68.第8話 6部目 行く末

しかし、それではこの国・アロウティが衰退していくのは止めようが無い。

夢を持つからこそ人は発展していくと言うのに…。

僕と親父さんの間に無言の時間が流れる中、お袋さんが口を開く。

「でも私たちは他の人と少し違うわ。家を出て、旅をして、恋をして、あなたを授かって…ウェルスに辿り着いた。私たちは”普通”じゃないわ。けど、だからこそ出来る事もあると、私は思うわ」

相変わらず幸せそうな笑顔を見せるお袋さん。

”普通”では無い事を受け入れているお袋さんの言葉を聞き、僕と親父さんはフッと気持ちが和らいだ。

「まぁ…普通じゃない事を嫌がるくらいなら、そもそもこうなってないしな」

親父さんはお袋さんとのこれまでの事を振り返った様子を見せて、悪どく笑った。

「そうよ。こうなってなきゃ、テオにも会えていないもの」

そう言いながらお袋さんは僕を後ろから抱き締める。

そうだ。この2人が普通だったら、僕はこの世に居なかっただろう。

2人が異端だったお陰で僕はここに居る訳だ。

そう思った所で、僕はフとこの世で目を覚ます前の事を思い出した。

そういえば、僕は前世で死んだと思った時に女性の泣き声を聞いた。

女性の声はもはやどんな声だったかは覚えていない。だが、女性であった事だけは覚えている。

あの時、助けを求めていた女性は何だったのだろうか?

何故、僕は女性の懇求する声を聞いた後に、この世で目覚めたのか。

僕にはあの時の女性こそが、僕が転生した事由に深く関わっているのではないかと思えてならなかった。

あの女性は今何処に居るのだろうか?何者だったのだろうか?

一体、僕に何を助けて欲しかったのか…。

何かを助けて欲しいと言っていた気がするが…もはや思い出せない。

しかし、これを思い出せた事は僕にとって必要な事なのだろう。

もしかしたら、この世界が抱える問題に関わるのかもしれない。

だが、今の僕に出来る事は限られる。当面の目標は変わらない。

ウェルスを復興させ、発展させる事。

しかし、そこにもう1つ大きな目標が加わる事になる。

このウェルス村から植林技術を!

木が無ければ、大地も人も生きていくには厳しくなっていく。

その危機を回避するためにも、ウェルスから始めなければならないだろう。

僕は目の前にあるギスの種を見て、春に植林する事を義務にしようと心に決めた。

出来ればやりたい、ではない。必ずやり遂げる!

そうでなければ、このウェルスは、この国アロウティは近い将来、砂に沈む事になるのだから。




パーカーがウェルスへ向かった後のグレイスフォレストにて。

「ジョンとおじさんが…!?」

スミス・ツールの店先において、1人の少女が驚愕の声を上げた。

ロイドとフィリップから、末っ子のジョンと、父親のパーカーが町から出て行ったと聞いたからである。

「うん…。ジョンに至っては2ヶ月も前からウェルス村に行ってるよ。それもこれも父さんの差し金なんだけどね…」

苦笑しながらロイドが言う。疲労からか、かなり、やつれている。

継いだばかりの店の切り盛りで、かなり消耗しているらしい。

ロイドの言葉を聞いたフィリップは苛立ちを隠さず、ぼやく。

「その父さんも、店を放って昨日ウェルス村に行ったよ。全く…最後まで勝手な事してくれてさぁ…!」

「まぁまぁフィリップ。いずれはこうなっていたんだし…父さんの暴走も、これっきりだと思えばなんて事ないだろ?」

そう言いながらも、とうに限界に達している様子のロイド。

ここ2ヶ月の間に5歳ほど老け込んだ様だ。

「兄さんは人が良すぎ。もっと怒ってよ」

フィリップは不満そうに口を尖らせる。

そんな兄弟のやり取りを目の前で見ていた少女だが、業を煮やしてある疑問を2人にぶつけた。

「ね、ねぇ!そ、それじゃあ、ジョンはもう町に戻って来ないの!?」

必死な様子で尋ねる少女・リズはジョンの幼馴染だ。

正確には、ジョン、ヘクター、ケイ、リズの4人で幼馴染組になる。

そしてリズはジョンに絶賛片思い中である。

リズの質問にロイドとフィリップは顔を見合わせて答える。

「多分な」

「まぁでも、ウェルス村って凄い辺鄙な所らしいから、飽きたらきっと戻ってくるよ」

一言で答えるフィリップに対し、ロイドはリズを傷付けない様にと気を使いながら答えた。

しかし、リズは2人の答えを碌に聞かず、頭を抱えて震えながら呟き始めた。

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