイスフォレストから東方面に位置する、隣町バクツネまでは平原の様相だったのだが、段々と緑が無くなっていき、
一泊するべく寄った宿場村である、ロールル村の周囲は砂漠化が進んでおり、殆ど緑地がない。
不思議な事に近くに川だけは流れ続けている。エヴァンから聞いた話の通りだ。
砂漠化が進めば、川などと言った自然発生している水辺も少なくなるはずなのだが…。
尤も、流れが緩やかな所を見ると水源は遠い場所にあるらしく、少し濁っていた。
…完全にこの辺りの川の流れが止まるのも、遠くない未来かもしれない。
そんな事を複雑に思っていると、後方からレオンくんの声が響く。
「そういや、ここで商人のおっさんが金貨持ってるって分かったんだったな」
僕が何気なく呟いた言葉に対してか、レオンくんは自分の所業を反省する素振りすら見せずに意地悪く笑って言った。
エヴァンは居心地悪そうに返す。
「そ、そんな平然と蒸し返さないでおくれよ。レオンくん…」
「いーじゃんいーじゃん!おっさんのポカで今の俺たちがあるんだしさー!」
「ぐう…」
…エヴァンを困らせたいがために言っているな、あれは。
1年前の心の傷を抉る様な真似をするとは、何ともレオンくんらしい意地悪だ。
「…ねぇ、エヴァン。変わった料理が食べられるのって、ここの宿屋だったよね?」
「あ、あぁ…。宿屋と繋がってる食堂で食べさせてくれるよ」
レオンくんに肩を組まれ頭を小突かれながら、エヴァンは困った様子で食堂の位置を指差しながら答えてくれた。
すると。
「じゃあ、俺ら先に食堂で席取っといてやるから、おっさんは宿取りヨロシクー!」
エヴァンの答えを聞いたレオンくんは、ぱっとエヴァンから離れ率先して食堂へ向かって行ってしまった。
「あ…レオンくん」
「テッちゃん、早く来いってー!」
呼び止めようとした僕の言葉を遮って、レオンくんは少し離れた位置から僕を呼んだ。
エヴァンに雑用らしい雑用を頼んだ上、自分達は先駆けて食堂に行って良いものか…?
困った僕はエヴァンを見上げた。
「大丈夫。テオ坊ちゃんは、レオンくんと先に食堂に行ってて良いよ」
「…分かったよ。食堂で待ってるね」
僕の杞憂を察し、微笑んで答えてくれたエヴァンの厚意に甘えて、僕はレオンくんが居る方へ足を向けた。
今朝方の事。
ウェルス村で起きた事件を嗅ぎつけたのか、エヴァンが血相変えて朝早く訪ねてきた。
好都合だった事もあり、僕達はエヴァンに親父さんが首都へ連れて行かれた事を説明した。
すると、エヴァンは語った。
どうやら親父さんは半年ほど前から、今回の事を予見していたらしい。
エヴァンの元に妙な客が現れ、その事を怪訝に思ったエヴァンが親父さんに警告に来たとの事。
その際に、妙な客がウェルスに近付かない様にして欲しいと親父さんはエヴァンに頼んだそうだ。
エヴァンは親父さんからの頼みに従い、それ以降に訪れた妙な客からの追及をのらりくらりと躱してウェルスに近付かない様に時間を稼いで居たのだ。
そして、その追求の全てはパーカーに関する物だった。
パーカーの所在や、パーカーが刀匠である事を確認したがる言動を繰り返す客達に対し、エヴァンは知らぬ存ぜぬと言い続けたらしい。
それで信じる方も単純だと思わざるを得なかったが、恐らく、パーカーを探していた妙な客達は、
刀匠と言う名の”武器職人”を探していたからこそ、パーカーを見つけられなかったのだ。
パーカーの元の職業は工具職人。日用的に使う道具を打つ職人であり、武器職人ではない。
相手方は武器職人であるパーカーを探していた。だが、そんな男はグレイスフォレストには居ない。
それを盾にエヴァンはパーカーの存在を隠し、ウェルスの存在を隠し続けていたのだ。
お袋さんが無事に出産するまでの期間、ウェルス村に厄介事を持ち込まぬ様に…。
しかし、遂に昨日、事件は起きた。
だが、妙なのはパーカーを探していた客がウェルスを訪れた後で、親父さんが連れて行かれてしまった事だ。
この出来事が何故、ほぼ同時に起きたのか。
考えられる可能性は一つ。
パーカーを探していた人物も、お袋さんを探していた人物も同一であると言う事。
つまり、カムロ侯爵なる男こそ、今回の事件の裏に居る黒幕なのだ。
それらの話を聞いた僕は、とある物を持ってレオンくんと共に、エヴァンの荷馬車で首都へ向かっている。
だが、1日で着く距離ではないので、今日の所は宿場村であるロールルに立ち寄ったのだった。
エヴァンの言葉に甘え、僕とレオンくんは一足先に食堂に足を踏み入れた。
食堂に入ると、村の住民らしき人物達が屯ろして食事と酒を口にしている。
一見して寂れた村の様だが、酒を口に出来ているのを見る辺り、それなりに裕福な様だ。
宿場村として機能している事も功を奏しているらしい。
首都への道すがら屋根のある場所で一泊出来る環境にある村は貴重だ。
住民は少なく見えるが、このまま残って行って欲しい。
「テッちゃん。ここにしようぜー」
そう言ってレオンくんは店の奥側、厨房らしい場所が良く見える位置の机を選んだ。
4人がけの机に座ると同時に、店主らしい男が水の入った筒型の土器を僕とレオンくんの目の前に置いた。
「2人か」
短く問うて来る店主に、レオンくんが答える。
「3人。この後、おっさんが1人来るから」
「分かった。…家族連れか?」
僕とレオンくんを見遣り、後から来る人物の特徴を聞いた事で家族連れと思ったらしい。
「ぎゃはは!ありえねーし!まぁ、テッちゃんが俺の義理の息子になんのは別に良いけどー」
「…は?」
レオンくんの答えを聞き、店主は困惑した様子で聞き返した。
初対面の相手にする話では無い。
僕は話を逸らすつもりで、店主に話しかけた。
「あの。美味しい料理を作ってるのって、あなたですか?」
「え?…まぁ、作ってるのは俺だけど…」
「わぁ!楽しみにしてます!」
「…おう」
僕の問いに答えてくれた店主は、楽しみにしていると告げると嬉しそうに微笑んだ。
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